第1780号 7/1

カテゴリ:団通信

【今号の内容】

~5月集会・感想(その3)~

◆生活保護を「解体」するという衝撃的発想~5月集会貧困社会保障問題分科会を聞いての感想~  河田 布香

◆5月集会「差別問題分科会」に参加して  長谷川 拓也

◆国際分科会に参加して  菊池  遼

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●京都市に民間委託先の労働組合との団体交渉を命じた京都府労委命令~福祉保育労学童保育児童館支部の闘い~  大河原 壽貴

●中学校校則・制服と子どもの人権―民事調停の顛末  楠本 敏行

●2022年九州ブロック総会を開催しました!!  池上  遊

●団の安全保障政策について  梶原 守光

●本誌1778号を読んで  木村 晋介

●憲法改悪反対!街頭宣伝のご報告  林 美乃里

●ご挨拶と国会行動を終えての感想  前田 ちひろ

~委員会活動へのお誘い~

●構造改革PTの紹介  本田 伊孝

●市民問題委員会の紹介  瀬川 宏貴

■【書評】「ウトロ ここで生き、ここで死ぬ」(中村一成著 三一書房)を勧める(上)  神原  元


 

*5月集会・感想(その3)*

 

生活保護を「解体」するという衝撃的発想~5月集会貧困社会保障問題分科会を聞いての感想~

岡山支部  河 田 布 香

 私は、今年自由法曹団に加入したばかりの超・新人です。初めての5月集会で、どの分科会に参加してみようかとワクワクしていたところ、貧困社会保障問題が目に留まりました。
 弁護士として働く中で、貧困の問題に直面することは数多くあります。貧困故に犯罪に手を染めてしまったり、生活費のために借金を重ねてしまったり…。誰か身近な人を頼れなかったかと聞くと、既に身内からもお金を借りているとか、身内にもお金がないとか、そもそも連絡を取れる身内がいないとかいう返答が返ってくる。お金がない、そして一度崩れたときに頼れる周囲もいないというのが貧困の背景にあると深く感じさせられます。福祉の力を借りようにも、生活保護の水際対策は大変厳しいものです。
 そんなわけで、貧困社会保障問題分科会に参加させてもらうことに決めたのでした。そして、分科会の内容は大変衝撃的なものでした。
 講師の岩田正美先生が準備してくださったパワーポイントのタイトルは、「なぜ生活保護を解体するのか/解体してどうするのか」というものでした。この時点で、生活保護を解体する?無くしてしまうということだろうか?と驚きました。
 もちろん、単純に生活保護を無くすという意味ではなく、生活保護制度を解体した後、たとえば住居、教育、日常生活費等のニーズ事に、生活保護に代わる手当を行う、というのが話の肝でした。
先生が言われるには、生活保護は貧困対策として十分に機能していないということ(これは同感です)、何年も昔から生活保護のまずさは指摘されてきており、それでも変わらないので、もう制度自体変えた方がいい、ということでした。そして、この発言は特に覚えているのですが、「現在の生活保護のしくみは、一旦人を裸にして、そのあとに服を着せるようなものです。靴下が無い人に、靴下をはかせることはできない」というものでした。
 この生活保護の仕組みは、2つの意味で国民に保護を受給させにくくしていると思われます。第一に、自分の手元にある資産(家や車など)を保持するために、生活保護の受給を断念するケースがあり得ます。第二に、生活保護の受給とはすなわち「何も持たざる者」であることを意味するので、社会的な恥と感じられ、需給を断念するというケースです。
 生活保護の補足率は概ね2割程度と言われます。多くの国民が生活苦にありながら生活保護を受給できていないということです。
 生活保護を解体し、再生(再構築)するという仕組みは考えたことがなく、衝撃的でしたが、貧困対策を受けやすくなるという意味で、国民にとってメリットの多い、興味深い手段であると感じました。
 また、現在の生活保護制度の問題がどこにあるのか、という点も前提としてご教示下さり、非常に勉強になりました。
 岩田先生、興味深いお話をありがとうございました。制度設計の話ですから、すぐに弁護士業務に活かせるものではないかもしれませんが、しっかり覚えておき、生活保護を巡る問題については意識を高く持っていきたいと思いました。

 

5月集会「差別問題分科会」に参加して

神奈川支部  長谷川 拓 也

1 はじめに
 5月集会にオンラインで参加した。全体会での大変刺激的な議論の後、差別問題分科会に参加することとした。「性」に関する問題、とくに「男性」「女性」のなかにおけるジェンダー不平等に問題を感じており、一弁護士として、僭越にも、取り組んできたためである。
2 李信恵氏、上滝浩子先生のご講演
 分科会では、在日コリアンである李信恵氏及びその代理人を務めた上滝浩子先生より、在特会による在日コリアンに対するヘイトデモやインターネット上での差別発言との闘いについて、ご講演いただいた。
 在日コリアンが過酷な被害を受けていることは認識しているはずであった。しかし、在日コリアンという集団的な属性に対する攻撃を超えて、李氏個人に対する執拗な個別的攻撃が続いていることに一層の憤りを抱いた。
 ご講演によると、李氏に対する個別的な攻撃がエスカレートした背景には、複合差別の構図があるという。つまり、人種差別に加えて、女性差別、とくにマイノリティ女性に対する差別というかたちで、差別の構図が複合的に熾烈化しているとのことである。
 複合差別というワードを聞いてハッとした。そういう問題意識があることは承知していたものの、やはり、今まで、差別というものに対するイメージを、人種、障がい者、ジェンダー等々の問題として、個別的に分断して抱いていた。そのため、冒頭にも述べたとおり、「性」差別について、他の差別問題を意識せず、取り組んできたところは否めない。しかし、実際には、李氏のように、在日コリアンというマイノリティの属性を有する女性に対する差別は、深刻な被害となっているところであり、より一層、個々の差別被害に向き合い、被害を救済するには、各差別問題に注力するだけではなく、各差別問題を横断的、総合的な視点で検討することが必要であることを実感した。つまり、差別問題を取り組むにあたっては、木を見て森を見ての精神が必要ではないだろうか。
 李氏が提起した裁判では、李氏が受けた被害について、まだまだ不十分ではあるものの、複合差別の概念を認めたとのことであり、日本で初めての例とのことである。もっとも、複合差別の概念自体は、真新しい議論ではない。国連では、2000年以前より、「性」差別にマイノリティの属性を加味した複合差別(交差性差別)の考慮が必要であるとなっていたし、実際に、障害者権利条約では、その旨定めているところである。また、女性差別撤廃委員会の勧告においても、複合差別を問題としている例が出て久しい。
 したがって、日本限りでも、歴史的にも根深い問題である部落の問題を始め、在日コリアン、障がい者、LGBTQ+等々様々なマイノリティ属性に対する差別問題があることは言うまでもなく、各々その問題について取り組んできたスペシャリストがいるところであるが、そうした取り組みを共有し、「差別」という不特定多数を相手とした社会的な問題に対峙する枠組みが、今こそ必要ではないだろうか、そのように感じる次第である。当然、差別の問題を一括りに論じることは困難であり、ゆえに、各々、分断した問題として、議論が発展してきたところであるように思う。しかし、少なくとも、ご講演をいただいた李氏のようなマイノリティ女性の被害を適切に理解・分析するためには、単に在日コリアンと「女性」の問題に切り離していては不十分である。ジェンダーの問題に取り組んできた自身としても、そのように実感する内容の深いご講演であった。
3 最後に
 以上、李氏及び上滝先生のご講演の他、各団員による日本社会における様々な差別問題に関する取り組みをお聞きし、自身も大変奮い立つ思いであった。細かな内容については、紙幅の都合上、割愛せざるをえないところであるが、当日のご講演については、団員専用ページより拝聴できるようである。非常に有意義なご講演であったため、是非、確認をいただきたい。

 

国際分科会に参加して

神奈川支部  菊 池  遼

1 はじめに
 皆様、はじめまして。馬車道法律事務所の74期の菊池遼と申します。よろしくお願いいたします。さて、国際分科会の記事執筆の依頼をいただいたので、私の感想も交えながら、皆様に分科会の内容をお伝えしようと思います。
2 入管問題について
 まず1つめの事件報告として、スリランカ人女性死亡事件についての報告がありました。詳細な事実関係については、紙面の都合上割愛しますが、日本の報道では亡くなった事実ばかり報道されるが、彼女がどういう人であったのかという点に焦点を当てるべきではないか、という問題提起が印象的でした。日本では根本的に、在留資格を失った外国人の尊厳に対する意識が低く、それが、収容に際して司法審査が不要という制度や、仮放免も認められにくいという実態に表れているということをお話されていました。急速にグローバル化が進む今日においては特に、外国人の尊厳に重点おいた法制度や実態の見直しが必要であると感じました。
 次の事件報告として、在留資格がないまま日本で暮らす家族に対する退去強制令書発布処分取消請求事件についての報告がありました。3人の子どもたちのうち次女と長男は不法入国した父母のもとに生まれ、長男は重度の障害を持っていたといいます。父母は、長男が父母の出身地では到底生きていくことが困難であることを訴えるも、結果的に裁判では、父母と長男への処分取消しは認めず、長女と次女の2人についてだけの処分取消しを認めました。日本の生活習慣に馴染み、平和に暮らしている家族を引き離してまで日本から追い出さなければならなかったのかという問題提起がなされていました。たしかに、父母は不法入国をしていますが、その子どもは、何の罪もないにもかかわらず、生まれたときから違法とされ、結果、家族は引き離されてしまったのです。私はこの事案を聞き、法務大臣の裁量に対して、個の事情をくみ取ってもらうためにどのようなアプローチをしていくべきかを考える必要性を感じました。
3 外国人の子どもの教育について
 宇都宮大学国際学部の田巻松雄先生に、上記のテーマについての講演をしていただきました。
 田巻先生によれば、外国人の曖昧な受け入れとその後の厳格な管理によって、外国人児童生徒特有の転落状態を作り出してしまうといいます。すなわち、日本は外国人労働者を受け入れる際、その子どもたちも来日することを想定していないため、そういった外国人の子どもたちは、不十分な就学環境(日本人の学校)に投げ込まれて(圧倒的なマジョリティの中に放り込まれる)しまいます。その結果、外国人の子どもたちは自動的に不利な状況に置かれることになり、不法が助長されることになるのです。田巻先生によれば、外国人の子どもが転落してしまう大きな原因は、①外国人の子どもは日本語が不自由というハンデがあるのにその点を配慮せずに日本人児童生徒と同一の教育をさせること、②学齢超過者を学力如何によらず進級・卒業させるため、低学歴のまま社会に出されてしまうことだと説明されていました。この状況を改善するためには「多様な学びの場」が必要であり、定時制高校がこれに当たるといいます。現在の制度の枠組みの中で、少しでも適切な教育を提供する定時制高校を活用しながら、外国人の根本的な教育のハンデをなくすため、初頭教育の段階から、「多様な学びの場」を実現させるシステムを構築する必要があると感じました。
 田巻先生は、このような外国人の子どもたちの問題解決のためには、外国人労働者受け入れ政策の改善と外国人の子どもの教育環境の整備という、労働と教育の両面での課題であると説明されていました。
 以上は、ある外国人の少年の事例をベースにお話していただきました。その少年は、南米で日系人として生まれました。その後来日し、日本人の学校に通っていましたが、勉強についていけず、友人もできず、いじめにもあっていたといいます。中学校に進学したものの、数か月で不登校となり、悪い友人たちとつるんで犯罪を起こし、服役しました。服役中にビザが切れ、不法滞在となり、その後社会復帰を目指して仮釈放されるも、直ちに入管に収容されました。その後、教育環境が原因であることを考慮してもらえることはなく、家族もいない、生活基盤もない国に強制送還されたといいます。
4 まとめに変えて
 私は、今年の5月に入所したばかりで、このような外国人の事件に取り組んだことはまだありません。入管問題についてもニュースで取り上げられたものを目にする程度でした。今回の国際分科会に参加して、そもそもの制度や実態に、在留資格のない外国人の尊厳を十分に考慮してないという根深い問題が存在していることを学びました。
 今回で得た学びを活かして、今後、入管問題をはじめとした外国人の事件にも積極的に取り組んでいきたいと思います。

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京都市に民間委託先の労働組合との団体交渉を命じた京都府労委命令
~福祉保育労学童保育児童館支部の闘い~

京都支部  大 河 原 壽 貴

1 学童保育事業の民間委託と職員処遇実施要綱、33年前の闘い
 京都市は、学童保育所や児童館の運営を民間委託しています。民間委託にあたって、京都市は職員処遇実施要綱(以下「要綱」)を定め、職員の賃金表や昇給に関する措置、手当等の詳細を具体的に示して、委託先に守らせてきました。要綱によって算出された職員の賃金額については、京都市から各委託先への委託料として支払われ、職員の賃金・労働条件は実質的にも確保されてきました。
 まさに、自治体業務の民間委託において、委託先の労働者の労働条件を確保するという公契約の実践がなされてきたのです。
 一方で、学童保育所や児童館で働く職員らが、その運営法人と団体交渉をしても、給与等の労働条件に関する事項については、要綱で京都市が決めているとされて、実質的な交渉ができない状況が続きました。そのため、福保労学児支部等に結集する労働者は、賃上げや勤務条件の改善を求めて、要綱を定める京都市に対して直接の団体交渉を求めました。1989(平成元)年のことです。これに対して京都市は、直接の雇用関係にないことを理由に交渉を拒否しました。
 同年3月、福保労学児支部等は、京都市の団体交渉拒否について不当労働行為救済申立てを行いました。審問手続きを経て、和解協議が進められていた中、同年9月7日、京都市は団体交渉に応じることを自ら認めました。
 それ以後、2019(令和元)年に至るまでの約30年間、京都市は福保労学児支部等との団体交渉を毎年行い、賃金表の改定や、手当の創設などの具体的な労働条件に関する交渉を行ってきました。
2 再度の団体交渉拒否と不当労働行為救済申立
 2020(令和2)年、コロナ禍で緊急事態宣言が発出されるなどする中、京都市と福保労学児支部等との団体交渉も延期を余儀なくされていました。その中で、同年4月、京都市は、要綱を「人件費算定基準に関する要綱」と変え、委託料算定を通じて、職員の労働条件にも重大な影響を及ぼす変更を、福保労学児支部等に何らの打診も交渉もなく、一方的に行ってきました。これに対し、福保労学児支部等が団体交渉の申し入れを行ったところ、京都市は、まるで30年前に遡ったかのように、直接の雇用関係にないため、団体交渉に応じる義務はないと回答してきたのです。
 京都市の団体交渉拒否に対して、福保労学児支部等は、同年12月23日、再び、不当労働行為の救済を申し立てました。
 京都府労委の審問においては、それまでの団体交渉の記録と、長年団体交渉に携わってきた組合役員の証言によって、30年にわたる団体交渉の具体的な交渉内容や、それによって勝ち取られてきた職員の労働条件が具体的に示されました。また、当時、京都市の担当係長(後に課長)として団体交渉に応じてきた元京都市職員の方が組合側の証人として出廷され、京都市の認識としても労使関係にあり、団体交渉であった旨を証言されました。
3 京都市に一部団体交渉を命じる京都府労委命令
 2022(令和4)年6月1日、京都府労働委員会は、福保労学児支部等のうち「京都市学童保育所管理委員会」(以下「管理委員会」)という委託先団体で働く労働者について団交応諾義務を認め、京都市に対して団体交渉に応じることを命じました。
 本件は、京都市は直接の雇用主ではないことから、労働組合法上の使用者性が主たる争点として争われました。その点については、「雇用主以外の事業主であっても、当該労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合」と、朝日放送事件最高裁判決の限定的な判 断基準にとどまっています。その上で、「管理委員会」以外の法人について、要綱の一般的な拘束力を否定し、それぞれ独立の法人であること、法人によっては要綱で定める以外の手当を支給していることなどを理由に、京都市の使用者性を否定しました。
 それでも、「管理委員会」で働く労働者については、1989(平成元)年の闘いを通じて京都市が自ら団体交渉に応じ、労使関係にあることを認めたことや、その後30年にわたる団体交渉が行われてきたこと、「管理委員会」においては要綱によって自動的に労働条件が定まる構造にあったことなどを認めて使用者性を認めました。
 今回の京都府労委命令は、労組法上の使用者性についての判断が不十分であることに加え、「管理委員会」以外の法人について、京都市の指導のもと、賃金規程で「基本給は要綱による」と定めているなど、京都市の使用者性を認めることは十分できたにもかかわらず、使用者性を認めなかったことなど、決して満足いく命令ではありません。しかしながら、直接の雇用関係にない労働者について、一部でも労組法上の使用者性を認めさせたことは大きな意味があります。
 何より、この2年間、交渉の場につくことすら一切拒否してきた京都市に対して、交渉の場に出させることができるという意味で労働組合運動を大きく前進させることのできる命令であると評価しています。
 今後、中労委や京都地裁へと闘いの場が移っていきますが、労組法上の使用者性をさらに広げ、「管理委員会」以外の法人で働く労働者との関係でも団体交渉を認めさせるために頑張ります。

 

中学校校則・制服と子どもの人権―民事調停の顛末

大分支部  楠 本 敏 行

 令和3年2月、わが子(当時小5)が進学予定の大分市立の中学校の校則を目にして驚いた(内容の一部は、後記)。その後、同中学校の校長、市教育委員会に対し、制服着用の強制や髪型、靴下、靴などの規制に法的根拠はなく、個人の自己決定権を侵害しているのではないか、と質問したら、次のような回答が届きました。
①「いわゆる校則を定める法令の規定は特にございませんが、学校は教育目標を達成するために社会通念上合理的と認められる範囲で、校長の裁量により校則を制定し、児童生徒の行動などに一定の制限を課すことができるものであり、児童生徒は学校管理の下では、校則を遵守する義務があるものと認識しております。」
②「制服の着用につきましては、市立中学校においては学校への所属感を高め、同一校に通う児童生徒の一体感の醸成など、教育的効果だけでなく、児童生徒の服装にかかる経済的な負担の軽減等を目的として、各学校ごとに基準を定め着用するよう指導しております。」③「容儀基準(注:頭髪などの決まりのこと)につきましても、規範意識の醸成や集団秩序の維持等を目的として、必要かつ合理的範囲内において各学校ごとに基準を定め児童生徒に対し指導を行っており、…(中略)…適切な指導を行っております。」
 これに対する私の再質問の要旨は、次のようなものです。
 人が何を身に着けるかは、自己決定権の問題であり、国民の権利を最大に尊重し(憲法13条)、「個人の尊厳」(憲法24条2項)を最大の価値とする法体系の下では、「所属感」や「一体感」が、自己決定権を制約する根拠として、どの程度の重さがあるのかよくよく吟味する必要があります。近代の人権思想の流れを汲んだ現在の法体系は、確立した個人、自由を享受する主体である個人を前提として、その個人が寄り集まって国家や社会を形成するために民主主義を採用しています。人格的に自立した個人が集まって、民主的な過程を経て形成された社会があって、初めて遵守すべき社会のルールが成立するのです。
 学校教育において、所属感や一体感を重視することにより、どのような教育を目標としているのでしょうか。私には、そのような感覚を重視し、十分な説明もできないまま、ただルールに従うことをよしとする学校教育の現状は、人格的に自立した個人の育成を阻害し、ひいては民主主義に基づいて社会を変革・発展させることを妨げているように思えます。学校の中に自由と人権、民主主義がなくては、社会全体にそのような潮流が大きく育たないのも当然のことでしょう。
 「規範意識の醸成」や「集団秩序の維持」についても、それ自体よりも、それが究極的に目的とするところが何なのかを問わなければ、自由を抑圧され、周囲に同調することを求められていると受け止められてもやむを得ないでしょう。
3 この再質問に対する回答は、「見直しを行っております。」「見直しを行うよう指導してまいります。
 「協議しているところです。」というものでした。
 このままでは、校則は変わらないので(現に、令和3年6月8日付文科省事務連絡を受けても、何かを見直した形跡は見受けられません。)、話を公の場で進展させるため、令和4年2月10日、民事調停を起こしました。訴訟には、当事者適格や確認の利益のハードルがあり、中身の議論に入るまでに時間がかかります。それに、法的な結論を出すことよりも、校則について、その必要性や限界について、多くの人が、特に教育に関係する人が、考えることにこそ意味があると思っています。
4 申立の趣旨は、私が当事者なので、「容儀基準」を子どもに遵守させる義務がないことの確認です。
 ただし、制服については見解の相違が大きいと予想されるので、予備的に、①髪型(前髪は自然な状態で目にかからない長さとする。男子―横は耳にかからず、後ろは詰襟につかないようにする。女子―後ろ髪は襟にかからない。襟にかかる場合にはゴムやヘアピンで結ぶか止める。三つ編み、編み込み、ポニーテール等、派手な束ね方は禁止。耳の位置より下で結ぶこと。束ねた時に耳の横から髪を垂らしてはいけない。その他。)、②靴下(白のみ、ワンポイントまで可。くるぶしソックス不可。)、③通学靴(男女とも白のひも付き運動靴(本校指定の型)とする。)の3つの規定は、少なくとも遵守義務不存在としました。
5 ところが、その間に、わが子は、別の公立中学校を受験して、当初予定の中学校へ進学しないことになりました。その下の子は、今現在小学校3年生です。市教委、校長の側の主張は、わが子が現在当該中学校に在籍していないし近日中に在籍する予定もない、当該学校の生徒や保護者から不満の声は出ていない、そのため調停に応じることになじまないというものです。よって、調停は、不成立で終了です(令和4年3月17日)。
 仮に、在籍してから争っても、結果が出るまでに卒業しているのではないかと思えますし、多くの在学中の生徒・保護者は不利益をおそれて本音を言えないのではないでしょうか。
6 報道をきっかけに、公立中高生の間ロングヘアで通し、現在もロングヘアの大学生(男性)が連絡をくれました。彼は、#longという名称で市民団体を作って署名集めなどの活動しており、市議会議員と共同で、情報公開請求を利用して、校則見直しや運用について情報を集めています。市議会では、その議員が「中学校のブラック校則廃止・生徒の声を反映させる」という趣旨で、質問しています。
 この両名と現職教員、女子大学生、及び私をパネリストとして、令和4年5月21日、「校則を考えるシンポジウム―校則に納得していますか?」というタイトルでパネルディスカッションを行いました。理不尽な校則が能力不足の教職員による管理ツールとなっていること、同じ年の子どもに同じ進度で同じ内容を教えるという学校教育を前提にするために管理ツールが必要になること、子どもの人権の観点が校則から抜け落ちていること、教師も上司や教委の意向を受け入れることに慣れてしまっていること等が話題になりました。市議さんが、大分市、大分県から校則問題を発信していく強い思いを発言されました。今後も校則に関して学生や大学の先生なども巻き込んで活動していくことを確認して、散会しました。

 

2022年九州ブロック総会を開催しました!!

福岡支部  池 上  遊

1 自由法曹団九州ブロックとは?(;゚Д゚)
 ご存知でない方も多いと思うので、自己紹介します。その名のとおり、九州7県の各支部からなる団体として活動しています。現在は、団長が永尾廣久団員(福岡)、幹事長が山本一行団員(福岡)、事務局長の私のほかに、福岡6名、佐賀2名、長崎1名、熊本2名、鹿児島2名、大分2名、宮崎2名の各幹事の団員がいます。主な活動は、2ヶ月に1回の幹事会、1年に1回の総会です。私が事務局長に就いたのは2016年の総会からです。
2 2022年総会の報告!
 九州ブロックから7月の参院選に立候補予定の団員の応援企画を実施するため、例年より早めの6月4日土曜に開催しました。コロナウイルスのことも踏まえ、昨年に続きオンラインのみとなりましたが、各地から約40名の団員が集合しました。
 参院選当選の応援企画のほかにも、恒例となりつつある沖縄支部の特別報告を新垣勉団員から、団本部報告を平井事務局長からいただくことができました。この場を借りてあらためて御礼申し上げます。
 各支部からも事件報告をしていただきました。
 大分支部の楠本団員からはご自身の子どもの進学先の中学校の制服、髪形などについて、学校・教育委員会との交渉→調停申立て→シンポジウムの開催に取り組んだことを報告してもらいました。2021、2022の5月集会報告集でも寄稿されていますが、とても素晴らしい取り組みで、私のイチ押しです!!
 佐賀支部からはふるさと納税返礼品をめぐる県内自治体と特定の企業との癒着に切り込む運動や警察官による黙秘権侵害等に対する国賠訴訟について
 福岡支部からは自治体による自衛隊への名簿提供問題、北九州での野党共闘、全国B型肝炎九州訴訟の法廷内外での活動などについて
 宮崎県支部からは残業代請求事件、新田原基地訴訟、安保法制違憲宮崎訴訟について
 熊本支部からは画期的な生活保護基準引き下げ違憲訴訟の勝利判決について
 鹿児島支部からは6月22日に決定が予定されている大崎事件第4次再審請求について
 それぞれ充実した報告で、司会を務める私の時間配分の拙さのため、会計や人事など総会行事まで終えたところで、予定の3時間を超えてしまいましたが、盛会に終わったのではないかと思います。
3 来年こそは温泉に泊まる!( ̄▽ ̄)Ⅴ
 事件報告の途中では、候補者の団員本人が参加し、団員に向けて熱いメッセージをもらいました。ぜひ国政に押し上げようと決意を固めました。
 コロナ禍以前は各県で1泊2日の合宿形式で懇親もしながら総会を開催することができていました。来年こそはその形式に戻したいと思います。
 全国的にも同様ですが、法曹を取り囲む現状が大きく変動しており、九州全体でも団員の減少が顕著な情勢です。幹事会でもその点について議論をしています。
 比較的団員の多い福岡支部はともかく、他の支部では、支部としての日常的な活動がないところもあります。その意味で、九州ブロックの総会を現地で開催することは活動の活性化にも寄与できるのではないかと実感しています。
 各支部の団員が取り組む活動に対し、活動資金をカンパするという取り組みもしています(知らない団員のために声を大にしてお伝えしたい。)。
 各地の団員同士の交流をさらに広げながら、今後もがんばります。

 

団の安全保障政策について

四国総支部(高知県)  梶 原 守 光

 近時の団通信上で、安全保障政策について混乱が起こっているため私見を提起します。
 「攻められたらどうする」との発想は自民党の発想です。ですから非武装、中立、平和の憲法下においても、外国から攻められた時の防衛(専守防衛)を正当化し、個別的自衛権行使を正当化してきました。
 そして今回ロシアの侵略を利用して、軍備の増強の必要性を主張しています。
 私たちは「攻められたらどうする」ではなく、平和憲法の精神にのっとって、攻められないためにどうするかを考えなければならない。
 それは憲法の示すとおり、日本は非武装、中立を世界に宣言し、平和外交に徹する必要があります。
 そうすれば、どこの国も日本を攻める国はないし、攻める必要もありません。
 莫大な軍事費を使わなくても日本は安泰です。すでに東南アジアでは、争いは話し合いで解決するという共通認識で、地域の平和の枠組み(ASEAN)ができており、日本はその平和の枠組みの中で主導的役割を果たさなければなりません。軍備を増強することは、相手国の不信と軍備を高め、自ら攻められる条件を作ることになり、最悪の愚策です。

 

本誌1778号を読んで

 東京支部  木 村 晋 介

1 中西一裕さんの論稿を読んで
 団内に中西さんのようなリアルでバランス感覚のしっかりした人がおられることを嬉しく思いましたし力強く思いました。憲法の前文が想定しなかった事態が起こっている、という指摘はその通りだと思います。ですが、五月集会の報告の基調を見ると、団内の多数意見は現在も「平和を愛する諸国民の公正と信義」を信頼していこうといっているように感じました。
 私は、戦後すぐに文部省が発行した教科書、「新しい憲法のはなし」の「(戦力を放棄しても)けっして心ぼそく思うことはありません。日本は正しいことを、ほかの國よりさきに行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません」という文面を思い出しました。団内の多数意見は、まだこの中学生用教科書の考えを支持しているのでしょう。
 日本共産党ですら、「個別的自衛権はあり、これを行使する」といっている時代に、これは一体どうしたことなのだろうかと思います。
2 大久保賢一さんの論稿を読んで
 「戦争か平和か」が参議院選挙で問われるとして大久保さんがいわれたことについて異論がないわけではありません。ですが、ここではそれは置いて、私が気になる、「大久保さんがいわなかったこと」について述べたいと思います。
 日米の中国政策を批判的に検討するにあたって、中国がアジア地域に与えている脅威について一切触れられていないことに強い違和感を覚えます。
 中国が南沙諸島で行った力による現状変更は、国連海洋法条約によって設置された仲裁裁判所が「中国の領土主権」を否定したにもかかわらず、これを無視して続けられ、中国はここを埋め立て軍事基地化しています。
 日本の領土である尖閣列島を巡っては、68年に周辺海域に石油が埋蔵されていることがわかると、中国は海底資源獲得のために突然領土主張をしはじめ、 最近では頻繁に周辺海域に公船を侵入させています。また、中国は21年2月に海警法を制定施行し、中国が一方的に決める管轄区域(領土以外が大幅に含まれる)に入った船について、日本の海上保安庁に当たる海警が軍の命令下武器の使用を含む一切の必要措置をすることができるとしました。尖閣列島や南シナ海、東シナ海の海域を中国が「管轄区域」と見れば「武力によって支配」できる根拠を築いたのです。日本共産党は、この法律施行後直ちに、「(同法の制定施行は中国の)覇権主義的行動をエスカレートさせるものです。(中略)中国政府は海警法を撤回すべきです。(中略)日本政府は海警法自体が国際法違反であることを厳しく批判し、撤回を求める外交的対応をとるべきです(同年2月24日赤旗)」との声明を出しています。日本政府の対応が手ぬるい、との批判を込めたものです。ここに同党の安全保障をめぐるバランス感覚が現れていると思います。
 また、中国が香港で民主化運動や人権運動を暴力的に押しつぶしたことも私たちは鮮烈に記憶していますし、ウイグルやチベットでの少数民族弾圧も、脅威の一部です。
 そしてこれらの国家行為の脅威は、中国が習近平の独裁国家であることにより増幅されます。プーチン同様、動きだしたら誰も止められ人がいないのですから。
 大久保さんによると、これらの中国の国際法違反を含む行動は(日米の軍事的)姿勢が中国の反発を引き起こした結果だとだけいうのです。中国がこの地域に脅威を与えていることについての言及は全くありません。なお、日米側には、力による現状変更を行ったり、他民族を抑圧したり、など国際法・国連憲章に違反した行為はないと思いますがどうでしょうか。また日米には、少なくとも(大久保さんの言論を含めて)政権を手厳しく批判する自由が確保され、選挙によって政権を覆す制度が機能していることをどう評価されるでしょうか。
 東アジアの軍事的緊張は、日米が一方的に作り出したものではありません。私は、双方に頭を冷やしてもらい、核を含めた軍縮ができるように、日本がイニシアティブを発揮して双方に働きかけるべきではないかと思っています。参議院選で野党はそういう提言をするべきだと思います。大久保さんのような「いつでもどこでもアメリカが悪い」論は日本共産党も批判しているところです。加えて、平和か戦争かの2項対立だけで問題は解けません。私が前の号で述べたように、その2項の間に相互軍縮という中間項があることを考慮しなくてはならないと思います。
3 守川さんの論稿を読んで
 今回も、今一つ守川さんのおっしゃりたいことがよく分かりませんので、個々には反論しませんが、一点だけ。私は、守川さんの「プーチンと同じ思想の安倍晋三」との発言(本誌1773号)を安易な比喩として批判しました(1776号)。これに対し守川さんは、プーチンと安倍晋三氏の思想的共通性は「力の論理や核抑止力に頼る、立憲主義を理解しない、人の意見を聞かない、意見が違うと怒りだして攻撃する」にあると改めて説明されました(本誌1778号)。しかし、プーチンの思想が世界に与える脅威はその程度の事でしょうか。
 プーチンは「核の脅威を背景に他国を侵略してもいい。国内の反対勢力は捕まえて処罰すればいい」という思想の持ち主で、これが最大の特徴でしょう。ここを抜きにしてプーチンの思想は語れません。守川さんには、ここも同じだとおっしゃるんでしょうか。おっしゃるからには、エビデンスを含めてご教示ください。

 

憲法改悪反対!街頭宣伝のご報告

東京法律事務所事務局  林 美 乃 里

 5月31日、東京法律事務所の所員及び「みんなの新宿をつくる会」合同で四谷駅前にて街頭宣伝を行いました。「みんなの新宿をつくる会(通称みんなの会)」とは、新宿区内で活動する様々な団体・個人が平和と民主主義の発展を掲げ学習会や平和運動に取り組んでいる市民団体です。構成団体に東京法律事務所も参加しており、事務局として事務員の私が月に一度の会議に参加しています。
 みんなの会では月に一度、新宿区内の辻々で「改憲反対緊急署名」の署名活動を行っていますが、中々人の目に止まらず、集約も良くありませんでした。マイクを握る方も「いつものメンバー」と呼ばれるように、同じ内容の繰り返しとなっていました。
 そんななか、「四谷駅前はどうか」と提案をしてみました。四谷駅前に数年前大きなビルが建ったことと、東京法律事務所の所員が街頭宣伝に参加できていないので、事務所に近い場所ならば集まりやすいだろうと思ったからです。
 場所が四谷駅前と決まったので、事務所の活動としてきちんと位置付けるため、事務所会議の中で参加を呼びかけました。結果、弁護士と事務員あわせて10名以上、全体で40名近い参加となり、思いがけない大規模宣伝として成功を収めることができました。普段はなかなかマイクを握らない先生にもせっかくなので弁士をお願いしたところ、熱く憲法への思いを語っていただくことができ、「声をかけないと胸のうちは分からないものだなぁ」としみじみ感じました。
 また、いつも東京法律事務所が宣伝をする時には一緒に参加をしてくれるカエルちゃんはこの日も子どもや若者に好評で、手を振っていただいたり、「え?!カエルめっちゃ可愛い!なになに?!」と、道行く人の注目を集めてくれました。
 街頭宣伝自体がマンネリ化していたため、毎度参加している高齢者メンバーも弁護士や活気ある若者が来たことで気持ちが盛り上がったようです。「たくさんの先生が来てくれて嬉しかった」「四谷駅前がこんなに宣伝しやすい場所だったなんて知らなかった」という感想がありました。夕方だったこともあり、署名の集まりはあまり良くありませんでしたが、行動を続けている主体者を元気づけることはできたのではないかと思います。
 今後も、「活気ある若者と、憲法への熱い思いを抱く弁護士がいる法律事務所」として、新宿の市民団体と連携し憲法運動を盛り上げるために様々な企画・活動を提案していこうと思います。

 

ご挨拶と国会行動を終えての感想

神奈川支部  前 田 ち ひ ろ

ご挨拶
 はじめまして。この4月より川崎合同法律事務所に入所致しました、第74期の前田ちひろと申します。登録日の4月21日から、右も左も分からない中、事務所の先輩方の丁寧なご指導のもと、学びの多い日々を過ごしております。今後も、事務所の方に限らず、多くの先輩方にお会いし、ご指導を賜り、一日でも早く成長できるよう精一杯頑張ってまいりますので、皆様どうぞ宜しくお願い致します。
 私は、母親が大学の非常勤講師としてジェンダーを教えていた関係で、中学、高校の頃から性差に関する問題について見聞きする機会が多く、職場でのセクハラに苦しむ女性、結婚出産によってキャリアを絶たれた女性の再就職に関する苦労、母子家庭の貧困、LGBTQ+の当事者やその家族が職場や学校で抱える辛さ等についての現状を知ることができ、そのような問題からまずは自分自身を守りたいと考え、弁護士を志すようになりました。
 その後、弁護士となることができ、川崎合同法律事務所に入所することになるわけですが、そのきっかけは、オンラインの合同説明会でたまたま川崎合同法律事務所を見かけたことでした。上で述べたような家庭環境で育ったためか、周りの人よりは多少人権に関する感覚が敏感になってしまい、周囲の何気ない会話にどこか違和感を覚えることも多い日々をずっと過ごしてきたのですが、川崎合同法律事務所の先生方とお話させていただく中で、私がそれまで生活の中で感じてきた違和感と同じようなものを、先生方ご自身が、互いに共有されているように感じ、そのような方々と共に仕事をすることができる環境に、安心感のようなものを覚え、ここで働きたいと思うようになりました。
 その後、無事、川崎合同法律事務所に迎え入れていただいたのですが、入所後約1ヶ月で一番感じたことは、とにかく事務所の外の先生方とのつながりが広いということでした。一年目の新人にとって、これから自分がどんな仕事をしていくのか、どんな仕事をしていきたいか、そもそもどんな仕事があるのか、全てのことが漠然としか見えておらず、自分に合った、自分の希望する仕事のスタイルを見つけるためには、まず他の先輩方のスタイルをできるだけ多く見てみたいと思っていました。自由法曹団などの活動を通し、事務所の先輩方だけでなく、あるいはもはや神奈川県だけでなく、広い範囲の、かつ多くの先輩方にお会いしてお話をうかがう機会があることは、自分の仕事のスタイルを確立していく上での選択肢を増やすことになるので、その意味でとてもありがたいことだと感じています。
 また、弁護士の仕事にはとても幅がありそうだということも、多くの先輩方にお会いする中で感じていることの一つです。上に述べたような理由で弁護士を志すようになった私は、ジェンダーに関する問題、LBGBTQ+に関する問題に強い興味関心を持っており、その分野での活動に特に注力したいと思っています。しかし、興味というのは、あくまでこれまでの人生の中で経験できたこと、得ることのできた知識に関連する範囲内でしか生まれないものだと思っているので、これから先、多くの先輩方にお会いし、その活動内容を見せていただく中で、これまで知らなかった物事に触れ、興味関心の幅が広がってゆくこと、そして自分の仕事の幅が広がってゆくことも、とても楽しみなことの一つです。
 今はとにかく多くの方にお会いし、多くの物事に触れ、様々な経験をしていきたいと思っておりますので、皆様、是非、ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します。
民事訴訟法改正に反対する国会行動に参加して
 入所してから約20日が経った5月11日、初めての国会行動に参加致しました。事務所の先生にお声がけいただき、参加することとなったのですが、お話をうかがった時点では、「国会行動」の意味も分からず、イメージも全く持てないような状況でした。そんな状態で同行させていただいたのですが、実際に同行してみて、議員活動の後ろ側には、市民の直接的な働きかけがあるのだと初めて知ることができました。議員会館に行くこと自体初めてだったので、ロビーに他の団体の方が多くいらっしゃったことも驚きで、投票行動以外の比較的直接的な手段として議員への直接の要請があること、そしてその手段が現に使われていることを目の当たりにでき、貴重な経験をすることができました。今後も機会があれば参加したいと思います。

 

委員会活動へのお誘い

 

構造改革PTの紹介

構造改革プロジェクトチーム  本 田 伊 孝

構造改革とは~
 小泉政権が誕生した2001年以降、自民党政権は「官から民へ」「改革なくして成長なし」のワンフレーズで規制緩和を進めてきました。大企業、投資家の儲けのために、雇用、社会保障、医療、地方が切り捨てられ、様々な分野で「構造改革」が進められています。
活動内容
 他の委員会が取り上げないテーマを深める、これこそが委員会の真骨頂だといえます。これまでリニア問題を地方に与える影響という視点から5月集会で「リニア分科会」を開催しました。水道民営化には反対の立場で意見書を作成しました。都政問題にもアンテナを張り、築地市場移転問題に早くから取り組みました。東京オリンピック開催にあたっても、選手村用地が東京都から不動産開発業者に格安で譲渡されたことに対し、都に監査請求を行いました。
 団のホームページに掲載されている「デジタル改革関連法(デジタル監視法)に基づく地方自治への国の介入に強く反対する」(2021.12.22)の意見書においても、委員会の「地方自治の本旨に反するおそれがある」との問題意識が反映されています。
委員会にご参加を
 委員会の参加者は5名で、ベテラン、中堅、若手が月1回の会議に参加しています。委員会に参加し、「大企業優先の政策」への憤りを発言することで、問題の本質を深めることができます。委員会に参加し、是非、新しいテーマを提起してみてください。

 

市民問題委員会の紹介

市民問題委員会 委員長  瀬 川 宏 貴

市民問題とは~その守備範囲~
 数ある団の委員会の中でも、「市民問題」委員会は、その名称の抽象度の高さからして上位に入る、ありていにいえば、名前だけでは何をやっているのかよく分からない委員会の一つであろうと思います。
 団は、規約で、「あらゆる悪法とたたかい、人民の権利が侵害される場合には、その信条・政派の如何にかかわらず、ひろく人民と団結して権利擁護のためにたたかう」ことを目的としていますが、あらゆる悪法は市民と無関係ではありませんので、団の活動はすべて市民問題である、ということも可能です(もちろん、市民問題委員会で、団のあらゆる活動を引き受けるなどというつもりはありません)。
 憲法で、行政作用の控除説(国家作用から立法と司法を除いたものが行政であるというもの)がありますが、同様に、すべての団の課題から各委員会の活動を控除したものが市民問題委員会の守備範囲となるのではないかと思います。
活動内容
 委員会の具体的な活動を紹介すると、伝統的に借地借家問題と税金問題は市民問題委員会が取り扱っています。
 そのほかにも幅広い分野に取り組んでおり、ここ数年では、マイナンバー問題、カジノ問題、民事訴訟法改正(IT化等)問題などについて取り組んでいます。特に最近は民訴法改正問題を中心に活動しており、意見書や声明の作成、友誼団体との意見交換、各地での学習会、国会要請等の活動を行ってきました。
委員会にご参加を
 現在の委員会の参加者は5~7名ほどで少し寂しい状況です。先に述べた委員会の性格からして、何を取り扱うかについて自由度の高い委員会ですので、ぜひ多くの団員に参加いただければと思っております。最近はZoomで委員会を開催しており参加もしやすくなっていると思いますので、どうぞよろしくお願いします。

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【書評】「ウトロ ここで生き、ここで死ぬ」(中村一成著 三一書房)を勧める (上)

 神奈川支部  神 原  元

1 本書の特徴
 一体、何人の人の証言を聞いたのだろう。一つ一つがずしりと重い証言。職業柄、高齢者からの聞き取りの苦労が痛いほど分かる。公的な記録も整わない時代の出来事。だからこそ、民衆の声を一つ一つ集めて残しておく必要がある。民衆の証言を集めることそれ自体が権力への抗いといえるだろう。
 本書は、権力に抗った民衆の貴重な声を拾い集めて後世に伝える、大変な労作だ。
2 ウトロとは何か
 まず圧倒されるのが日本植民地主義による嵐のような暴力の数々。韓国併合(1910年)で祖国を失い土地を失った朝鮮の人々は、職を求めて宗主国日本に渡った。各地を転々としていた彼らは、過酷な「労務動員」を逃れて、よりマシな京都飛行場建設工事現場に集まった。日中戦争が激しくなった1939年、空軍力増強のため、国と京都府、そして国策会社「日本国際航空(日国)」が始めた事業だ。集まった朝鮮人はおよそ1300人。六畳と土間しかない廃材と杉皮の小屋に押し込まれ、人力で山野を切り開く辛い労働に酷使される。
 日本の敗戦は、彼らにとって、解放であると同時に、失業と貧困を意味した。植民地主義の犠牲になった朝鮮の人々はなんの謝罪も補償も受けることなく放り出される。仕事を失った彼らは、隣町の米軍演習場に忍び込み薬莢や鉄くずを拾って生活を立てる。バラックの家の屋根は藁葺き、トイレも10戸に一つの共同。台風で屋根は吹き飛び、少しの雨でも大小便が道に溢れる。人々は、残飯を拾って腐ってないものを選り分けて食べたり、日本の農民が引き抜いて放置した大根を拾って食べたりして生き延びた。
 ここで一つの奇跡が起きる。
 集落に流れ着いた一人の男が子どもたちに向かって言った。「君たちは自分の言葉も知らん人間になりたいんか?」
 彼は、朝鮮の文字を地面に書いて子どもに見せる。「朝鮮の字は世界中どんな言葉でも表すことできるんだぞ」
 子どもたちは地面に並んだ文字を覚えた。子どもたちにとって朝鮮語は、「誇り」の発見だった。子どもたちは民族の言葉を掴み、乾いた砂のように吸収していく。最低の貧困生活の中に、子どもたちの目の輝きがあった。
 民族の言葉を取り戻そうという運動は、やがて最初の民族学校創設の動きに繋がっていく。言葉は民族の誇りであると同時に、人間の尊厳に直結していた。
 民族の言葉を奪い返すことは、人間性を取り戻すことであった。
3 更なる理不尽と暴力~日本のアパルトヘイト
 ここで、再び権力による暴力が始まる。1948年、占領軍と日本政府は民族学校を「共産主義者の巣」と断じて根絶やしにすることを決断、学校の閉鎖と民族団体の解散、財産没収、関係者の公職追放を強行する。大阪では抵抗した16歳の少年を警察の水平射撃で射殺する事件まで発生した(阪神教育闘争)。ウトロの民族学校も閉鎖。日本人学校に強制的に編入される。
 なんたる理不尽だろう。
 それだけではない。戦犯企業であった前記「日国」はトラックやバスを製造する民間会社として復活(その一部がやがて現在の「日産車体」となる)。ウトロ住民はなんの補償もされず、雇用もされず、清算対象の、バラックの並ぶ空き地に放置された。
 それだけではない。日本政府はサンフランシスコ条約の発効とあわせて朝鮮の人々から日本国籍を一方的に剥奪。年金その他の社会保障から一方的に切り捨て、選挙からも排除し、入管法による管理・排除の対象とした。
 それだけではない。権力の不正に抗する人々に怯えた権力は、ウトロに繰り返し警官隊を差し向け理不尽な弾圧を繰り返した。警官隊は部落を包囲し、罪のない人々に犬をけしかけ、大人数でバラック小屋のドアを叩き破って押し入り、一件一件シラミ潰しに捜索し、「酒の密造」(どぶろく)等の微罪でしょっ引いていくのだ。
 私はこの場面を読みながら、映画「遠き夜明け」(リチャード・アッテンボロー監督)の一場面を思い出した。そう、冒頭のワンシーン。白人警官たちが黒人スラムを襲撃し、黒人を襲うシーンだ。
 まさに、そのもの。これは日本にもあった、アパルトヘイト(人種隔離政策)なのだ。
(下に続く)

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