自由法曹団通信:1597号      

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玉木 昌美 〜共謀罪反対特集(4)〜
野党共闘で共謀罪を廃案へ
三嶋  健 五月一三日共謀罪反対オールかわさき市民集会の報告
村田 智子 「人間の尊厳に対する罪」=性犯罪の罰則改正に賛成する
國嶋 洋伸 「よみがえれ!有明」長崎地裁不当判決
渡邊  純 「東日本大震災に伴う宅地地盤の崩壊で勝訴」
飯田 美弥子 「退職改定」をめぐり、最高裁が不当判決
大久保 賢一 日弁連の「核兵器禁止条約」の実現を目指すシンポに参加を!



〜共謀罪反対特集(4)〜
野党共闘で共謀罪を廃案へ

滋賀支部  玉 木 昌 美

 共謀罪に反対する滋賀の取り組みについては、五月集会の特別報告集において報告したが、最近の状況について報告する。
 (市民の会しが)
 「市民の会しが」は四月一七日、一区関係者を中心にJR石山駅の二Fデッキで、「共謀罪を許さない」「野党は共闘を」と訴える街頭宣伝活動を行った。
 午後五時三〇分から事実上開始していたが、午後六時から、新婦人大津支部の方の司会で進行した。冒頭、私が「市民の会しが」の副代表として挨拶し、「この取り組みは、憲法を無視するアベ政治の暴走を食い止めるための野党共闘を進める、思想を処罰し監視社会を招く共謀罪をつくらせない、その世論をつくることにある。」と強調した。そして、次に、市民の会に賛同する団体の方が次々とマイクを握り訴えた。憲法共同センター、一〇〇〇人委員会、新婦人大津支部、全交滋賀、革新の会しが、大津平和委員会の関係者である。それぞれの視点で、共謀罪の危険性を訴え、憲法を変えて戦争する国づくりに狂奔するアベ政治を鋭く追及した。さらに、野党共闘を担う野党の代表の方から力強い挨拶があった。まず、民進党県連の今江幹事長から、「危険なアベ政治をやめさせるためには野党共闘しかない、中央レベルの候補者調整が終われば、すぐに対応できる体制を準備しておく必要がある、共謀罪も野党共闘でつくらせない、県会でもチーム滋賀は共産党とともに意見書を出して闘っている。」という報告があり、次に、共産党の節木副委員長から、「テロを口実に平成の治安維持法をつくらせるわけにはいかない、野党共闘で戦争をする国づくりをストップさせる。」という訴えがあった。さらに、社民党の澤田副代表から、「現在でも警察の動きに問題がある、共謀罪は危険そのものである。」との挨拶があり、新社会党の三代委員長から、野党共闘でアベの暴走を止めることが重要との指摘があった。
 法案をめぐる国会情勢が緊迫する中、「市民の会しが」が主催する、一区の地域における初めての取り組みであった。雨にも負けず、沢山の横断幕やのぼりを掲げて合計三〇名以上の参加で力強くアピールできたといえる。「市民の会しが」は四月二二日に中野晃一氏を招いて講演会を開催したが、その前に各選挙区で街頭宣伝をやろうと呼びかけて実施した。他の選挙区でも各野党代表を招いた街頭宣伝が行われた。今後も開催していきたいと思っている。
 (共謀罪に反対する滋賀県民のつどい)
 四月二四日、憲法を守る滋賀共同センターと滋賀県連絡会の共催で「共謀罪に反対する滋賀県民のつどい」を開催した。敬愛する大先輩、岩佐英夫団員(京都)にご講演いただいたが、非常にわかりやすく、深めることができた。特に、この集会に参加した人が納得するに留まらず、学習を力に他の人に働きかけていくことを強調された点が印象に残った。事前に用意された膨大な資料も参加者からは「使える。」と好評であった。
 この集会にも、野党三党の代表の方が参加され、民進党の今江幹事長、共産党の石黒県委員会委員長、社民党の小坂代表が力強い挨拶をされた。参加者が七〇名余りであったが、共謀罪の廃案と野党共闘を大きく打ち出すこととなった。
 (弁護士会の取り組み)
 弁護士会は四月一〇日と四月一九日の各夕方に、大津駅前で執行部を中心に約一五名で街頭宣伝を行った。滋賀弁護士会が昨年一一月の会長声明も掲載した独自ビラを配布した。のぼりを立て、弁護士会の青いジャケットを着用して行ったが、若い会員の参加も多く、ビラの受け取りはいつもと異なりよかったといえる。六月四日には、海渡雄一弁護士と元裁判官の木谷明弁護士を招いた市民集会を予定している。
 (マスコミの傾向)
 共謀罪反対の運動を伝える報道が戦争法の時と比較して極端に少ないといえる。上記の「市民の会しが」の街頭宣伝すら赤旗と滋賀民報しか取材しなかった。弁護士会の街頭宣伝については、四月一〇日の分を京都新聞が、四月一九日の分を朝日新聞が写真入りで取り上げたくらいである。共同センター等でも頻繁に街頭宣伝を行い、毎回マスコミには行動予定を事前に知らせているが、マスコミが報道に極めて消極的であることが気にかかる。もっと大きな無視できない取り組みを考えていきたい。


五月一三日共謀罪反対オールかわさき市民集会の報告

神奈川支部  三 嶋   健

 五月一三日(土)午後二時、川崎市の市役所の側にある公園で、共謀罪反対オールかわさき市民集会を開催した。雨が激しく降る中での集会であり、どれだけの人が集まるか不安はあったが、二〇〇名を超える人が集まった。
 三月二五日に海渡双葉団員を講師として学習会を開催しその夜、党派を超えて五月一三日の集会の成功のみを目的とした集会実行委員会を結成し、四月二一日に横浜事件を題材にした映画会を開催し、運動を積み重ねた上での集会であった。
 集会には、民進党の市議会議員、共産党の県会議員、神奈川ネット活動家、ひだか剛自由党元衆議院議員、社民党県連副代表、みどりの党かながわ共同代表など川崎市内の全ての立憲野党党派から挨拶をいただいた。
 革新陣営内の対立の厳しい川崎の事情からすれば、以前は、これだけの野党が結集するのは考えられなかった。幅広い勢力を結集しようと営々と努力を重ねた成果であると同時に、共謀罪に対する危機意識の強さの表れとも言える。
 週明けには、五月一八日に衆議院の強行採決が予想されるなど、共謀罪は山場を迎える。今後は、地元で宣伝活動をして、共謀罪の国会前に結集し立憲野党と共同して、共謀罪の成立を阻止すべく頑張ろうと思う。

以上


「人間の尊厳に対する罪」=性犯罪の罰則改正に賛成する

東京支部  村 田 智 子

 本年五月一日号に掲載された守川幸男団員の論考を拝読した。今まで、私は、この問題については、もっぱら弁護士会(東弁、日弁連)や被害者支援団体等の中では議論してきたが、団内では特に議論をしてこなかった。理由はただ、弁護士会の会務で忙しかったからである。そのような中で守川団員の論考を拝読し、団内でもきちんと意見を述べようと決意した。
一 改正の全体像
 まず、今回の刑法改正案の内容は、単なる下限の引き上げだけではない。主なものを挙げると、(1)「強姦罪」の定義の拡大、それに伴う名称の変更(「強姦罪」から「強制性交罪」へ)、(2)法定刑の下限の引き上げ(三年から五年へ)、(3)非親告罪化、(4)監護者類型の罰則の新設である。その他、集団強姦罪の廃止、強盗強姦罪の罰則の整備等もある。
 これらすべては重要な論点であるが、字数の問題があるので、以下、守川団員が取り上げておられる(2)について意見を述べたい。
二 (2)法定刑の下限の引き上げについて
 私はこの点について賛成である。
 まず、強姦罪の刑が重くなっているという事実が存在する。この点については、法制審に先立って開催されていた性犯罪の罰則に関する検討会の資料の中の、量刑に関する資料(グラフ)を見れば一目瞭然である(資料三八)。この資料は法務省のホームページから入手できる。平成一一年から平成二五年の量刑の推移をみると、平成一一年では懲役三年以下が五〇%であったのに、平成二五年では二八・四三%にまで落ちている。なお、上述の検討会では、「三年以下の刑が科されているような事例は、未遂であったり示談が成立している場合が多いということであり、そのような場合以外については重い方にシフトしている」という意見も出されている。
 次に、強姦罪が「人間の尊厳に対する罪」であることを考えると、他の犯罪との比較云々の問題ではなく、下限を五年とするのがふさわしい。守川団員が指摘されているように、現行刑法の他の犯罪の刑との均衡の問題はないわけでない。ただ、そもそも現行の刑法には強盗罪が重すぎる等の問題があるのであり、いずれは刑法全体を見直す必要もあるのであるから、そこで均衡を図っていくしかないのではないだろうか。
 さらに、現行の三年という刑の下限では、酌量減軽をしなくても刑の執行猶予をつけることができてしまう。私は、性犯罪の被害を受けた方から、「どんなに頑張ったところで、所詮、執行猶予がついてしまうのでしょうね」と言われてしまうことも多い。このような発言の背景には、従前、強姦罪には簡単に執行猶予がついてしまっていたという事実がある。このようなことでは、被害者は声を上げる気力を失くしてしまう。
 以上であるが、刑の下限が引き上げられたとしても、酌量減軽されるべき件については、執行猶予がつくのであろうから、問題はないのではないだろうか。
 また、犯罪の対象が広がったため、これまで強制わいせつとして処理されてきた肛門性交、口腔性交等も強姦罪(強制性交罪)の対象となる。日弁連は、今回拡大された対象行為については下限を五年に引き上げるべきではないという意見書を出している。しかし、そもそも、今回拡大された対象行為は、従前の強姦罪と同視すべきだからこそ強姦罪(強制性交罪)に取り込まれたのであるから、下限に差をつけるのは論理矛盾である。
三 大切なのはその他の論点
 以上、(2)について意見を申し述べたが、被害者支援に携わる弁護士として見た場合、今回の改正点で重要なのはむしろ、(1)、(3)、(4)などの点である。特に(1)と(4)は、非常に画期的な改正である。これらの改正により、男性の被害者、子ども被害者の救済の道が大きく広がったからである。
四 私の願い
 私も、守川団員が書いておられるように、この問題を団内で議論したほうがよいと思っている。団内には、この問題にかなり詳しい団員が複数存在している。強力な反対派もおり、逆に強力な賛成派もいる。両方の立場の団員が集まれば、かなりレベルの高い議論ができるのではないかとも思う。
 ただし、私は、団本部がこの問題について見解を出すことについては反対である。理由は、(1)対立が厳しい問題であるということ、(2)団本部が見解を出す場合には刑法改正に反対する見解になってしまうのではないかと思われることである。
 各地で性犯罪者支援のために奮闘している団員の多くは、改正に賛成している。そのような賛成派の団員は、決してむやみやたらな重罰化に賛成しているわけではない。そうではなく、社会の片隅で声をあげることさえままならない性犯罪被害者の支援のために必要であると思うからこそ、刑の下限の引き上げを含む今回の改正に賛成しているのである。
 そのことを、団本部も団員も、重く受け止めていただきたいと切に願っている。 

以上


「よみがえれ!有明」長崎地裁不当判決

福岡支部  國 嶋 洋 伸

一 長崎地裁不当判決
 四月一七日長崎地裁で、開門の差止めを認める判決が言い渡されました。すでに同じ裁判体で保全異議決定が出されていたため予想はつきましたが、判決内容はほぼ同一でした。
 国が予算措置を講じた三―二開門(調整池の水位は開門前と変化しない方法)については、(1)風速五メートル以上の強風が四日間程度継続する場合(過去二三年間でわずか六回のみ)に潮風害のおそれがある、(2)ブロッコリー栽培(四名)とアスパラガス栽培(一名)にしみこみ塩害のおそれがあるなど、ごく限られた被害が差止めの根拠とされました(従前の裁判ならば「補償で済む」と一蹴されるはずです)。
 また、私たちが補助参加人として主張した開門による漁場環境改善効果は、国が「自らの主張と抵触する」と主張したことのみをもって排斥されました(裁判所が矛盾抵触の判断を放棄したことも問題です)。国の「無気力相撲」に、裁判所も「悪ノリする」という許しがたい構図です。

二 判決後の対応
 私たちは、昨年一月に始まった和解協議の中で、長崎地裁が「開門差止め請求認容判決が“確定”した場合には…」などという怪しげな和解勧告を発していたので、これは国が、長崎地裁(の背後の最高裁?)に対し控訴せずに早々に判決を確定させる意向を内示していたに違いないと見ていました。
 そこで国の控訴権放棄による確定を阻止すべく、判決日の言い渡し直前に独立当事者参加(国に対する開門請求のみの準独立当事者参加)を申立て、さらに補助参加人としての控訴手続もとりました(豈図らんや、判決翌日には、読売新聞から「国が控訴しない方針」という記事がリークされました)。
 翌週には、上京して農水大臣との面談を行いました。面談では、国は保全抗告審でも十分に勝てる主張をしているのに、本訴で控訴しないのはおかしい、などと指摘して国の控訴対応を求めました。また、国が控訴しなければ、開門反対派と協議するテーブルがなくなってしまうということも指摘し、独立当事者参加を申し立てたことも伝えました。

三 国は控訴せず
 面談の翌日(四月二五日)の閣議後の記者会見で、農水大臣は、控訴しないことを公表しました。その際の談話によれば、「(地元の抵抗で)事前対策工事の着手すら行えず、現実に開門することは著しく困難な状況」「(平成二二年の開門判決後は)開門しない方向での判断が重ねられてきている」などとして、「問題を解決するには、国として、今後の基本的な考え方を明確にする必要があると判断するに至りました」として、控訴しないことにしたそうです。
 しかし、事前対策工事に着手できないのは、国の努力不足にすぎません(辺野古や高江と完全にダブルスタンダード)。さらに、開門差止めを認める司法判断が続いたのは、国が漁場環境改善に関する私たちの主張を援用しないからです。
 国が、いくら本音では開門したくないからといって、既にある確定判決と矛盾する確定判決を敢えて作出しようとするのはあまりに汚いやり方です。司法無視も甚だしく、最高裁もこれでいいと考えているのでしょうか。心底憤りを感じます。

四 今後のたたかい
 和解協議では開門の代わりに一〇〇億円の基金案が提案されましたが、これまで少なくとも五〇〇億円以上を投じても改善されなかった漁場環境が、それだけでよくなるはずがありません。有明の闘いは、あくまでも海を再生し、地域を再生させることが目的です。独立当事者参加によって控訴された開門差止訴訟において勝訴を目指しながら、開門による再生をベースにした和解決着を求めていきます。

以上


「東日本大震災に伴う宅地地盤の崩壊で勝訴」

福島支部  渡 邊   純

 四月二一日、福島地裁郡山支部で、標記の判決を得ました。
 原告ら二名が、平成五年ころ福島県旧岩瀬村(現:須賀川市)が分譲したニュータウンの宅地区画(本件宅地)を購入し、それぞれ建物を建てて利用していたところ、東日本大震災に伴い盛土が崩壊し、これによって宅地に大きな亀裂が生じ、建物の基礎部分が損傷し利用不能となったという事案です。
 原告らは、同じニュータウンの中で地盤崩壊が生じたのは、自分たちの区画だけであったことから不審に思い、地盤調査会社に委託してボーリング等の地盤調査を行いました。その結果、本件宅地が、丘陵にはさまれた谷状の地形、しかも過去に水田だった軟弱地を盛土によって造成されたこと、地下水位が高く盛土層内に達していたこと、にもかかわらず、地盤の安定計算もせず、擁壁などの安全対策がなされていなかったことなどが判明し、二〇一三(平成二五)年、須賀川市を被告に、本件土地の瑕疵担保責任として、宅地の分譲価格と建物の建築代金相当額の損害賠償を求めて提訴しました。
 被告の須賀川市は、基礎地盤は特に軟弱ではなく、盛土も十分締固めを行って造成したこと、東日本大震災による須賀川地域の揺れは震度六強という非常に強いものであり、盛土崩壊はいわば「不可抗力である」ことなどを挙げて、本件宅地には瑕疵がないと主張しました。また、造成自体が平成五年以前と非常に古く、当時は宅地造成の法的基準や技術基準(「宅地造成マニュアル」等)も存在せず、瑕疵判断のための技術水準を明らかにすることも困難が伴いました。
 しかし、訴訟の中で、被告に対して求釈明を行い、造成工事当時の設計仕様書、施工書などを提出させたところ、盛土層内の排水について、設計仕様書では、本来、排水能力を高めるために、暗渠排水を盛土全体に、葉脈状に配置すべきことになっていたものの、実際には、暗渠本管が二本のみ、しかも盛土の一部にしか配置されていなかったことが明らかになりました。当時の宅地造成の技術水準については、図書館等の蔵書検索を利用して文献を探索し、証拠提出しました。
 盛土は、土の粒子の間に働く摩擦力によって支えられていますが、盛土層内に水(間隙水)が入り込むと、その摩擦力を急激に弱め、滑動の原因となるため、「水は盛土の大敵」と呼ばれています。このことから、訴訟の途中からは、事実上、争点を盛土層の排水設備に絞って論戦を行いました。
 その結果、判決では、盛土の暗渠排水の排水能力が不十分であり、より安全側に立った検討が必要なところ、安定計算等を行わず、必要な安全度を満たしていなかったために、地震動に耐えきれず地盤崩壊を惹起したもので、地震動は地盤崩壊の誘因となったに過ぎず、地盤崩壊の原因は適切な排水対策を怠ったことなどにあるとして、本件宅地に「隠れた瑕疵」があると認めました。そして、宅地の購入価格全額と建物の建築代金相当額の半額(使用利益や経年劣化等を考慮)の賠償を認めました。須賀川市は控訴せず、判決は確定しました。
 地震動の大きさによる「不可抗力」の抗弁を排斥し、地盤の瑕疵を正面から認めた判決は極めて少なく、先例的価値があると思います。また、盛土層の排水対策や盛土の特殊性(沢状の地形は地下水が集まりやすく地震時に活動しやすい、締め固めだけでなく総合的な安全対策が必要)などの指摘は、宅地についての瑕疵判断の基準についても、貴重な示唆を含むものと考えています。
 参考にしていただければ幸いです。


「退職改定」をめぐり、最高裁が不当判決

東京支部  飯 田 美弥子

一 逆転敗訴
 四月二一日、最高裁第二小法廷は、一審・二審とも国側が敗訴していた事件で、一転、国側の上告受理申立理由書を判決書に添付するという、まさに国側の言い分を鵜呑みした逆転判決を出しました。
 争点は、退職後一カ月を経過する時点で六五歳になっており、六五歳未満を対象とする「特別支給の老齢厚生年金」(以下、「特老厚」という)の受給資格を失っている場合には、「退職改定」をしなくてよいかどうか。換言すれば、退職後一カ月経過(待期期間満了)時点で、特別支給の老齢厚生年金の受給権者であることが必要か否か(厚生年金保険法四三条三項)、の一点です。
 最高裁は、それを必要だ、として、一審原告の請求を棄却したのでした。
二 事案
 新聞・雑誌でも取り上げてもらいましたが、制度が難しくてよくわからない、という声をいただきます。以下に少し解説してみます。
 六〇歳以上六四歳以下の間に就業して厚生年金を掛けていた場合、退職までの期間に掛けた金額は、六五歳以降に支給される「本来支給の老齢厚生年金」の金額に反映されるのはもちろん(六五歳改定)、六五歳未満で退職したときでも、退職後一カ月を経過した時点で、遡って「特別支給の老齢厚生年金」の金額に反映される(退職改定)、という制度があります。
 九月一八日生まれの原告が、六四歳になって後、仮に七月末日に退職したとすると、八月末日の時点でまだ六四歳なので、八月分以降の「特別支給の老齢厚生年金」の金額は、六〇歳から六四歳一〇カ月までに掛けた年金掛け金総額を反映したものになります。
 掛け金は全部支給される金額に反映させるべき、という、当然の制度設計です。
 問題は、先の例で、六四歳一一カ月の八月末に退職した場合、一カ月を経過した時点で既に六五歳になっていたときのことです。九月分の「特別支給の老齢厚生年金」の額は、改定されるか否か。
 従前(平成一〇年二月末まで)は、本人が届出をすれば、退職改定をする運用がなされていました。
 ところが、通達により、平成一〇年三月一日から、届出を不要として、職権で改定することになった際、退職改定しない運用にされたようです。
 退職改定されていないことに気づいた人が社会保険事務所に問い合わせて初めて、社会保険事務所が上級庁に問い合わせをし、改定しないという回答を得たことで、現場が混乱。不服審査請求をしても、同様に、改定しないという回答が来て、また現場が混乱する、ということが、全国各地、少なくないケースで起こっていたようです。
 というのも、六四歳のうちに退職すれば、失業保険が一五〇日分支給されるのに対し、六五歳を過ぎると、失業保険が五〇日分しか支給されない、という制度上の問題があり、ぎりぎりの六四歳一一カ月で退職させることが推奨されたという背景がありました。就業規則でその旨を定めていた企業もあったといいます。
 本人の利益になるように、と助言をしてきた社会保険労務士(以下、「社労士」という)らが、退職改定されていないことに気づいて、「おかしい」と指摘していました。
 しかし、本人にすれば、一カ月分数万から一〇万円ぐらいのことです。
 それを争って、訴訟をするのは負担が大きすぎる。
 社労士らの期待に応えて、裁判に訴えようという人は皆無でした。
三 最高裁判決は不当
 本人の損害が仮に三万円だとしても、国側からすれば、六四歳一一カ月で退職する人が、年間一〇〇〇人いるとすると、国は三千万円の支払いを、「法的根拠なく」免れることになります。
 平成一〇年以来、既に一九年間、この運用をしてきたとすると、数千万円×一九ですから、その金額が小さいと言えるはずはありません。
 この事案をまず訴えたのが、Iさんで、専ら社労士らの支援を受けて本人訴訟で闘いました。
 その裁判の中で、国側が初めて、「待期期間満了時に、特老厚の受給権者であることが、受給の要件である」と主張してきたのです。
 当該事件の記録を読むと、社労士さんらの動揺ぶりがわかります。そんな主張がされると想定しなかったから。なぜなら、「受給権喪失」とは、再就職または死亡の場合を指す、というのが、当然の前提と信じられていたからです。思いがけない反論に十分対応でききらないまま、最高裁でも棄却。
 その争いを引き継いだのが、私の高校の先輩に当たるSさんでした。
 Sさんも、当初は本人訴訟で闘っておられ、一審判決が近くなった頃に、「みややっこ」をやっているのが高校の後輩と知って、私を訪ねてくださったご縁から、一審勝訴後の控訴審より、同じ高校の更なる後輩に当たる石島淳弁護士と代理人になりました。
 争点は、冒頭に書いた一点だけです。
 「六四歳一一カ月で退職し、一カ月経過時点で六五歳になっている人」だけ退職改定されないのは、法的根拠がない。他の年金制度との整合性がない。年金制度改正の経過に照らしても、「特老厚の受給権者」の資格を特に要求する合理的理由はない。このような運用は、法の下の平等に反する。…自分で書くのもおかしいですが、私たちの主張は、説得力がありました。
 それに対し、国側の主張は、「制度設計上の限界」「国民の損害は些少」「システム変更に一億円もかけたから、今更変更するとその金額が無駄になる」など、開き直りとも受け取れるものでした。
 控訴審も、私たちの勝利。
 それに対する応答が、冒頭の最高裁の判断でした。
四 「法律による行政」を取り戻すには
 本件では、私たち代理人も、社労士さんから多大なご協力を得ました。
 意見書には、国民の利益になると信じて、これまで年金実務に携わってきたのに、厚労省はなぜこんな運用をし、しかも、その誤りを認めないのか?という義憤が表明されていました。社労士さんらの職業上の責任感と誇りが滲み出ていて、私は感動しました。
 最高裁は、そうした実質論に全く踏み込まず、「受給権者であることが要件と解される」という形式論で、結論を導きました。実質論に踏み込んだら、国を勝たせられない、という判断が先にあったとしか考えられません。
 最高裁まで政府の意向を忖度するのか、というのが、私の率直な感想です。
 今も、社労士さんから、悲憤慷慨のメールが連日届きます。
 事実認定の問題でない本件には、再審はあり得ません。
 しかし、最高裁の見解によると、資格喪失(退職)したのに改定できないため、年金原簿にその旨を記載できない、という新たな矛盾を招きました。
 原簿の訂正請求(新設された厚年法二八条二項)に、厚労省はどう対応するのか。訂正を認めれば改定しなければならなくなり、認めなければ法が要求する正しい記載ができないというジレンマに陥るのです。
 今回の最高裁判決は、年金行政に禍根を残し、混乱を助長、国民の被害(国の利得)を拡大する役目しか果たしません。
 法律による行政の原則を取り戻すべく、法的手段を尽くして、事態の是正を求めていきたいと思います。

以上


日弁連の「核兵器禁止条約」の実現を目指すシンポに参加を!

埼玉支部  大久保 賢 一

 日本弁護士連合会(日弁連)が「核兵器禁止条約」の実現を目指すシンポジュウムを企画している。 六月六日(火)午後六時から、弁護士会館(霞が関)二階講堂(クレオ)である。皆さん方是非ご参加ください。
 今、国連で「核兵器の全面廃絶に導く核兵器を禁止する法的枠組み」(「核兵器禁止条約」)に関する会議が行われている。一一五カ国の政府(国連加盟国は一九三カ国)だけではなく日本被爆者団体協議会(日本被団協)を含むNGOs(市民社会)が当事者となっている。第一会期は三月二七日から三月三一日、第二会期は六月一五日から七月七日である。米国など核兵器国は参加していないし、日本政府はこの条約に反対するとの意見を言うために出席したけれど議論には参加していない。
 この会議が開催されている理由は二つある。一つは、核兵器が使用されれば、人類社会に壊滅的な非人道的な事態がもたらされるので、それを避けるためには核兵器をなくす必要があるいうことである。
 二つ目は、核不拡散条約(NPT)には核軍縮義務が規定されているし、核兵器国も核兵器のない世界を実現しようと約束しているのにその義務を履行しようとしないので、やる気のある国から始めようというものである。
 核兵器国や日本政府の反対の理由は、つまるところ、核兵器は自国の安全保障のために必要だから禁止されるのは嫌だということである。北朝鮮の核兵器禁止に役に立たないとか、核兵器国と非核兵器国との溝が深まり、核兵器のない世界を遠ざけることになるなどという理由も言われているけれど、それはやる気のなさを隠蔽するためでしかない。
 核兵器の違法性に関する国際社会の到達点は、包括的核実験禁止条約(CTBT)は発効していないけれど、大気圏での核実験は禁止されていること、米・ロ・英・仏・中以外への核兵器の拡散は禁止されていること(NPT)、いくつかの地域に非核兵器地帯があること、「核兵器の使用や使用の威嚇は一般的に国際法(国際人道法)に違反するが、自衛の極端な状況下においては、違法とも合法とも言えない」(国際司法裁判所勧告的意見)とされているなどと整理することができよう。実験や保有は部分的に禁止されているけれど抜け穴がないわけではないし、核兵器の使用や使用の威嚇は一般的には違法とされているけれど、核保有国の使用や使用の威嚇が明文の条約で禁止されているわけではないのである。
 この様な状況下で、核兵器廃絶を目指し核兵器を禁止する条約が検討され、早ければ、七月七日の第二会期の最終日までに、「核兵器禁止条約」が採択されるかもしれないのである。これが実現すれば、「核兵器のない世界」を実現し維持するために重要な一歩となるであろう。まさに画期的な状況が作り出されるのである。
 ところで、日弁連は、草創の時から、戦争は最大の人権侵害であり不正義であるとして戦争に反対し、核兵器の廃絶を求め続けてきた。例えば、一九八二年には「核兵器禁止条約」案を携えて国連を訪問しているし、二〇一〇年には「今こそ核兵器の廃止を求める」宣言を発出し、「核兵器が廃絶される日が一日も早く実現するよう努力する」と決意している。今回の国連会議の第一会期にも代表を派遣しているし、引き続き第二会期にも副会長も含め参加する予定になっている。
 日弁連は、今回のシンポへの参加を、日本被爆者団体協議会(被団協)はじめ、核兵器不拡散・軍縮国会議員連盟(PNND)、日本原水爆禁止協議会(原水協)、ピースボート、ピースデポ、創価学会、長崎大学、広島市立大学などに呼び掛けている。外務省にも呼び掛けているがその参加は流動的である。
日弁連のスタンスを理解してもらうだけではなく、国際法学者(山田寿則明治大学講師)の講演や各界からのリレートークなどが予定されている。
 ぜひ皆さんご参加ください。参加費は無料ですし、事前登録も不要です。