第1748号 8/1

カテゴリ:団通信

【今号の内容】

●団物語の購入・販売・活用のお願い  渡 部 照 子

●「航空自衛隊新田原基地爆音訴訟」判決報告  西 田 隆 二

●不当判決! ベトナム人技能実習生死産児「死体遺棄」事件  石 黒 大 貴

●妨害をはねのけ、「表現の不自由展かんさい」を開催  藤 木 邦 顕

●フジ住宅ヘイトハラスメント裁判(前編) -人種差別的資料及び原告個人攻撃資料の配布差止を追加した控訴審が終結-  安 原 邦 博

●「雇用によらない働き方」関連事件対策全国会議に参加して  大 井 淳 平

●団創立100周年記念出版事業・編集委員会日記(6)  中 野 直 樹

●幹事長日記-その2-


 

団物語の購入・販売・活用のお願い

東京支部  渡 部 照 子

 団物語が刊行されました。「人間の尊厳をかけてたたかう30話」です。掲載されている事件は団報などでも紹介されたことがあり、自分は知っている、2000円も出して買う必要はない、と思われる先生方もおられるのではないでしょうか。しかし、是非、本を手にとって頂きたいのです。
 波打つ赤い布を撮影した写真で装丁されています。この装丁は、山あり谷ありの困難な事件を多くの人々が心を一つにして血潮をたぎらせながら押し進む様子を描いていると思われませんか。30話を的確に捉えた装丁です。
 また、先生方は事件自体をご存知かもしれませんが、解決に至る活路を見出した経緯、団結を広げ、固めた経緯等々までも十分にご存じでしょうか。
 もっとも、自分だってそんな苦労する事件をやっているよ、と思われる先生方もおられるでしょう。もちろん、団員の先生方は、困難な事件を旺盛に取り組んでおられます。この団物語に掲載された事件は、団員の活動の一部です。
 どの物語も執筆・担当された先生方や支援者の方々の被害者に対する深い共感とともに、解決を目指して団結して闘ったエネルギ―と勝利を引き寄せる執念が存分に描写されております。
 先生方に是非ご購入いただき、更に、事件の当事者や関係者、顧問先にも広めて頂きたいのです。多くの方々に団活動をお知らせできることになります。
 少し古くて申し訳ありませんが、6月25日現在の入金済の販売状況をお知らせいたします。
 全国の状況ですが、北海道支部は71冊、長野中央、埼玉支部、まちだ・さがみは各20部、川崎合同は17部で、10部の事務所が続いております。多くの事務所は、これからということ でしょうが、執筆者である鈴木雅貴先生は20冊購入されておられます。
 東京の事務所の多くもこれからということだろうと存じますが、私が所属する代々木総合は46部です。当事務所は事務局員も含む全所員に購入してもらい、また、事務所としても20部購入いたしました。私自身も10部購入し、知人に贈呈したり、集会に持参し販売したりしています。顧問先にもお願いしております。好評です。
 更に、全国商工団体、全国公害被害者総行動実行委員会など運動団体は各10部です。先生方や関係団体からのご購入をお待ちしております。
 いよいよこの7月21日からオリ・パラが開催されることになりましたが、コロナ禍が継続し、不安と怒りが社会に広がっているように思われます。このような時期に困難な中、強い気持ちで闘った人々がいる!ことを広め、社会を変えられることを、団物語も活用して訴えていこうではありませんか。

 

「航空自衛隊新田原基地爆音訴訟」判決報告

宮崎県支部  西 田 隆 二

 航空自衛隊新田原基地における戦闘機の爆音に60年近く悩まされてきた田舎の爺ちゃん、婆ちゃん達が「村八分」覚悟で立ち上がり、2017年12月、夜間等の飛行差止め、そして損害賠償(過去だけでなく将来請求も)を求めて提訴に踏み切った。二次提訴も含めて178名の勇気ある行動だった。
 新田原基地は、宮崎県中央部の新富町にある航空自衛隊の基地である。戦後、航空自衛隊操縦学校分校として再開されたが、「操縦学校」という名のとおり、未熟なパイロットによる墜落事故が頻発した。近隣住宅地に墜落し、パイロット1人が死亡、民家が全焼、近くで車を運転していた人が車ごと吹き飛ばされ大やけどを負うという痛ましい事故も起きている。周辺住民の記憶に今でも強く残っている。
 教育隊であるがゆえに、飛行回数、複数機での離着陸の繰り返し、タッチ&ゴーの多さ等が目立つ。我々も驚いたのだが、他の米軍基地などと比較しても、騒音発生回数、ピーク時騒音等「ひけをとらない」数字が並ぶ。
 これほどの爆音がなぜ今までとりあげられなかったか。基地所在地新富町における自衛隊の比重の重さが背景にある。実に町の人口(約1万8000人)の1割の数の自衛隊員がおり、家族や縁者を合せると自衛隊に関係のない人をさがす方が難しいのである。ハードルは高かった。
 このような中、2016年11月、防衛省が突如コンター(騒音補償区域の内外・補償の程度を定める境界線)の見直しをする旨の報道があり、住民の不満が爆発した。特に大きな影響を受ける西都市議会が「飛行差止めの運動も辞さない」旨の議会決議をするなど厳しく反対の声が上がった。毎年実施される「航空ショー」に来賓として招待されていた周辺2市3町の首長が参加を拒否するなど断固とした姿勢が示された。このような流れを受けて、全国爆音訴訟弁護団事務局長の神谷誠弁護士を迎えて講演会、意見交換会を行うなどし、一気に訴訟の機運が盛り上がった。
 2017年1月に正式に弁護団を立ち上げた。興味を示す若手弁護士が手を挙げてくれ、実働として常時20名以上の弁護士が活動してきた。弁護団のうち15名が60期台という清新な構成となっている。
 全国の先行訴訟に学び、とにかく事実を積み上げることを心掛けた。全世帯を分担してまわり、訴えを陳述書にまとめた。健康被害については、個別にアンケートをとり、難聴、高血圧、睡眠障害等、個別に集計をとって、実情を訴えた。騒音測定器を購入して、代表的な原告の自宅を何回も訪問して、測定を実施し、報告書にまとめた。弁論期日では、毎回原告の意見陳述を求めた。裁判所が「またですか」とやや消極的な発言をするようになっても求め続けた(笑)。現地進行協議も行い、裁判官に実際に爆音を体験してもらった。
 全国の裁判にならったもので特別新しいことをしたわけではないが、とにかく事実を身近に感じてもらうことに執着した。
 提訴から3年6カ月を経た2021年6月29日、判決が言い渡された。最も重視した差止めは認められなかったが、住民の精神的損害については、先行訴訟の到達点をほぼ踏まえたレベルで認容された。自衛隊の戦闘機の騒音が「違法」と認定されたのだ。
 一部認定されなかった原告もおり、思い半ばではあるものの、田舎の爺ちゃん、婆ちゃん達が周りに気を使いながら恐る恐る立ち上がり勝ち取った「勝利判決」だった。
 これまで裁判や運動など全く関わったことのない原告団の一人が、判決後次のように語りかけてきた。「冷ややかに見ていた人達から『やったね』『すごいね』『国に勝てるんだね』と言われた。ここまでやってきてよかった~。これまで取材を受けても匿名にしてもらっていたがもうそんな必要はない。これからは名前を出してもらいます」
 まだまだ道は長いが、これからも原告団と闘っていけるという確信を弁護団も共有している。
 全国に多くの自衛隊基地があり、そこに住民がいる。「沖縄の基地機能の一部移転」と称して、米軍による基地利用が企まれている。新田原では米軍弾薬庫の建設が進み、最新鋭のステルス戦闘機の配備も強引に進められようとしている。この裁判を機に、全国の自衛隊基地で次々に爆音訴訟が取り組まれ、これらの動きに楔を打ち込むことを願っている。

 

不当判決!ベトナム人技能実習生死産児「死体遺棄」事件

熊本支部  石 黒 大 貴

1 事案の概要
 この事件は、技能実習生のベトナム人女性のリンさんが、妊娠発覚による強制帰国を恐れて妊娠を誰にも言えないまま、海沿いにある実習先のみかん農園の寮で、孤立出産した末、死産した双子の赤ちゃんの遺体を、段ボール箱に入れて自室の棚上に放置したという死産当日の行為が死体遺棄罪にあたるとして起訴された事案である。
 具体的には、以下の行為が遺棄に該当するか問題となっている。
①2020年11月15日午前9時頃に自室で出産したわが子の遺体をタオルを敷いた段ボール箱に入れ、さらにタオルをかぶせた上で、②わが子の名前を考え、③生年月日、名前、お詫びの言葉、「ゆっくり休んでください」との弔いの言葉を書いた手紙を同封し、④死産した布団のそばにある腰の高さほどのキャビネットの上に置き、一晩遺体とともに過ごしたという一連の行為である。
 逮捕直後から、県内の外国人支援団体が支援を開始し、私選弁護に切り替えるとともに、保釈後に私と久保田紗和団員を含む弁護人3名の弁護団が結成され、無罪を目指している。
 リンさんの在留期限は2021年8月までとなっており、迅速な審理が要求されていたため、弁護人からの請求により公判前整理手続に付され、5回の整理手続が実施されたあと、6月21日に被告人質問、7月13日に論告・弁論が実施された。
2 事案の背景〜技能実習生を取り巻く過酷な環境〜
 妊娠・出産を理由として技能実習生を解雇することや帰国させることは法律により当然禁止されている一方で、技能実習制度適正化法が施行された2017年11月から約3年間で637件の妊娠・出産を理由とする実習継続困難事例が報告されており(厚生労働省調査)、全国的にも技能実習生による新生児の死体遺棄事案が多発している。また、技能実習機構や入国管理局も、妊娠・出産を理由とする不利益取り扱いの禁止を周知する通知を繰り返し出していることからも、現実に技能実習生が妊娠した場合には、監理団体や実習実施者から退職や帰国の勧奨行為が横行していることが容易に推測できる。リンさんも監理団体や雇い主から、妊娠した場合にどうすれば良いのか説明を受けていなかった上、SNSを通じて、多くの強制帰国事例を目の当たりにし、死産の2日前には、「妊娠したら大変だからしないように」と監理団体から注意を受けたこともあった。
 この法律と現実の著しい乖離は、実習生の妊娠・出産を前提に設計されていない技能実習制度の根本的な制度的欠陥が原因であることは明らかであり、現実には技能実習生を労働力搾取の対象としてしかみていない技能実習制度の存在意義が大きく問われている。
3 検察官・弁護人の主張
 検察官は、彼女の一連の上記行為が「葬祭義務」に違反すると主張し続けていたが、論告時に死産の事実を隠すために遺体を「隠匿」したと主張した(なお、公訴事実や証明予定事実記載書にも遺体の隠匿については記載されていない)。
 これに対し、弁護人は、①彼女の行為は、体力回復後の埋葬を前提とした遺体の「安置」であること、②故郷ベトナムでは、土葬文化が定着しており、彼女には埋葬の意思があったことから、故意が否定されること、③死産直後の母体の過酷な状況から、葬祭義務の履行可能性がないことを柱として主張した。
 また、④検察のいう「葬祭義務」は、遺族等に課される慣習上の義務とされているが、義務の具体的な内容が明らかでないことから、死産当日に、リンさんが何をすれば罪に問われないのか明らかになっておらず、内容が不明確な葬祭義務違反で有罪とすることは、罪刑法定主義にも違反することも主張している。
 これらの主張を支持する証拠として、意見書を2通提出している。1通目は、ベトナム保健省通達をはじめとし、家庭内の遺体の保管方法に関するベトナム国内法の知見から、本件行為が違法とされていないことについて述べられたベトナム人弁護士による意見書である。
 2通目は、死産直後の過酷な状況下で、リンさんにどこまでの行為が期待できたのかという点や産婦人科における死産児の取り扱い(紙箱で安置する方法)について、「こうのとりのゆりかご」で知られる慈恵病院院長の蓮田健医師の意見書を提出した。蓮田医師は、異国の地で言葉も地理も社会システムもわからずに独りで出産し、かつ手元にある限られた品々で埋葬の準備を行なった彼女を罪に問うのは病者に鞭打つ行為に等しいと述べ、本罪が成立すれば、孤立出産で死産となった場合に、当日中に行動を移さなければ罪に問われてしまうことへの危惧を表明した(蓮田医師を証人として証拠調べ請求をしたが、裁判所の強い抵抗に合い実現できなかった)。
 これらの意見書とともに、裁判所には、彼女がわが子の遺体と一緒に「一晩」過ごしたことが、死体遺棄罪の保護法益である「死者に対する社会的風俗としての宗教的感情」を侵害したといえるのか、刑罰の謙抑性という観点からも、真正面からの審理と無罪判決を求めた。
4 210720熊本地裁判決
 熊本地裁判決は、刑法190条が国民の一般的な宗教的感情を社会秩序として保護するとした上で、埋葬の意思があっても、死産をまわりに隠したまま、私的に埋葬するための準備であり、正常な埋葬のための準備ではないから、国民の一般的な宗教的感情を害する放置であることは明らかであるとして、本罪の成立を認めた。
 一方で、リンさんには埋葬の意思があったことを認定し、リンさんの行動については、わが子を丁寧にタオルでつつみ、名前をつけ、丁寧に段ボール箱に入れており、わが子を愛おしむ気持ちがあったとまで認定した。
 判決では、将来的に私的埋葬を行うことを前提とし、自宅に保管し続けることが正常な埋葬のための準備とはいえず、一般人の宗教的感情を害することが明らかであるとして、遺棄の成立を認定した。
 また、期待可能性についても、死産当日の母体についても厳しい状態にあったことは認定したが、少なくとも死産当日に周囲に助けを求めることはできたという孤立出産を強いられた複雑な背景事情について考慮しない判断を下した。
 なお、量刑の理由においては、妊娠した技能実習生が実習をやめて帰国に追い込まれてしまうこと、そのような状況を十分にサポートする制度がないという妊娠・出産した技能実習生に対する制度的不備を認めており、かかる点に限れば、本判決には一定の意義があろう。
5 控訴審へ向けて
 熊本地裁判決の大きな問題点は、母親の具体的行為と遺体と一晩過ごしたという客観的な行為態様そのものではなく、母親の内心にあった未実施の「私的埋葬」の準備と評価した上で、「国民の一般的な宗教的感情」という社会秩序が侵害されたと認定している点である。これは実質的に、死体遺棄の予備罪を認めているに等しく、本判決によって本罪の遺棄の概念が際限なく広がることが大きく懸念される。
 控訴審では、死体遺棄罪の法令解釈を真正面から争い、必ず無罪判決を獲得する。外国人、日本人を問わず、孤立出産状況下の母親たちが死産に至った場合に、束の間の休息やわが子と共に過ごす時間を認めずに、逮捕する社会にしてはならない。そうではなく、様々な「事情」を抱え、孤立出産に追い込まれる母親たちを保護する社会であってほしいと心から願う。

 

妨害をはねのけ、「表現の不自由展かんさい」を開催

大阪支部  藤 木 邦 顕 

「表現の不自由展かんさい」を計画
 2019年に愛知県内で開催された「あいちトリエンナーレ」の一部として、「表現の不自由展」が予定されたが、右翼とこれに呼応した河村たかし名古屋市長の反対に煽られて、ガソリン携行缶をもってお邪魔するという悪質な脅迫メールがあり、ついに一旦中止となったことは、団員の皆様も記憶されているところと思う。この件では、愛知県支部の中谷雄二団員を中心に、妨害禁止等の仮処分申立てがあり、ついに和解によって「あいちトリエンナーレ」の中で「表現の不自由展」が開催された。2021年になって、内容を少し変えながら、東京・名古屋・大阪で独自に「表現の不自由展」を開催する計画が進められた。2019年の表現の不自由展で攻撃の対象になった「平和の少女像」「昭和天皇コラージュ」はいずれも展示内容に含まれていた。
団大阪支部への協力要請
 上記のとおり、大阪での開催は「表現の不自由展かんさい」と名付けて計画され、2021年3月6日には、実行委員会の一員である労働組合が申請者になって、7月16~18日の日程で府立労働センター「エル・おおさか」ギャラリーの利用承認を得ていた。
 実行委員会は、労働組合やコリアNPOセンターなどの団体と個人によって組織されており、教科書問題でつながりのある実行委員会のメンバーが団大阪支部に開催時の会場防衛問題での協力を要請し、5月25日、主催者と会場防衛について打ち合わせをした。実行委員会は、6月15日から「表現の不自由展かんさい」の開催を公表し、そのころからネット上での右翼の動きがあったが、6月22日の会場防衛打ち合わせでも、会場利用承認取り消しはないだろうという読みであった。
ギャラリー利用承認取り消しと執行停止決定
 ところが、6月25日になって、突如エル・おおさか指定管理者から実行委員会に対し、利用承認取消しの通告がなされた。これに対し、6月26日、実行委員会は利用承認取消処分について、取消訴訟と執行停止申立をすることを決定し、団支部三役(支部長の私・愛須幹事長・岩佐事務局長)に加えて、大阪社文センター事務局長が申請者の労働組合の関係で加わった。弁護団は、6月29日に本訴訴状、執行停止申立書、疎明資料の検討をして、6月30日、大阪地裁に取消訴訟提起および執行停止申立をした。裁判所からは、指定管理者からの反論書は7月6日正午まで、申立人の反論は7月7日正午までとし、審尋はしないとの連絡があった。ただし、2019年あいちトリエンナーレの経過についての資料がないかという連絡が別途あった。これについては、私から中谷団員に連絡をとり、仮処分申立書と和解をした審尋調書をいただいて提出した。
 7月8日、名古屋市で開催されていた「表現の不自由展その後」の会場に破裂物が郵送されてきたとの理由で名古屋市が管理する会館全体が休館となり、不自由展も残期間の開催ができなくなった。この件につき、指定管理者は期限後であるが、報道を疎明資料として提出した。7月17日の団全国常幹での名古屋からの報告によれば、ギャラリーなどは閉館されたが、同じ建物にある区役所は平常通りの業務をしており、警察の広報でも破裂物による被害はなかったということであるから、きわめて意図的な閉館であったようである。
 7月9日、大阪地裁がギャラリーについて利用承認取消処分の執行停止を決定した。これに対し、吉村知事は不服として即時抗告する意向を早々と表明した。
 7月12日、指定管理者が大阪高裁に即時抗告。ただし、執行停止決定の効力は変わらないので開催を前提とした主催者との協議には応じるとのことで、13日に双方代理人も参加して警備体制などについての打ち合わせをした。
 7月14日、労働センターに後にただの水と判明する液体がサリンをまくという脅迫状とともに郵送されてきた。この件についても指定管理者側は写真を疎明資料で提出した。
 7月15日、大阪高裁が即時抗告棄却を決定したが、知事はなおも最高裁の判断を仰ぐと表明し、事実、特別抗告の申し立てがされたが、最高裁第三小法廷は、7月16日に記録到着から45分で却下決定を下した。
表現の不自由展開催
 7月16日から18日に「表現の不自由展かんさい」は開催された。右翼の妨害を予想して、実行委員会側の自主警備には約120人が参加し、20人の弁護士が交代で会場と整理券引き渡し場所、手荷物検査場所で見守りを行った。右翼は労働センターの向かい側で10人程度が期間中入れ替わりハンドマイクで宣伝したのと、街宣車10台程度がときどき通る程度であった。警察は労働センター東側の道路を封鎖し、会館周辺に制服・私服併せて100人程度を配置して労働センターには近づかせないようにした。各種市民団体や個人が独自に大阪府や府警本部に妨害をやめさせろと申し入れをしていたとのことである。組織だった街宣以外に、整理券なしで会場に入ろうとした右翼関係者らしき人物がいたが、自主警備側に阻止された。
執行停止決定の理由
 一旦利用承認を受けたギャラリー使用を、反対者が妨害行為をするからと言って取り消すには、当該催し物の開催によって他の基本的人権が侵害され公共の福祉を害する差し迫った危険が具体的に予見されることが必要であるというのが、最高裁平成7年3月7日判決(泉佐野市民会館事件)以来の裁判所の態度であり、本訴および執行停止申立でもその点を主張した。執行停止決定および抗告審決定は予想どおりであるが、
「本件労働センターは公の施設であり、その利用に不当な差別をしてはならない。利用を拒むのは、当該施設の利用によって他の基本的人権が侵害されたり、公共の福祉が損なわれたりする場合である。管理者が正当な理由もなくその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由・表現の自由の不当な制限につながるおそれがある。管理上の支障は、反対者の抗議活動に起因するものである。催し物それ自体は表現の自由の一環としてその保障がおよぶ。反対者の抗議活動で利用が拒めるのは、警察力をもってしてもなお混乱を防止できない特別な事情があるときである。」(地裁決定)
 「主催者が催物を平穏に行おうとしているのに、その催し物の目的や主催者の思想信条に反対する他のグループ等がこれを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことは憲法21条の趣旨に反する。」(抗告審決定)として、これを採用した。
集会の自由・表現の自由を守るために
 2005年8月に全教の全国教研集会が大阪市中央体育館を中心に開催され、そのときにも大阪市が一旦承認していた体育館の利用を取り消したことがあった。その際も大教組弁護団で執行停止決定を得たが、当時予想された右翼の行動は、街宣車200台を全国から動員し、会場周辺の歩道でも多数の反対活動が予想されるというものであった。これに比べれば、今回の不自由展に対する妨害行動は各段に規模が小さいものであるが、今後は裁判官も世代交代があり、妨害行動を過大評価するかもしれない。特に「爆発物を送る。」「サリンを撒く」などの個別的な脅迫行為があった場合に、裁判官が具体的な危険があるとみることもあり得るところである。これに備えるためには、妨害をはねのけて集会の自由・表現の自由を守った実例を積み重ね、その経験を承継することが重要である。今回の大阪での予定通りの期間の開催は、全国的にも重要な成果であり、団通信としては、長文であるが、ご報告する次第である。

 

フジ住宅ヘイトハラスメント裁判(前編)
ー人種差別的資料及び原告個人攻撃資料の配付差止を追加した控訴審が終結ー

大阪支部  安 原 邦 博

 フジ住宅ヘイトハラスメント裁判の控訴審が本年(2021年)7月14日に終結し、その判決が11月18日に大阪高裁で言い渡される予定である。本稿では、前半で一審判決までの経過を振り返り、後半で、この1年間についての報告をする。
1 フジ住宅ヘイトハラスメント裁判の一審判決までの振り返り
(1)提訴まで(フジ住宅社内での人種差別的資料の大量かつ継続的な配布等)
 大阪に本社を置くフジ住宅(株)は、代表取締役今井光郎会長の指揮のもと、遅くとも2013年頃から、社内で全従業員を対象に人種差別的資料を大量かつ継続的に配布している。それらは、中国・韓国・朝鮮の国家や政府関係者を強く批判したり、在日を含む中韓朝の国籍や民族的出自の者に対して「死ねよ」「嘘つき」「卑劣」「野生動物」などの文言を用いて激しく人格攻撃を加え侮辱したりするものである。また親中・親韓派の特定の議員・評論家に対して「反日」「売国奴」などと侮辱したり、日本の国籍や民族的出自の者を賛美して、中韓朝に対する優越性を述べたりするものである。
 さらにフジ住宅は、地方自治体における中学校の教科書採択にあたって、育鵬社の教科書が採択されるようアンケートを提出する等の運動に全従業員を動員していた。
 会社のこれら行為によって、フジ住宅に十数年勤務する在日コリアンである原告は精神的苦痛を被っていた。そのため、原告が同社に対し改善申入れをしたところ、驚くべきことに、同社は原告に対し退職勧奨をしたのである。原告は、2015年8月31日、フジ住宅及び今井会長に対し損害賠償を求める訴訟を大阪地裁堺支部に提起した。
(2)提訴後(フジ住宅による自己正当化、原告への報復)
 フジ住宅は、本訴訟提起後も変わらず、人種差別的資料を社内で大量かつ継続的に配布している。フジ住宅は、提訴直後の2015年9月、原告を「温情を仇で返すバカ者」「哀れで愚かで、本当にムカつきます」「在日韓国人は新規採用しないでおこうという暗黙のルールができるようにも思えます」などと非難する、約90名にもおよぶフジ住宅従業員が作成した文書を社内で全従業員(当然原告も含む。以下同じ)を対象に配布する等、原告への報復を始めた。
 さらにフジ住宅は、2017年春から、自社HPのトップページに「訴訟に関する弊社の考えと原告支援団体の主張に対する反論」というバナーを作り、「原告の訴えが全部認められれば、……我が国は『暗黒時代』になる」「原告が一刻も早くご自身の誤りに気づき、訴えを取り下げられることを期待しています」などとするブログを立ち上げた。それに加えて、「支援者」ら(実際は今井会長が代表理事を務める法人から金銭を交付されている者ら。一般社団法人今井光郎文化道徳歴史教育研究会HP参照)が本訴訟を「反日裁判」などと非難してフジ住宅のため裁判傍聴支援等を呼びかけるブログ(gekiokoobachan.jp、huji1.jugem.jp等)の印刷物やデータも全従業員を対象に配布し、自己正当化と原告への報復(人種差別もしばしば伴う)を執拗に継続している。
(3)一審判決(大阪地裁堺支部による断罪)
2020年7月2日、大阪地裁堺支部は、フジ住宅及び今井会長に対し、連帯して原告に110万円を賠償するよう命じ、その際、被告らの行為(人種差別的資料の配布、教科書採択運動への従業員の動員、及び、訴訟提起をした原告への報復)の違法性を厳しく批判した。
(後編に続く)

 

「雇用によらない働き方」関連事件対策 全国会議に参加して

東京支部  大 井 淳 平

 はじめまして、今年1月に代々木総合法律事務所に入所した新人団員で73期弁護士の大井淳平と申します。 
 6月18日の「雇用によらない働き方」関連事件対策全国会議に参加して、印象に残ったお話や個人的に考えたことを拙いながら書きたいと思います。
 菅俊治団員より、現在東京都労働委員会に団交拒否の不当労働行為救済申し立てがなされている、ウーバーイーツ配達員の労組法及び労基法の労働者性について報告がありました。
 菅団員にはウーバーイーツ配達員の基本的な働き方からその込み入った契約関係、現在論点となっている労働者性の判断要素について簡にして要を得た整理をしていただき、大変勉強になりました。ウーバーイーツのケースに限らず、今後新しい働き方に対して、いかにして必要な保護を勝ち取るかについて考えるうえでとても参考になる、大変示唆に富む実践的なお話でした。新人団員として今後、新たに出てくるであろう「雇用によらない働き方」の問題に立ち向かっていくためにも、考えておかなくてはならない問題であると再認識いたしました。先日の5月集会における橋本陽子先生のお話にもあった、「事実上の拘束性」などの考え方により日本においても労働者性を認め、早急に必要な保護が及ぼされるべきです。
 清水亮宏団員からは、ヤマハ英語講師の方々の労働組合結成を支援し、雇用化を勝ち取った際のお話がありました。実際の働き方と契約形態とのズレを「おかしい」と感じた当事者が団結し、団体交渉により雇用化を勝ち取っていく過程のダイナミズムに大変感銘を受け、希望がもてるお話でした。「組合離れ」といわれる昨今ですが、「雇用によらない」不安定な働き方が増えているからこそ、一層、働く人々が団結し、団体交渉の中で働き方、待遇の改善を求めていくことが重要であるといえます。その後、ヤマハ音楽講師の方々も労働組合を結成したということで、コロナ禍の中ではなりますが、その波がSNS等を通じて社会全体に広がっていってほしいと思います。また、私自身も諸活動を通してその波を広げていきたいと思います。
 その一方、立法や行政権限の発動等、労働法による保護の拡充を求めていく中で、どの程度、当事者の意思、ニーズを考慮していくかについて議論がありました。
 当事者の中には「自由な働き方がいいということで現在の働き方を選んでいる。労働法による労働者としての保護も現在のところ必要と感じていない。」という方もいらっしゃるかと思います。
 私の理解する限り、当事者の方が必要であると感じている保護を求めていくことは当然であるといえますが、それだけでよいかという問題提起であったかと思います。
 当事者の方自身が現在必要と感じていなくとも、解雇や労災等、問題に直面することによりはじめて労働法の保護の必要性を痛感するということもあろうかと思います。
 また、労働法は本来、当事者の意思にかかわらず、使用者の指揮命令権に対する規制を及ぼすものでした。
 なので、私としては、少なくとも、当事者の方が必要であると感じている保護の獲得を求めるだけでなく、マクロ的視点に立って、本来労働者に及ぼされるべき保護の拡張を求めるたたかいが重要であると考えています。
 今回で全国会議への参加は2回目となりました。諸先輩団員が実際に取り組まれている事件についての意見交換から立法論、運動論に至るまで、幅広く、多角的な視点で「雇用によらない働き方」の問題について検討することができ、大変充実した会議となりました。
 まだ入団して6か月ではありますが、先輩団員の深い見識に裏打ちされたお話を聴き、意見交換させていただくことができて、大変勉強になりました。今後とも積極的に参加させていただきたいと思います。

 

団創立100周年記念出版事業・編集委員会日記(6)

神奈川支部  中 野 直 樹

団物語の原稿づくり
 団物語は5部構成・30テーマで、33名の団員に主執筆を引き受けていただいた。さらに団本部事務局次長経験者14名を5部構成に対応する5つのサポートチームに分けて、原稿の督促管理、原稿への意見だし、最終稿の校正作業等をお願いした。出版事業の経験の継承も意図した。しかし、現実には、編集委員会の方でサポートチームとの連携をうまく機能させることができず、サポートチームの皆さんに十分に力を発揮していただけたろうか、私としてはやや心残りがある。
 2020年3月から12月にかけて、各主執筆者との間で編集委員会からの意見出しと修正の作業が繰り返された。そして12月11日に完成稿18本を日本評論社に入稿し、21年1月13日に3本を入稿して30本が出そろった。これを踏まえて、私は「はしがき」「あとがき」を起案した。「はしがき」については、団将来委員会のMLに流して貴重な修正意見をもらった。
ゲラ校正作業
 団と日本評論社の方で協議をして大容量クラウドをつかって団物語、100年史のゲラの校正作業管理をすることとした。ゲラの校正作業は全原稿につき3サイクル行われる。この作業は日本評論社と主執筆者との直接の関係で進められた。この過程で、百年年表を担当されている荒井新二さんから、団物語と100年史に登場する出来事と年表の記述との整合性のチェックの要望が入った。この作業には、大阪支部の岩田研二郎さんが参入し、ついでに団物語のゲラ校正もしていただいた。入稿前に幾度もチェックをしていたが、それでも誤字・誤記が潜んでいる。
 校正作業と並行して本のタイトル、表紙カバー、帯のキャッチコピーを決めて、2021年4月19日に校了、印刷所にはいった。
「自由法曹団物語  人間の尊厳をかけてたたかう30話」
 5月10日見本紙が出来上がり、その1週間後に2500部が発行された。私は当初鞄に入れて持ち運びができる厚みとして25話・300頁少々が理想と考えたが、30話と欲張ることとなり、400頁本となった。やや重量感がある。
 30話は様々な分野における時代の困難と前進を取り上げ、そこで理不尽に苦しめられ、正義の実現と権利獲得に向けて格闘する当事者、団員、支援運動の姿を描き出している。原稿は皆力作である。ドキュメンタリーとしての水準は申し分ないものとして仕上がったと思う。あとは読み物としてのおもしろさ、はどうだろうか。
2つの最高裁闘争
 30話の中には、弁護士もあまり経験することのない最高裁闘争まで及んでいる事件がいくつもある。このなかの「アスベスト訴訟の闘いー泉南国賠訴訟から建設アスベスト訴訟へ」(大阪支部の村松昭夫弁護士)、「福島第一原発事故の責任追及と被害救済に立ち上がった人々」(福島支部の鈴木雅貴弁護士)の2つの弁護団に私も参加している。いずれも多数の原告が全国の裁判所に国の法的責任を問う集団訴訟をおこしている大型訴訟である。追及している国の法的責任は、規制行政庁が適時にかつ適切に規制権限を行使しなかったことが国賠法1条1項の適用上違法になるという筑豊じん肺訴訟最高裁判決(04年)に依拠した法的主張である。
山下登司夫弁護士(故人)から受けたバトン
 山下弁護士(1971年弁護士登録・団員)は40年以上にわたりじん肺の被害救済に尽力され、2008年提訴の首都圏建設アスベスト訴訟の大黒柱として奮闘されてきた。前号の団通信・建設アスベスト特集で、森孝博さん(東京支部)が、山下弁護士が道半ばにして急逝されたことに触れている。
 山下弁護士は、最高裁判決が国の規制権限不行使の国賠法上の違法性について判示している抽象的な判断枠組みの先に、事案ごとに規制権限の根拠法令の趣旨、保護されている利益の憲法上の価値の位置づけ等についてどのような利益考量をしているのか、それに基づいてどのような司法判断基準をとっているのか、を探究された。そしてとりわけ働く者の命と健康を守ることを目的とする労働関係法令に基づく規制権限の行使における司法判断基準としては、厚生労働大臣に広い裁量を認めるべきではない、との主張を強くしつこく繰り返した。泉南アスベスト1陣訴訟では大阪高裁でまさかの逆転敗訴して背水の陣で臨んだ最高裁闘争で、山下弁護士も応援に心血を注がれ、再逆転勝利を勝ちとった。建設アスベスト訴訟では、山下弁護士の探究は国に対する連続勝利にとどまらず、労働基準法上の労働者でない一人親方・零細事業主も労働関係法令の保護対象として救済されるという最高裁判決に結びついた。
 私は建設アスベスト訴訟で、山下弁護士から「規制権限不行使」論を学んだ。その後に参加した原発被害救済裁判(生業訴訟)でこの応用を担当することとなった。ありがたいことに山下弁護士は生業訴訟弁護団に加わることとなり、全国弁連の会議においても、原発の安全規制法令に基づく規制権限不行使の違法性判断における司法判断基準の総論を強くしつこく主張し、裁判官にすり込んでおくことの大切さを強調された。
 原発被害救済国賠訴訟では、現時点では、国の責任を肯定する判決と否定する判決が拮抗するという楽観できない状況である。私を含め生業弁護団のみるところでは、山下弁護士が強調してやまなかった、原発安全規制法令の趣旨、保護法益の価値(憲法13条)から行政庁の裁量を狭める司法判断基準を裁判所にとらせているかどうかで勝敗が分かれている。
 現在、国の責任を認めた仙台高裁判決(生業1陣訴訟)、東京高裁判決(千葉1陣訴訟)、否定した東京高裁判決(群馬訴訟)が最高裁第二小法廷に係属している。山下弁護士のバトンを建設アスベスト訴訟勝利確定から原発被害救済訴訟勝利確定になんとしても引き渡したい。2つの物語を読みながらそのことを考えた。

 

幹事長日記―その2―
『世界は少しぼやけている』

 東京オリンピックの開会式の夕方、何となくそこから最も距離のある場所に身を置きたいと思い、かねてから観たいと思っていたビリー・アイリッシュのドキュメンタリー映画『世界は少しぼやけている』を立川まで観にいってきた。はるばる立川まで行ったのは、その日立川でしか上映していなかったからで、特別な理由はない(正確にいうと、吉祥寺でも上映していたが、朝9時からだったので、論外だった)。
 ボクは元来ギターバンドが好きで、ロックの持つ爽快感、疾走感、高揚感(しかしこれらはあくまでも内省的なものに裏打ちされていなければならぬ)を好んでいる。そのど真ん中にあるのはEストリートバンドと組んだ時のブルース・スプリングスティーンであり、ちょっと古いがU2やオアシス、アークティックモンキーズであったりする。
 ビリー・アイリッシュは内省的であることを除けば、これらとは真逆である。ロックのカタルシスとはおよそ無縁で、むしろ不安であり不協であり、かつ危うさが溢れ出ていて、息苦しいほどの感傷にいざなわれていく。でもどういう訳か、彼女にものすごく惹きつけられるのだ。2020年のグラミー賞の主要部門を総なめにしたbad guyのPVの独特の映像やあの印象的な間奏のフレーズ、2021年のグラミー賞のeverything i wanted、007のテーマ曲No Time To Die、それぞれテイストは異なるがどれも圧倒的に心を揺さぶられる。この号が届くころには2ndアルバムがリリースされているはずで、ここでもまた違った彼女が表現されているに違いない(ビジュアルだけでもトレードマークだったネオングリーンの髪はプラチナブロンドに変わり、白目を剥いた風のカラコンを入れたエクソシストのようなジャケットは、憂いを帯びたバストショットになっている)が、根底にある不安定さはきっと変わっていないだろう。
 さて映画であるが140分もの上映時間のほとんどすべての間、ボクの心臓は強く脈打っていて、ずっと胸が締め付けられるような感覚に支配されていた。それは彼女自身の不安定さを何ら包み隠すことなくさらけ出していたからに他ならない。そして、この10代の彼女の不安定さが、ボクの自身の不安定で未熟な心を思い切り揺さぶるからなのだ。
 かつて高野悦子は『20歳の原点』の中で、「独りであること、未熟であること。それが私の20歳の原点である。」と書いたが、現在のオレのおっさんの原点もこれと大差ない。揺るぎなき安定を手にすることができればどれ程いいだろうかと思うが、実際は未だに迷ったり悩んだりばかりで、未熟で不安定なままなのだ。だから彼女に激しく共鳴してしまう。
 ビリー・アイリッシュもいつか揺るぎなき安定を手にする時が来るのだろうか。自己肯定感に溢れた彼女の音楽がどのようなものなのか、それはそれでとても気になる。

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