自由法曹団通信:1652号      

<<目次へ 団通信1652号(12月1日)


加藤 健次 ※福岡・八幡総会特集
退任のごあいさつ
堀 良一 博多にわかと
仁比・山添両議員を囲む会開催のお礼
松島 暁 平成三一年度概算要求にみる
防衛費・軍事費の増大と突出
久保木 太一 「内藤功団員との対話から学ぶ憲法九条
―内藤塾の報告」
大久保 賢一 「徴用工」判決に対する
外務大臣談話についての異論(前編)
伊藤 嘉章 そろそろ左派は、<経済>を語ろう
三題話と物語の転換(前編)
後藤 富士子 「司法修習」を廃止しませんか?
―「法科大学院」制度への責任



※福岡・八幡総会特集

退任のごあいさつ

前幹事長  加 藤 健 次

 一〇月の総会で幹事長を退任いたしました。二年間、本当にありがとうございました。
 幹事長に就任した後、二〇一七年には共謀罪法案が国会に提出され、同じ年の五月三日には安倍首相が「自衛隊を憲法に明記する」という改憲論を打ち出すという、激動の毎日でした。九条改憲の発議を許さなかった一方で、安倍内閣を退陣させるまでにはいきませんでした。今後は、一団員として安倍内閣を打倒するためにがんばります。
 この間、野党と市民の共同というテーマが日々問われていたと思います。運動面で言えば、共謀罪に反対する運動が法律家八団体をはじめ、これまでになかった共同の幅に広がっていったことを実感しました。衆議院の法務委員会で参考人として意見を述べさせていただきましたが、かなりの手応えを感じました。
 安倍九条改憲反対の運動では、共同センター、総がかり行動実行委員会、そして全国市民アクションと共同の輪が広がっていくなかで、団の活力をどう発揮していくかを考える毎日だったように思います。私としては、できるだけ若い団員の皆さんと一緒に考え、行動することを心がけたつもりですが、この点では、まだまだ宿題が残されているような気持ちです。今年の九月常幹に際しては、様々な団員の皆さんから意見をいただき、話をさせていただきました。今となっては、得がたい経験だと思っています。
 この二年間で、全国にお邪魔して、各地の団員の皆さんの奮闘ぶりを直接見聞きすることができたことは、楽しくもあり、勉強になりました。こうした日常的な団員の活躍をもっと皆が共有できるような工夫が求められていると思います。
 退任してみると、あれもやればよかったなどと思い浮かぶことが多いのですが、それは今後の活動に生かしていきたいと思いますので、よろしくお願いします。


博多にわかと
仁比・山添両議員を囲む会開催のお礼

福岡支部  堀   良 一

 福岡・八幡総会で、有志企画として、懇親会で仁比・山添両議員が主役の博多にわかを演じ、終了後に「仁比・山添両議員を囲む会」を開催させていただきました。
 先日、有明訴訟の国会行動で山添議員と会った際、ニコニコしながら面談の部屋に入ってきたので、「団総会の博多にわかは、突然だったけど、上手にこなしてましたね」と声をかけたところ、山添議員は「にわか勉強!」とすかさず返答。すっかり馴染んでいました。泥縄で準備した博多にわかでしたが、両議員はみごとにこなしてくれました。
 両議員を囲む会は、懇親会終了後という時間帯でしたが、九〇名を越える参加で盛況のうちに終えることができました。満杯の会場での活発な議論の内容は、福岡支部の永尾団員が団通信一六五〇号で紹介されています。短時間でしたが、濃密な議論ができたのではなかったでしょうか。
 参加された方からは、心温まるメッセージをたくさんいただきました。ほんの一部を紹介させていただきます。
 「仁比さんの熱い想いは、我々二〇代に深い感動を与えていただいています!!これからも、国会内外で大活躍されてください。応援します。」、「団員弁護士が国会議員であること。これは日本の民主主義や私たちの権利を守る上で、絶対不可欠なことだと思います。」、「仁比さんの熱さは、政府・自民党が国民を苦しめる政策を行い、これに対する国民一人一人の怒りを代弁するからだと思う。仁比さんのその熱さで安倍政権の悪政を焼き尽くしてほしい!」
 できれば、来年の五月集会でも両議員を囲む会を持ちたいと考えています。仁比再選がかかった参議院選挙の直前です。熱く燃え上がりましょう。


平成三一年度概算要求にみる
防衛費・軍事費の増大と突出

東京支部  松 島   暁

 安倍首相が憲法に書き込もうとしている自衛隊は、災害救助の部隊でもなければ必要最小限の防衛部隊でもない。規模や能力において世界有数の軍事組織であるばかりか、近年、その攻撃化・外征軍化、米軍との一体化・従属化がますます進行した部隊である。
 部隊の攻撃化や米軍との一体化については、団・緊急意見書『「安倍改憲」は戦争への道―自民党改憲素案を批判する』V「憲法に書き込まれる自衛隊とは― 明記が予定される現在の自衛隊の実態」に譲り、本稿では、防衛費(軍事費)の異常な肥大化について、防衛省の「平成三一年度概算要求の概要―我が国の防衛と予算」(以下「概算要求」という)を素材に、その傾向と特徴を明らかにしたい。
肥大化する防衛費・軍事費
 平成三〇年度の防衛予算は四兆九三八八億円で、SACO関係費と米軍再編経費を加えると総額で五兆一九一一億円だった。概算要求では、SACO関係費と米軍再編経費を除いた要求額が五兆円超えの五兆二九二六億円(対前年比七%増)となった。これに加えて、概算要求では「事項要求」とされたため、金額が不明・未定となったSACO関係費と米軍再編経費、平成三〇年度予算化の約二〇〇〇億円を加算すれば、五兆五〇〇〇億円規模の要求となる。
 防衛費は大きくは人件費と物件費とに分かれるが、一般的には、@人件・糧食費、A歳出化経費(当年より前に契約がなされ当年度に支出される物件費)、B一般物件費(当年度の契約に基づき当年度に支出される物件費)の三つに分類され、二兆円余が@人件費に、三兆円がABの物件費に充てられている。
 今回の概算要求では、@とBが微増であるのに対し、増大著しいのがAの歳出化経費で、平成三〇年予算の一兆七五九〇億円が一気に前年度比一七・四%増の二兆〇六四七億円となっている。
 要は、米国政府・米国企業から高額な武器・装備を次々に購入し、そのツケを後年度にまわしているのである。
高額な武器装備
 安倍政権は、「厳しい安全保障環境」を理由に高額の武器装備を米国から次々に購入、それがAの歳出化経費を膨張させ、防衛費全体を増大するに至っている。
 いくつかを例示すれば、F35A戦闘機六機九一六億(一機一五二億)、スタンドオフ長距離ミサイル七三億、滞空型無人機グローバルホーク取得八一億と整備用機材等で一〇八億、新早期警戒機二機五四四億、中距離地対空誘導弾一式一三八億などが概算要求対象となっている(尚、三〇年度予算で認められたオスプレイ四機三九三億は今回の概算要求からは外されている)。
 これらの武器装備がどれほど高額なものなのか。例えば、昨年末から今年にかけての豪雪にあたり福井市が支出した除雪費が五〇億(予算五億)、福井県全体で一五〇億で、F35A一機分にあたる。西日本豪雨の再建復興費が一〇五八億円、そのほぼ倍額が米軍への「思いやり予算」として毎年、米軍に支出されている。
 高額な買い物の極めつけは、イージスアショア(陸上イージス)であろう。現有イージス艦六隻に加えて一基二五〇〇億ともいわれる陸上イージスを秋田と山口に二基配備しようとしている。
 イージスは強大な電子レンジともいうべきもので、強力な電磁波を発するため人体への影響が危惧されている(イージス艦は寄港に際しイージスシステムを切断・停止して入港する)。また、イージス艦を現に保有しているにもかかわらず、なぜ重ねて高額装備を買い入れようとするのか。軍事的合理性のない高額装備購入のわけは、米国政府と米国企業の利益に資することに加え、海自・空自と比べ高額武器装備をあまり必要としない陸自予算から支出することで陸自:海自:空自の一・五:一:一という予算バランスを維持しようというあたりが本当の狙いではないか考えている。
調達費の増大を招いているFMS
 加えて、米国からの武器調達方法・装備購入方法の特殊性が、購入武器・装備の高額化の要因となっている。
 米国からの武器・装備の取得は、FMS(対外有償軍事援助 Foreign Military Sales)という方式によっている。要は、米国から軍事(武器)の「援助」を受けている(ただし「有償」で)のであって、単純な買取・売買ではない。その結果、@価格は米国の言い値であり、A納期は目安で米国はそれに拘束されず、B代金は前払い(納品後に精算)、C米国は自由に解除可能という、米国にきわめて有利な取引となっていて、この方式が、武器調達費の膨張、防衛費の増大を招いている。
 歳出化経費として将来支払われることになる「後年度負担残高」に占めるFMSの割合が、二〇一三年度の五・九%だったものが二〇一九年度には二八・三%と急速に拡大している。いかに米国から高額な武器・装備を買い続けているかの証である。
米軍支援に毎年八〇〇〇億円
 かつて法律の根拠もないのになぜ支出するのかと問われた金丸信元自民党副総裁は「思いやり」だといって始まったのが、(ア)在日米軍駐留負担経費(「思いやり予算」)」であり、当初六二億円だったものが今では一九六八億まで膨れあがった。これ以外にも(イ)「基地周辺対策費・施設借料」として一八二〇億、(ウ)米軍再編関係経費(地元負担軽減分と政府は呼ぶが、米軍部隊のグァム移転等に必要な経費の負担で、要は米軍の引越代を負担している)が二一六一億、「SACO関係経費」五一億、(ア)、(イ)、(ウ)の合計約六〇〇〇億円を防衛予算から支出して、防衛予算の一一・五%が米軍支援に使われている。防衛予算以外にも、(エ)「基地交付金・調整交付金」三八二億が総務省から、「提供普通財産借上試算」として一六四一億円が財務省予算より経費計上されている。
 防衛省分六〇〇〇億に総務省・財務省分二〇〇〇億を加えた約八〇〇〇億円が毎年毎年米軍支援経費として使われている。
防衛費の倍増を求める自民党会提言
 自民党政務調査会は本年五月二九日、年末に予定されている防衛大綱の見直しに対する提言を発表し、安全保障環境(脅威)に応じた防衛力整備と同盟友好国との連携協力強化を根拠にNATO並みのGDP二%、一〇兆円超の防衛予算を要求している。
 今年は、冬の豪雪に始まり、西日本豪雨や北海道地震などの災害が多発し、数百億円から数千億円単位の防災や災害復興費用が必要となった。また保育園不足による待機児童解消はなかなか進まない。オスプレイ一機分(約一〇〇億)でいくつの保育園が新設・増設できることか。
 消費税一〇%移行を目前にひかえ、防衛費の増大・突出は許されない。米国や米国企業の利益のためではなく、国民の生活と防災のためにこそ、国費は支出されるべきではないか。同時に防衛費のコントロールは、軍隊・自衛隊の民主的統制の核心であり、憲法に自衛隊を書き込むことで自衛隊の規範的統制が可能(護憲的改憲論)となるものでもない。


「内藤功団員との対話から学ぶ憲法九条
―内藤塾の報告」

東京支部  久 保 木 太 一

 内藤塾とは、他でもない内藤功団員(修習六期)を講師に据えた通年の連続講座である(主催は、「自衛隊をウォッチする市民の会」)。砂川訴訟、恵庭訴訟、長沼訴訟、百里訴訟といった、司法試験受験において誰しもが学習する著名訴訟に最前線でかかわった「レジェンド」である内藤団員から、訴訟の裏側や運動面などなど何でも聞けてしまう大変贅沢な学習会だ(ご関心のある方は、kuboki@jyohoku-law.comまでお問い合わせを)。
 本稿では、二〇一八年度内藤塾の第七回(一一月一六日開催)における質疑応答の内容を要約してご紹介する。なお、質問の内容は主に私が考案している。もしかしたらピンとくる方がいるかもしれないが、「質問三」は今年の団東京支部総会で若干紛糾した私の発言が基になっている。
質問一
 内藤先生は、「中国の脅威」についてどのように考えているのか。
回答
 戦争指向勢力(巨大軍事産業と結託した一部政治家・高級軍人・高級官僚)にとっては、常に仮想敵国の脅威を設定することが必要である。
 安倍政権が軍備拡大の最大の口実としていた「北朝鮮の脅威」は崩れつつあるが、「中国の脅威」が軍拡の口実として残っている。中国が尖閣諸島に攻めてくる、というシチュエーションが口実である。
 現在、日本は基地強化、米国製高額兵器の購入、共同演習の日常化は中国を仮想敵国に想定している。なお、軍事産業にとっては、兵器が大量に売れればよいため、実際に戦争するか否かは関係がない。国民を納得させさえすればよい。
 現在の中国は世界二位の経済大国である。経済面、人口面、地理面からして、中国と戦争をしたら負けるに決まっている。隣人とは友好関係を強化する道しかない。
 そもそも、尖閣領海への中国公船の侵入は、二〇一二年当時の民主党政権が、尖閣諸島の国有化を一方的に宣言したことが誘因である。領有権問題は、両国間の間で争いがあることを認めた上、歴史的資料を出し合い、国際法の条理に照らし、時間をかけて冷静に話し合いをするしか解決の方向はない。境界紛争は世界中のどこにでもある問題であり、それを戦争や軍拡の口実にするのは愚策である。
質問二
 自衛隊の存在そのものが抑止力になっているため、自衛隊を解消するわけにはいかないのではないか。
回答
 前提として、自衛隊の解消は、国際情勢の発展、それに伴う国民の合意の成熟の段階で実施するものである。
 一般論として、「使わないが存在する」というだけでは、相手国が無視することができるため、相手国への抑止力とはならない。逆に「強力な相手を恐れさせるような抑止力」では、相手国、周辺国の軍備拡大を誘発し、軍備競争に巻き込まれてしまう。
 「ただ居てくれるだけで安心」と考える人もいるが、政策的には実益の無い不要なコストを生むだけである。その分の国費を生活向上のための予算に当てた方がよい。
 憲法九条に基づく対話に基づく平和外交こそが、最大の安全保障である。このことを政治の基本に据えなければならない。
質問三
 自衛隊員を愛するがゆえに憲法九条を守るという考え方は理想かもしれないが、国民には理解されないのではないか。仮に国民投票になったときには、端的に自衛隊に対するネガティブキャンペーンを張ることによって勝つべきではないか。
回答
 まず、私は「自衛隊員」を愛するのであって、「自衛隊」は愛する対象ではない。組織は無機物であり、無機物は愛する対象ではない。そこは明確に区別しなければならない。
 もっというと、自衛隊員の中でも、統合幕僚長などの上層と、下級の自衛隊員は分けて考えなければならない。前者は政権との癒着も強まっており、下級の自衛官とは感覚も全く違う。他方、後者は、生活のために入隊をしたり、ボランティア精神で自衛隊の道を選んだりしている人も多い。自衛隊に入って、その実体を知り、失望している者も少なくない。
 国民投票となったときに、「自衛隊員」に対するネガティブキャンペーンをするというのは違うと考えている。
 他方、「自衛隊」という組織に対しては批判をしていく必要がある。自衛隊という組織に関して見てみれば、危険である。編制、装備、演習等にみる米軍との一体性を、具体的に分かりやすく訴えることは重要である。
 もっとも、私は改憲発議は阻止できると考えているので、そもそも国民投票にならないと考えているので、これはあくまでも仮定の話である。


「徴用工」判決に対する
外務大臣談話についての異論(前編)

埼玉支部  大 久 保 賢 一

外務大臣の談話
 河野外務大臣は、一〇月三〇日、「大韓民国大法院による日本企業に対する判決確定について」と題する談話を出した。その要旨は以下の四項目である。
 日韓両国は、一九六五年に締結された日韓基本条約および関連協定の基礎の上に友好協力関係を築いてきた。その中核である日韓請求権協定は、日本から韓国に無償三億ドル、有償二億ドルの資金協力を約束するとともに(一条)、両締約国及びその国民の財産、権利及び利益ならびに請求権に関する問題は「完全かつ最終的に解決」されており、いかなる主張もすることはできないとしている(二条)。
 にもかかわらず、大韓民国大法院は新日鐵住金(株)に対し、損害賠償の支払い等を認める判決を確定させた。この判決は、日韓請求権協定二条に明らかに違反し、日本企業に不当な不利益を負わせるものであるばかりか、日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆すものであって、極めて遺憾で、断じて受け入れられない。
 日本としては大韓民国にこの立場を伝達するとともに、大韓民国が国際法違反の状態を是正することも含め、適切な措置を講ずることを強く求める。
 直ちに適切な措置が講じられない場合には、日本として、日本企業の正当な経済活動の保護の観点からも、国際裁判も含め、あらゆる選択肢を視野に入れ、毅然とした対応を講ずる考えである。
談話の特徴
 この談話の特徴は、第一に、韓国の大法院という司法機関(日本でいえば最高裁判所)が、日本企業に対して下した判決について、「極めて遺憾で、断じて受け入れられない」と極めて強い口調で非難していることである。第二に、韓国(政府)に対して国際法違反の状態の解消など「適切な措置」を講ずるよう求めていることである。第三に、「適切な措置」を講じなければあらゆる選択肢を行使するとしていることである。ここにいう「適切な措置」とはどのような具体的な行動であるかは示されていないが、日本企業に不利益を負わせないような措置であることは明らかである。例えば、新日鐵住金(株)に損害賠償金を負担させない措置であろう。
 要するに、日本政府は韓国政府に対して、韓国の裁判所の判決が日本企業に不利益をもたらしているから何とかしろ、何とかしないなら何をするかわからないぞ、と迫っているのである。その理由は、判決が日韓請求権協定二条に違反しているからだということにある。
談話に対する疑問
 この談話を読んでいくつかの疑問が湧いてくる。
 第一に、この判決は「徴用工」であった個人が原告、その個人を使役していた日本企業を被告とする民事裁判において、韓国の司法機関が韓国法に基づいて下しているものである。従って、日本政府とは全く関係がない事案である。他国の裁判所が下した判決が自国の私企業に不利だからといって、当事者ではない政府が「断じて受け入れられない」などと言える根拠はどこにあるのかという疑問である。友好関係原則宣言が「いかなる国も、他国の主権的権利の行使を自国に従わせるために、経済的、政治的その他いかなる措置も使用してはならない」としていることに照らせば、日本政府が韓国の裁判所の判決に難癖をつけることは内政干渉であろう。
 第二に、「適切な措置」を求められた韓国政府は何をどうすればいいのだろうか。韓国政府に韓国大法院の確定判決の効力を覆す権限はない。それは、日本でも同じことである。日本政府に最高裁の判決を覆す権限などはない。韓国政府が「司法部の判断を尊重する」というのは当然の対応である。にもかかわらず、日本政府は韓国政府に対して、確定判決があっても、日本企業に不利益が及ばないようにしろとしているのである。およそ三権分立の統治機構の在り方や、裁判というものを全く理解していない物の言い様である。
 第三に、「直ちにいうことを聞かなければ裁判手続きも含めあらゆる手段をとるぞ」と上から目線で物を言うことは、外交関係の在り方として乱暴に過ぎないかということである。請求権協定三条は、両国政府に紛争が生じた場合の措置を規定しているのであるから、せめてそのことに言及すべきであろう。
なぜ、そのような物の言い様になるのか
 この様な内政干渉まがいの、三権分立制度についての無理解丸出しの、不穏当な言辞の談話が出された背景には、日韓請求権協定二条についての「両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに請求権に関する問題は完全かつ最終的に解決されており、いかなる主張もすることはできない」という日本政府の解釈がある。
第二条の要旨は次のとおりである。
 両締約国は、両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたことを確認する。
 一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるもの並びに同日以前に生じた事由に基づく請求権に関しては、いかなる主張もすることができない。
 確かに、この条文には、財産、権利、利益、請求権に関する問題は「完全かつ最終的に解決された」、署名の日より前に生じた事由に基づくものは「いかなる主張もすることができない」と書かれているのである。であるが故に、河野大臣は、個人的請求権は消滅しているのかいないのかという質問に対して「もう既に完全かつ最終的に終わっている」としているのである(一一月二日記者会見)。河野大臣はこの条文を機械的に解釈して談話を発表しているのであろう。もちろん、日本政府がどのように解釈するかについては政府の権限であって、その当否について私がとやかく言う筋合いはない。
(次号へ続く)


そろそろ左派は、<経済>を語ろう
三題話と物語の転換(前編)

東京支部  伊 藤 嘉 章

一 はじめに
 大阪支部の杉島幸生先生の投稿(団通信一六四九号)を読ませていただきました。松尾教授に対する疑問への回答は、松尾教授の仕事なので、松尾教授にまかせることにして、私なりの意見、感想を述べさせていただきたいと存じます。 
二 松尾教授と私見の相違点
 松尾教授は、日銀の直接引受けを禁じた財政法を改正して、日銀による国債の直接引受を主張しているのです。但し、私は、松尾教授の「この経済が民主主義を救う」という本(大月書店)をなくしてしまったので、その記載のページを引用することはできません。
 一九三六年の二二六事件で青年将校の凶弾に倒れた高橋是清の時代とは違って、黒田日銀の異次元金融緩和の結果、三〇〇兆円のベースマネーが市中銀行の日銀における当座預金に眠っているのです。年利二パーセントくらいの政策金利で国債を発行すれば、国債の利息は銀行への隠れ補助金となり、特に疲弊する地方銀行の経営の安定に資することになる。国債の販売先にことかくことはないであろう。
三 ハイパーインフレを心配している場合ではない。
 二〇一三年、黒田日銀総裁は、「二年で、マネタリーベースを二倍にして、二パーセントの消費者物価上昇率を目指す」という、二並びの目標を高らかに宣言した。あれから六年が経とうとしている。マネタリーベースは四倍にまで増えたが、消費者物価上昇率は、二パーセントに達していない。
 インフレは需要に対して供給が追いつかない場合に生じる。日銀が三〇〇兆円ものマネタリーベースを積み上げても、岩田規久男元日銀副総裁が予想したインフレは生じなかった。黒田日銀の異次元金融緩和政策は、貨幣の量であるマネタリーベースを増やすだけではインフレは実現できないという歴史に残る社会実験となった。
 弾尽き、矢折れ、満身創痍で、任期満了により日銀副総裁を退任した岩田規久男名誉教授は、「日銀日記 五年間のデフレとの闘い」(筑摩書房)という弁解本を書いた。インフレは貨幣の量だけではない。条件が必要という(二五一頁)。もともと消費税増税反対派であった岩田氏は、二〇一四年の消費税の増税がインフレ目標の実現の足を引っ張ったという。「消費税を予定どおりあげないと、どえらいことになる。」(七四頁)という黒田総裁の発言を取り上げ、こんなことは言ってもらいたくなかったとして「黒田総裁は日銀総裁としての矩を越えた」(七五頁)と総裁の悪口を書いている。
 今では年金受給世帯が多数に及び、しかも受給額が下げられている。現役世代も財政破綻をあおられ、将来年金がまともにもらえるかどうか疑心暗鬼になる者が多い。どこにインフレ期待が生じるのか。
 それでも、白川日銀総裁の時代にくらべれば、各種経済指標が好転し、二パーセントの目標には届かないものの、デフレを脱却し、インフレ傾向に転じているのではないか。この段階でハイパーインフレの心配をするのは、真冬にようやくエアコンが効き始めたときに、真夏の熱帯夜の心配をして、エアコンのスイッチを切ってしまうようなものではないか。
四 財政破綻はしない。国債の暴落が起こる日とは。
 「市場の信頼を失えば、円と国債は暴落し、長期金利は暴騰します。それは新規国債の発行を困難にし、いずれは財政破綻をむかえます。」という。これは二〇年来の財政破綻論者の議論ではなかろうか。
 「市場の信頼を失う」とは、何をいうのか。「円と国債の暴落」とはいくらの価格をいうのか。「長期金利の暴騰」とはどの程度の利率を言うのか。そもそも「財政破綻」とはどのような事象をいうのか。一般に破綻論者の議論には、概念の定義がなく、情緒的な議論が多い。
 外人投資家あるいは国内の機関投資家が一斉に国債の売却に走っても、日銀が購入を続ければ金利が上がることはない。
 そもそも機関投資家が満期には額面で償還される国債を売却して得た資金を何に運用するのであろうか。仮想通貨で運用するのであろうか。
 アメリカの高金利につられてアメリカ国債の購入に走った場合には、円安になる。円安は、のぞむところではないか。一九八五年のプラザ合意の前の一ドル二四〇円にもどれば、製造業の国内回帰だけではなく、農業も漁業も売り上げを回復し、林業も復活するかもしれない。
市場の信頼喪失による国債の暴落が起こる日
 但し、国債の暴落はありうるかもしれない。たとえば、日本が金本位制に復帰するとか、日本銀行を民営化して経営者に勝手な通貨発行権をあたえるとかすれば、国債の投げ売りが始まるのではなかろうか。
五 インフレはコントロールできる
 「異次元に積み上げられた緩和マネーは、異次元のマネーストックを生み出します。インフレ傾向となれば、それは市場に流れ込みます。」
 これって、岩田規久男元日銀副総裁の期待インフレ理論と同じではないのか。
 年二パーセントというインフレ目標の政策とは、パーティが宴たけなわになったときに主催者が酒樽を持ち去ってしまうように、インフレが二パーセントを越えようとした場合には、厳然として、預金準備率の引き上げ、国債の売りオペ等の金融引き締め政策を発動して、これ以上のインフレ亢進を抑制するというものである。
 黒田日銀が国債購入によって積み上げた異次元の三〇〇兆円の緩和マネーは、マネーストックに転嫁されることなく、日銀における当座預金としてブタ積みになったままです。
 この緩和マネーを政府が国債発行によって吸い上げ、インフラ整備、教育、子育て支援、介護などの多方面にばらまく。金が動くたびに、法人税、所得税、消費税も発生して多くの金員が国庫に還流し、その結果、財政赤字が縮少し、プライマリーバランスも黒字化することになります。
六 欧州左翼の経験をどうみるか
 国民投資銀行とは何かについて勉強してないので、コメントを控えます。(次号へ続く)


「司法修習」を廃止しませんか?
―「法科大学院」制度への責任

東京支部  後 藤 富 士 子

一 「法科大学院」創設と法曹養成制度
 二〇〇四年に「法科大学院」制度がスタートする前は、国営「統一修習」だけが法曹養成制度であった。したがって、司法試験は、「司法修習生採用試験」であり、司法修習修了時の「二回試験」合格によって法曹資格が付与された。司法試験の受験資格についていえば、大学法学部履修はおろか大学卒業さえ要件とされていなかった。私自身が大学法学部を履修していないし、東大闘争の影響で卒業せず中退して司法修習生になった人もいる。
 しかし、法曹人口増員の流れの中で、既に修習期間短縮や多人数修習など、唯一の法曹養成制度である「統一修習」の機能不全が露呈していた。そこで、専門的な法曹教育により法曹の数と質を確保するために法科大学院制度が創設された。すなわち、法科大学院制度は、旧制度に代わるべき「新しい法曹養成制度」として必然的に生まれたのである。
 ところが、法科大学院修了者が受ける「新司法試験」は、「司法修習生採用試験」であることに変わりはなかった。そのうえ、新司法試験の受験資格に「法科大学院修了」という要件が加えられた。但し、経過措置が必要であり、二〇一〇年までは旧試験(法科大学院修了を要しない)が行われることになった。さらに、経済的事情などで法科大学院に進学・修了できない者のために、旧試験が「予備試験」として併存することになった。
 その結果、法科大学院の数は六割に減り、四七都道府県中三三県(七割)に法科大学院が存在しなくなった。法科大学院受験出願者の数は激減し、法科大学院修了を受験要件としない「予備試験」に高校生、大学生、法科大学院生が殺到している。「時間もお金も節約できる」抜け道があれば、法科大学院を修了する意味は希薄化する。むしろ、若年の「一発勝負」試験合格者が、法曹資格を取得していく。旧制度に代わるべき「新しい法曹養成制度」として法科大学院制度が生まれたにもかかわらず、この有様はどうしたことか。
 考えてみれば、こうなるのは容易に予見できたことである。法科大学院は、統一修習に代わる法曹養成制度なのだから、法科大学院修了者に「司法修習生採用試験」を受験させること自体、制度矛盾である。法科大学院は「司法試験受験予備校」ではないのである。また、法科大学院修了を司法試験の受験要件としない道を残せば、法科大学院が回避されるのも当然である。そして、こうなったのは、偏に弁護士の「統一修習」への妄執が原因としか考えられない。
二 韓国のロースクール制度
 韓国では、金泳三大統領が、国際競争力を高めるために法曹人口増と専門性を備えた弁護士需要に応ずるためロースクール導入を決め、その延長線上に司法の民主化の中核となる法曹一元を予定し、経過的にキャリアシステムの下での弁護士からの裁判官任用を求めた。
 ロースクールの概要は、@ロースクールの設置は許可制で、その大学は法学部を廃止しなければならない、Aロースクールの定員は全体で二〇〇〇名と定められ、修了者が受ける「弁護士試験」の合格者は七五%(一五〇〇名)と決められている、B「弁護士試験」のほかに旧来の司法試験(合格率三%で日本の予備試験のようなもの)があるが、廃止の方向で議論されている、という。
 その後、二〇一一年七月に「経歴法官制度」(法曹一元)を制度化する法改正が行われ、二〇一三年一月一日から実施された。経過措置を経て、二〇一七年に司法修習制度と従来の司法試験制度が廃止され、法曹養成制度はロースクールに一本化されることになった。すなわち、ロースクール修了者が受験するのは「弁護士試験」であり、司法修習を要しないのである。
 なお、文在寅自伝『運命』によれば、文は、一九八二年八月、司法研修院を修了するにあたり判事を志望した。当時は司法試験の合格者数が多くなかった時代で、希望者全員が判事か検事になれたうえ、文は、成績は次席、修了式で法務部長官(法務大臣)賞をもらったから、判事に採用されない可能性など考えてもみなかった。ところが、学生時代にデモを主導して逮捕された経歴が問題とされ、判事任用の審査に落ちた。それを知って有名な複数の法律事務所から破格の報酬、アメリカ留学などのオファーを受けたが、実家の釜山に戻ることにし、盧武鉉と出会った。盧は、一九四六年に貧しい農家に生まれ、兄の援助で商業高校を卒業したが大学に進学できず、日雇い仕事などしながら独学で司法試験を目指し、二九歳で合格した。司法研修院を修了して判事に任用され、七八年に弁護士開業していた。
三 法科大学院生に給費奨学金を
 父母が北から南に避難してきて一九五三年に生れた文の家庭も貧しかった。七二年慶煕大学法学部に入学し、七五年学生運動を主導、維新憲法に反対するデモで逮捕され、大学を除籍される。強制徴集を受け兵役に就き、七八年軍除隊。八〇年ソウルの春により慶煕大学に復学するも、反独裁民主化闘争で拘束され、留置所で司法試験合格の知らせを聞く。同年八月、大学卒業。その間、文はいろいろな奨学金を得ている。
 一方、盧は、八二年に文と合同事務所を経営するようになるまでの数年間は弁護士として成功し、収入も豊かであった。しかし、文と合同事務所を経営するにあたって、事件紹介料や判事接待などの悪習を排除する「クリーンな弁護士になりたい」と抱負を語り、また、業務の専門化、分業化により事務所を大きくしていきたいと考えていた。そんな中、時代の要請ともいえる「時局事件」(労働公安事件、弾圧事件)が殺到し、弁護士事務所は地域の労働・人権センターのようになってしまった。さらに、盧は、労働問題専門の弁護士になることを決意し、事務所内に労働法律相談所まで作ってしまった。当時最も進歩的な労働法学者の論文集に助けられたものの、実際に直面するのはその論文集で取り上げられていない問題の方がずっと多く、結局、自分で勉強するほかなかったという。
 盧と文の弁護士としての「生き様」をみるにつけ、「法曹」の基本は弁護士であり、その数も多くなければ国民の需要に応えられないし、さらに、専門化や分業化が必要ということを痛感する。それを「法曹養成制度」の設計図に落としてみれば、法科大学院になるはずである。
 法科大学院修了者が受けるべき試験は「弁護士試験」であり、司法修習は無用である。そして、法科大学院で高い志と専門技能を備える多様な法曹を養成するためには、給費奨学金の充実が不可欠である。統一修習の「給費」は、社会的身分に伴う不合理な特権的優遇であり、憲法一四条に違反するのではなかろうか。

〔二〇一八・一一・一〇〕