自由法曹団通信:1621号      

 

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則武 透 倉敷民商弾圧事件(禰屋事件)で
画期的判決下される!
緒方 蘭 *改憲阻止・特集*
憲法学習会での
自衛隊加憲論の危険性の伝え方
小林 徹也 憲法九条を守ることは僕の「目的」ではない
神原 元 所謂「護憲的改憲論」について
堀金 博 アメリカの最低賃金引き上げに関する
学習会に参加して
柿田 泰成 萩原先生の最賃問題学習会の感想
佐藤 真理 手錠・腰縄問題に関する近弁連大会決議について
大橋 昭夫 古稀表彰へのお礼と横浜事件
林 翔太 愛知支部若手会
一一月三〇日〜一二月二日 沖縄訪問記
永尾 廣久 新春ニュースのトピックス(前半)
上条 貞夫 *書評*
『自由・人権・統一
 君たちに伝えたい 根本孔衛一代記』
林 裕介 道徳教科化に関する
リーフレットを作成しました



倉敷民商弾圧事件(禰屋事件)で
画期的判決下される!

岡山支部  則 武   透

 さる一月一二日、倉敷民商事務局員禰屋町子さんが、元会員の建設会社の脱税を手助けしたとして、法人税法違反ほう助・税理士法違反で起訴された倉敷民商弾圧事件の控訴審判決(広島高裁岡山支部・長井秀典裁判長)が下された。原審の岡山地裁の有罪判決を破棄差戻すとの画期的な内容の判決である。これまで、残念な結果の判決の報告しか出来なかった弁護団として、初めて画期的な内容の判決を報告できたのも、ひとえに、熱心にご支援下さった全国の団員の皆様のおかげであり、心から感謝申し上げたい。
 残念なことに、昨年三月三日に原審である岡山地裁(江見健一裁判長)で有罪判決が下された。岡山地裁判決には数々の問題点があるが、とりわけ、単なる捜査報告書に過ぎない広島国税局の木嶋査察官が作成した査察官報告書が刑事訴訟法三二一条四項の鑑定書に準ずる書面にあたるとして伝聞法則の例外として扱い、これに証拠能力を付与し、その上で本件査察官報告書に全面的に依拠して法人税法違反の事実認定を行ったことに最大の問題点があった。しかも、この鑑定書問題は、審理の最終盤になって、本来公平な立場であるはずの江見裁判長自らが、杜撰な立証に窮した検察官に対し、査察官報告書を鑑定書として証拠請求することを示唆したことが発端となった問題であった。
 しかし、高裁判決は、本件査察官報告書は到底鑑定書に準ずる書面とは言えないとし、岡山地裁の有罪判決を破棄し、本件を岡山地裁に差戻したのである。具体的には、(1)査察官が税法の知識を踏まえて調査を行い収集した資料を分析して必要な情報を抽出し一定の判断をすることは通常の捜査活動と変わらない作業であってこれを税法の解釈運用に関する知識を使った鑑定とは評価出来ない、(2)建設会社の総勘定元帳や会計帳簿などを分析して必要な情報を抽出し犯則事件に関する一定の判断を形成してこれを記載する作業は一般的な捜査活動における事実認定の作業と大きく異なることはなくこれを簿記会計及びその実務に関する知識に基づくものとはいえない、(3)本件査察官報告書は木嶋査察官以外の査察官が作成した報告書を基にしており木嶋査察官が作成の真正を証言してもその内容の真実性の反対尋問の機会を与えたことにはならない(いわゆる再伝聞の問題)などを理由として、本件査察官報告書が鑑定書面にあたるとは認められないのに、これを鑑定書面として取り調べ事実認定に用いたのであるから、判決に影響を及ぼす訴訟手続きの法令違反があるとした。
 さらに、高裁判決は、差戻し後の第一審における審理のあり方について、(1)検察官が主張を明らかにして立証の対象を明確にし、その点に絞った分かりやすく簡潔な立証活動を行うこと、(2)(裁判所が)適切な争点整理を行うことが求められるとの意見を付言している。この指摘は、原審での検察官の主張立証の杜撰さや、弁護人が要求した争点整理を行わないまま検察官の杜撰な立証を許した前任の中田幹人裁判長、そのような杜撰な審理を木嶋査察官報告書に証拠能力を認めるという裁判官にあるまじき論理で取り繕おうとした江見裁判長、それぞれの問題性を断罪しているに等しいものであり、高く評価したい。
 とはいえ、現時点(一月一五日)では検察庁が上告するか否かですら明らかとなっていない。仮に検察庁が素直に破棄差戻しに従った場合であっても、差戻し後の岡山地裁での裁判が続くことになる。当面は、検察庁に対し最高裁への上告を認めさせない運動が必要となる。闘いはまだまだ続く。既に最高裁に係属中の小原淳さん・須増和悦さんの税理士法違反事件も含め、全国の団員の皆さんのますますのご支援をお願いしたい。


*改憲阻止・特集*

憲法学習会での
自衛隊加憲論の危険性の伝え方

東京支部  緒 方   蘭

 団改憲対策本部の会議で、若手が学習会で自衛隊加憲論についてどのような話をしているか団通信に寄稿してほしいという話がありましたので、遅ればせながら書かせていただきます。
 初めに、安倍五・三発言とその後の自民党内の動き、二〇二〇年までに改憲を実現するにはどのようなスケジュールになるのかを説明し、情勢が大変緊迫していることを認識してもらいます。
 その次に、自衛隊を九条に書き加えることが何をもたらすかを説明します。前提として、自衛隊の存在は本来違憲であり(ここでは一緒に九条の条文を読みながら討論します)、政府の「専守防衛」という建前が二〇一四年七月一日の解釈改憲や戦争法によって崩壊し、もはや建前ですらなくなっていることを必ず説明しています。「自衛隊の存在は違憲」とはっきり指摘するのは、昨夏の憲法合宿での渡辺治先生のお話によるものですが、学習会の参加者の方々も思考が整理されておらずモヤモヤしているようで、はっきり指摘してもらえてよかったと言われることが多いです。そのうえで、自衛隊を九条に書き込むことで、自衛隊が「国防を目的に武力行使できる自衛隊」を目指すことになり、海外でアメリカと一緒に戦争する「軍隊」と化して、九条二項が死文化されることを指摘します。その際に、必ず、日本政府は日米安保の元でアメリカに従属しており、過去にアメリカの戦争に反対したことがないが、アメリカが集団的自衛権を行使した例としてベトナム戦争やイラク戦争などがあり、集団的自衛権が侵略戦争の口実とされてきたことを説明します。改憲によって日本がアメリカの侵略戦争に加担させられ、他国から攻撃を受ける危険性が高まることは自明です。自衛隊は違憲の存在ですが、その中で働く人が他国間の戦争に巻き込まれて危険にさらされ、命を落とすことがあってはなりません。
 また、改憲勢力がどのように運動を進めているかも紹介します。現政権と日本会議は密接な関係にあり、日本会議が九条の会を凌ぐ勢いで草の根の改憲運動を進めていることは看過できません。いま、「災害救助で頑張る自衛隊」を全面に押し出して感情論に訴え、改憲を通す手口がとられようとしています。しかしながら、実際に日本の自衛隊は世界有数の力を有しており、特に近年は他国軍と共同訓練を繰り返すなど、実態はほとんど「軍隊」です。最近では、敵基地攻撃能力のある長距離巡航ミサイルの導入や国産化の検討が報じられるなど、(小野寺防衛相は「専守防衛」の範囲内などと言っていますが)自衛隊のあり方が従来の枠組みを大きく逸脱していると捉えざるを得ないような動きも見られ、このような実態を広く伝えていく必要があります。
 最後に、明文改憲は安倍政権の最大の目標であり、今後、発議を阻止するために三〇〇〇万人署名を広めることが大切であると伝えています。国民投票法には、有料広告の問題や、要件が有効投票の過半数とされている問題があり、国民投票での勝負は危険です。しかし、国民投票法の問題点は驚くほどほとんど知られていません。
 なお、学習会ではどこかで必ず北朝鮮の問題に触れています。安倍首相のトランプ大統領追従の姿勢を批判し、日本の外交態度がかえって北朝鮮を煽っていると指摘しています。
 団通信の文字数の関係もあって、雑駁かつ無個性な内容で恐縮ですが、以上が学習会で話している内容になります。ぜひ皆様も団通信や改憲MLに学習会でお話した内容や反応をお寄せください。


憲法九条を守ることは僕の「目的」ではない

大阪支部  小 林 徹 也

 一月一一日付けの矢崎団員の「憲法九条を守るって、本気で言ってる?」に感化され投稿しました。
 まず、最初に言っておきたいのです。
 僕は、多くの市民・国民と同様、「憲法を守ること」、「憲法九条を守ること」それ自体が目的だなんて、これまで思ったこともないし、今後思うこともないと思います。
 僕の目的は、あくまで「自分、及び自分の愛する人たちを守ること」です。あえて憲法の条文にあてはめるなら一三条の「幸福追求」でしょうか。そして、九条を含む憲法はあくまでその目的達成のための手段に過ぎないと考えています。
 「憲法九条を守るって、本気で言ってる?」かどうかですが、そこで矢崎団員が言うところの「本気」が、「殺すくらいなら殺される、という凄まじい覚悟」というなら、僕にはそんな覚悟は全くないので、「本気」ではありません。僕の大事な不肖の娘・息子を守るためなら、場合によっては人も殺すかもしれません。
 ただ、僕は、自分の愛する子を守るために死ねるか、と言われれば、それは躊躇なく死ねる、と言えるし、その意味で「本気」です。
 その目的のために、現時点での情勢に鑑みて、九条よりよりよい手段があるなら、それを確信できるなら、いつでも柔軟に乗り換えるつもりですし、その意味で、いつも「心をグラグラさせて」います。
 しかし、それが多くの市民、国民の「本音」ではないでしょうか。
 このため、矢崎団員の、「憲法九条を守ること」それ自体が自己目的化しているような主張に、とても違和感を覚えました。
 憲法九条は、あくまで一つの手段、外交技術の一つの方法である以上、国際情勢次第でその正当性が変わりうるのは当然だと思います。だからこそ、議論に意味があるのだと思います。
 僕は、政治法則における「真理」の存在など全く信じていません。「真理」だからと言って、それを押しつけたりする権利も、押しつけられたりする義務も誰にもないと思っています。
 少し整理したいのです。
 矢崎団員はともかく、多くの団員の目的は、多くの市民と同様、「憲法九条を守ること」それ自体が目的ではなく、あくまで「自分、及び自分の愛する人たちを守ること」なのではないでしょうか。
 そして、その目的達成のために、あくまで、現時点での国際情勢・国内情勢において、憲法九条を守ることが効率的・合理的だと思うから、九条を守る運動をしているのではないのですか。
 また、多くの市民に説得的な主張は、「あなた、及びあなたの愛する人たちを守る、合理的な手段が憲法九条なのですよ」というものではないですか。常にそこに立ち帰らないと本質を見失うのではないでしょうか。
 繰り返しますが、僕は、現時点での国際情勢・国内情勢において、日本が九条を堅持することが、僕の愛する子どもたちを守ると考えるから、そのために運動をしているのであって、九条を守るために、少なくとも自分の娘や息子が殺されることなど決して認めません。
 自衛隊を廃止すべきかどうかも、都度の情勢に鑑み、僕の目的維持(「愛する人を守る」)にとってどれほど現実的・合理的かを考えながら主張するのであって、「手段」が「目的」にとって変わることなど僕にはあり得ないし、その手段の採否は常に柔軟に考える。
 「憲法九条を守るために、違いはさておいて団結する」ことの意義も別に僕には何らの違和感もありません。
 しつこいようですが、僕の目的を維持するために、合理的に考えれば、たまたま九条が必要で、それを守ることを手伝ってくれる人がいるなら、躊躇なく手伝ってもらいます。
 「非武装を真に実現したい人」も、「必要最小限度論による自在な解釈改憲を是とする非と」も、「安倍政権を倒した後で明文改憲をしたい人」も、僕の目的の達成を手伝ってくれるなら喜んで手を結びます。
 矢崎団員が言うところの「信頼」というのが、何を意味するかよく分からないのですが、その時たまたま同じ方向に向かって歩いている人がいるなら、僕は協力しあうことに何らためらいはない。
 いずれにせよ、僕は、多くの市民と同様、憲法九条のために殉職するつもりなど毛頭ないのです。
 矢崎団員が、憲法九条を守るための「凄まじい覚悟を持つ人」とでないと共闘できないというなら、残念ながら僕は共闘できない。僕は、憲法九条のことよりもずっと、子どもたちについて「真剣に悩んできた」父親で、全世界の平和より自分の愛する子どもたちの幸福を優先する、平凡な人間に過ぎないので。


所謂「護憲的改憲論」について

神奈川支部  神 原   元

 最近は護憲派の中にも「専守防衛」を支持し、安倍改憲の争点は「集団的自衛権の是非」に絞るべきだとする主張が見られる。「護憲的改憲論」「新九条論」などと呼ばれる潮流である。彼らは、「集団的自衛権」には反対するものの「専守防衛」は正しいと主張し、むしろ「専守防衛」を憲法に明記するよう求めている。護憲派の中には、彼らとの大同団結を求め、一致して安倍改憲に反対するべきだとする意見もあるかもしれない。
 なるほど、憲法前文、九条を併せて素直に読めば、憲法が求めているのは、「専守防衛」ではなく「非武装中立」であり、自衛隊の廃止であることは、文言上極めて明白である。だから、仮に、政策として「専守防衛」が正しいのであれば、それを憲法に明示せよという「護憲的改憲論」は間違ってはいない。したがって、護憲派も「専守防衛」を認めるのであれば、「九条堅持」の立場を捨てて「護憲的改憲論」に鞍替えし、九条を改正して自衛隊を認めるべきと立場に与するべきだという意見には、相当な説得力がある。
 しかし、私は、憲法論としてではなく、政策としても、「専守防衛」ではなく、「非武装中立」が正しいという立場に立つ。
 理由その一。日本の防衛は日本一国ではなしえない。例えば、隣国中国の防衛予算は日本の八〜九倍であり、日本一国で中国に対抗する防衛力を作ろうとすれば、今の防衛予算を一〇倍にしなければならない。それだけで日本は経済的に破たんする。
 理由その二。日本一国で日本を守ることができないとすれば、世界一の軍事大国アメリカに頼らざるを得ない。日米同盟は維持・強化しなければならず、集団的自衛権を正面から認めなくても、ズルズルとアメリカの戦争に巻き込まれるだろう。実際、米ソ対立の時代は米ソの核戦争に巻き込まれる危険があったし、今は、北朝鮮とアメリカの対立に巻き込まれ、日本が核攻撃の危険に晒されてる。こんなバカげたことはない。
 「専守防衛」を主張する人たちの中には、「日本はアメリカに守ってもらうが、日本はアメリカを守らない」という安倍政権前の日米安保条約が正しいと考える人もいる(したがって、彼らも集団的自衛権には反対する)。しかし、そんなご都合主義がいつまで続くのか。アメリカの政策が変われば彼らの「専守防衛」は直ちに根本から覆る。いざという時、アメリカが日本を守ってくれなければ、「専守防衛」は全く機能しない。「国防」という国の基本政策を他国の気まぐれに委ねていて、果たして独立国家といえるであろうか。
 理由その三。「護憲的改憲論」者らの主張する「専守防衛」とは、基本的に日本本土が攻撃されたら反撃するという主張のようである。しかし、戦争は本土を攻撃されたら既に負けであり、通常、軍隊は本土より手前の緩衝地帯で戦うのである。実際、先の大戦でも、日本は満州を「対ソ防衛の生命線」と位置付けており、沖縄を本土防衛の捨て石に用い、最後は本土決戦を避けて降伏した。アメリカが日本に基地を置くのは同じ思考に基づく。では、今の日本にとって、手前の緩衝地帯とはどこか。植民地のない日本は戦争になれば直ちに本土決戦になる。それでは膨大な一般市民の犠牲を覚悟しなければならない。今の日本にそのような覚悟があるだろうか。専守防衛を主張する人は、それが「沖縄戦」のような一般市民を巻き込んだ阿鼻叫喚を伴う政策であることを、国民に説明しているだろうか。あの大日本帝国ですら本土決戦を避けたのに、今の日本人が本土決戦に耐えられるであろうか。
 理由その四。最大の問題は核戦争の脅威である。専守防衛であれなんであれ、現代戦争の行きつく先は核兵器の打ち合いである。その場合、戦争に勝者はなく、人類が滅亡して初めて戦争が終わる。そんなバカげた行為を何のために行うのか。
 そう考えると、「集団的自衛権」はもちろん、「専守防衛」すら非現実的であり、支持しがたい。支持できる唯一の現実的政策は「非武装中立」のみであり、その「非武装中立」を掲げた日本国憲法はそれ自体正しいから、そのまま維持するべきである(注)。
 私は、従来の護憲派が専守防衛を主張する「護憲的改憲論者」や「新九条論」者、さらに自衛隊合憲派らと是々非々で共闘することを否定するものではない。しかし、真に改憲阻止を願うのであれば、小手先の政略ではなく、ストレートの正論こそが本道であると考えている。
(注)なお、自衛隊廃止のロードマップとしては、陸上自衛隊と海上自衛隊のみを直ちに全廃、航空自衛隊は戦闘機のみ残してこれを「警察予備隊」として警視庁に編入。当面空の防衛だけは行い、平行して近隣国との関係正常化と国連改革。完全に国防が不要な時代になったら、戦闘機も全廃というプロセスがいいのではないかと思っているが、この点は本題とずれるので省略する。

訂正とお詫び

 前(一六二一)号の団通信六頁、「所謂『護憲的改憲論』について」執筆者の神奈川支部・神原元団員より、
 原稿中に「本土」という言葉が出てきますが、これは「日本の領土」という意味で用いたもので、読み方によっては、沖縄を含めない趣旨のようにも読めるため、「日本の領土」と訂正してお詫び申し上げます、とのこのことでした。
 以上、よろしくお願いいたします。


アメリカの最低賃金引き上げに関する
学習会に参加して

四国総支部(徳島県)  堀 金   博

 二〇一七年一二月四日午後六時三〇分から、スカイプを利用してアメリカの最低賃金引き上げに関する学習会に参加させて頂いた。萩原伸次郎・横浜国立大学名誉教授による講演(「なぜ大幅な最低賃金引き上げが、いま必要なのか?――アメリカ経済の格差と貧困の要因を踏まえて――」)に参加するため、スカイプでの参加をお願いしたのだ。
 現在、日弁連・貧困問題対策本部で最低賃金の検討チームに所属しており、青森や鳥取など最低賃金について特色ある地域を訪問調査したり、二〇一七年六月一三日には、日弁連のクレオでシンポジウムを開催したりしており(「最低賃金引上げには何が必要か?法制度と運用面の課題を探る」)、最低賃金をめぐる現状と課題については、相当浮き彫りになってきたと感じている。
 周知のように最低賃金は、以前に比べると大幅に上昇し続けており、それに伴って、最低賃金の引き上げに対する使用者側からの反発が非常に強まっている。政府は最低賃金をスムーズに引き上げるため、中小企業の経営者向けに各種補助金等の制度を設けているが、ほとんど機能していない。そのためか、日本の最低賃金は、以前に比べると改善されつつあるとは言え、未だに先進国の中では低水準のままであり、一〇〇〇円にも到達していない。
 ところで、最低賃金に関する現状や課題等を市民に広げることは非常に難しい。また、毎年ほとんど中央最低賃金審議会の示した目安どおりに各都道府県の最低賃金が決定されるという実情があるため、運動を広げる意味に懐疑的な人も多い。更に、事務員の時給が一〇〇〇円未満の法律事務所も多いためか、弁護士から反発を受けることすらある。このような状況だからこそ、近年、各地の最低賃金がどんどん上がり続けているアメリカの経験について、専門家の講演を聴いてみたいと考えたのだ。
 萩原先生の講演では、まず、新自由主義の経済政策によって一般市民の経済格差が拡大したことが、データを示しながら丁寧に語られた。そして、所得の不平等が資産の不平等に結び付き、教育や刑事裁判、女性の労働参加などに関する機会の不平等にもつながることが説明された。更に、労働者の賃金を上昇させるためには、労働組合の交渉力を改善する他、最低賃金を大幅に引き上げて、労働組合(団体交渉)から遠く離れたところにいる労働者の利益も図る必要のあることが示された。なお、講演後の質疑応答も非常に活発だったが、時間の都合もあり、私は途中で退席せざるを得なかった。
 アメリカと日本とでは異なる点も多いが、どちらも現役世代の賃金を中心として社会保障が構築されている点は共通している。そのため、アメリカも日本も最低賃金の大幅な引き上げが、貧困からの脱却や格差是正に非常に効果的なことは明らかだ。中小企業経営者に対する支援も大切な視点だが、まずは実際に最低賃金を一〇〇〇円、更には一五〇〇円に上げてみて、一般市民の格差を是正すべきだろう。そうすることによって、経済成長も促進されるはずだし、中小企業経営者にとって本当に必要な支援についても、切迫した課題として議論されることになるはずである。


萩原先生の最賃問題学習会の感想

北海道合同法律事務所  柿 田 泰 成

 一二月四日に行われた最賃研究会での横浜国立大学名誉教授の萩原伸次郎先生の講演がありました。私自身、さっぽろ青年ユニオンに所属しています。活動を通じ、若者の多くが最低賃金に近い条件で働いており、ユニオン主催で最低賃金に関しての学習会を開催したり、時給が最低賃金であることが多いコンビニ店員の組織化の運動などに取り組んでいることもあって、札幌からスカイプで参加しました。
 萩原先生の講演は、アメリカ経済政策を中心に、新自由主義政策と経済格差の拡大、大恐慌とリーマンショックによる経済危機との比較、経済的不平等の形態を解説いただいた上で、どのように賃金をあげていくかお話いただきました。
 戦後の経済は使用者と労働者によって動いてきましたが、新自由主義が広がるにつれ、現在の経済の主役は使用者と株主に変化しています。その変化には労働組合つぶしの目的も含まれていました。その結果、アメリカでは、労働組合員の数の減少とトップ一〇%の所得シェアの上昇が同時に起きていることが二〇一七年アメリカ大統領経済報告に示されています。
 また、格差の是正が課題となっていますが、経済的不平等は、所得不平等が資産不平等に結びつき、機会の不平等も起こしています。これらにより経済的不平等が固定化され、特に若者に影響が大きくでます。ちなみに、社会主義国と対立していたアメリカにとって不平等であることはある意味よいことでしたが、不平等が固定化し広がることで経済の流動性が鈍くなるので、格差是正を進めるべきという意見をもつ政府系のエコノミストも増えているようです。この話の中で、所得格差の要因は、所得が上昇すると、労働による所得ではなく、資本による所得がメインへ変化するので、キャピタルゲインに対する累進課税の強化を先生は主張されていることが印象に残りました。日本では年収八五〇万円を超える給与所得者への増税の検討が報道されていて、労働者の分断が広がる恐れもあります。
 さて、今回のメインは、どのように賃金を引き上げていくかです。先生のあげた柱が、労働組合の拡大と、最低賃金の上昇です。労働組合の拡大は企業との直接の交渉力となります。そして、最低賃金の上昇は、そこに漏れた人だけではなく、最低賃金をあげることで、底上げせざるを得ない状況をつくることです。
 近年、日本では最低生計費調査の結果によって、「普通の暮らし」をするためには、最低賃金が都市部と地方で関係なく、時給一五〇〇円近くが必要だといわれ、その必要性が訴えられ始めています。ただし、日本政府は最低賃金を一〇〇〇円にすることを目指している段階ですし、「普通の暮らし」をするために、いつまでにどのような手順を踏んで最低賃金をあげるのかというロードマップを示していくことが必要だと思います。
 日本のGDPの六割は個人消費が占めていますし、社会に回るお金が増えることはよいことです。しかし、許容性について使用者側からの反対が根強くあるのも確かで、もしかしたら団所属の先生方も最低賃金一五〇〇円にあげることに反対だと思っていませんか。そのあたりの議論が活発になれば面白いと思います。
 最後に、今回の萩原先生が参考資料として挙げられていた二冊をご紹介します。
●「トランプ政権とアメリカ経済―危機に瀕する『中間層重視の経済政策』」学習の友社
●雑誌「経済」二〇一八年一月号「グローバル資本主義をどうみるか」


手錠・腰縄問題に関する近弁連大会決議について

奈良支部  佐 藤 真 理

 昨年一二月一日、和歌山開催の近弁連大会で、「刑事法廷内における入退廷時に被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める決議が採択された。
 一九八二年以降、二〇年以上にわたり、日弁連や自由法曹団は、拘禁二法案反対運動に取り組んできた。三度の廃案を勝ち取り、二〇〇五年の受刑者処遇法、二〇〇六年の刑事被収容者処遇法の成立により、一定の決着が図られたが、代用監獄問題など、日弁連、法務省、警察庁の三者の対立が激しかった多くの点については先送りとなった。
 旧監獄法が施行されたのは一九〇八年(明治四一年)であるが、一一〇年に亘って警察留置場の「代用監獄」も、法廷における「手錠腰縄」問題も、そのまま活き続け、現在に至っているのである。
手錠・腰縄問題の所在と契機
 裁判所の法廷内に入廷してから解錠されるまでの間(以下「入廷時」)及び審理終了後に退廷するまでの間(以下「退廷時」)に、わずかな時間ではあるが、被告人が手錠及び腰縄をされた姿のまま法廷内に現れ、帰っていくこと、そして、その姿を傍聴人や裁判官も目の当たりにしていることは、私たち弁護士にとっても、見慣れた「日常」の光景であった。
 この「日常」に疑問を投げかけ、私たち弁護士に被告人の尊厳・品位の保持及び対等当事者としての地位、無罪推定の権利並びに防御権の保障・確保等の視点から、その問題性を鋭く問うたのが、A弁護士(大弁)に対する過料決定事件(二〇一四年一二月)であった。A弁護士が担当した事件の被告人が自らの尊厳や無罪推定の権利等の確保を理由として、刑事法廷内に手錠・腰縄姿で入退廷することを拒否し、A弁護士は、裁判所に対して、被告人の手錠・腰縄を入廷前に解錠し、法廷外へ退出した後に施錠する措置を施すよう申し入れを行ったが、裁判所が認めなかったことから、法廷への出廷を拒否したところ、大阪地裁は、A弁護士に対して出頭在廷命令を出し、過料三万円の決定を出した。大阪地裁は、刑事訴訟法二七八条の二第五項に基づいて、A弁護士への処置を大阪弁護士会に求めたが、大阪弁護士会は、「A弁護士の対応は、刑事弁護人の活動として正当な理由のある活動であった」として、処置をしない旨の決定をなし、同裁判所に通知した。この際、大阪弁護士会は、同裁判所に対して、手錠・腰縄問題に関し、より柔軟な対応を行うよう是正を求めた。
個人の尊厳の保持と対等当事者としての地位の保障を求めて
 近弁連は、「被告人の個人の尊厳の保持及び対等当事者としての地位、無罪推定の権利並びに防御権の保障・確保等のため、各裁判官、各刑事施設の長、各留置業務管理者に対し、被告人が逃走・自傷・他害・器物損壊等の行為を行う個別・具体的なおそれがない限り、刑事公判が開かれる法廷内において、審理中のみならず、被告人の入廷時及び退廷時にも、刑務官及び警察の留置担当官が、被告人に手錠及び腰縄を使用しないことを求める。私たち弁護士・弁護士会も、これまでこの問題に対して十分に自覚的ではなかったことを省みて、被告人の入廷時及び退廷時にも、手錠及び腰縄か使用されることのないよう、弁護活動に努める決意を表明する」と決議した。
 決議理由にも指摘されているが、たとえ公判中は手錠腰縄が外されたとしても、公判廷への出入りの過程で手錠腰縄状態を強要されている現状は、被告人に対し、対等当事者としての地位及び防御権を真に保障・確保したことにならないことは明らかである。
 過料の裁判に対する特別抗告理由書や最高裁決定、手錠腰縄問題の違憲性及び国際人権規約違反等については、近弁連大会シンポジウム「ストップ!法廷内の手錠・腰縄」資料集(二七八頁)に詳しい。尚、山下潔団員の「手錠腰縄による人身拘束―人間の尊厳の確保の視点から―」(日本評論社)を参照していただきたい。
 近弁連大会決議をきっかけに、全国各地での実践の積み重ねが、今、切実に求められていると思う。

(二〇一八年一月九日)


古稀表彰へのお礼と横浜事件

静岡県支部  大 橋 昭 夫

 昨年の鳥羽総会において、古稀の表彰をしていただき心から感謝申しあげます。
 弁護士生活四五年、まだ道半ばという気持ちで毎日の生活を送っていましたが、団本部から古稀の表彰をして下さるとの案内に接し喜んで総会に出席することにしました。
 今や「人生七〇年古来稀なり。」の時代ではありませんが、戦前、戦後の風雪に耐えた数多くの尊敬する先輩団員を輩出した自由法曹団から表彰を受けることは私のささやかな誇りです。
 総会当日は、私の若い時に常任幹事会でご指導いただいた荒井新二前団長から心のこもった表彰状の内容を朗読していただき大変嬉しく思いました。
 あっという間に過ぎ去った四五年間ですが、表彰状の過分なお誉めの言葉に触発され、今後の弁護士生活も豊かなものにしなければとの思いを新たにしました。
 又、この鳥羽総会の夜は、大多和暁団員ら静岡県支部の団員の皆様方にもお祝いをしていただき感謝に耐えません。
 静岡県支部の団員の皆様方には私の感謝の気持ちを直接伝えなければならないのですが、本紙上を借りましてお礼を申しあげます。
 団からいただいた表彰状、静岡県支部からいただいた記念品の一つであるイラストレーターによる似顔絵は私の大切な宝物として、妻の用意してくれた額に入れて事務所の会議室に飾ってあります。
 さて、私の近況ですが、団とは直接関係ありませんが、「横浜事件を問う・海野普吉没後五〇周年実行委員会」の委員長として、本年六月三〇日に予定されている集会の成功に向けて尽力しています。
 亡海野普吉先生(一八八五年〜一九六八年)は、私の住む静岡市の出身で、戦後、日弁連会長、自由人権協会理事長や総評弁護団(現在の日本労働弁護団)会長を歴任した著名な弁護士で、戦前、戦後を通じ団員ではありませんでしたが、団活動にも深い理解を有する弁護士でした。
 一九三三年の日本労農弁護士団事件で有能で誠実な弁護士布施辰治、神道寛次、角田守平、大森詮夫、河合篤、梨木作次郎、青柳盛雄、井藤誉志雄、加藤充、浪江源治の諸先生が法廷での治安維持法違反被告事件の弁護故に一斉検挙されると、一九四五年の敗戦まで労働者や農民の立場に立つ弁護士活動が封殺されてしまったことは私が語るまでもありません。
 しかし、そのことで全く戦前の団外弁護士が人権擁護活動と切り離されてしまったかというと、そう言い切ることもできません。
 奴隷の言葉を用いる他はなかったのですが、それでも時の軍国政府に対してささやかな抵抗を試みる誠実な弁護士はわずかではありましたが、この国に存在しました。
 その一人が海野普吉弁護士でした。
 もともと海野先生は、民事事件が主体で、思想事件が専門でもなかったのですが、三・一五事件で六高の弁論部の後輩が治安維持法違反被告事件で起訴されたことを契機に多数の治安維持法事件を取り扱うことになりました。
 そして、知識人にも信頼され、歴史書にも残る山川均らの人民戦線事件(一九三七年)、河合栄治郎事件(一九三八年)、戸坂潤らの唯物論研究会事件(一九三八年)、津田左右吉事件(一九四〇年)、和田博雄、勝間田清一らの企画院事件(一九四一年)、尾崎行雄不敬事件(一九四二年)等の治安維持法、出版法違反被告事件の弁護人となり困難な弁護活動を強いられつつも、一部の事件は無罪を勝ち取ることができました。
 このような中で、海野先生が社会大衆党の代議士であった三輪寿壮弁護士から頼まれ弁護したのが横浜事件です。
 横浜事件はアジア太平洋戦争末期の一九四二年から一九四五年に発生した最大の言論弾圧事件であり、相互に関係のない研究会や懇親旅行、そして人のつながりが最後には「共産党再建準備会」に捏造され、治安維持法違反被告事件として横浜地方裁判所に係属したものです。
 既に一九四一年三月には治安維持法が全面的に改悪され国防保安法と共に司法大臣による弁護人の指定制度が新設され、第二東京弁護士会に所属する海野先生も全国六九三名の一人として指定弁護士に選任されました。
 海野先生は横浜事件で起訴された細川嘉六他二十数名の弁護にあたりましたが、接見が妨害されたり、又、接見の道すがらアメリカ軍の空襲にあい乗っていた電車が停車してしまうなど、その弁護活動は困難を極め、特高の拷問などで極端に衰弱していた被告人を見るにつけ、早期に裁判を終了させる道を選択しました。
 この弁護活動が、戦後、海野先生を尊敬する者からも疑問を投げかけられることになったのですが、当時の厳しい状況下では一刻も早く被告人を社会に復帰させ、健康を回復させ、新日本建設の有力な人材となって欲しいとの海野先生の弁護活動はやむをえなかったと思います。
 海野先生は最後まで横浜事件のことを気にしており、死の直前、「横浜事件は絶対に再び起きてはならない。横浜事件のように権力の暴威による事件は、たとえ抵抗しても起きてしまってからではもう遅いのである。その意味で現在の若い人々にも、明るい言論の発展のために、涙と血で綴られた横浜事件の暗黒のページをじっくりとひもといて、その内害を深く理解してもらいたいと痛感する。」(総合ジャーナリズム研究一九六六年一一月号「横浜事件を弁護して」から)と述べています。
 この遺言ともいうべき海野先生の言葉は「秘密保護法」、「戦争法」、「共謀罪法」が成立した今、私たちが深くかみしめ消化する必要があるのではないかと思います。
 亡団員竹澤哲夫先生や海野法律事務所の門下生亡柳沼八郎先生ら参加のもとに一〇年前、静岡市で海野先生のご功績を顕彰する「海野普吉没後四十年記念集会」が開催されましたが、一〇年後の今年は横浜事件を取りあげ、海野先生のご功績ばかりでなく、「現代(いま)」を問うというような実践的な集いにしようと実行委員一同考えることにしました。
 戦前の団員にとって、治安維持法下の活動が如何に苦しかったかに思いを馳せ、特高やその活動を支えた戦前の思想検察官、思想裁判官にいつか鉄槌の書物を公刊したいと考えているこの頃です。
 私も微力ながら悪法反対のために頑張りたいと思います。


愛知支部若手会
一一月三〇日〜一二月二日 沖縄訪問記

愛知支部  林   翔 太

一 始めに
 自由法曹団愛知支部で、若手団員の研鑽と懇親を深めるため、青年法律家協会あいち支部との共催という形で、二泊三日(二〇一七年一一月三〇日から一二月二日まで)で沖縄ツアーを実施しました。愛知支部若手会のツアーは、過去約五年前に実施したのを最後に、久しぶりの実施です。
 報告を担当する私にとっては初めての沖縄訪問となりましたが、普通の観光でも滅多に行かない場所に行くことができ、終始生憎の悪天候に見舞われましたが、在日米軍基地をめぐる現状・運動の実態、平和のあり方など沖縄に関する人権課題を考える充実したよき機会となったと思います。
二 一日目 嘉数高台公園、普天間基地、嘉手納基地の訪問
 初日は、普天間基地を眺望できる嘉数高台公園に向かいました。平和ガイドの方が、普天間基地にオスプレイがあったのにすぐ気がつきました。見学中、いきなりオスプレイの離陸準備のため、エンジンがかかりましたが、遠く離れた公園にも、とてつもない騒音が鳴り響いた衝撃を今でも覚えています。爆音訴訟の存在は、既に耳に入っていましたが、周辺住民の生活における多大な支障を考えると、飛行の差し止めの請求というのも、住民の生活に直結する、大きな意義のあるものだと身をもって改めて気づかされました。
 既にご存じの団員もいるとは思いますが、普天間基地は米国内の基準によれば、決して存在してはならない基地です。その事実を知らされ、米国の法を遵守しない態度に理不尽さ、そして憤りを覚えました。
 嘉数高台公園に関する話題に戻すと、ここには、戦争で亡くなった兵士を追悼する記念碑が多数存在します。「追悼」と聞くと、一般的にはよいことのように感じるかもしれませんが、記念碑には、「『祖国』や『天皇』のために亡くなってくれてありがとう」と戦争を賛美するような表現が、(右翼によってか)盛り込まれています。最期まで「国のため」「天皇のため」にと思い戦った極少数の方がいること自体は否定しませんが、多くは、亡くなるときに妻子や家族のことを想っていた方々です。記念碑の存在が、戦争を賛美することになりかねない危険を感じました。
 その次は、嘉手納基地に向かいましたが、道中、二〇〇四年に米軍ヘリが墜落した沖縄国際大学を通りました。事故後一〇年以上経過した現在においても、墜落現場は、事故の悲惨さをそのまま伝えるものとなっていました。見学した際、平和ガイドの方から、事故の被害を生々しい事実として教えていただき、事故の悲惨さが伝わりました。
 嘉手納基地では、同じく騒音の実態を見学しました。「防音壁」と称する壁が続いていましたが、実際は基地の遮蔽のための設備であり、周辺への騒音を全く防止できていないものでした。米軍用機が離発着する度に、とてつもない騒音が鳴り響き、身に堪えないものであったことを今でも覚えています。嘉手納でも、爆音訴訟の意義について、改めて考えさせられることになりました。
 その他、一日目は、キャンプの状況を平和ガイドの方から伺いました。一日目から充実したツアーとなったため、唯一の観光にしていた美ら海水族館に行くことができなくて残念でした。
三 二日目 キャンプ・シュワブゲート、愛楽園、首里城周辺の訪問
 二日目の午前中は、キャンプ・シュワブゲートで青年法律家協会弁学合同部会と日本環境法律家連盟(JELF)が共催で実施している人権調査に合流した後、グラスボートに乗船し、辺野古周辺の青いきれいな海を見て、辺野古の海を守る戦いの意義を学びました。
 キャンプ・シュワプに着いたとき、現地の方が既に座り込みをしており、中には、愛知県名古屋から偶々来ていた方も見えました。午前八時三〇分頃、機動隊が多数押し寄せ、座り込みの排除、民間警備会社による工事車両の搬入誘導が始まりました。現地の方が、「今日は弁護士が来ている」と宣伝したためか、監禁は行われませんでした。現地の方によると、本来は当日よりも酷い弾圧が行われているとのことです。座り込みの排除や違法工事のための車両誘導はそれ自体住民の声を無視した政府による弾圧そのものとしか言い得ませんが、監禁が行われなかったのは、弁護士がいたことを知ってということもあるのか、警察も違法なものと認識して行っていると思いました。
 人権調査の後、グラスボートに乗り、辺野古周辺の貴重なサンゴ礁を見学するとともに、辺野古の工事の実態も学びました。辺野古の海のためにも、基地建設はあってはならないものです。阻止のためにも、運動やその支援が必要だと思いました。
 午後には、ハンセン病施設である愛楽園に向かいました。愛楽園では、現在でも生活をされている元患者の方がいます。二〇〇二年の熊本地裁判決後、愛楽園での隔離政策の実態を後世に伝えるために、愛楽園内に愛楽園交流会館が建設されています。そこで、隔離政策の実態、ハンセン病患者が施設に行かないと治療を受けられないこと、結婚においても差別され、子どもを授かることも許されなかったことなど、ハンセン病患者の人権がないがしろにされた歴史を学び、人権擁護の理念について、学び直しました。
 その後は、首里城を訪れ、観光では滅多に行くことのない首里城周辺の防空壕跡地や沖縄戦の司令部の跡地を見学しました。そこでは、「沖縄を守る」と言いながら、本土防衛のために降伏をせずに撤退をした日本軍の態度の問題を学びました。なお、首里城の近くには、沖縄戦のことを説明する展示板がありましたが、沖縄戦の実態、特に日本の慰安婦の存在について、日本政府から訂正があり、あからさまな訂正に、反省しない日本の態度を改めて感じました。
四 三日目 南部戦跡:糸数壕、ひめゆりの塔、平和資料館
 三日目は南部地域を訪れ、糸数壕(アブチラガマ)、ひめゆりの塔や平和資料館を訪問しました。
 糸数壕では、防空壕内の生活、特に病人の生活、米軍との戦いについて、学びました。当時避難していた方がインタビューに対し、生々しい事実を答えた音声を壕内で聞き、命が選別されたことや、戦陣訓(「捕虜になる恥よりも、死を選べ」いう日本軍の教え)の問題点を学びました。敵兵に見つかったときのため、壕内にいる人には青酸カリが医師より無言で渡された歴史があり、戦陣訓の恐ろしさを学びました。
 その後に訪れたひめゆりの塔でも、現地で亡くなった女学生のことが追悼されていることは周知の事実ですが、亡くなったのも戦陣訓に従ったものであり、そのために多くの命が犠牲になったことを教わり、やはり戦争の悲惨さを改めて考える機会になりました。
 最後に訪れた平和資料館においても、日本が戦争によって歩んだ歴史、特に沖縄戦について学びました。国土防衛の名の下に犠牲となった沖縄について、名古屋では感じることのできない戦争のもたらした被害を学ぶこととなりました。
五 その他結び
 今回、沖縄本島をバスで回りましたが、その道中、沖縄の港に最新の米軍輸送艦が配備されている状況を見て、日本が徐々に戦争への道を歩んでいる現状を目の当たりにしました。また、平和ガイドの方から米軍、特に海兵隊や軍属により悪質な犯罪被害の実態も聞きました。訪問二日目の一二月一日は、元海兵隊の犯した殺人事件の無期懲役判決がなされた日であり、米軍犯罪も今なお続く悲惨なものです。このような実態を見聞し、移動中も、沖縄における平和・人権課題を学び、団員にとって充実した勉強の場となりました。
 今回のツアーで学んだ知識・経験を基に、日々の運動にも結びつけたいと思います。


新春ニュースのトピックス(前半)

福岡支部  永 尾 廣 久

あべの総合
 ニュースの巻頭言を私の敬愛する森野俊彦団員が書いていますが、まったく同感です。私は今の自衛隊は明らかに日本国憲法に反した存在だと考えています。これについて、「専守防衛の範囲なら許されるとして自衛隊は容認だというのは欺瞞」だと非難する学者がいる。しかし、本当は裁判所に違憲だと判断してほしいところ、事件性の要件のカベがあるので、『切歯扼腕』している」。本当にそうなんですよね。
 そして、中森俊久団員が、被告人が法廷に入るときに一律に手錠・腰縄している運用の問題点を告発しています。大阪地裁平成七年一月三〇日判決は、「やむをえない特段の事情が存在しない限り、このような護送行為は被告人の人格権に対する違法行為」とし、控訴審(判タ九四一号)でも「無罪の推定を受けている未決拘禁者に対しては、その人権に対する十分な配慮を要することは当然」としているというのです。私は、申し訳ないことにこの両判例を知りませんでした。この法廷への手錠・腰縄問題は弁護士会として、もっと強力に申し入れるべきテーマですね。
東京合同
 加納小百合団員が破産宣告を受けた会社を民事再生手続きに乗り換えさせることに成功したと紹介しています。いったん破産決定が出たのに会社側代理人として抗告し、最高裁まで争ったものの結論は変わらなかった。しかし、もともと取引先のしっかりした利益率の高い会社なので、新しい経営陣の会社再生の熱意と可能性が裁判所を動かして、再生開始となり、債権者も九割以上が賛成して、再生計画が認可されたとのことです。こんな話を私は聞いたことがありませんが、東京地裁でも初のケースだそうです。加納団員に敬意を表すると同時に、紹介していただいて知見が増えました。ありがとうございます。
 また、しんぶん赤旗日曜版に連載され、私も読むのを楽しみにしていた「今日もいい天気」の作者である山本おさむ氏をゲストに招いての対談も興味深いものがありました。愛犬のコタ君がなくなり茫然自失の作者でしたが、二代目コタ君を飼ったということで少し安心しているところです。山本氏はマンガを描くときには、取材する前にできるだけたくさんの資料を読み込んでいて、一番深いところを突っ込んで聞くように心がけているとのことです。なるほど、そうなのかと勉強になりました。
いわき総合
 過労死問題などで活躍中の岩城譲団員は福岡で開かれた法曹三〇年目の大同窓会に参加したそうですが、過労死遺児交流会にも企画委員として加わったとのことです。そこで披露された、「ダ・カーポ」による歌にもなったマー君の詩の一説を紹介します。私は読んで涙が出ました。
  大きくなったら ぼくは 博士になりたい
  そしてドラえもんに出てくるような タイムマシンを作る
  ぼくは タイムマシンに乗って お父さんの死んでしまう前の 日に行く
  そして 仕事に行ったらあかんて言うんや
 死ぬまで労働者を働かせる企業、そしてそれを多くの人が当然視する日本の社会はおかしいと本当に思います。
長野第一
 武田芳彦団員が無理なく頑張っているようで、うれしいですね。朝七時までに出勤し、夕方六時に事務所を出る。割り当ての相談は、他の弁護士の一割くらい。ネパールのトレッキング、そして、料理のレパートリーを広げて孫たちに大人気とのこと。すばらしいですね。
 裁判所の予算は三権分立の一つでありながら、その予算は何と国の予算の〇・三%、三一七七億円でしかない。これは、長野県の予算八六二五億円の半分以下。哀れなものです。一基一三〇〇億円のイージア・アショアを二基もアメリカから購入するというのですから、まったく無駄なお金を二六〇〇億円もつかうというのに、泣けてきますよね・・・。
堺総合
 長野第一はニュースそのものでしたが、堺総合のほうは、ニュースとは別に市民サービス用にリーフレット(六頁)を作成しています。これは「グッド・ジョブ」だと思いました。女神のテーミス像をバックとして「どこよりも、あなたの問題・悩みに寄り添った的確・安心のサービスを提供します」とあり、「経験と実績の弁護士」五人(女性がいないのが残念ですが・・・)の似顔絵と一口コメントが添えられています。そして、「このリーフレットをお持ちいただければ、初回相談が無料に」という殺し文句がついているのです。
 それにしても、辰巳創史団員の紹介しているコンビニ窃盗冤罪事件についての裁判所の対応はひどすぎます。無罪判決が確定しているのに、警察・検察に対する国家賠償請求訴訟において一審は請求された警察官・検察官を一人も証人尋問しないで国に過失はなかったとし、それを控訴審も容認したというのです。いかにも権力に弱い裁判所の体質がよくあらわれています。裁判官の新再任審査そして弁護士任官審査に私は長らく関わっていますが、裁判所ではことなかれ傾向の強い裁判官に会うことがほとんどで、残念に思うばかりです。
太平洋
 国府泰道弁護士が民事執行法の改正論議の状況を紹介しています。実は、私も年末に預金差押の相談を受けました。年金と給料が入ったその日に、全額が差押されて預金がおろせなくなったというのです。もちろん債務名義はあります。でも、年金は差押禁止ですし、給料にしても四分の一しか差押できないはずです。預金口座に入ったその日に偶然に差押されたのですから、取り戻せるはず。まずは電話で差押したサービサーに申し入れました。ところが、法的手続きをとってほしいと、取りつく島もありません。そこで、いろいろ教えてもらったあげく、差押禁止範囲の拡張申立をして、なんとか差し押さえを免れることができたのでした。
 国府弁護士によると、弁護士会では、預金口座に振り込まれたあとも年金や児童手当のようなものは差押禁止とすることを求めているとのこと、ぜひそうしてほしいと私も思います。給料差押の四分の一にしても、同じように弁護士会はせめて一〇万円までは差押禁止とすることを求めているようですが、大賛成です。(続)


*書評*

『自由・人権・統一
君たちに伝えたい 根本孔衛一代記』

東京支部  上 条 貞 夫

 昨年末たまたま急ぎの仕事が入って、やり終えた興奮が残っていたためか、年明け早々、二晩続けてその事件の妙な夢を見た。こういう心理状態から抜け出さないと次へ進めない。どうしたものかと考えながら、そうだ根本さんに聞いてみよう、と思いついたのが、年末に走り読みしていた本書のこと。 
 「弁護士生活六〇年」の歩みだから並大抵の話ではない。でも、本文は僅か二五ページで、読者は苦労なく終わりまで行ける。正月休みに、ゆっくりと再読しながら、雪の結晶を顕微鏡で見る思いがして、年明け早々の苦しい夢は消えた。
 根本さんの居る川崎合同法律事務所は、外から入って風通しの好い魅力がある。東洋酸素の整理解雇(仮処分)事件が東京高裁昭五四・一〇・二九判決で逆転敗訴した後、巻き返しの東京地裁本訴は、当該川崎工場の地元の川崎合同法律事務所を拠点に、新進気鋭の杉井厳一さんを中心に弁護団が新編成されて、たまたま私も参加して何年も通うことになった。当時の事務所は小さな木造二階建の二階部分で、泊まり込み用の畳敷きベッドもあった。その弁護団会議の爽やかな議論が痛快だったから、私は時々、会議の始まる前に会議室に入って一人静かに当日の論点を考え廻らすのも、また楽しかった。
 この解雇争議は、やがて全国に支援の輪が広がって、ついに十二年ぶりに、労組の指名する復職希望者全員の復職を達成した。その後日談がある。二〇一〇年暮の日航一六五名解雇は、これを容認する不当判決を乗り越えて七年越しの争議が続いているが、この争議に、東洋酸素争議の生き残り組の労働者たちが、「我々の高裁判決の影響で日航事件の悪い判決が出た。その責任がある」と言って、ビラまき、集会参加など心温まる支援を今も続けている(日航事件に関わる司法の闇を追及した拙稿「整理解雇と信義則」労働法律旬報一八八四号)。
 東洋酸素は、その後、高齢者差別事件が発生した。昔の縁で私も川崎合同の弁護団に参加したが、このときは岩村智文さんの凄腕で判決以上の勝利和解を達成した(会社側弁護士は私と研修所同期で昔から犬猿の仲。私が入ると和解が出来ないので、私は和解交渉から外れていた)。
 そういう川崎合同の象徴的存在が、いつも根本さんだった。根本さんとは司法修習の期が近く(私は十期)、団の関係で面識はあったが、事件で川崎に通うようになってから、よく、すれ違い様に一言、二言、話す度に、その博識の一端と人を包み込むような人柄に接して楽しかった。
 本書に接して、根本さんの大変苦労された少年期、青年期の人生の歩みを初めて知って驚いた。そういう苦労を全く感じさせない、おおらかな性格は生来のものか。でも、本書二五頁「今、事務所に伝えたいこと」を読むと、現在と将来の川崎合同を語る文章の奥に、そこには書かれていない、いままで根本さんが、それこそ心血を注いで配慮を尽くして事務所の若手の成長を支えてきた姿が見えてくる。団の法律事務所の運営には、こういう地道な、人知れぬ苦労と努力を重ねる人が一人か二人、どうしても必要で、私の所属する事務所についても、私はその方面に全く役立たず長年にわたって恩恵を受けるだけだったことを改めて自覚した。
 本書には、根本さん自身が全力で取り組み貴重な成果を挙げた幾つかのたたかいが、コンパクトに語られている。私も時折、根本さんから直接聞いていて印象に残ったのは、「沖縄」問題に対する、弁護士の域を超えたスケールの調査研究の、瑞々しさ(凄さ、と言っていい)。どの道に分け入っても、この人は自然体で、こういう壮大なスケールの世界に溶け込む。その一端を知るだけで、こちらも元気になる。
 ところで弁護士は、自分の書いたものは読むけれど他人の書いたものは余り読まない傾向が団員の中にも見受けられる。おそらく根本さんは、そのあたりの実情を察して、誰がいつ読んでも何処か心に響く、伝えたいことを願って、とても丁寧に本書をまとめ上げたように思われる。それも、「六〇年」の積み重ねと同時に、進行形で未来を語っているのが痛快だ。読者は本書から、それまで気付かずにいた自分の人生の大切な何かに、気付くかも知れない。まず団員に、広く本書を推薦したい。

二〇一八・一・一二


道徳教科化に関する
リーフレットを作成しました

神奈川支部  林   裕 介

 ご承知のとおり、二〇一八年からいよいよ小学校にて、教科化後における道徳の授業が開始されます。しかし、道徳の教科化は、検定を終えた教科書の内容からも明らかなように、子どもたちの個性を奪い一定の価値観を教え込むものであるため、個人の尊重を定める憲法一三条にまっこうから反するものです。
 このたび、このような道徳の教科化の問題点を指摘するリーフレットを作成いたしましたので、各方面においてぜひご活用ください。
●価格 一部一〇円(送料別)
 ※一〇枚単位でのご注文をお願いいたします
 ※一〇〇部以上のお申し込みの場合、一部八円
●形式 A4用紙四つ折り(折った状態での大きさA6)
●お申込方法
 リーフレットのお申し込みであることを一言を添えていただき、下記の事項をメール(宛先:hayashi@kawakitalo.org)またはFAX(〇四四―九三一―五七三一)にてご連絡ください。
  (1)お申込み部数
  (2)お名前
  (3)ご送付先
  (4)電話番号
 お申込みを頂いた後、ご請求書(料金+送料)を添えてリーフレットをお送り致しますので、お手元に届き次第、指定の口座宛にお振込みください。
●お問合わせ先
 川崎北合同法律事務所 担当 林 裕介
 TEL 〇四四―九三一―五七二一 
【道徳リーフ表紙】