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カテゴリ:団通信
【 2019年愛知・西浦総会~特集9~ 】
*事務局長就任のご挨拶 平 松 真 二 郎
*事務局次長就任のご挨拶 太 田 吉 則
*第4分散会に参加して新人弁護士が感じたこと 高 橋 良 太
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●教員の変形労働時間制法案では祝日・年末年始の分も所定勤務時間として働かせることが可能になる 渡 辺 輝 人
●ILO訪問記 喜 田 崇 之
●道警〝ヤジ〟排除事件を考える市民集会 市 川 大 輔
●弁護士会に於ける表現の不自由-その後 田 畑 元 久
●非核三原則の実現のために憲法改定はいらない 大 久 保 賢 一
●補充稿「日韓請求権協定で支払われた5億ドルの行方について」 守 川 幸 男
●市民連合と立憲野党の政策合意13項目を生かし広げるための法律家懇談会 鹿 島 裕 輔
【 2019年 愛知・西浦総会~特集9~ 】
事務局長就任のご挨拶 新事務局長 平 松 真 二 郎
このたび、本部事務局長に選任されました東京支部・城北法律事務所の平松真二郎(五九期)と申します。
私が弁護士登録をしたのは二〇〇六年です。第一次安倍政権が発足し、年の瀬に教育基本法の改悪、翌年には改憲手続法の制定など安倍首相の改憲策動が進められていました。二〇〇七年の参議院選挙を受けて安倍政権が退陣したことで、剥き出しの明文改憲の策動はいったん収まったはずでした。民主党政権を経て、二〇一二年末に第二次安倍政権が発足してからは、特定秘密保護法、戦争法制、共謀罪法を強行成立させるなど国民主権、平和主義、基本的人権の尊重を掲げる日本国憲法を破壊し、ファッショ体制を確立し、戦争ができる国づくりを目指す「安倍政治」が急ピッチで進められ、その完成が間近に迫っていると感じています。
そんななか、どこをどう間違えたのか、突然、前執行部から、事務局長を引き受けてくれないかという要請がありました。団では、二〇〇九年二月支部総会から二年間東京支部事務局次長を、二〇一七年二月支部総会から二年間東京支部事務局長を務めてきましたが、本部では、次長を務めたことはなく、各委員会の活動もしたこともありません。
本部次長をやったこともない私は、その実、団本部がどのような日常活動をしているのかよくわかっていません。そんな人間に事務局長が務まるわけがないだろうと思いましたが、逆に、そんな私に声をかけるということは、それなりに団活動の担い手たる執行部の成り手がいないということも推測できました。
今年二月に東京支部事務局長の退任挨拶で「在任中に、果たせなかったことも少なくありません。特に、二〇一八年五月集会で開催された支部代表者会議で、若手団員の減少、若手の退団率の増加、若手の都市部への集中の問題が指摘されました。二〇一八年サマーセミナーの若手アンケートを通じて、若手団員が置かれている状況の悪化、さらに団活動が中高年男性による旧態依然とした効果の薄い魅力のない活動と映っていることが窺われました。若手団員が団活動に結集しきれていないのは、団支部にとっても大きな課題であると思います。」と述べました。この団支部にとっての大きな課題は、そのまま団本部の課題であると思います。
そこで、私ごときでもとりあえず事務局長を引き受けて、東京支部では果たせなかった課題への取り組みとして、団への結集の支障を取り除き、時代に合った団の活動を模索することを通じて、魅力ある活動が展開されるよう、そして活動の担い手を広げていくことにつなげていくことができればと思い、お引き受けすることにしました。
執行部には、団長と幹事長のリーダーシップのもと、優秀な次長が揃っています。しかし、憲法問題、労働問題、治安警察弾圧対策、教育問題、その他団が取り組みを強めなければならない人権課題は増えています。五名体制では手が届かないところも出て来ています。特に若手団員のみなさんに、自分も次長をやってみたいと思われるような取り組みを進めていきたいと思います。
団は二〇二一年に一〇〇周年を迎えます。一〇〇年の伝統を一〇一年目につなげていく。そのために尽力したいと思っています。よろしくお願いいたします。
事務局次長就任のご挨拶 新事務局次長 太 田 吉 則
二〇一九年西浦総会で、新たに事務局次長に就任しました静岡県支部の太田吉則と申します。所属事務所は静岡法律事務所で、修習期は六九期です。出身は東京都練馬区ですが、静岡県弁護士会の先生方の温かさと豊富な日本酒や海産物に惹かれ、また、満員電車に乗る生活から逃れるため、静岡で弁護士になりました。
この度、次長として、改憲阻止対策本部(沖縄・基地問題担当)、教育問題委員会、市民問題委員会を担当させていただくことになりました。
私は、大学や法科大学院在籍当時、少年法適用年齢引き下げの問題や死刑制度の問題などに関心を持っており、将来、これらの問題に関わりたいと考えておりました。しかし、このときの私は、まさか自分が弁護士になって、改憲問題などに取り組むことになろうとは全く考えておりませんでした。
しかし、司法試験に合格し、憲法問題に熱心な修習指導担当の先生や静岡法律事務所の先生方、自由法曹団の先生方と出会い、憲法の重要性を再認識させられるとともに、広く市民の皆様に安倍政権の脅威を知っていただき、諸制度の改悪を阻止する力になりたいと思うようになりました。
静岡県弁護士会では、本年度、憲法委員会と子どもの権利委員会の副委員長を務めております。
静岡県弁護士会憲法委員会としては(委員のほとんどが自由法曹団員です)、昨年度、自民党の宮澤議員、立憲民主党の山尾議員、共産党の山添議員、国民民主党の源馬議員、日本維新の会の杉本議員をお招きし、「議員に聞く憲法改正」と題するシンポジウムを開催したり、今年度、沖縄弁護士会の加藤団員と辺野古県民投票の会代表の元山さんをお招きし、辺野古新基地建設問題に関するシンポジウムを開催するなどしてきました。
また、静岡県弁護士会子どもの権利委員会として、昨年度、少年法適用年齢引下げ問題に関するシンポジウムを開催するなどしてきました。
静岡県弁護士会の会務活動に、それなりに携わってきたと思いますが、知識や活動としてはまだまだ不十分だと実感しております。これからの二年間は、事務局次長として、最先端で活躍されている自由法曹団の皆様を支えつつ、憲法改正問題や辺野古新基地問題、徴用工問題、働き方改革問題、少年法適用年齢引下げ問題など、多くの問題について、より深い知識を身につけていきたいと考えております。そして、団本部で得た知識、経験を静岡県支部に持ち帰り、発信していきたいと考えております。
まだまだ未熟で、至らない点も多いと思いますが、日々精進して、事務局次長としての職責を全うする所存です。これからの二年間、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
第4分散会に参加して新人弁護士が感じたこと 京都支部 高 橋 良 太
私は、七一期の新人弁護士であり、今回初めて自由法曹団の総会に参加をしました。今回の総会において私は第四分散会に参加し、各支部の団員から積極的な熱意ある多数の発言があり、全国各地での団員の取り組みがわかり、新人の私ととしては大変刺激を受けました。
私個人として特に感じたことは、自由法曹団が現代の若者に対して十分な対応をすることができているかということです。すなわち、その問題は、対内的な関係においては新人獲得ないしマンパワー不足の問題、対外的な関係においては若者に対する自由法曹団からのメッセージを十分に発信することができているのかという問題として顕出されることになりますが、第四分散会においては、一定数これに関する発言がみられ、有意義な分散会になったように感じます。
例えば、第四分散会においては、三〇〇〇万人署名の運動について大きく議論が盛り上がりました。その議論の中で、署名運動に取り組む側のマンパワーが不足あるいは高齢化しているという問題、署名数を増やすためにどのような人に対して働きかけをしたらよいかという問題についても発言がなされましたが、これらの発言はまさに上に述べた自由法曹団が現代の若者とどのように向き合っていくのかという問題と大きく関わっていると感じるのです。
現在は完全な情報化社会であり、人々がありあまるほどの情報に触れる社会でありますが、情報が多すぎるが故にすべての情報に関心をもつことが困難になっています。そこで、情報化社会に生きる人々は、情報を取捨選択して自分が欲しいあるいは自分に必要な情報を取得することになり、すなわち、そこにおいては捨てられる情報が必然的に存在することになります。その中で、自由法曹団が、特に物心ついたときには情報化社会に生きていた若者に対して、どのように「取」得されるメッセージを発信をしていくのか、「捨」てられてしまわないようなメッセージを発信していくのかは極めて重大であると感じております。魅力ある情報が氾濫している最中で、魅力あるメッセージの発信にならなければメッセージ自体が見向きすらされず、新人獲得も難しくなります。そのような意味で、自由法曹団が「若者」との関係でどのような取り組みをしていくのかについて私は注目しております。
第四分散会における三〇〇〇万人署名についての発言の中には、学校の前で未成年に対し、署名活動を丁寧に行っていくことで、署名をしてもらうことができたとの事例報告がありましたが、このような団員の創意工夫のある取り組みが現代社会において求められていると強く感じました。
他方で、私個人は、新人獲得ないしマンパワー不足の問題、若者に対する自由法曹団からのメッセージを十分に発信することができているのかという問題は、自由法曹団が将来においても運動団体として充実した運動を展開できるかどうかという点において、致命的な問題であり、今すぐに対応をしなければ手遅れになる緊急性を孕んだ問題であるとの危惧感を抱いており、「二〇一九年愛知・西浦総会の分散会 討論の主な柱立て」という紙面において討論のトピックの一つにも掲げられていないことについては、自由法曹団がいわゆる将来問題についてどれだけ緊急性をもった致命的な問題であるのかについてあまり危惧感が抱かれていないようにも感じて、新人としても不安を感じるところでありました。
教員の変形労働時間制法案では祝日・年末年始の分も所定勤務時間として働かせることが可能になる
京都支部 渡 辺 輝 人
(以下はYahoo!ニュース用に書いた記事を最低限の範囲で改稿したものです)
今国会に教員(地方公務員の学校の先生)へ「変形労働時間制」を導入する法案が提出されています。しかし、この法案が可決されると、現在、年間一八五〇時間~一九〇〇時間程度の年間の勤務時間数(月一五四~一五八時間程度)を年間二〇一五時間前後(月一六八」時間程度)まで増やすことが可能になり、年間でひと月分も勤務時間が増えてしまう可能性があります。
前提となる概念:「週休日」と「休日」の違い
まず、地方公務員にも労働基準法三二条が適用され、使用者は、週四〇時間、一日八時間の範囲でしか働かせることができません(適法な残業は別)。
地方公務員の場合、勤務条件は条例で定められており、どの自治体も大同小異の勤務時間が定められていますが、例えば東京都の「職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例」で説明すると、週三八時間四五分の勤務時間(条例二条一項)を、一日七時間四五分として月曜日から金曜日に割り振ります(条例三条一項)。その上で、土曜日と日曜日を本質的に労働義務のない「週休日」(定義は「正規の勤務時間を割り振らない日」)とします(条例四条一項)。
一方、祝日と年末年始の休み(以下「祝日等」とします)は「休日」として条例一一条で別に定められており、「特に勤務することを命ぜられる場合を除き、正規の勤務時間においても勤務することを要しない日」と定義されます。
法的には、祝日等は、一日七時間四五分の勤務時間が割り振られた上で、休みにするために職務免除(地方公務員法三五条)を受ける、という技巧的な説明をしている訳です(『地方公務員の〈新〉勤務時間・休日・休暇 第二次改訂版』(学陽書房二〇一七年)一五九頁、二九六頁参照)。その限りでは、労働義務が設定された日を事後的に休みにできる民間労働者の年次有給休暇に似ているとも言えます。
職員は、祝日等に特に勤務を命じられた場合には、正規の勤務時間ではあるものの、「休日給」が支払われます(職員の給与に関する条例一六条)。
教員の現在の年間勤務時間数
二〇一九年度を例に取ると、下表のように、教員を含む地方公務員の勤務時間の原則型では、年間の総勤務時間数が一八五二時間一五分となります。これは祝日等を休みの日と考えた場合の実際の勤務時間の値です。この値は、祝日の曜日の出方により毎年変化するのですが、概ね一八五〇~一九〇〇時間の中で収まります。ひと月平均は一五四~一五八時間程度ということになります。
表1
変形労働時間制:八時間原則を排し労働時間を「寄せる」
変形労働時間制(以下「変形制」)は、「労働時間法制の弾力化」の制度などと言われますが、要は労働時間の枠をあっちからこっちに寄せてきてやりくりする制度です。法的には、前記の「一日八時間、週四〇時間」(労基法三二条)の原則のうち、一日八時間の原則を排し、週四〇時間ではなく、変形期間(制度により一ヶ月とか一年とか)を平均して週四〇時間以内であれば良く(労基法三二条の二、三二条の四)、例えば、ある週を三二時間(月~金で一日五・四時間)にして八時間を翌週に寄せて四八時間(月~土で一日八時間)などとすることができるのです。今国会に提出されている制度は一年単位の変形制なので、年単位で労働時間を寄せて来ることができます。そして、民間でも、公務員でも、変形制を採用する職場では、週休日も変則的(変形休日制)になることが多く、東京都の場合も変形制を適用する「特別の勤務形態」の職員については、任命権者が週休日を別途定められる旨を規定しています(条例四条二項)。
変形制と技巧的な祝日等の仕組みの合体
ネット上の情報公開が進んでいる関係で、ひと月単位の変形制が採用されている京都市消防局の消防士の例を取り上げると、基本的には二四時間勤務(うち休憩八時間三〇分)のあとに勤務明け非番日、週休日、という三日単位の形で回っていくため、年間の週休日の数は多いですが、正規の勤務時間は年間二〇一五時間前後となります。例えば、京都市消防職員の勤務時間、休日、休暇等に関する規程と、三部制勤務表を元に、二〇一九年度における「一部」(グループ一という意味)の所定勤務時間を計算すると、下表の通り年間二〇一五時間となります。東京消防庁は規程やシフト表を公開していないので正確な計算ができないのですが、電話で問い合わせたところ、余り変わらないようです。
表2
変形制と技巧的な祝日等の仕組みが合わさることで、法技術的には年間の正規の勤務時間数が、通常の事務職の公務員と比べて、年間一六二時間四五分(二〇一九年度の場合)も多いのです。もちろん、祝日等に出勤シフトが当たった消防士には休日出勤手当が支払われたり、祝日に相当する休日を分散して取る努力はするなど、代償措置が取られるようですが、実際には代休の方は人手不足で取得がなかなか難しいようです。
教員の場合代償措置すらない
教員の場合、給特法という法律があり、休日勤務手当は支払われません(給特法三条二項)。
また、使用者が変形労働時間制を悪用し、祝日等を(変形)週休日にした場合、その日は休日ではなくなり(条例一二条一項本文)、一方で、その祝日等の勤務時間を月~金の通常の勤務日に寄せてくることが合法的に可能になります。
結局、教員の場合、変形制を導入すると、最低限の代償措置すらないまま、年間二〇一五時間程度の所定勤務時間とし、従前に比べて年間で一六二時間四五分(二〇一九年度の場合)もの勤務時間を増やすことが可能になるのです。なお、この二〇一五時間という値は、地方公務員の週三八時間四五分の勤務時間を前提に、一年単位の変形制の総勤務時間の枠の計算式(=38.75➗7×366(うるう年のため)。『地方公務員の〈新〉勤務時間・休日・休暇 第二次改訂版』(学陽書房二〇一七年)一三四頁、一三五頁以下参照)を適用した場合の二〇二六時間余とほぼ同じになります。
言うまでもないですが、これはあくまで所定勤務時間を「寄せる」やりくりの話なので、この一六二時間余の勤務時間が増えるからといって、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」での時間外勤務のカウントはゼロです。
教員の変形制は「最低最悪の魔合体」
残業代もなしに祝日等の分を働かせることができるとは、使用者にとっては何と魅力的な制度でしょうか。結局、公務員+教員+変形制の組み合わせは、最低最悪の魔合体と言えるでしょう。
この点、民間で変形労働時間制が導入されている職場は、強固な労働組合があって、相当綿密な労使の交渉をしない限りは、正規(所定)の労働時間を寄せて伸ばす方ばかりに関心が行き、寄せられた元の方には無関心なので、慢性的な長時間労働(と不払い残業)に陥っている例が多いです。この点について付言すると、筆者が知る限り、変形制が争われて有効となった裁判例は一つも無く、違法な運用実態が蔓延しています。
すでに広く知られるようになっていますが、教員は現在でも、過労死水準の長時間労働が蔓延しています。例えば、近年、小学校で英語教育まですることとされており、それにより教員の仕事(=勤務時間)が増える訳ですが、だからといって、英語の教員は必ずしも配置されないのです。このような教員の労働現場に、(法案では労使協定が不要とされる)変形制を、しかも寄せられる範囲の大きい一年単位のものを導入するのは、極めて危険なことであり、過労死を今以上に誘発する「教員エンドレス勤務」法となるでしょう。絶対に止めるべきだと思います。
なお、民間の場合、祝日を実際には休日にして事業所を開けていない(管理者が出勤しない)のに、労働者にはその日に年次有給休暇を取らせる制度は違法となります(昭和二六年八月六日基収二八五九号(労働基準法解釈総覧改訂一五版四一〇頁)。東京大学労働法研究会著『注釈労働時間法』(一九九〇年有斐閣)三九七頁参照)。地方公務員の場合、条例で正面から定めてしまっているので、難しい問題がありますが、労基法の考え方と各地の条例が矛盾を来していることは指摘できます。
ILO訪問記 大阪支部 喜 田 崇 之
一 はじめに
一〇月二七日~二八日、年金引下違憲訴訟弁護団を代表して私が、全日本年金者組合の有志らと共に、スイス・ジュネーブにあるILO事務所を訪問しました。今回の訪問の目的は、大きく二つです。
①日本の年金制度の様々な問題点を伝えること、②日本の年金水準がILO一〇二号条約の求める水準に到達していないことを伝えること、です。
我々は、法的基準専門官のエマニュエル氏とマルコブ氏と面談し、その後、アクトラブ(労働者活動局)で従事する二名の方と面談することができました。私が面談で伝えてきた内容や、面談時の様子をご報告致します。
二 年金制度の諸問題
日本の年金制度には様々な問題があります。年金を自動的に削減し続けるマクロ経済スライドがすでに導入され、その他にも物価スライド制度の例外を設けて年金削減をさらに進める法改正が相次ぎ、いわゆる老後二〇〇〇万円足りない趣旨の報告書が無視されました。
また、二〇一九年八月には、年金財政の将来見通しを検証する財政検証が発表されました。そこでは、六つのケースの将来見通しを想定しましたが、いずれのケースでも、老齢基礎年金が削減され続け、約二五年後~三〇年後には、約三〇%もの削減がなされる見込みであることが明確に示されました。財政検証の試算は様々な問題があるのですが、その一つが、六つのケースのいずれも、実質賃金が毎年上昇し続けることを前提としていることです(最も悲観的な想定ですら、毎年〇・四%ずつ実質賃金が上昇し続けることを前提としています。)。しかしながら、ここ数年で実質賃金は下がっており、あまりにも現実離れした試算だと専門家から指摘されているところです。
三 ILO一〇二号条約違反
ILO一〇二号条約は、ごく単純に言えば、日本でいう厚生年金については、三〇年間保険料を納付した場合には、従前所得の四〇%以上を保障しなければならないことを求めています。
日本は、五年に一度、ILOに報告文書を提出しています。日本は、六〇歳まで勤務した夫と専業主婦を標準モデル世帯とし、モデル世帯が三〇年間の加入で得られる年金額は月額一六万五〇〇〇円である(二〇一二年報告)と算出し、他方で、平均賃金が月額三一万五〇〇〇円なので、所得代替率は五二・四%であるとしています。
しかし、報告書が前提としている平均賃金は、平均標準所得というものから算出されているもので、ここには賞与が含まれていません。賞与を含んだ賃金の統計は、毎月勤労統計、賃金センサス等がありますが、これらを利用すると全く違う割合が算出されます。例えば、製造業(従業員数五人以上)の平均賃金は月額四二万円です(毎月勤労統計)。
そうすると、一六万五〇〇〇円÷四二万円は、四〇%を若干下回ります。そして、上述したマクロ経済スライドが適用され続けることにより、この数字は、どんどん低下することになります。老齢基礎年金が三〇%削減されることになれれば、年金の所得割合は三〇%を下回ることになります。
四 面談の様子
ILOは、今年創設一〇〇周年を迎え、私たちが訪問したときは、総会開催の真っ只中のとても忙しいときでした。そのような中、エマニュエル氏とマルコブ氏が応対してくれ、私の上記の説明に真摯に耳を傾けてくれました。また、裁判闘争や様々な運動面で尽力していることに大変感銘を受けておられました。また、今後にむけて、条約勧告適応専門家委員会への申立ての方法や、申立てまでに行うべきこと、準備すべきこと等など、具体的なアドバイスももらいました。
その後、アクトラブ(労働者活動局)との面談では、同趣旨の説明を行い、アクトラブの日常的な活動内容、我々の活動内容の意見交換などを行い、今後も連携して、協力体制を構築することを確認することができました。
五 最後に
私にとっては初めてのILO訪問で、貴重な機会となりました。日本の年金水準がILO条約違反であることを正式に申立てをするには、まだまだ越えなければならないハードルがありますが、ひとつずつクリアしていき、ILOを動かしたいとひそかに燃えています。
道警〝ヤジ〟排除事件を考える市民集会 北海道支部 市 川 大 輔
一 事のあらまし
二〇一九年七月二一日投開票の参院選で安倍晋三首相が札幌入りした一五日、JR札幌駅前など中心部で街頭演説が行われた。その際、聴衆の一部が安倍首相を批判する発言をしたところ、北海道警察により強制排除や行動制限をされたという出来事があった。
この出来事は「表現の自由」に対する深刻な危機ではないか。このような危機感から、齋藤耕団員を中心に実行委員会が結成され、同年一〇月二二日「道警〝ヤジ〟排除事件を考える市民集会」を開催することとなった。
二 集会の概要
まず、実際の排除の様子を撮影した動画が上映された。その後、強制排除等警察による妨害を受けた市民の方が登壇し、当日の体験談を語ってくれた。次に当事者の方の一人である大杉雅栄氏、当事者の知人である守田恵美子氏、元新聞記者の黒田伸氏、元北海道警察幹部の原田宏二氏及び神保大地団員によるパネルディスカッションが行われた。そして、最後に北海道警察等に事実関係を明らかにすることや謝罪を要求するといった内容の集会決議が採択された。なお、当該集会決議は、集会終了後、齋藤耕団員らによって北海道警察へ提出された。
三 動画上映
動画では、「安倍やめろ。」などと叫んだ男性や「増税反対。」などと叫んだ女性及び年金問題のプラカードを掲げようとした女性が複数の警察官に取り囲まれて後方へ移動させられている様子、女性に対し「飲み物買ってあげるよ。」「ウーロン茶がいい?」などと執拗に話しかけ安倍首相に近づかないようにする警察官の様子等が映された。
動画を見る限り、市民の皆さんが安倍首相に危害を加える様子はなく、当人たちの強制排除には何ら法的根拠がないといえるのではないだろうか。これらは「表現の自由」に対する侵害であり、この出来事を放置しておくことはできないと感じた。
四 体験談
上記動画で警察官による排除や行動制限をされていた市民の方五名に登壇していただき、当時の体験団を語ってもらった。動画には映っていないが「ABE OUT」のプラカードを持って座っていただけの方がその場から移動させられたという体験談も紹介された(テレビ等で報道されていない新札幌の出来事。)。登壇者の一人が「国会でまともな答弁をしない議員(ママ)がいるのだから、路上でそのことを指摘することくらい許してくれよ。」と切実に訴えていたことが印象的であった。
五 パネルディスカッション
まず、神保団員により、北海道警察による強制排除は警察官職務執行法を逸脱した違法行為の可能性がある旨の解説がなされた。その後、元北海道警察幹部の方により、「現場の警察官が安倍首相批判者に対して即座に行動できたのは、各警察官の判断ではなく、あらかじめ警備方針として決まっていたからだろう。」との意見を述べ、情報公開請求によって入手した、排除事件後に、北海道警察が警察庁へ提出した警備に関する報告文書(予想通り、内容は黒塗り。)などを示した。さらに、元新聞記者の方により、今回の強制排除等について新聞報道が遅れたという事情があり、「マスコミは権力監視という役割をもう少し考えるべき。」との懸念が示された。当事者の方の一人は、「ヤジやプラカードは弱者のできる唯一の意思表示であり、排除されるのはおかしい。」といった内容の考えを述べた。
六 最後に
私は、司会者として上記集会に参加させていただいた。集会当日は、定員一四〇人の会場が開始一〇分以上前にいっぱいとなり、立ち見の方も多くみられた(二〇〇名を大きく超える弁護士・市民が来場し、危険があるためお引き取りいただいた方も少なくなかった。)。このことから、事件から三か月以上経過したものの未だ多くの人が強制排除について関心を持ってくれていることがわかった。現在、北海道警察は、マスコミに対しても、また北海道議会での追及に対しても、いずれも「事実関係を確認中」としており、違法行為を隠蔽しているのではないかと批判が強まっている。今後、国会でも関連した質問がなされるとの情報も得ており、動向に注目していきたい。
弁護士会に於ける表現の不自由-その後 山口県支部 田 畑 元 久
過日、人権大会、中部弁連大会に於けるビラ配布制限事件を報告したが、後日談を紹介すると共に、新たな制限事件が起きたので、本意ではないが、追い打ちする。
紹介が遅れたが、「ともに日弁連を変えよう!市民のための司法を作る会」(略称「変えよう!会」、代表;及川智志)は、法曹人口激増を軸とする「司法改革」路線の誤りを正し、人権擁護の基盤を守り回復させるために、派閥・人脈でがんじがらめで旧来の路線の誤りを認め変えることのできない今の日弁連を変えなければならないと考える有志が集った会で、日弁連がアベ改憲反対を明確に表明すべきとも訴える。
昨年の準備会の段階からビラ配布などで変革を訴えてきたが、それを快く思わない、あるいは、脅威に感じる守旧派の方々による妨害が相次いでいる。
先の徳島での日弁連人権擁護大会第三分科会会場での妨害について、大会議長から「この場では事実関係を確認できないが、その事実があったとすれば」として、妨害を遺憾とし再発防止に努める旨の原則的な回答を得、その場に多く居た単位会・弁連・日弁連の理事者は襟を正したものと期待していた。
しかし、当会会員が事実関係を確認したのかと大会議長に質問書を出しても返答がないと言うので、僕は、中国地方弁護士大会での日弁連会務報告の枠で、日弁連に事実関係の確認結果を問うと共に、来賓で参加の中部弁連理事者に二年連続の弁連大会でのビラ配布禁止をどう総括しているのか質した。
日弁連からは菰田事務総長が答弁に立ち、「ホテルに問い合わせたところビラ配布はやめてくれと言われたから制止したようだ。」の旨を言い、続けて、「ホテルの従業員が一般の客に迷惑のかからない所ならいいと言ったとしても、それは従業員がホテルの方針を間違っていただけ。」の旨を答えた(質問で「ホテルの従業員が…と言った」と紹介してないのに先走って言及し、菰田氏が団通信一六八四号を読んでいるのが判った)。応対した従業員がいいと言っているのに弁護士会が「ホテルの方針」を代弁し禁圧を「代執行」するとは何事か。どうやら日弁連は襟を正すのでなく追認する方向に舵を切るようだ。
続いて中部弁連理事長も「ホテルに問い合わせたところビラ配布はやめてくれと言われたから禁止した。」旨答えた。
人権大会では次回開催会が幟も立てて宣伝し「ジャフバ」の着ぐるみも現れ、中部弁連大会では物品販売の店を出すのに、なぜ当会のビラ配布のみ弁護士会からホテルに伺いを立てに行くのか自体が判らないが、万が一、ホテルがビラ配布禁止を言ったとして、「ああ、そうですか。判りました。」でなく、「議場前の廊下部分とかなら構わないだろ」等と表現行為を保障する方向で動くべきなのに、これで言い訳になっていると思うところが情けない。これが罷り通るならホテルに「そういうことにしておいてくれ」と言い含める手が横行する。
この光景を見た来賓の皆様は自分の所では同じことをやってはいけないと判ったに違いないと思ったが、その上を行く弁連・会が現れた。四国弁連・愛媛会である。
四国弁連大会では及川さんは傍聴も断られ嫌な感じがしたが、直前に、ビラ配布は駄目だが会場内にビラを置いて自由にとれるようにする扱いとなった。まぁ、中部弁連・徳島会よりましかと思ったが甘かった。会場にビラを届けた及川さんに愛媛会実行委員会が告げたビラ配布禁止の理由が、「会場にいらっしゃる弁護士の迷惑になるので、表現の自由を規制しても、弁護士への迷惑を防止すべきと判断したから。」というのである。この人たちは本当に司法試験に受かったのか。さらに「余ったビラは廃棄する」と告げ、当会への憎悪を顕わにする。仮にアベ改憲が勝利したら真っ先に戦闘機を軍に贈る弁連・会になるだろう。
強制加入団体で「ダラ幹」が牛耳っても不思議はない日弁連・弁連などの醜態を団通信で縷々、あげつらってきたのには理由がある。我々にも責任があるのでないかということだ。
約二一〇〇人の団員を擁し、約三〇年、団の主流は日弁連執行部を与党として支えてきた。大連立ゆえ悩ましいこともあるだろう。しかし、与党であり続けることを至上命題とし、言うべきことを言わなければ、どこかの党のようになってしまう。内部にいる同志は何をしているのだろう。中には世俗的出世の虜になっていないか疑わしい「同志」もいるように思う。
ビラ配布ひとつでここまで事が膨らむとは思っていなかったが、想像以上に日弁連・弁連などの腐敗が底深いことを「知ってしまった者の責任」として、我々が日弁連・弁連などを甘やかし過ぎたことへの反省を同志に呼びかける。
非核三原則の実現のために憲法改定はいらない 埼玉支部 大 久 保 賢 一
はじめに
先日亡くなった加藤典洋さんが、「今後、われわれ日本国民は、どのような様態のものであっても、核兵器を作らず、持たず、持ち込ませず、使用しない。」との条項を憲法九条に書き込もうという提案をしている(『戦後入門』・ちくま新書・二〇一五年一〇月)。加藤氏の九条改憲提案は、これだけではなく、第一項はそのままにして、第二項で日本が保持する陸海空その他の戦力(自衛隊)は、一部を国連待機軍として国連の指揮下に置き、交戦権は国連に譲渡する。第三項でその余の軍隊組織は国土防衛隊に編成して、国境に悪意を持って侵入するものを防衛する。治安出動は禁じられ、内外の災害救助にあたるとされている。第四項は、先の核兵器条項で、第五項は外国の軍事基地、軍隊、施設は国内のいかなる場所にも許可しない、というものである。この改憲案の特徴は、自衛隊を解体し、一部を国連に指揮下に置き、一部は治安行動をとらない国土防衛隊することと合わせて、核兵器に依存しないことと米軍の撤退を提案していることである。加藤さんのこの著書は、この結論を導き出すために書かれているのである。私は、改憲という手法は不要だと考えているけれど、第四項と第五項の提案には大賛成である。第二項と第三項については反対だけれど、自衛隊の解体が現実的日程に上がった時に、そのような方法もありうることまでは否定しない。それはともかくとして、ここでは、加藤氏の「核の廃絶と非核条項」の提案について考えてみたい。なぜなら、加藤氏が、私の言説をこの本の中で紹介してくれているからである。
加藤氏の大久保説の引用
加藤氏は、反核市民団体が核廃絶のためのロードマップをどのように考えているかという文脈の中で、「ある法律家団体の活動家」の言説として私の見解を次のように紹介している。「反核運動がこれまで米国など核大国の核使用の可能性に対し、ベルリンの壁崩壊以降だけでいっても、九一年の湾岸戦争、九四年の朝鮮半島危機、九八年のイラク危機と三度まで抑止力として働いてきた事実を踏まえながら、その先に核兵器の使用禁止、廃絶にむけた国際法の確立を目標のひとつに掲げて掛けています。同時にNPT内部の新アジェンダ連合、非同盟諸国、平和市長会、非核運動のNGOなど各種団体との共同行動によって核廃絶をめざすというのが彼らの考える工程表の大枠です。違法化により核兵器廃絶に持ち込もうという考えです」(同書四六五~四六六頁)。加藤氏は、私の「核兵器の違法性確立のために」という言説(日本反核法律家協会のHP所収)に着目してくれたようである。私は、加藤氏の目配りに感謝している。
二〇〇六年からの動き
加藤氏が引用したのは、私の二〇〇六年のバンクーバーでの世界平和フォーラムにおける発言である。その後、核兵器廃絶をめぐる国際社会の動きに大きな変化があることを忘れてはならない。加藤氏の本は二〇一五年一〇月の発行だから、二〇一七年七月七日の「核兵器禁止条約」の採択について触れられていないのは当然である。けれども、この条約も一朝一夕に採択されたわけではなく、一定の準備期間が必要であったことはもちろんである。核兵器使用の違法性という観点で振り返れば、一九六三年、東京地方裁判所は、米軍の原爆投下は国際法上違法であるとの判決を出している。一九九六年、国際司法裁判所は核兵器の使用や威嚇は、一般的に国際法に違反すると勧告している。一九九七年と二〇〇七年、国連では、核兵器の開発、実験、保有、移転、使用、威嚇などを全面的に禁止する「モデル核兵器条約」が討議文書とされている。二〇一〇年のNPT再検討会議は、核兵器使用の「壊滅的人道上の結末」(非人道性)への関心と国際人道法を含む国際法の順守を呼び掛けている。二〇一三年には、核兵器の「壊滅的人道上の結末」に関する国際会議が開催されている。これらが、「核兵器禁止条約」への源流となっているのである。
加藤氏は、二〇〇九年のオバマ大統領のプラハ演説や、二〇一三年の原爆式典で、田上富久長崎市長が、日本政府が「核兵器の非人道性を訴える共同声明」に賛同しなかったことを批判していることには触れているけれど、ここに列挙したような経緯については叙述していない。私は、加藤氏が私の二〇〇六年のスピーチに触れてくれているのであれば、その後の私の論考もトレースして欲しかったと思う。とりわけ、日本反核法律家協会が作成している二〇一三年二月のオスロ会議への提言集(協会のHP所収)などを参照してもらえれば、国際社会の核兵器廃絶の動きについてもう少し踏み込んだ叙述が可能だったのではないだろうかと惜しまれてならない。
加藤氏の提言の積極性
それはともかくとして、加藤氏が、核兵器を作らない、持たない、持ち込ませない、の非核三原則に加え、核兵器を使用しないことを憲法に書き込もうとする姿勢には大いに共感している。それは、加藤氏が、憲法九条の平和理念の淵源の一つとして、一九四五年の八月の原爆投下を上げ、更には一九一七年一一月のロシア革命直後の「平和に関する布告」、一九一八年の「一四カ条の平和原則」に触れていることなどからして、加藤氏の平和への熱い想いを共有できるからである。けれども、私は、そのために憲法改定という手続きは不要だと考える。それは、非核三原則を「政治宣言」にとどめず、「非核法」とすれば法的には十分だと考えるからである。かつて、伊藤真弁護士が、「大久保さんは、日本の核武装を禁止するために憲法改定は必要だと考えますか」と問うてきたことがあった。私は即座にそれは不要だと答えたけれど、もしかすると伊藤さんの質問の背景には、この加藤氏の言説があったのかもしれない。私は、加藤氏の熱い想いは共有するけれど、改憲の必要性は認めない。合わせて指摘しておくと、米軍基地撤去のためには、日米安保条約一〇条に基づき、条約の廃棄を通告すれば足りる。これもまた改憲手続きは不要である。核兵器や米軍との決別に改憲が必要だという言説は、むしろ、人々を迷路に導き入れることにもなりかねないであろう。私は、そのことに留意しながら、この著作に触れたいと思う。(二〇一九年六月一〇日記)
補充稿「日韓請求権協定で支払われた五億ドルの行方について」 千葉支部 守 川 幸 男
一 前回未解明だった点
団通信一六八五号(二〇一九年一一月一日号)の「日韓問題は憲法問題 ― 安倍改憲戦略の一環の問題と位置づける」の中で、日韓請求権協定で支払われたとされる五億ドル(無償三億ドル、有償=借款二億ドル)のうち「三億ドルの行方などについて、私にはまだよくわからない点があるので教えてほしい。」と書いた(九ページ)。 もっとも、これが経済協力優先の妥協の産物であることは理解していた。
また、ウィキペディアのいくつかの解説の中には、「同国内では、国民が受け取るべき補償を、韓国政府が一括で受け取り費やしたとの批判もある。」とされている。これは正確ではなかった。大法院判決をざっと読んでもよくわからなかった。
二 正しい経過と五億ドルの趣旨
直後にこの点が判明したので補充させていただきたい。
「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」の発行している「韓国『徴用工』問題」と題するリーフレットに次の各解説がある。実は、今回の愛知・西浦総会のプレシンポで配布されており、この問題に関わった団員やプレシンポ参加者には知られているが、おそらく多くの人々にはまだよく知られていないと思われる。
「Q4.韓国に払った5億ドルで賠償は済んだのに、また払えと言うのでしょうか?A.いいえ賠償は終わっていません。日本政府は、植民地支配を「合法」と主張し、韓国への賠償は拒否していました。日本が韓国に渡した五億ドル(無償三億ドル、有償二億ドル)は「経済協力」で、「賠償」ではありません。しかも一〇年間に渡って、「日本国の生産物の日本人の役務」が提供されたのであり、現金は支払われていません。使い道も「大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない」という縛りがあり、強制動員の被害者への賠償に当てることはできませんでした。他方、韓国への五億ドル援助は、日本の企業が再び韓国に進出していく契機となり、日本にとっても利益になったのです。」としている。
また、「Q5.それでも韓国政府に責任があるのでは?A.韓国政府が日韓会談の中で、補償に関わる資金の一括支払いを要求し、(各個人への)支払いはわが政府の手ですると言ったことは事実です。しかし、結局、日本政府は韓国に現金は支払いませんでした。それでも、韓国政府は、一九七四年には対日民間請求権補償法、二〇〇七年(引用者注、盧武鉉政権時代)には太平洋戦争前後国外強制動員犠牲者等支援法を制定し、強制動員被害者に一定の補償を実施しました。しかしそれは、強制動員という不法行為への賠償ではありません。強制動員を行った日本政府と日本の企業の不法行為の責任は今も果たされていないのです。」と解説している。
この問題で、名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟弁護団事務局長の岩月浩二弁護士は、プレシンポの配付資料の中で、「被害者への賠償金を韓国政府が使ってしまったとするのは間違い」と指摘している。
三 日本政府は重々承知のはず
私もお盆以来、この問題の情報収集を始めて、この点がようやくわかったが、要するに、金額も多数の被害者の未払い賃金や蒙った損害に比して全く不十分であるうえ、そもそも五億ドルは、賠償金としてはもとより未払い賃金や賠償金にも充当される趣旨のものではなかった、被害者に支払うべき性質のものではなかったということである。我々素人とは異なって、日本の政府はこんなことは重々承知なのではないだろうか。
いずれにせよ、徴用工などの被害救済は未解決であり、政治的駆け引きを優先させてはいけない。
市民連合と立憲野党の政策合意一三項目を生かし広げるための法律家懇談会
事務局次長 鹿 島 裕 輔
本年一一月一日、改憲問題対策法律家六団体連絡会の呼びかけにより、市民連合と立憲野党の政策合意一三項目に賛同し、立憲野党を支持する法律家による懇談会が日本民主法律家協会の会議室にて行われました。
主な参加者は以下のとおりです(以下、敬称略・順不同)。
中野晃一(上智大学教授)、海渡雄一(共謀罪対策弁護団共同代表)、稲正樹(元国際基督教大学教養学部教授)、海部幸造(原発と人権ネットワーク事務局長)、宮里邦雄(日本労働弁護団)、浦野広明(立正大学客員教授・税理士)、村山裕(日弁連子どもの権利委員会)、右崎正博(日本民主法律家協会理事長)、田島泰彦(元上智大学文学部新聞学科教授)、大江京子(改憲問題対策法律家六団体連絡会事務局長)。その他、改憲問題対策法律家六団体連絡会より弁護士、学者が参加しました。
一 懇談会開催の趣旨
本年五月二九日、安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合と立憲野党四党一会派が、参議院選挙における一三項目におよぶ共通政策について合意しました。
この政策合意は、安倍政権が進める改憲を阻止し、安倍政権の下で切り崩された立憲主義・民主主義・平和主義の回復を図り、原発ゼロと核のない東アジアの建設を目指し、軍拡や沖縄新基地建設に反対し、差別や貧困を解消して働く者の権利を守り、消費税増税に反対して国民の生活支援の諸政策を拡充するなど、だれもが自分らしく暮らせる政治へと大きく転換を図るものであって、まさに安倍政治に代わる日本社会を展望する政策内容です。
改憲問題対策法律家六団体連絡会は、本年七月の参議院議員選挙に向けて共通政策に掲げられた一三項目の分野の第一線で活動する法律家に呼びかけて、それぞれの立場から、この政策合意に賛同し、安倍政治からの転換を目指す立憲野党会派を支持する記者会見を、本年七月一日に行いました。多数の法律家が参集して行われたこの会見の内容は複数のメディアで取り上げられました。
参議院議員選挙では、この政策合意に賛同する多くの候補者が勝利を収め、市民と野党が共通政策のもとで共闘することで、安倍政治の暴走に待ったをかけ、政治そのものを変えることができることが示されたと言えます。
しかし、この政策合意一三項目は、まだまだ国民に浸透しているとは言えず、一三項目の内容についても、さらに具体化・充実化を図っていくべき必要があることから、改めて先の記者会見に出席した法律家に呼びかけ、懇談会を行うこととしました。
二 懇談会の内容
(1)中野晃一先生のお話
まず、市民連合の呼びかけ人である中野晃一先生より市民連合の役割と課題についてお話いただきました。
中野先生のお話の要旨は次の通りです。市民連合は二つの役割を果たしてきた。一つは国会前に集まった市民の声を政党政治につなげるという役割、もう一つは野党と野党をつなげるという役割である。このような市民連合の役割が重要であることは、今回の参議院選挙において全国三二の一人区において、立憲野党が候補者を一本化したことにより、一〇選挙区で勝利を収めることができたことからも明らかです。
しかし、このような重大な役割、特に市民社会の声を政党政治へつなげるという役割を市民連合だけが担うことはできず、各種の専門家や市民社会で運動を繰り広げている方など法律や政策の分野で専門的な蓄積、取り組みをなされた方々と協力していく関係を再構築する必要がある。市民連合の中でも再構築に向けた議論がされている。
政策合意一三項目は、「最大公約数」をまとめているので、物足りないという点は残されている。それでも一三項目の政策合意は、単に言いたいことを言い切っているのではなく、野党と話し合ったうえで要望を出しているのが特徴であり、各党と話し合って表現を詰め、改憲問題や沖縄問題、原発などについても折り合えるという了解をもらっているので、少なくとも各党の執行部のレベルに一定の縛りをもたらすことができている点では成果になる。
さらに、今後の衆議院議員選挙に向けて政権構想という点では、立憲野党が大きく全体として票も議席も伸ばすというかたちを作りつつ、各党の要求とこちらの要求をどのように合わせていくのかはデリケートな課題でもある。
最後に、市民連合としては山口二郎先生(法政大学教授)を中心にして、これまで一緒にやってきた学者の方たちに声をかけて政策の議論を始めていこうという議論はしており、そういった枠組みでも、懇談会に集まった先生方にも意見を伺ったり、中に入っていただいたりということを呼びかけていくことになるでしょう。
(2)意見交換
中野先生のお話を踏まえて、参加者間で意見交換が行われました。
今回の参議院議員選挙でも見られた投票率の低さという点では、投票する政党がない、投票すれば政治を変えることができるという魅力的な政策を示すことができていない中で、この一三項目の政策合意が具体化されると国民一人一人にとってどのような国になるのかをわかりやすく中身を示す必要があるとの意見が出されました。
また、全国各地での運動については、地域ごとに実情が様々であるとの意見が出されました。それは政党の動きという点もあれば、地元の弁護士や弁護士会の動きという点、地元の大学の先生の動きという点や、ママの会のような地域の女性による動きもあります。さらに、どこにも共通する課題ではありますが、若い人がいないことが指摘され、若い人たちへ伝えていくことが課題との意見もありました。
また、政党に影響力があるのは、やはり労働組合であるが、労働組合は自分たちの組織の中で動いているため、市民に訴えていくところがまだ足りないという課題があるとの意見もありました。
市民連合が市民と政党とのつなぎという重要な役割を果たしてきた中で、次の総選挙を目指し、新たな政治の流れを作り出すのであれば、市民連合のような動きをより広めていかなければならず、さらに政策についてもより深めていかなければならないため、主体の広がりや一三項目をより豊かにすることについて議論すべきという意見もありました。
ほかにも表現の自由や教育、原発、公文書管理、税制の問題などについても参加者から意見が述べられました。
三 最後に
このような状況の中で、私たち法律家に求められる役割は極めて重要です。なぜなら、私たちは相談者や依頼者、弁護団事件の被害者など多くの市民と接する機会が多く、十分に市民の声を聞くことができる立場にいるため、その市民の声を政党政治へつなげるための役割を担える立場にいるからです。そのため、今、私たち法律家は、市民連合の果たす役割に対してどのように関わっていくべきなのかを真剣に議論していく必要があると思います。
今後については今回の懇談会参加者間で情報共有を図りつつ、一回限りの顔合わせで終わらせることなく、継続して懇談会を設けることを確認しました。改憲問題対策法律家六団体連絡会では引き続き市民連合と相談し協力して運動を続けていくことにしています。