自由法曹団通信:1595号      

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加藤 健次 〜共謀罪反対特集(2)〜
情勢は緊迫! 憲法違反の共謀罪の成立阻止のために全力を!
滝本 太郎 「共謀罪とオウム真理教」
小池 義夫 共謀罪とは何か
岩村 智文 再犯防止の意味するもの
守川 幸男 性犯罪の罰則の強化等に関する刑法「改正」についての議論を
緒方  蘭 司法修習生に対する「経済的支援制度」の創設と今後の課題
大久保 賢一 「核兵器禁止条約」交渉の開始と今後の展望
雪竹 奈緒 「法と民主主義」二・三月号の象徴天皇制特集を読んで



〜共謀罪反対特集(2)〜
情勢は緊迫! 憲法違反の共謀罪の成立阻止のために全力を!

幹事長  加 藤 健 次

連休明けにも衆院通過狙う与党
〜できるだけ早く、多くの市民に共謀罪の本質を伝えよう!

 四月一九日、衆議院法務委員会で共謀罪法案の実質審議が始まった。
与党は、出席を求めてない林局長の出席を多数決で強行し、審議が始まったばかりなのに、四月二五日の参考人質疑をこれまた多数決で決定した。民主的な審議のルールを無視した姿勢に見られるように、与党は何が何でも法案の成立を強行しようとしている。連休明けにも衆院での採決を狙っているといわれている。
 しかし、与党が強硬姿勢をとっているのは、法案の内容が明らかになればなるほど、国民の反対の声が増えることがわかっているからだ。
 この間の審議で、法案の危険な内容と政府の説明のごまかしは一層明らかになった。四月二五日の参考人質疑では、高山佳奈子京都大学教授が、(1)「テロ対策」が口実にすぎないこと、(2)国連越境組織犯罪条約の締結のために共謀罪をつくる必要はないこと、(3)法案が「一般人」を対象とするものとなっていること、(4)対象犯罪を二七七に絞ったというが選別に問題があることを明確に述べた。漫画家の小林よしのり氏は、「ものをいう市民を萎縮させて民主主義を機能させなくなるのが共謀罪だ」として反対の意見を表明した。元自民党衆議院議員の早川忠孝弁護士は、二〇〇六年に対象犯罪を一二八に絞った修正案を作成した経験を踏まえ、今回の法案は対象が広すぎることを指摘するとともに、警察による乱用防止に警鐘を鳴らした。
 問題は、「テロ対策」、「従来の共謀罪の要件を限定」などというマスコミ報道の影響もあって、法案の本当の姿が国民に届いていないことにある。この間の世論調査の結果をみても、質問の仕方によって賛否の数字が変動している。
 いま求められているのは、できるだけ早く、できるだけ多くの市民に法案の危険な内容を伝えることだ。
 安倍政権は、首相自らの森友疑惑をはじめ相次ぐ閣僚の暴言、失言で「モラル喪失」状態にある。四月二五日には、東日本大震災、福島第一原発事故の被災者の思いを踏みにじる暴言を放った今村復興相が辞任した。沖縄では、県民の意思と法律を踏みにじって、辺野古新基地建設を強行している。安倍首相に政権を担う資格がないことは日々明らかになっている。通常国会の後には東京都議選が控えている。
 共謀罪の本質を明らかにし、安倍政権に対する怒りを結集していけば、共謀罪の成立を阻止し、廃案に追い込むことは十分可能である。
 この時期は、憲法記念日を中心に様々な企画が行われる。そのような機会を最大限生かして、共謀罪の成立を阻止する運動に全力で取り組むことを心から訴える。

全国各地で共謀罪阻止の行動に取り組もう!

(1) 待望のリーフレット『これが共謀罪です!あなたも逮捕されるかも』が完成しました。大量に注文して、どんどん普及しよう!
 ※ご注文は、団HP「出版物・パンフ」のところから注文書をダウンロードして団本部(FAX〇三―五二二七―八二五七)宛にお送り下さい。ダウンロードがうまくいかない場合は団本部までお問い合わせ下さい。
(2) 意見書第二弾『憲法違反の共謀罪(テロ等準備罪)は許されない』を作成しました。
 地元議員とマスコミへの要請などに活用しよう
(3) 各地で弁護士会、市民とともに宣伝、学習会、集会を行おう
(4) 共謀罪に反対する統一署名を集めよう

(二〇一七年四月二六日記)


「共謀罪とオウム真理教」

神奈川支部  滝 本 太 郎

 今次の法案は「テロ等準備罪ではなく二七七の共謀罪」という刑事法ですが、この正当化のために未だオウム事件のことを言う人がいます。たしかに、日本は原子爆弾を二回、貧者の核兵器である化学兵器サリンを二回使われました。滝本サリン事件を含め文字どおりテロであり実質、内乱にまでなりました。
 しかし、それは、日本の刑事法が不十分だったからではありません。共謀罪がなかったからでもありません。警察が当時の法律をまともに適用し捜査していれば、止められました。警備公安警察にあっても、役目をはたしていれば確実に止められました。
 オウム事件は一九八九年一一月の坂本事件、一九九四年六月の松本サリン事件、一九九五年三月の地下鉄サリン事件だけではなく、その他にも多数あり、「救う会」や被害対策弁護団では、警察に捜査を要請し続けてきていました。
 一九九四年三月の宮崎資産家拉致事件に取り組めば松本サリンを止められました。私自身は、脱会カウンセリングにより一九九四年内部の虐殺事件・薬物使用を知り、警視庁を含む各県警、検察庁に情報を提供し続けました。
 神奈川県警は、一九九四年九月二〇日江川紹子宅へのホスゲンガスで攻撃を受け、一〇月から私と江川さん宅を二四時間警備し始めましたが、警視庁は家族の会の永岡弘行を警備せず、一九九五年一月四日にVX事件。警視庁は感覚が鈍く、科学捜査も不十分でスミチオンと判断し自殺未遂だと決めつけました。警視庁の奥の一室で湯呑にスミチオンを入れて私に嗅がせ、「永岡さんはこれを飲んだんだ、自殺未遂だ」と断言された時の怒りは忘れません。
 私は、一九九四年一一月三日には、警視庁や各検察庁にも、教団が末期症状であること、教祖が外部への攻撃を計画している、捜査が近い時にこそ危ないと資料ともども知らせました。が、神奈川県警が何とか警察組織あげて一二月末までには入るから、というだけでした。
 一九九五年二月末の公証役場人事務長拉致事件では、直ちに教団が疑われました。私からは「ヴァジラヤーナの戦士」四〇人ほども知らせてありました。教団は、三月一五日の霞ヶ関駅構内では噴霧器事件の直前「もう戦争が始まっているのに、なぜ気づかないんだ」とのチラシを配布、これも私から通報。関係者の多くは三月二〇日の週に強制捜査と知っていたが、警察は、なんと事件防止の観点からは監視しませんでした。結果「強制捜査の直前だから地下鉄サリン事件」になったのでした。
 警備公安警察は動いていませんでした。一九八八年段階から、多くの未成年者が教団がらみで行方不明になっていること、一九九〇年二月の選挙の際には一〇〇人以上も世田谷の一軒家に住民票を集めた実態に着目して、合法的に説法等の資料収集をしていけば、教祖が弟子を使って多数人を殺そうとしていると判明したでしょう。まして、松本サリン事件では化学兵器まで使われたのに動かなかったのは、信じがたいことです。「スパイを入れていた」も後に作った偽りの言葉でしょう。警視庁の公安が、真っ青な顔をして、私が把握していた車両三〇〇台、出家者数百人の情報を取得したのは、一九九五年三月三〇日の長官銃撃事件の直後でした。
 国は、警察のミスを実質、認めたからこそ、国から被害者への給付金の法律ができたのでした。なお、警察の二〇点の問題が私のブログ三月一三日付にあります。ご参照ください。
 サリン事件はいきなり起こったものではありません。テロを止めたいならば、テロをどういう者が起こすのか、それを謙虚にとらえること、刑事警察ともども実質犯罪をまともに対応することが、最も重要なことだと考えます。


共謀罪とは何か

東京支部  小 池 義 夫

一「組織犯罪処罰法案」(テロ等準備罪法案)―安倍政権が狙う共謀罪の新設
 三月二一日、政府は組織犯罪処罰法案を閣議決定し、今国会に提出した。
これまでの経緯
(1)二〇〇三年・組織的犯罪組織処罰法改正案(対象団体は長期四年以上の刑を定める犯罪六一九)・廃案。(2)二〇〇六年改正案廃案。(3)二〇〇九年 廃案。
 対象団体・一定の犯罪実行を目的とするテロ集団その他の組織的犯罪集団。
 犯罪行為・二人以上で対象犯罪を計画し、資金手配など準備行為をしたこと。
 対象犯罪・懲役四年以上の犯罪への関与が想定される二七七種の犯罪。
 法定刑 ・五年以下の懲役、禁錮の刑。
政府の説明 (1)テロ防止を二〇二〇年オリンピックに間に合わせる。 
         (2)国境越境組織犯罪防止条約を批准するのに必要だ
         (3)共謀に加え、準備行為を条件とするから、共謀罪ではない。
批判 (1)国境越境組織犯罪防止条約は二〇〇〇年に国連で採択。対象集団は金銭、物質的利益を追求する国際的(国境を越えた)組織で、共謀罪とは関係なく、テロとも関係がない。
    (2)対象犯罪と繋がれば、どんな集団も対象団体となる。労働組合、趣味愛好グループ等も犯罪集団と認めることが可能。犯罪集団になるかどうかは捜査機関が決める。
    (3)「準備行為」には限定がない。あらゆる準備、用意は準備行為に当る。準備行為に当るかどうかは捜査機関が決める。
二 犯罪の構成要件(どういう行為が犯罪になるのか)
犯罪行為の手順(復数犯人の場合)
  1発想→ 2共謀→ 3準備→ 4実行→ 5結果 
 近代刑法における刑罰の原則は、生命、身体、財産など保護すべき利益を侵害した場合に処罰する。従って、実行行為を罰し(既遂)、意思を罰しない。実行行為に着手する以前の行為は、重大犯罪についてのみ準備行為を罰する(予備罪)。実行に着手して、途中で止めれば「未遂」。未遂は刑を減免する。ところが共謀罪は、実行以前の意思を罰する。
例―殺人罪・刑法一九九条 人を殺した者は、死刑又は無期、若しくは五年以上の懲役に処する。
窃盗罪・刑法二三五条 他人の財物を窃取した者は、一〇年以下の懲役又は五〇万円以下の罰金に処する。
予備罪の例 殺人予備罪・刑法二〇一条 一九九条の罪を犯す目的で、その予備をした者は二年以下の懲役に処する。
三 共謀罪とは
(1)複数の者が、特定の犯罪を企画し、実行するため相談すること。話し合い、合意すれば成立する。実行に至らず中止しても犯罪として成立する。従って、行為を罰し、意思を罰しない刑事罰の原則に違反する。
 現行の実行行為着手前の犯罪は、重大な犯罪についてだけだが(内乱など一四、陰謀罪八、予備罪四〇、準備罪九、合計七一)、これを拡大する。
(2)共謀罪における「特定の犯罪」は、旧法案六〇〇種超から減少したが、刑法犯を含め、二七七種類に及ぶ。
四 共謀罪の特徴
 実行行為は痕跡を残すが(殺人罪なら、死体が発見されるか、行方不明になる)、共謀は未だ実行せず、被害が出ていないので、痕跡、物的証拠を残さない。被害者もいない。従って常に監視、通報が必要である。
五 犯罪捜査の手順
通常の犯罪 (1) 事件の発生→ (2) 警察へ通報→ (3) 証拠確認→ (4) 捜査→ (5) 犯人逮捕→ (6) 拘留・取調べ→ (7) 起訴
共謀罪    (1) 監視・情報網→ (2) 盗聴、聞き込み、通報→  (3) 逮捕 → (4) 拘留・取調べ→ (5) 自白→ (6) 共犯者逮捕→ (7) 起訴
六 共謀罪によって拡大が予想される捜査方法
(1)盗聴 二〇一六年五月成立の盗聴法(刑事訴訟法改正)が役に立つ。
 対象犯罪を拡大して、警察が常に市民の会話、電話、メールを掌握する。
(2)GPS(全地球方位システム)この端末の令状なし取り付けを違法とする最高裁判決(三・一五)があったが、共謀罪ができれば乱用される。      
(3)監視カメラ 警察が秘かにカメラを設置して、市民の動向を監視する。
(4)スパイ   捜査機関が、市民団体、民間グループにスパイを送り込み、協力者を募って密告させる。
(5)司法取引 組織内の者が、情報提供と引き換えに刑を減免してもらう。

以上。


再犯防止の意味するもの

神奈川支部  岩 村 智 文

声高に叫ばれる再犯防止
 昨年一二月一四日、全会派の賛成で「再犯の防止等の推進に関する法律」が成立した。また、本年に入り二月九日「少年法における少年の年齢及び犯罪者処遇を充実させるための刑事法の整備に関する」諮問が法務大臣から法制審議会になされた。この諮問事項には、少年法の規定の検討とともに、「近時の犯罪情勢、再犯防止の重要性に鑑み」刑事の実体法、手続法の整備のあり方が掲げられ、ここでも再犯防止が要とされている。
 前記の法律によれば「再犯の防止とは、犯罪をした者等が犯罪をすることを防ぐことをいう。」のだから、この言葉自体に問題はなさそうにみえる。しかし、安倍自公政権のもとでは価値中立的ではありえない。二〇一三年一二月一〇日閣議決定「『世界一安全な日本』創造戦略について」は、良好な治安を一層確固たるものにすることは我が国の歴史的・国際的使命であるとし、その戦略内容の三番目、テロ対策の次(組織犯罪対策の前)に再犯防止策を掲記している。再犯防止は、明確に安倍自公政権の治安対策の重要な構成部分とされているのだ。治安対策として再犯防止が猛威を振るったのは戦前だった。ここで、再犯防止を歴史的にみてみよう。
戦前の再犯防止は思想の入れ替え
 再犯防止が法律のなかに登場したのは、思想犯保護観察法(一九三六年)と治安維持法全面改正法(一九四一年)である。前者は、治安維持法違反に問われ、刑の執行猶予又は起訴留保・猶予、刑の執行終了、仮出獄した者に対する保護観察制度を設け、さらに罪を犯す危険防止のため思想および行動を観察するとし、後者は、再犯のおそれ顕著なとき、保護観察によっては再犯防止が困難なとき予防拘禁に処し、改悛させるため必要な処置をする、と規定している。この経緯をみて分かるとおり、特定の思想を持つことが犯罪であり、それを国家の手によって国家に従順な思想に代えることが再犯防止だったのである。
更生保護として生き残る
 思想犯保護観察法が成立して後、思想犯だけに保護観察があるのは不当という民間の保護事業団体の声にこたえ、一九三九年三月司法保護事業法が制定され、思想犯ではない起訴猶予者、執行猶予者、仮出獄者等への保護事業が拡大・一般化した。戦後、思想犯保護観察法、治安維持法等が廃止されたにもかかわらず、「終戦後の社会秩序の乱れに対し社会秩序を確保するため」として司法保護事業は生き残った。この後、司法保護は更生保護と名を変え今日に至っている。本来なら日本国憲法制定により、更生保護は、執行猶予者等の人間としての尊厳、人権を認め、それを前提とするものへと変革されるべきだったが、残念ながらそれは実現しなかった。
人の危険性の除去を目指す再犯防止に注意を向けよう
 二〇〇八年六月施行の更生保護法は、その目的に再犯防止を掲げた。この法律のもととなった「『更生保護のあり方を考える有識者会議』報告書」(二〇〇六年)は次のように述べている。「更生保護制度の目的は、・・・その人による再犯を防止し、社会を保護することにある」「更生保護制度は、・・・社会内処遇とも呼ばれる」「社会内処遇は、犯罪や非行をした人を指導・監督し、・・・犯罪や非行の原因となった性格、習慣、生活態度等の悪いところを改めて良くするとともに、・・・再犯の危険がなく、実社会の健全な一員として復帰した状態になることを目指すものである」「更生保護制度は、安全・安心社会づくりのための重要な制度の一つである」。
 有識者会議は、再犯を防止し社会を保護するには、犯罪の原因である人の性格、習慣、生活態度等の悪いところを改め良くしなければならないから、人の心の中まで指導・監督するというのだ。思想を変えることを掲げた思想犯保護観察法、治安維持法と同じ発想に立っているといわなければならない。ここで思い起こすべきは、保安処分である。保安処分の基礎は、危険な性格である(団藤)。保安処分は社会的秩序破壊への危険防止を目的とする(改正刑法仮案註釈久禮田)。保安処分は社会的危険性が矯正されて消滅するまで継続する(団藤)。再犯防止のための社会内処遇は、保安処分そのものなのだ。社会内処遇は、自治体、医療、福祉などと連携し、進められようとしている。社会的危険性のある者への指導・監督、保護などといった考え方、施策が市民社会に浸透し、樹立されようとしている。人の心の中まで処罰し、人と人とのかかわりを監視しようとする共謀罪と再犯防止は軌を一にしている。安倍自公政権の治安強化策の総仕上げが狙われているのだ。
 市民社会への監視強化に警鐘を鳴らして共謀罪反対でたたかっている団員諸氏が再犯防止を要として刑事実体法、刑事手続法の改正を審議している法制審の動向に大いに注目し、戦闘態勢を整えてほしい。


性犯罪の罰則の強化等に関する刑法「改正」についての議論を

千葉支部  守 川 幸 男

一、その前に「共謀罪」についていくつかの指摘
 現在の最大の課題はいわゆる「共謀罪」阻止である。共謀罪は刑法大系の破壊と言われている。表題の刑法「改正」問題についても、そこまではもちろん言えないが、法定刑のバランス等についての配慮が欠けていることほか、いくつかの問題がある。
1.かつてより危険な情勢
 共謀罪については、小泉政権時代の過去三回のときとは情勢が違うことが重要である。特定秘密保護法、戦争法、盗聴法の改悪、司法取引など。これらはよく指摘されている。要するに、若干の修正にもかかわらずその本質は変わらない、という批判に加えて、その危険性がかつてと比べて格段に高まったことの強調が(特に自覚的民主勢力に対して)必要である。
2.成立したときの危険性は大きい
 さらに、これが通ったときの影響力の大きさの強調が(特に自覚的民主勢力に対して)必要である。すなわち、戦争法はその違憲性ほかの重大性はもちろんだが、闘いによってその発動自体を阻止したり限定できる。現に、南スーダンへの派遣は撤収に追い込んだ。また、ISへの「後方支援」は発動できない。しかし、特定秘密保護法は、この武器を手に入れた権力が早速これを悪用できるが、共謀罪はそれ以上の効果があり、被害甚大である。「仮に通ってもその発動を阻止する、限定させる」などという生やさしいものではない。
二、本題の性犯罪「改正」問題について
1.法定刑の下限引き上げに限定した問題点
 ここでは、強姦罪及び強姦致死傷害の法定刑の下限引き上げについての問題点にしぼる。性交類似行為や地位・関係性を利用した性的行為についての構成要件の明確性の原則などに関する論点は、深入りすると長くなるので省略する。
 強姦罪についても強姦致死傷罪についても、その量刑傾向は統計上それらの罪の下限(三年とか五年)以下が二割台ないし三割近くもある。私はこれらのケースの詳細を知らないが、下限以下の量刑が多いということは、事案に応じて酌量減軽してでも下限以下の量刑が適切だとの判断の反映なのであろう。これを五年とか六年に引き上げる立法事実があるのか疑問だし、引き上げの法案は、今まで以上にこの不自然な例外的措置を多用して下限の意味をさらに有名無実化する道を選ぶか、または、国会の立法意思を尊重して裁判官の量刑裁量を制約する重罰化を選ぶということになる。しかし、重い事案にはこれまでどおり重い量刑を選択すればよいのである。
 次に、法定刑の下限について、殺人罪のそれが五年、強盗罪のそれが五年、強盗致傷罪のそれが六年(致死罪だと無期懲役だが、重すぎるという批判がある)など、法定刑のバランスについての検討が必要である。強姦罪について殺人罪の下限と同じでよいのであろうか。
下限の引き上げ問題以外に、一部のいきなりの重罰化についても十分議論されていない。
 性犯罪について「魂の殺人」とも言われるが、これのみを検討するのでは足りない。さらに、在野法曹として、重罰化によって犯罪を抑止するという考え方でよいのか、重罰化と犯罪被害者対策は別問題ではないか、刑事弁護人と犯罪被害者、性犯罪被害者の対立などという見方でよいのかなど、よく検討する必要がある。また、薬物中毒や窃盗罪と並んで性犯罪も治療の対象の側面があり、司法と福祉をつなぐとか、再犯防止に何が必要なのか、など、論すべき論点は多い。
2.ぜひ議論を、また国会で十分な審議を
 千葉県弁護士会は(刑事法制委員会が提案したようだが)、常議員会での二回の審議を経て昨年六月一五日付けで反対意見書を出した。当初反対意見も強くかつ多かったが、最終的には二三対二対二で採択された。ほかに反対意見を出した弁護士会はないようである。また、刑事法研究者が二〇一六年一月一六日付で、法務大臣の法制審議会あての諮問に対してであるが反対意見を提出している。
 国連の女性差別撤廃委員会などが、かねてから日本の性犯罪規定に対して、くり返し、是正を求める勧告をしてきたが、本稿記載の各論点について、どの程度突っ込んだ議論をしてきたのかについてはよく知らない(不勉強で申し訳ないが)。自由法曹団はどうするのだろうか。青法協も含め、通信類での議論がきわめて少ない。
 共謀罪より先に上程されている刑法改正を先にせよ(「全会一致で成立させよ」ということであろうか)とは単純に言えないのではなかろうか。むしろ、共謀罪の審議の前に、債権法改正案を含め、十分に国会で審議の時間を取るべきではなかろうか。


司法修習生に対する「経済的支援制度」の創設と今後の課題

東京支部  緒 方   蘭

一 新制度の創設
 司法修習生の給費制は、二〇一一年一一月に修習を開始した新第六五期の代から廃止されました。以来、現在修習を受けている第七〇期まで六期にわたって、司法修習生らは給費が一切支給されない状態での修習を強いられています。
 この問題に関して、法務省は、二〇一六年一二月一九日、第七一期司法修習生から新たな給付制度を創設する方針を発表し、二〇一七年四月一九日、司法修習生に給付金を支給する改正裁判所法が参議院本会議で全会一致で可決され、第七一期の代から新しい制度が創設されることになりました。
 この新しい制度は、基本給付として毎月一律一三万五〇〇〇円、住居給付として最高で月額三万五〇〇〇円を給付するというものです。従前の貸与制も併用されます。
 この新しい制度の創設は、ビギナーズ・ネットや日弁連が、給費制復活に向けた取り組みを粘り強く継続し、国会議員や関係省庁に司法修習生や受験生の声を伝えた成果です。これまで継続して、議員要請や院内集会、各地の市民集会が実施され、また、二〇一五年以降、国会議員のメッセージを集める運動が行われ、衆参あわせて四五〇名を超える国会議員のメッセージが集められました。諦めずに当事者の声を訴える姿勢が、新制度の創設に大きな役割を果たしました。
二 今後の課題
 新制度の創設は大きな前進ですが、まだ不十分な点があります。
 新制度の給付額は最大で月額一七万円ですが、従前の給費制の基本給付は月額二三万円であり、大きな差があります。新制度の給付額は、日弁連が給費制廃止後の司法修習生に対して実施した生活実態アンケートの結果のうち、住居費負担のない司法修習生の月額支出の平均額を参考にして決めていると思われますが、同アンケートによれば、住居費負担のある司法修習生の月額支出の平均額は二一万円を超えており、新制度の給付額では明らかに不足し、不足分は国からの貸与を受けざるをえないため、新制度のもとでも多くの修習生が国から借金をすることになります。
 また、法務省は、既に給費制廃止下で修習を受けた新第六五期から第七〇期に対する遡及適用について、一切言及していません。給費をもらえなかった世代は国費で養成されていないことから、国民のための法曹という意識がなかなか育ちにくいと思われますし、給費をもらえた世代ともらえなかった世代の間に不公平が生じてしまうと法曹の間の連帯感を害することにつながりかねません。
 遡及適用を求める手段の一つとして、給費制廃止違憲訴訟があります。給費制廃止違憲訴訟は、給費をもらえなかった世代が原告となっています。現在では、新第六五期の訴訟が全国四地裁(東京、名古屋、広島、福岡)で、第六六期の訴訟が全国三地裁(札幌、東京、熊本)で、第六七期の訴訟が大分地裁に係属しています。
 法曹を志す者が経済的理由で法曹になるのを諦めることや、司法修習生らが経済不安から充実した修習を受けられないことは決してあってはならない事態ですが、残念ながら現在そのような事態が多く発生しています。新制度も不十分ですので問題が十分に解決されるとは思えません。今後も、新制度の改善と、給費を受けていない世代への遡及適用を求めて、運動を継続していく必要があります。

二〇一七年四月二六日記
以上


「核兵器禁止条約」交渉の開始と今後の展望

埼玉支部  大久保 賢 一

はじめに
 三月二七日から三一日までの間、国連で、核兵器の禁止と廃絶のための法的枠組み(「核兵器禁止条約」)に係る多国間交渉が行われた。一一五カ国の政府(国連加盟国は一九三カ国)と二二〇を超える市民社会(反核NGOs)が参加した。
 日本政府は参加していないし、政党として参加し意見を述べたのは共産党だけである。被爆者団体協議会(被団協)や、原水爆禁止協議会(原水協)などの反核平和団体も参加し発言している。日弁連からは新倉修・森一惠両弁護士が参加している。
 米国大使は「この条約で北朝鮮が核を放棄するわけがない。こんなことに時間を使うのは無駄だ。」と議場の外でスピーチした。この条約がいかに彼らに大きな影響を与えることになるのかを物語っているといえよう。
なぜ、「核兵器禁止条約」に反対するのか
 核兵器国が、「核兵器禁止条約」に反対する理由は、核兵器使用の手を縛られるからである。核兵器は自国や同盟国の安全保障のために必要不可欠としている彼らからすれば、その使用が違法とされることは、国策の根幹を揺るがされることなのである。
 日本政府は、北朝鮮を例に挙げて、この条約ができれば、日本の安全が脅かされるなどとしている。米国や日本は、北朝鮮に核を放棄しろと迫りながら、自分たちは核に依存しているのである。彼らは、その没論理的で身勝手な態度に恥らいを覚えないのであろうか。
「核兵器禁止条約」に求められること
 ところで、「核兵器のない世界」は、核兵器国がその気にならなければ実現しない。「核兵器禁止条約」は、当面、非核兵器国だけで構成されたとしても、いずれは核兵器国の参加が不可欠なのである。また、「核兵器禁止条約」は、現在の国際法に何かをプラスするものでなければならない。そうでなければ、苦労して条約化する意味がないからである。毒にも薬にもならないような条約であれば、核兵器国は入りやすいが、「核兵器のない世界」に近づくことはできない。「核兵器のない世界」に近づきつつ、且つ、核兵器国が入ることになる仕組みを持つ条約の制定が求められているのである。
政治的意思を条約へ
 これまで、核兵器をなくそうという政治的意思は繰り返し表明されてきた。最近では、二〇〇〇年のNPT再検討会議で「核兵器の完全廃絶を達成するという明確な約束」が、二〇一〇年の再検討会議で「核兵器のない世界の達成と維持のために必要な枠組みの確立」が、それぞれ、核兵器国も含む全会一致で採択されている。にもかかわらず、国際条約とはなっていないのである。
 その原因は、核兵器国の本音が核兵器に依存して国家安全保障を確保するという「核抑止論」にあるからである。けれども、彼らも、建前としては、「核兵器のない世界」をいわざるをえないのである(最近、怪しくなってはいるが)。なぜなら、彼らも、核兵器の使用は壊滅的人道上の結末(非人道的結末)をもたらすことを否定できないからである。彼らが否定できない「非人道的結末」を梃子として、核兵器を条約法上の違法とすることが求められているのである。
条約の根幹に据えられる核兵器の違法性
 ところで、一九六三年、東京地裁は、原爆投下は当時の国際人道法規範に照らして違法だとしているし、一九九六年、国際司法裁判所は、核兵器の使用や使用の威嚇は、一般的に国際法に違反するとしている。この背景には、「文民および戦闘員は、条約がその対象としていない場合においても、確立された慣習、人道の諸原則および公共の良心に由来する国際法の諸原則に基づく保護のもとに置かれる」という原則(マルテンス条項)が存在している。
 核兵器の違法性は既に確認されているのである。もし、この条約によって、はじめて核兵器が違法とされるというのであれば、条約に加盟しないことにより、その違法性の拘束から免れることが可能となるであろう。
 よって、条約の根幹には、核兵器の違法性の確認が据えられなければならない。核兵器は、この条約によって違法とされるのではなく、既に国際人道法に違反するとされていたことを確認しなければならないのである。
その他の条約上の要素
 条約において、核兵器の使用はもとより、その使用の威嚇、配備、移転、一時通過なども禁止の対象とされなければならない。核兵器の保有や実験が禁止されることは当然であるが、核不拡散条約や核実験禁止条約あるいは非核兵器地帯条約などとの整合性が求められるであろう。
 更に、締約国に、(1)締約国でない国にこの条約への参加を促すこと、(ii)締約国でない国に核兵器の保有、使用または使用の威嚇を抑制するよう働きかけること、(iii)締約国でない国に核兵器の使用または使用の威嚇を要請しないことなどの条項も必要となるであろう。
条約の案文は示される。
 ホワイト議長は、六月一日までに条約案を提示し、六月一五日から七月七日の会期で採択できるとしている。私たちは、条約案の検討を行い、速やかな条約実現のための努力を求められることになる。
しかしながら、それは最初の一歩であって、それを本当に有効な条約にするためには、より一層の力強い努力が必要となるであろう。核兵器国の意思の転換を実現しなければならないからである。けれども、これらの国も、基本的には、民衆の支持をその正統性の基礎としている。核保有国の民衆の意思を転換することによって、その政策転換は可能なのである。
 「核兵器禁止条約」の制定は、核兵器国の民衆に働きかけるうえで、有効な手立てとなるであろう。「核兵器禁止条約」を国際社会に浸透させることと、ヒバクシャ国際署名を成功させることは、「核兵器のない世界」実現のための王道となるであろう。

(二〇一七年四月二日記)


「法と民主主義」二・三月号の象徴天皇制特集を読んで

東京支部  雪 竹 奈 緒

 私は「御用邸」のある町の出身である。実家の前の道路は「御用邸」への通り道で、年に数回、天皇や皇族を乗せた車が通り、実家の二階からはその車を見下ろすことができる。 子どもの頃は「御車」が通るとき、好奇心から道路に出て、車内から手を振る天皇一家を、手を振り返して見送ったりしたものだ。もちろん強制ではなかったし日の丸の小旗を振ることもなかった。そのうち物珍しくもなくなり、わざわざ道路に出ていくこともなくなった。
 しかし世が世であれば、すなわち戦前・戦中であれば、天皇が自宅の前を通るたびに自分たちが動員されて日の丸を振ったり、額づいて見送るよう強制されていたんだろうな、と時々想像することがあった。
 このように「公的行為」以外の天皇を見る機会があり、他の日本人より天皇を「生身の人間」として感じられた私にとって、昨年八月の天皇の生前退位を望む「お言葉」は、憲法上の疑義はもちろんあるにせよ、一人の人間としてもう休みたいという思いは大いに共感できるなあ、という程度の感想だった。
 そんな折、気になる記事を見つけた。「法と民主主義」二・三月号の特集「象徴天皇制をめぐる今日の議論」の中の、ノンフィクション作家・田中伸尚氏による記事である。終戦直後に天皇制廃止の憲法私案を起草した老研究者に思いを来たすエッセイなのだが、その中で、戦後、「象徴天皇」を国民に受け入れてもらうため昭和天皇が「全国巡幸」し、その歓迎のために子どもたちが「動員」され、しかも教師の号令で「礼」をさせられたため肝心の天皇を見ることもできなかった、というエピソードが紹介されていた。戦中ではなく現憲法下において、「象徴天皇制」維持のためにこのようなことがなされていたことは、冒頭のような体験を持つ私には大変な衝撃であった。国からというより戦前・戦中気質の抜けない教師による強制だったのだとは思う。しかしこれまた、都立学校における日の丸君が代強制反対訴訟に弁護士二年目から関わっている私には見過ごせない話である。
 現在、教師や生徒に強制されている「日本国の象徴」たる「日の丸」への敬意表明が、そのうち「象徴天皇」にすり替わってしまうことは容易に想像されるからである。
 この特集では、上記の田中氏を含め「象徴天皇制」問題について触れた学者や弁護士、ジャーナリストなど七名の方の寄稿で構成されている。植村勝慶・國學院大學教授は公的行為や天皇の人権等、現憲法における象徴天皇制の問題点を分析し、麻生多聞・鳴門教育大学准教授は、生前退位に関する「有識者会議」の論点整理の概要を紹介した上で憲法学的分析を加えている。その他、即位の礼大嘗祭違憲訴訟弁護団や、靖国問題、琉球・沖縄からみた象徴天皇制など、各専門家から、民主主義下における象徴天皇制の位置付けや限界について様々な視点から問題が提起されている。
 「生前退位」問題については、現天皇の人柄が申し分ないと感じるだけについつい、私のように同情論や感情論に流されてしまいがちなのであるが、これを機にもう一度、法的に冷静に「象徴天皇制」について振り返ってみるべきであろう。前述の特集はその一つの手がかりとなること請け合いである。興味がある方はぜひ一読されたい。