第1728号 / 1 / 11

カテゴリ:団通信

【今号の内容】

●袴田事件最高裁決定  小川 秀世

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*鳥取県支部特集
○鳥取県支部からの報告  高橋 敬幸

       
*福岡支部特集
○福岡市における自衛隊への名簿提供問題のとりくみについて  井下  顕

○「よみがえれ!有明」訴訟・差戻審の現状と課題  國嶋 洋伸

○弁護団事件のその先にあるもの  清田 美喜

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●控訴審での逆転勝訴を目ざす-NHK受信料裁判  佐藤 真理

●教員の「変形労働制」北海道で条例可決、導入へ  中島  哲

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*新入団員紹介特集
○新入団員紹介  遠藤 正大

○団員になったきっかけと今後の抱負  和田 壮一郎

○新人紹介  井橋  毅

○自己紹介と一年間振り返ってみての感想  進藤 一樹

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●12月常幹で「民事裁判手続のIT化 に対する意見書」を採択しました!  太田 吉則

 


 

 

袴田事件最高裁決定  静岡県支部  小 川 秀 世

 昨年、暮れも押し迫った一二月二二日、最高裁の差戻し決定がなされた。最高裁は、静岡地裁の再審開始決定を取消して再審請求を棄却した即時抗告審の東京高裁決定(二〇一八・六・一一決定)を取消したのである。
 取消しの理由は明快であった。事件発生から一年二か月後に味噌醸造タンクの中から発見され、確定判決により袴田巌さんの犯行着衣とされた五点の衣類には、多量の血痕が付着していたが、発見時にも血痕は赤く誰が見ても血液であることが判別できた。これについて弁護団は、味噌漬け実験によって、一か月間も味噌漬けになっていれば、メイラード反応という化学反応により血痕は黒くなり赤みも残らないことを明らかにしていた。最高裁は、そこに着目し、メイラード反応の速度や程度をより厳密に明らかにして、発見直前に味噌タンクに入れられた可能性がないか検討する必要があるとしたのである。発見直前に入れられたのであれば、その時点で一審公判中であった袴田氏の犯行着衣であるはずがないからである。
 しかし、色の変化はきわめて複雑な化学反応過程であり、まして人の血液と醸造中の味噌とのメイラード反応についての専門的な研究などあるはずがないこと、さらに検察側の味噌漬け実験でも、同様に赤みは完全に失せてしまっていたことからすれば、最高裁自身が再審を開始すべきではなかったかと思う。実際、五人中二人の裁判官が、差し戻しではなく自判して再審開始すべきだとの反対意見を述べたのであるから、残念である。
 また、開始決定が重視していた本田克也教授のDNA鑑定について、東京高裁が否定した同教授考案の細胞選択的抽出法を認め、東京高裁による本田教授に対する批判を、「不適切」「不正確」と切り捨てたものの、試料のDNAが微量かつ劣化していることや外来DNAによる汚染の可能性によって、現に検出されたDNAの存在を無視した点も、「疑わしきは被告人の利益に」の原則からして納得できないところである。
 ただ、最高裁が、味噌漬けの血痕の色の点だけによって、五点の衣類が袴田氏の犯行着衣であることに合理的疑いを生じさせる可能性があると判断したのは、確定判決が犯行着衣である根拠とした「血がついている」「発見場所は現場に近い」などという事実は、いずれもねつ造を否定して犯行着衣であると認定する根拠にはなりえないという弁護団が繰り返してきた主張を受け入れたということである。これは画期的なことであり、再審に大きく近づいたと言ってよいと思う。
 もっとも、一次再審からすでに三〇年以上も経過していながら、血痕の色の問題だけで再審が開始されることになるとすれば、私たちの怠慢と言われても仕方ないであろう。ともあれ、早急に再審無罪を勝ち取らなければならない。巌さんは元気ではあるが、すでに八四歳の高齢であり、死刑の恐怖が生み出した自らが最高権力者であるという妄想障害は、釈放されてからもずっと継続しているからである。
 最後に、今回の決定は、再審開始決定に対する検察官の不服申し立てを許容している現在の制度の不当性を、あらためて認識させることになった。二〇一四年の静岡地裁の再審開始決定から、すでに六年も経過してしまっている。差し戻し後の東京高裁がいつどんな決定を出すのか不明であるが、仮に再審開始を認めたとしても、再び検察官が特別抗告することは制度上可能である。このような検察官の不服申し立ての禁止と証拠開示の制度化は、現在、法改正が強く求められているが、この事件も、まさにその制度により、不当な重荷を背負わせられているのである。

 

 

*鳥取県支部特集
鳥取県支部からの報告  鳥取県支部  高 橋 敬 幸(鳥取県支部長)

 鳥取県は東西に長く、東の端に鳥取市、西の端に米子市があります。ちなみに鳥取県は島根県の右です。
 鳥取市の松本光寿団員が二〇二〇年五月に亡くなられましたが(追悼文を次々号にと考えています。)、三〇数年前は、松本団員が中心となって、団として、鳥取スモン訴訟、じん肺訴訟などに取組みました。
 現在は団員数も少なく(鳥取県弁護士会の会員数もわずか六五名です)、団として事件を取組むということはありませんが、個々の団員が、団らしさを発揮して事件に取組んでいる状況です。

 最近の事件を以下に紹介します。
 先月一二月二一日に和解のあった事件ですが、懲戒退学に値しない違反行為があった県立高校生徒に対し、教育的指導もしないまま、校長が、自主退学しないと懲戒退学にすると脅し、生徒が自主退学をした等の事件で、生徒と両親が慰謝料を求める国家賠償請求訴訟に取組みました。和解では、慰謝料の支払いのほか、校長が原告に直接謝罪し、県教委も退学処分の要綱の見直しに着手しました。
 労働事件、過労死事件も多く手掛けています。
 民間企業の残業代等未払い訴訟、地位確認訴訟も多いですが、タクシー会社の取締役によるパワハラ事件(損害賠償)は、労働組合と協力しながら訴訟を進めています。
 お隣の島根県にも行くことが多く、島根県立大学の職員の有期雇用の無期転換権を妨害した事件の地位確認訴訟、島根県の市立病院の医師の懲戒処分取消訴訟などにも取組んでいます。

 支部長の私の事務所に、鳥取県医療問題弁護団(共同代表は、高橋真一団員と鳥取市の弁護士)、全国B型肝炎訴訟山陰弁護団、市民オンブズ鳥取、米子九条の会などの事務局を置いていますので、それらに関する事件(医療訴訟、B肝訴訟、住民監査請求・住民訴訟など)も手掛けています。
 住民訴訟は、主に地方自治法二四二条一項四号(義務付け請求)を使って、損害賠償、不当利得返還請求をしていますが、最近は、二四三条の二の二(職員への賠償命令)を使った訴訟を、地裁と高裁でおこなっています。
 市民オンブズ鳥取や米子九条の会は、毎月、私の事務所で会議を開催し、活動しています。
 B型肝炎訴訟の山陰原告団の方たちも、当事務所で会議を持たれることもあります。

 大学や高校での講義も、出来る限り出掛けるようにしています。
 二〇二〇年は、鳥取大学で憲法の講義を一コマ、鳥取県立環境大学で労働法を一コマ、鳥取県と提携して高専で憲法の講義、高校でも労働法の講義などをおこないました。

 団本部からの要請には出来るだけ応えたいと思っています。
 一九九九年の団総会は、米子市の皆生温泉で開催しましたし、二〇一八年の五月集会も同じところで開催しました。
 組織は小さくても、団の原則を重視した地道な、そしてキラッと光る活動を続けてゆきたいと思っています。

 

 

*福岡支部特集
福岡市における自衛隊への名簿提供問題のとりくみについて
                        福岡支部  井 下   顕(福岡支部 幹事長)

 昨年一月、安倍前首相と懇意にしている福岡市の高島宗一郎市長は、突如、福岡市内に住む一八歳と二二歳の若者の住所、氏名、年齢、性別(いわゆる住民基本台帳四情報)を自衛隊福岡地方協力本部に提供すると宣言した。

 福岡市長の宣言を受け、平和、反原発等様々な市民団体が立ち上がり、またたく間に反対の世論ができていった。とりわけ、市民連合福岡を中心とした野党共闘を求める運動団体の安倍政権打倒のエネルギーが一次的に矛先を変え、集中的に発揮されたかのようであった。団福岡支部では、市民の運動に呼応すべく、反対の意見書を発表し、運動に参画していった。各地域の団支部の運動は様々なものがあると思われるが、市民の運動を励まし、ともに共闘していくことは、その存在意義にかなうものである。

 福岡市長はこうした市民運動の動きを見て、急きょ二月三日に福岡市個人情報保護審議会に諮問を行ったが、諮問から審議(二月七日)まで五日(通常は最低でも二週間)という短いものであった。審議会の当日、審議会場である福岡市役所の最上階には傍聴席(たったの五席)を求めて約二〇〇名の市民が集結した。私はくじに外れたが、参加者の後押しで傍聴することができた(こっそりと当たりくじをもらった)。

 審議会は九大名誉教授や弁護士など個人情報問題に精通しているはずのメンバーから成っており、約一時間の審議の状況も個人情報を保護する観点から進んでいるように思われた。ところが、結論は、一八歳と二二歳の若者の、住所と氏名の二情報に限って、紙媒体での提供を可とするものであり(諮問は、四情報を電子情報で提供するというものであった)、提供を望まない若者に除外措置を講じるよう求める内容であった。こうした審議会の答申は、全国の自治体で審議会にもかけられず各地の自衛隊地方協力本部に個人情報が提供されている中では、特異なものとする見方もあるかもしれないが、提供を可とする以上、違法である。

 市民団体等ではこの答申を受け、さらに反対の運動を広げていった。その結果、除外措置を申し入れた若者の数は二三三名に上った(提供対象者数は二万九八一七名)。その後も反対運動は続いており、昨年一二月二三日には、本件問題に詳しい甲南大学の園田寿教授の講演と合わせシンポジウムを開き、全国のこの問題にとりくんでいる多くの方々(京都市からは福山和人団員にズーム形式で参加していただいた。ほかに、名古屋市、長野県駒ケ根市、千葉県柏市、日本平和委員会など)にも参加いただき、全国のとりくみ、経験交流をさせていただいた。

 団福岡支部内では、訴訟に立ち上がる若者が出次第、訴訟提起できるように準備を進めているが、一八歳と二二歳という進学や就職を控えた若者が訴訟に立ち上がることはなかなか難しい(問題意識のある若者はすでに除外措置をとっており、権利侵害性の観点から原告になることは難しいと思われる)。

 福岡では、同じ月に、防衛大人権侵害裁判で国に対し、福岡高裁で逆転勝訴判決が出たばかりであり(私も弁護団に末端にいる。この事件は札幌の佐藤博文団員もしくは私から別途、報告させていただくことになると思われる)、自衛隊の実情が明らかになる中、さらに運動が広がっている(例えば、福岡県小郡市など提供から閲覧に切り替える自治体も出てきている)。

 

 

「よみがえれ!有明」訴訟・差戻審の現状と課題  福岡支部  國 嶋 洋 伸

 一昨年(二〇一九年)九月一三日に、最高裁で控訴審判決が破棄され、差戻しとなっていた請求異議訴訟は、現在、福岡高裁で審理が続いている。
 「漁業権消滅」を異議事由として認めた荒唐無稽な二審判決が破棄されたという結論は当然として、当時の新聞などでは、それでも最高裁が、意見や補足意見において漁業者らの権利濫用を認める示唆をしたかのような報道が散見された。しかし、今年の二月からスタートした差戻審の審理では、国の異議事由にまったく理由がないことがあらためて明白となっている。
 国の異議事由の中心は「近年では漁獲量が増加傾向に転じている」というものである。国の主張は、あえて今まで諫早湾近辺では重要視されていなかった漁獲物(シバエビ)に着目し、その一種の増加をもって、自分たちに都合よくデータを加工して示すという、現政権のやり口そのものである。漁業者は、高値で取引される本来主力であるはずの漁獲物(二枚貝や高級魚)がとれなくなれば、やむを得ず安価でも他の魚種を獲るのは当然で、あくまで生活のための代替措置である。
 そもそも、仮に「代わりの(安い)魚が獲れている」という事実があったとしても、弁済や相殺のような本来的に債務を消滅させる事由と同列に論じられるものではなく、これしきのことで強制執行が権利濫用になるならば、司法の一丁目一番地のはずの確定判決の執行力の持つ意味を根底から揺るがしかねない。
 他にも、国は「地元住民が開門反対の運動をしているから工事ができない」とか、「前訴確定判決の基準時から九年もの月日が経過している」などと主張している。辺野古をはじめ各地で地元住民の反対運動を抑圧して事業を推し進めてきた国の二枚舌にも呆れるし、前訴判決から「九年も」放置して被害を拡大させ続けている国自身が、時の経過を主張するなど盗人猛々しいにもほどがある。
 このように、法律家の常識として、国の主張する理由はいずれも請求異議事由足りえないことは明らかである。そもそもこの程度の些細な事情変更を並べ立てて、確定判決に基づく間接強制が権利濫用にあたるなどとする国の主張こそ一蹴されるべきで、裁判所がこのような主張を容易く認めるようであれば、それは司法の自殺行為である。
 差戻審では、国も勝てるという確信が持てない様子は明白で、裁判所から釈明を求められている事項についても、のらりくらりと引き延ばしを図っている。最高裁の示唆が、仮に一部メディアのいうとおりに「国を勝たせるもの」であれば、国も早期結審を迫るはずであるが決してそうしてはいない。
 我々弁護団が求めている和解に向けた協議について、裁判所もスルーするわけにはいかなくなり、今後の進行協議においては、その検討が主題となっている。新型コロナの影響で、大規模な集会などを開催し難い状況ではあるが、メディアや支援組織の活動、国会での論戦を通じて、和解による解決に向けた世論づくりを進めていかなければならない。
 そのために今後とも多くの団員の協力や助言をお願いしたい。

 

 

弁護団事件のその先にあるもの  福岡支部  清 田 美 喜

一 はじめに
 九州朝鮮高校就学支援金差別国家賠償請求事件の提訴から八年。誤解を恐れず言えば、この裁判で争ってきた朝鮮学校への差別が、日本社会における在日朝鮮人差別の一つのあらわれに過ぎないことを実感する八年でもありました。

二 朝鮮学校、朝鮮総聯とは
 朝鮮学校は、朝鮮の言語、地理、歴史、社会、文化等を教える民族教育を、日本の学習指導要領に準じた教育とともに行っています。学校教育法上は各種学校に位置づけられます(都道府県知事の認可を受けており、定期的に監査を受けています)。在日朝鮮人の子どもたちは、自分のルーツを知り、在日朝鮮人とはどのような存在であるかを知ることを通じて、自分がどう生きていくかを考え、在日朝鮮人としてのアイデンティティを形成していきます。
 朝鮮総聯は在日朝鮮人の民族団体であり、教育に必要な環境の整備など、民族教育の実施に協力してきました。

三 高校無償化法とは
 高校無償化法は、予算の概算要求段階で朝鮮学校の学生数も計上されていたことからも明らかなように、朝鮮学校への適用が前提とされた法律でした。
 高校無償化法は、私立学校の学生への就学支援金を、対象学生の通う学校に代理受領させ、授業料債権と相殺させるという法定充当の仕組みをとるとともに、学校から定期的に報告をさせて、不正が行われていないかを確認する制度を設けています。就学支援金が授業料にならずどこかへ流れていくなど、荒唐無稽な話です。
 しかし、学校側が勝訴した大阪地裁を除き、裁判所は、朝鮮総聯と朝鮮学校のかかわりに関する歴史的経緯や、国家権力の介入を阻止するために設けられた「不当な支配」の禁止(教育基本法十六条)という条文の来歴に向き合うことなく、朝鮮総聯と朝鮮学校との交流、関係を「不当な支配」と決めつけます。そして、本来の法の趣旨や、法令に基づく適正な学校運営が制度的に担保可能かを検討することもなく、「法令に基づく適正な学校運営が行われていないおそれがある」という理由で、学生たちの訴えを退けてきました。

四 日本社会の中にある差別
 適切な事実認定や法の趣旨目的に遡った解釈が行われない結果、敗訴判決が各地で出される中、在日朝鮮人に対する差別意識が裁判所にも及んでいると感じています。
 在日朝鮮人に対する差別から生じる事件は、この八年間だけでも枚挙に暇がありません。就学支援金制度からの排除と同時に、補助金を凍結・打ち切った自治体。朝鮮学校への補助金の「適正かつ透明な執行」を求める通達を発する文部科学省。それに追従して補助金を凍結・打ち切った自治体。選挙運動に藉口して繰り返されるヘイトスピーチ。ツイッターやコメント欄に並ぶヘイトスピーチ。学生たちが通う学校の前に詰めかけて行われるヘイトデモ。大量懲戒請求。朝鮮総聯本部への銃撃事件。幼保無償化からの朝鮮幼稚園の排除。自治体によるマスク配布からの朝鮮幼稚園の排除。大学生への給付金からの朝鮮大学校生の排除。司法が差別を容認したことで、社会の中の差別意識は顕在化しやすくなったと危惧しています。また、次から次へと問題が起こる中、差別が次第に巧妙化しているとも指摘されます。

五 無償化裁判のその先にあるもの
 無償化裁判に取り組むことは、自分自身の偏見や差別、そのもととなる無知や誤った知識に気づくことの連続です。たとえ裁判が終わっても、その過程に終わりはないと思います。改めて学び、新たな問題に取り組みながら、知らない人、気付いていない人に伝え続ける。朝鮮学校に通う子どもたちに、いつもここにいるから、困ったら頼ってほしいと伝え続ける。
 本当に微々たることです。でも、人の心が変わらなければ社会は本当には変わらないと思います。最高裁が自判や差し戻しをしさえすれば、日本社会の中の在日朝鮮人差別がなくなるわけではありません。判決や政治判断はきっかけの一つと感じています。
 在日朝鮮人を取り巻く問題に取り組むとともに、隣の人と小さく社会を変え、当たり前の毎日を守っていくことを、仲間とともに続けていきます。

 

 

控訴審での逆転勝訴を目ざす-NHK受信料裁判  奈良支部  佐 藤 真 理

 奈良受信料裁判(放送法遵守義務確認請求事件)は、ニュース報道番組において、政権に忖度し、「政府の広報機関」化した放送を繰り返すNHKに対して、視聴者・国民が、公共放送としてのあり方を問う画期的訴訟として、全国的にも注目されつつある。
 昨年一一月一二日、一審奈良地裁は、NHKがニュース報道番組において、放送法四条を遵守して放送する義務(事実を曲げない、政治的公平、多角的論点明示など)の確認請求を「却下」し、放送法四条を遵守しない放送をしたことに対する損害賠償請求を「棄却」した。
 判決が、「法律上の争訟に該当せず、不適法である」とのNHKの主張を排斥して、「放送の内容が放送法四条に抵触するものであるか否かを裁判所が判断することは可能であり、司法審査に適しないということもできない」として、裁判所法三条一項にいう「法律上の争訟」に当たり、司法権行使の対象となることを認めたのは評価できる。
 しかし、原告が放送法四条違反であると詳細に主張立証した共謀罪や桜を見る会問題等、一三項目に及ぶNHKのニュース報道番組について、放送法四条を遵守した放送であったといえるのか否かについては、「疑問の余地が全くないわけではない」と指摘し、また二〇一〇年代の国政選挙等の選挙報道に放送法四条違反があるとの原告の主張について、放送倫理・番組向上機構(BPO)の意見書の結びの部分を三頁に亘って判決に引用の上、「記述内容は、傾聴に値する内容であるいうことができる。」とリップサービスを付加しただけで、放送法四条違反の有無について具体的な判断をせずに、回避した。
 NHKOBの相澤冬樹氏、永田浩三氏、小滝一志氏、稲葉一将名大教授、須藤春夫法政大名誉教授の合計五名の証人尋問、原告代表五名の本人尋問を実施するなどの訴訟指揮から正面から実体判断がなされるものと期待していただけに、無念の思いを禁じ得ない。
 一審判決は、放送法三条が放送番組編集の自由の原則を規定していることを持ち出し、「受信契約者または視聴者は極めて多数に及ぶ上、番組に対する理解や価値観等も多岐にわたり、個々の受信契約者ないし視聴者の理解や価値観を基準として、それらの者に対し、豊かで良い、事実を曲げない、有益適切な番組(を)視聴すべき権利ないし法的な利益を一般的に認めることは、被告の放送番組編集の自由を著しく制約するものであり、その行使を事実上不可能ならしめることに等しいことからすると、法四条一項各号に定める放送内容に関する義務は、放送に対して一般的抽象的に負担する義務であって、個々の受信契約者に被告に対して同条を遵守して放送することを求める法律上の権利ないし利益を付与したものと解することはできない」と判示したが、的外れである。
 NHKの選挙報道のいくつかが放送法四条に違反すると裁判所が判断した場合にも、放送法遵守義務違反に当たるとの確認判決(主文または理由中の判断)は、NHKに対して一定の放送時間を設けるなどの何らかの作為を命ずるものではない。放送された番組が放送法四条違反の状態にあると裁判所が判断するだけで、NHKは違法状態を解消する様々な手段を「自律」的に選択できるのであり、報道の自由の侵害とはならない。確認訴訟は、放送法領域に適した訴訟形式なのである(稲葉教授)。
 今日、NHKのニュース報道はますます政権寄りに偏する傾向が強まっている。一例を挙げよう。菅首相が臨時国会で所信表明演説を行った一〇月二六日、三日後のクローズアップ現代+に生出演した際、有馬キャスターが日本学術会議の任命拒否問題で「国民への説明が必要では」と指摘した。翌日、内閣広報官がNHK報道局に、「総理、怒ってますよ。あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う。」と抗議電話を入れた。三日後のNW9は、日本学術会議の山際壽一前会長が二年前にも官邸から人事介入を受けたとのインタビューを報道後、百道章国士舘大学特任教授を「憲法が専門」として紹介し、「首相の任命権は学術会議の推薦に拘束されるものではない。裁量権を行使して拒否をしたのは、妥当だと思う。」との言説を垂れ流したのである。
 一一〇名の原告が控訴し(控訴率は八七%)、舞台は高裁に移る。大阪高裁において、一審判決を破棄の上、「政府のためのNHK」から「国民のためのNHK」の実現に資する勝訴判決をめざして、全力を尽くす決意である。        (二〇二一・一・五)

 

 

教員の「変形労働制」北海道で条例可決、導入へ  北海道支部  中 島   哲

一 北海道で教員「変形労働時間制」条例可決
 二〇一九年一二月一一日に「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(以下、「給特法」といいます。)の一部改正が国会において可決・公布され、各地方自治体において条例を制定すれば、公立学校の教員(地方公務員)に対して、一年単位の「変形労働時間制」を導入することができるようになりました。
 それからちょうど一年後の二〇二〇年一二月一一日、全国に先駆けて、北海道議会(以下、「道議会」といいます。)において、公立学校の教員(地方公務員)に「変形労働時間制」の導入を可能とする条例が可決されてしまいました。

二 改正給特法の問題点
 ここでおさらいですが、一年前に成立した改正給特法自体、大いに問題があるものでした。
 まず、部活指導や補習、保護者対応や様々な書類作成等、教員の恒常的な時間外労働が常態化していることは、もはや社会の共通認識と言って良いレベルに達しています。
 この点については、改正給特法を成立させるに際し、国会答弁で萩生田文部科学大臣も、、改正の趣旨目的について、「教員の勤務実態調査によれば、極めて厳しい長時間勤務の実態が明らか」であり、「志ある教師が、疲労や心理的負担を過度に蓄積して心身の健康を損ない、ついには過労死等に至ってしまうような事態は決して起こしてはならない」と述べています。
 しかし、法制度上、公立学校教員の長時間労働を生み出す主要因は、給特法で定められた、給料月額四%相当額を支給する代わりに残業代を支払わず、超勤四項目(校外実習等、学校行事、職員会議、非常災害等)を除き時間外労働を命じることはできないとする、現実から乖離した制度にあります。
 前述の超勤四項目以外にも教員が非常に多種多様な業務を担当しているにも関わらず、教員の自発的な活動であり労働時間と扱われないがために、残業代が支払われず、教員のやり甲斐搾取を前提に学校教育を成り立たせるという、ブラック企業もかくや、というモデルが構築されていることが、恒常的な時間外労働が常態化している原因です。
 この構造的問題から目を背けたまま、教員の恒常的な時間外労働を解消するための手段として変形労働時間制を導入するということは、長時間勤務の実態を解消するのではなく、長時間勤務の実態はそのままに、その実態を労働時間の変形という形で適法化(法的に時間外労働と扱わないことにする)しようとするもので、何ら「志ある教師が、疲労や心理的負担を過度に蓄積して心身の健康を損ない、ついには過労死等に至ってしまうような事態」を防ぐことに結びつくものではありません。

三 「変形労働制」条例制定~甘かった見通し~
 とは言っても、実際に、去年の今年で、全国で一番先に北海道において条例が制定されるとは正直思ってもいませんでした。
 二〇二〇年は、全国的に、新型コロナウイルス感染症の影響で、教員の負担はこれまで以上に増加していましたし、特に、北海道は全国に先駆けて感染の広がりをみせ、全国で緊急事態宣言が出される前から、北海道独自の緊急事態宣言を出すなどしており、教員の側から見ても、行政の側から見ても、「それどころではない」というのが通常の感覚だと思われたからです。
 しかし、結果から見ると、見立てが甘かったというよりほかはないことになります。
 時系列を追って振り返ってみます。
一一月二三日
 日本労働弁護団(以下、「労弁」といいます。)の全国メーリングリストで、北海道で条例制定の動きがあるとの情報が発信される。
 中島から北海道高等学校教職員組合連合会(以下、「道高教組」といいます。)の書記長に状況確認のメールをする。
一一月二五日
 北海道新聞において、北海道教育委員会(以下、「道教委」といいます。)が二四日の道議会文教委員会において、条例改正案を二五日から開催の本会議に提出することを明らかにした旨の報道あり。
 道高教組書記長から状況についての返信メールとともに、道教委から情報提供を受けた条例案が示される。
 道高教組から相談打診。
一二月二日
 弁護士複数名で、道高教組、全北海道教職員組合(以下、「道教組」といいます。)と打ち合わせ。
 状況はかなり悪く、道議会与党の自民党はもとより、立憲民主党も賛成に回る見込みで、一二月一一日の道議会本会議最終日に可決されることはまず避けられないとの見込みとのこと。
一二月八日
 急遽、労弁北海道ブロックで条例制定に反対する声明を発出。
一二月一〇日
 道議会文教委員会で、全会一致で条例改正案を可決。
一二月一一日
 道議会本会議にて、賛成多数で条例可決。
 高教組・道教組弁護団として抗議声明を発出。
 このように、私も含む北海道の自由法曹団員が状況を知ったときには、もはや情勢は動かしようがなくなっており、半月後にはもう条例は成立してしまいました。
 打ち合わせで聞いたところによると、九月九日には、同月二四日を期限として「一年単位の変形労働時間制について」の意向調査として、①「令和三年度から活用できるよう検討したい」②「令和四年度以降活用できるよう検討したい」③「活用する予定はない」④「その他」の四つの選択肢しかない(事実上、「活用できるよう検討したい」でない回答をするためには、③「活用する予定はない」と言い切るか、④「その他」を捻り出すかするしかない)アンケートが各学校に通知され、道教委は、その回答をもとにして「『活用できるよう検討したい』が約八割あった」と説明したようです。
 また、一〇月には道教委として一年単位の変形労働時間制についてのリーフレットを作成するなどの周知活動を開始しておりました。
 これに対し、道高教組、道教組は、一一月には道教委と複数回の交渉を行い、カウンターとして八〇〇名を超える回答を得て緊急アンケート調査を行うなど、活発な活動を行っておりましたが、それは、コロナ禍をはじめとする様々な社会問題の中に埋もれ、自由法曹団員も含め、多くの北海道民が知るところとはなっておりませんでした。

四 今後に向けて
 このように振り返ってみると、結果論としては、もう少し早い段階で自由法曹団員が何らかの形で関与していれば良かったのかもしれないですが、道高教組、道教組の両組合が、運動体として奮闘している中で、未だ弁護士に相談する段階ではないと考えたことを誤りだと言うことは出来ないと思いますし、また、その段階で相談を受けても何が出来ただろうか、と自問しています。
 そんな中で、何か教訓を見いだすとするならば、教職員組合の中でも、複数の系統の組合が存在する地域の場合、系統によっては、それぞれの事情により、変形労働時間制導入に対して反対の立場を明確にせず、条例制定は許容した上で、各市町村・学校等における導入を検討する段階を主戦場と考えている組合もあるようです。
  そういった他系統の組合とも、自由法曹団員をはじめとする弁護士が間に入って仲介することによって、条例阻止のレベルで共闘する体制を取ることも、早い段階から動き出していれば可能なのかもしれません。
 今年度の条例制定が見送られた地域でも、来年度は必ず動きがあるかと思いますので、北海道の例を他山の石として、条例阻止の運動をご展開頂ければ幸いです。、
 もちろん、北海道もこれで終わったわけではありません。北海道は、既に条例が制定されてしまいましたので、市町村・学校レベルでの導入が主戦場となりますが、そこで踏みとどまって、組合とともに運動を展開していきたいと考えております。

 

 

*新入団員紹介特集
新入団員紹介  北海道支部  遠 藤 正 大

 はじめまして、七二期のたかさき・渡部法律事務所の遠藤正大(えんどう まさひろ)と申します。既に七三期の新入会員が登録し、私も新人ではなくなってしまいましたが、遅ればせながら、新入団員として自己紹介及びごあいさつをさせていただきます。
 私は、埼玉県出身で、高校を卒業するまで埼玉で生活しておりましたが、大学入学を機に札幌に移住しました。札幌での生活はとても快適で、多くの友人や尊敬できる弁護士の先生方と出会う機会がありました。司法試験合格後は、久しぶりに地元の埼玉県で生活してみようと思い、さいたま修習を選択しました。修習中は弁護団や委員会の活動にたくさん参加させて頂き、充実した修習生活を送ることができました。指導担当の増田悠作先生をはじめ、多くの団員の先生方にもお世話になりました。改めて厚く御礼申し上げます。
 修習後の就職先は、迷った末、札幌に戻って弁護士人生をスタートすることにしました。弁護士登録をしてからのこの一年間は、日々、わからないことばかりで勉強不足を痛感する毎日でした。正解がわからない中で、もがきながら何とか仕事をこなしていたら一年経ってしまったような感覚です。これまでに感じたことのないくらい濃密であっという間に過ぎ去った一年間だったと思います。通常の事件以外にも、建設アスベスト弁護団やストーブ訴訟弁護団に参加させてもらい、二年目以降の弁護士生活に大いに役立つ経験を積むことができたと思います。
 私生活では、二〇二〇年一月に入籍をし、一一月に結婚式を挙げました。コロナ禍での大変な時期での挙式となりましたが、その分人と人とのつながりを強く感じる時間を過ごすことができたと思います。また、弁護士一年目は、コロナの影響であまり出かけることができませんでしたが、二年目以降は、感染状況を見ながら、旅行等にも出かけて、私生活の更なる充実を図りたいと思います。
 月並みではありますが、たくさん仕事をしてたくさん遊び、少しでも多くの人を元気づけられる弁護士人生を歩んでいければと思います。
 これからどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

団員になったきっかけと今後の抱負  東京支部  和 田 壮 一 郎

 はじめまして。城北法律事務所所属、七二期の和田壮一郎と申します。自由法曹団は、法科大学院生のときに青法協の弁護士と関わる中で、知りました。弁護士を目指したきっかけは、刑事弁護人を描いたドラマを見たことでした周囲の人間になんと言われても被告人のために全力を尽くす姿勢に共感したことを覚えています。
 弁護士になりたいという希望だけ持って、大学進学の際は法学部を選びました。しかし大学生の間は、司法試験の勉強はあまりしませんでした。その代わり(?)に、サークルでの山登りにはまっておりました。ぜひ登山がお好きな団員の方がいればご一緒したいです。
 また、司法試験の勉強をしない代わりに、格差問題など社会問題に関心を持つ人が集まり論文執筆や資本論の読書会をする別のサークルにも入会しました。そこで、友人が政治の話を普通にして自分の意見を議論しあうことに影響を受けて自分自身ももっと勉強してみたいと思うようになりました。もともとは個別の困っている方を法的に救済することに関心があったので弁護士を目指していましたが、背景として今の日本の政治がおかしなところがあるのではないかと考えるようになりました。私が大学生の間、自民党の改憲案が出ました。その改憲案では、個人の人権をないがしろにするような条項が出ていて衝撃を覚えました。
 こうした政権の社会から意見を抹殺するような兆候は、今の学術会議問題などにも通じていると考えております。やはりこうした動きには、弁護士が立ち上がって抗議することが重要だと弁護士となってから実感しております。
 弁護士となってちょうど一年が経過していますが、今年は個別の事件処理に追われてあまり活動に関われなかったと思っております。来年度は、団員の諸先輩方の背中を追って、政治的問題にも取り組んでいきたいと思っております。

 

 

新人紹介  東京支部  井 橋   毅

一 自己紹介
 東京都立川市にある三多摩法律事務所で勤務している、七二期の井橋毅(いはしつよし)とです。
 私が弁護士になる道のりは、中学生の頃に見た、ドラマ「HERO」からはじまりました。主人公が、事件の大きい小さいを区別せず、法律を使って目の前の事件一件一件に向き合う姿に惹かれたこともあり、中学生の頃は、検察官を志望でした。その後、法学部や法科大学院で、様々な法律やそれに関連する分野を学び、知るうちに、私の志望は弁護士へと変化していきました。具体的には、刑事事件だけでなく他の事件(特に労働事件)も扱ってみたいと思ったこと、目の前の困っている人を助けたいと思ったことが理由として挙げられます。
 そして、弁護士になった現在、私は、扱ってみたかった労働事件はもちろん、一般民事、刑事事件、行政事件、家事事件等、様々な事件を扱うことができています。また、困っている依頼者のために、働くことができており、事件の中には、すでに解決に至って、依頼者を助けることができたものもあり、仕事のやりがいを感じています。
 これからも、弁護士を志した理由をいつまでも忘れることなく持ち続けながら、職務を全うしていきたいと思います。

二 自由法曹団に入った理由
 すでに述べましたとおり、私は、困っている人々を助けたいという思いから、弁護士になりました。事件の中には、弁護団を作ったり、様々な団体の協力を得たりしなければ戦うことが困難な事件もありますが、これまで、自由法曹団の団員の先生方は、このような困難な事件に立ち向かい、団員をはじめとする多くの人々と団結し、多くの困っている人々を助けてきました。そこで、私も、自由法曹団の団員となって、団結して困難な事件に立ち向かい、困っている人々を助けたいと思い、自由法曹団に入ることを決意しました。
 すでに、私は、首都圏建設アスベスト訴訟弁護団に参加しており、事務所内では学べないことを学べています。現在、最高裁で国の上告受理申立に対する不受理決定が出て国の責任が確定し、弁護団としては極めて重要な時期になっています。参加して一年足らずの私は、知識や経験がまだまだ乏しいですが、そんな私にもできることをやっていきたいです。
 二年目以降も、同じ事務所や弁護団に所属している先生方をはじめとする団員の先生方のように、人々の権利救済に向けて尽力していきたいと思っております。

 

自己紹介と一年間振り返ってみての感想  愛知支部  進 藤 一 樹

一 はじめに
 はじめまして。二〇一九年一二月に弁護士登録をしました進藤一樹と申します。
 第七二期の若手弁護士として、弁護士法人名古屋南部法律事務所平針事務所(弁護修習先の事務所でもあります。)にて執務をさせていただいておりまして、この記事が出る頃にはちょうど一年と少しが経過する頃かと思います。

二 弁護士を志したきっかけ
 自己紹介で出自を語り出すと、あっという間に文字数に達してしまうのが毎度のことなのですが、やはり今回も出自を語らせていただきたいと思います。
 私は、地元の工業高校・専門学校を卒業後、名古屋市内の証券会社に入社し、その退職後は東京都台東区で新聞を配りながら都内の大学の法学部(夜間)に通い、卒業後は同大学の法科大学院に入学し、修了後は地元に戻りアルバイトで受験生活をしながら司法試験に合格し、二〇一九年に司法修習を終え今に至ります。
 金融業に携わっていた時期は、それこそ新自由主義思想が跋扈していたように思いますが、(当時は)私も新自由主義思想のもと、カネの仕事をしておりました。ところが、サブプライムローン問題やリーマンショックが起きたり、上野・御徒町で新聞を配りながらホームレスの方や障害を持っている方と接しているうちに、日本における貧困や差別といった社会問題に気付くことになり、個人的にパラダイムシフトが起きて、これからはこうした社会問題に取り組んでいきたいとの想いで法曹を志すことになりました。

三 ふりかえり
 さて、新人弁護士としてのこの一年間を振り返ってみての感想ですが、私自身も世の中も色々ありすぎて簡潔にはまとめきれません。
 この一年間、様々な弁護団事件や、事務所事件、個人事件に取り組んでまいりましたが、目の前の事件にただただ必死で、ただただ忙しく、一生懸命に駆け抜けた(実際は駆け抜けられてはいないのですが)一年間だったと思います。
 たくさん失敗もし、迷惑も重ねてしまいましたが、それ以上に得るものが大きかったのは、ひとえに〝素晴らしい事務所、自由法曹団等の諸先輩方や仲間〟といった恵まれた環境があったことに他なりません。
 おそらく二〇二一年も目の前の事件にただただ必死で、来年の今頃も同じような感想をどこかで述べているような気がしますが、今後ともご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

 

 

12月常幹で「民事裁判手続のIT化に対する意見書」を採択しました!
                   事務局次長  太 田 吉 則(市民問題委員会担当次長)

一 はじめに
 現在、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会(以下「法制審」といいます)では、民事裁判手続のIT化に向けた議論が行われています。法制審の中間試案のたたき台の内容については、大阪支部の正木団員の団通信の投稿をご覧いただくこととし、本投稿では、二〇二〇年一二月常幹で採択し、同月二二日に執行した「国民の裁判を受ける権利の後退を許さない~民事裁判手続のIT化に関する意見書~」について、そのご紹介と今後の行動提起をさせていただきます。

二 「民事裁判手続のIT化に関する意見書」について
 本意見書は、法制審の中間試案の作成と、二〇二一年二月に実施されるパブコメに向けて、団の市民問題委員会を中心に作成しました。民事裁判手続のIT化については、団内でも、好意的な印象をお持ちの団員もいらっしゃると思います。本意見書は、IT化それ自体を批判するものではありません。本意見書の構成としては、民事裁判手続のIT化の議論状況を説明し、拙速な法改正の動きを批判した上で、四つの改正項目、すなわち、①オンライン申立の義務化、②口頭弁論期日へのウェブ会議の導入、③新たな訴訟手続(以下「特別訴訟」といいます)の創設、④新たな「和解に代わる決定制度」の創設についての問題点を指摘したものになっています。以下、本意見書での指摘の内容を簡潔にご説明いたします。
(1)オンライン申立の義務化の問題点
 法制審では、オンライン申立を原則義務化する考え方(甲案)、オンライン申立を士業者に限り義務化する考え方(乙案)、オンライン申立の利用を任意とする考え方(丙案)が提示されていますが、甲案か乙案かにしたいという思惑が窺えます。
 本意見書では、オンライン申立が義務化された場合、IT機器を利用できない者や不得手な者の「裁判を受ける権利」の行使を著しく困難にさせる、裁判所や弁護士会等のサポートを受けなければならなくなること自体、「裁判を受ける権利」を後退である等と指摘しています。また、セキュリティを含めて信頼できるシステムの構築を先行すべきである等の指摘も行っています。
(2)ウェブ会議等の方法による口頭弁論期日の問題点
 法制審では、当事者の意見を聴くことを要件として、ウェブ会議等の方法により、口頭弁論期日が開催できるという案が提案されています。
 本意見書では、当事者(双方あるいは一方)が、在廷での口頭弁論期日の開催を要求しているにもかかわらず、裁判所の判断でウェブ会議等の方法による口頭弁論期日の開催を強制することは、「裁判を受ける権利」の後退させるものである等と指摘しています。また、いわゆる大衆的裁判闘争等において、当事者が在廷している法廷で弁論が行われることの重要性を説明した上で、ウェブ会議等の方法による口頭弁論期日が、直接主義、口頭主義、公開主義の否定につながること等も指摘しています。
(3)特別訴訟創設の問題
 法制審では、第一回口頭弁論期日から審理の終結までの期間を六か月以内とする訴訟制度について、甲案、乙案、丙案という三つの案が提案されています。甲案は従前から議論されていた制度に近い案で、乙案は一一月二七日の法制審で急遽提案された案、丙案は同制度を設けないという案です(長くなりますので、詳細につきましては、意見書(一一頁~一二頁)でご確認ください)。
 本意見書では、審理期間が制限されることにより、必然的に主張立証の機会が制限され、国民の「裁判を受ける権利」の侵害につながること、主張立証が制限される結果として、ラフジャスティス(粗雑な審理・判断)の危険性が高まり、誤判のおそれが増加することを指摘しています。このような制度を導入している諸外国が存在しないことや、同制度の導入を提案する研究や論文もないこと等も指摘しています。また、その制度趣旨は、裁判の迅速化や期間予測の明確化と説明されていますが、現在の平均審理期間(約九・一か月)は諸外国と比べて遜色がないことや、訴訟受理から第一回口頭弁論期日までの期間や審理の終結から終局までの期間が考慮されていないこと及び通常訴訟に移行する可能性があることから、上記趣旨を達成できないこと等、立法事実を欠いていることも指摘しています。さらには、特別訴訟がIT化と関係がない制度であること、その導入により、通常訴訟にも、審理の希薄化、形骸化といった影響を与えかねないこと、裁判の迅速化は、証拠収集方法の拡充や裁判所の人的物的拡充により実現されるべきであること等も指摘しています。
(4)新たな「和解に代わる決定制度」創設の問題
 法制審では、和解を試みたが、和解が整わない場合に、裁判所が和解に代わる決定をすることができる制度の創設が提案されています。簡易裁判所における「和解に代わる決定制度」とは対象事件や決定の時期、内容等の点で全く異なる制度です。
 本意見書では、同制度の導入が裁判所の広範な裁量を認めることにつながり、当事者主義を蔑ろにするおそれがあること、裁判所が事件処理を進めるため、又は、判決理由を示すことを回避するために濫用するおそれがあること等を指摘しています。また、現在でも、調停に付した上で調停に代わる決定を利用することで対応が可能であり、立法事実を欠いていること、IT化と無関係であること等も指摘しています。

三 是非、本意見書をご活用ください!
 二〇二一年二月にはパブコメが実施されます。この度の民事裁判手続のIT化は、上述のとおり、訴訟手続を利用しようとする国民や、大衆的裁判闘争の在り方、訴訟手続における審理・判断等に多大な影響を与えます。国民の「裁判を受ける権利」の後退をもたらす改正項目については、多くの市民、団体が結束し、反対の世論を巻き起こす必要があると考えます。
 是非、本意見書を関係団体(救援会、労働組合、消費者団体、公害・環境団体、各争議団等)に配布するなどして、民事裁判手続のIT化の問題点を共有していただき、拙速なIT化がなされないように、二〇二一年二月のパブコメに、多くの意見を出してください。

 

 

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