第1801号 2/11
カテゴリ:団通信
【今号の内容】
●一般病棟における身体拘束の違法性を認める判決 塚田 聡子
●「大阪カジノ・IR用地の賃料が不当として監査請求」 西川 翔大
●「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の追加提訴について 鈴木 雅貴
●1月31日「敵基地攻撃能力保有の閣議決定に反対する市民集会」の報告 久保木 太一
●教職員の残業代請求―さいたま地裁令和3年10月1日判決を読んでの雑感 楠本 敏行
●アメリカの台湾問題での軍事介入は明らかな国際法違反! 笹本 潤
●【ウクライナメモ 2】ロシア覇権主義の歴史を読む―付:「ふたつの常任理事国」考 藤本 齊
●罅(ひび)入りてやがて粉々に砕けたる あれは地球であったか知れず 大久保 賢一
●新人学習会&歓迎会のお知らせ 湯山 薫
●国による自主申告運動への介入を許さない~「税務相談停止命令制度」創設反対運動へのご協力のお願い 永田 亮
◆団長日記(1)不定期連載 岩田 研二郎
一般病棟における身体拘束の違法性を認める判決
愛知支部 塚 田 聡 子
令和5年1月20日、一般病棟での身体拘束の違法性を認める判決が出ました。
両肺肺炎球菌肺炎でA医大病院に入院していたIさん(91歳、女性)が、症状が軽快したためにO病院に転院したところ、転院直後に両手と胴体をベッドに縛り付けられ、わずか1週間で死亡したという痛ましい事件です。
Iさんは、肺炎で呼吸が苦しいのに、身動きが取れない状態で、体位変換もしてもらえず、痰の吸引も十分に行われないまま、肺炎の状態が急速に悪化して亡くなりました。
Iさんの娘さんと息子さんは、ほんの1週間前に笑顔で転院したお母様が、ベッドに縛り付けられたままの状態で亡くなったことにショックを受け、到底受け入れられないと思い、裁判を起こすことを決意されました。
この裁判では、身体拘束と死亡の因果関係も主張しましたが、コロナ禍で呼吸器内科の医師の協力を得ることがままならず、残念ながら認められませんでした。
しかし、身体拘束の違法性と、拘束自体による慰謝料請求は認められました。
介護施設や精神病棟での身体拘束についてはそれぞれガイドラインがあり、身体拘束について一定の規制がかかっています。
しかし、一般病棟では、治療のためという名目で、身体拘束が比較的緩やかに認められているのが実態です。特に、高齢者は、認知症やせん妄を理由にベッドに両手や胴体を縛り付けられることが横行していると思います。
医療従事者のなかには、「看護師の数が不足している現状において、患者の安全を守るためには身体拘束もやむを得ない」という意見も多いようです。患者の家族のなかにも、ベッドから転落したり、転倒して怪我をすることを心配して、「むしろ拘束して欲しい」という意見があると聞いています。
身体拘束を巡っては、このように様々な議論がありますが、平成22年に最高裁が、身体拘束は原則として違法であり、「入院患者の身体を抑制することは、その患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる事情がある場合にのみ許容されるというべきである」と判断しました(一宮の身体拘束事件)。この判決によれば、例外的に身体拘束が許されるには、①切迫性、②非代替性、③一時性という要件が必要とされています。
ただ、最高裁判例では、上記要件に事案をあてはめた結果、残念ながら身体拘束の違法性は認められませんでした。今回の裁判では、上記要件に丁寧にあてはめを行うことにより、身体拘束の違法性が認められました。
第一に、体幹抑制(胴体の拘束)について、IさんがA医大病院において、ベッド上で起き上がって柵を持ち上げるなどの行為を度々行い、O病院でも、転院直後にベッド上で上体を起こし、ベッド柵を外す行為をしたことなどを理由に、転倒転落により骨折等の重大な傷害を負う危険性(①切迫性)があったとしました。
他方で、本判決は、ベッドを壁に寄せて、その反対側にベッド柵を設け、柵カバーをすれば、転倒転落の防止は可能であるとしました。また、ベッド柵を外そうとするのは尿意があるときだと分かっているので、そのような場合は看護師を呼ぶようにと説明を繰り返せばよかったとし、Iさんは難聴であるものの、筆談はできたのだから、説明をすることは十分可能であったとしています。さらに、離床センサーを用いたり、ベッドをナースステーションに近い病室に一時的に移動させたりして、Iさんの様子を観察することも出来た筈であるとしています。こうして、本判決は、体幹抑制以外に転倒転落を防止する代替方法がなかったとはいえず、②非代替性の要件は満たしていないとしました。
次に、本判決は、Iさんに対する体幹抑制が入院初日から死亡までの1週間にわたり、一度も解除されることなく継続されて行われ、より軽度のものにするとか解除するといったことに向けた検討や観察も行われなかったことから、③一時性の要件も満たしていないとしました。
第二に、上肢抑制(両手の拘束)について、本判決は、A医大病院においてIさんが点滴の自己抜去を繰り返した事実はあるものの、O病院で上肢抑制が開始された時点においてまだ点滴は開始されておらず、①切迫性の要件は満たしていないとしました。
次に、点滴の自己抜去を防止するためには、点滴のルートが視野に入らないよう工夫したり、ミトンを装着したりして、それでも自己抜去を繰り返すか見極めることも可能であり、そのような代替策を実施することのないまま行われた本件抑制は、②非代替性の要件を満たさないとしました。
さらに、上肢抑制も体幹抑制と同様、入院初日から死亡までの約1週間一度も解除されることなく継続しており、拘束をより軽度のものとするとか解除するといったことに向けた検討や観察が行われなかったことから、③一時性の要件も満たしていないとしました。
以上より、本判決は、体幹抑制も上肢抑制も、転倒転落の防止や点滴の自己抜去防止のために必要やむを得ないものとはいえず、違法であるとしました。
この裁判は、人間の尊厳を問う裁判だったと思います。誰もが年を取れば認知症になり、入院時にはせん妄のために、医師や看護師の指示に従えないこともあります。そんなとき、身体拘束をすれば転倒転落や点滴の自己抜去は防げるでしょう。病院側からすれば、看護師の人数が少なくても対応できて、合理的かつ経済的かもしれません。
でも、人生の最期をベッドに縛り付けられたまま迎えるなどということがあって良いのでしょうか。自分の大切な家族がそのような亡くなり方をすれば、残された者は心に深い傷を負うことになるのではないでしょうか。
今回の判決を受けて、Iさんのお嬢さんは、「当然の判断だったと思う。でも、この当然の判断を得るために、どれだけの尽力が必要だったかも分かっています」と仰いました。
一般病棟でも身体拘束を行わないことが当たり前になるように、この判決が礎になることを願ってやみません。
「大阪カジノ・IR用地の賃料が不当として監査請求」
大阪支部 西 川 翔 大
第1 はじめに
2023年1月16日(月)、大阪府と大阪市が進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致をめぐり、大阪市がIR事業者に対して用地を貸し出す際の賃料が不当であるとして、大阪市民が大阪市に対して住民監査請求書を提出しました。
大阪支部の団員も住民監査請求書の検討・作成に携わりましたので、今回提出した監査請求の内容及び大阪市が進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の問題点について簡単にご報告します。
第2 監査請求の内容
1 監査請求の概要
大阪市は、IR事業者に対して、大阪市が所有する大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)地区の一部をIR事業用地として、賃料を1㎡あたり月額428円で賃貸借契約(借地権設定契約)を締結することが予定されています。
しかし、賃料を月額428円とすることは、以下述べるとおり、違法不当な不動産鑑定評価に基づいて決定した著しく廉価なものであり、監査請求書では「本件借地権設定契約は違法・不当な財務会計上の行為に当たる」ものとして、本件借地権設定契約の締結の差止その他の必要な措置を講ずることを求めています。
2 不当な不動産鑑定評価の実態
そもそも、大阪市は地方公共団体として事務処理に当たっては「最少の経費で最大の効果を挙げる」(「最少経費最大効果」の原則)ようにしなければなりません((地方自治法2条14項))。この原則は、地方公共団体の普通財産である不動産を貸し付ける場合にも当然適用されます。
そして、不動産鑑定評価において、①依頼者の指示に従って価格を決めた場合、②依頼を受けた業者間で価格を打合せた場合、③最有効使用を誤った場合などは「不当な鑑定評価等」(不動産の鑑定評価に関する法律第40条1項)に該当します。
令和元年11月に大阪市の依頼で鑑定業者4社が発行した不動産鑑定評価書のうち、3社の評価額が1㎡あたり月額428円と完全に一致しました。また、令和3年3月に3社が発行した不動産鑑定評価書のうち2社の評価額がやはり1㎡あたり月額428円と完全に一致し、大阪市はかかる鑑定に基づいて本件借地権設定契約の賃料を決定しました。
しかし、一般的に取引事例やその件数、時点修正率など賃料の算出条件の異なる3社の評価額が「完全に一致」することは業界の常識からもあり得ません。「完全に一致」した原因は、依頼者である大阪市の指示ないし誘導があったか(上記①に該当)、業者間で打ち合せて価格を決めた(上記②に該当)としか考えられません。
また、令和元年に鑑定評価した4社及び令和3年に鑑定評価した3社はいずれも評価条件として「IR事業は考慮外」とした上で、ショッピングセンターなどの低層・中層の大規模複合商業施設を前提に鑑定を行いました。すなわち、より高い収益が見込める高層ホテルを含む複合施設の建設・利用を予定しないことになっていました。しかも「IR事業は考慮外」とすることは、鑑定依頼をした大阪市が自ら指示したことを認めています。
しかし、平成29年8月に策定した「夢洲まちづくり構想」やIR推進局の説明では、超高層ホテルの大規模施設を建設することが前提となっており、実際に大阪市は約790億円もの土地改良費の支出を決め、本件夢洲区域整備計画においても大規模・高級ホテルの設置計画が明記されています。
にもかかわらず、「IR事業を考慮外」として高層ホテルを含まないショッピングセンターを最有効使用として算出した鑑定は最有効使用を誤っているものであることは明らかです(上記③に該当)。
このように、不当な不動産鑑定に基づいて算出された1㎡あたり月額428円という賃料は著しく不当に廉価であり、本件借地権設定契約を締結することは地方自治法2条に反して違法であることは言うまでもありません。
第3 大阪のカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の問題点
もともと松井市長や吉村府知事は「カジノに一切税金を使わない」と明言していました。しかし、夢洲地区を建設予定地としたことで、大阪市では夢洲の土壌汚染対策費用として360億円、液状化対策費用として410億円、地中物埋設物の撤去費用として20億円、さらに地盤沈下対策費用は未定とされており、地盤沈下対策を含まず790億円の土地改良工事が予定されており、地盤沈下対策にも莫大な公金投入が見込まれています。これに対しては、別途、住民監査請求及び住民訴訟が行われています。
今回、大阪市及び大阪府は、不当な不動産鑑定に基づいて著しく廉価な賃料を設定し、極めて強引にIR事業を進めようとしています。このような不正や虚偽にまみれたカジノを含むIR施設の誘致を決して許してはならず、徹底的に事実を明るみにしていかなければなりません。
「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の追加提訴について
福島支部 鈴 木 雅 貴
1月23日、生業訴訟第2陣訴訟の追加提訴(第12次)を行いました。
当日は、寒空の中、約100名の参加者が新浜公園から福島地方裁判所(本庁)までデモ行進を行い、市民の皆さんにアピールをし、裁判所に訴状を提出し、その後、弁論期日にて意見陳述を行い、夕方には記者会見を行いました。
原告意見陳述は、原発事故時、避難指示区域在住で中学生だった方が行い、事故の被害を自らの言葉で訴えてくれました。事故から10年以上が経過し、当時未成年だった方も大人となり、生業訴訟にも多く参加されています。当時未成年者だった原告の皆さんも、自分の言葉で語ることができる年齢となっています。そうした方の陳述書からは、突如として避難を余儀なくされ、翻弄され、学校にも馴染めず、あるいはイジメに遭い、そうした苦しみを親に相談することもできず、孤独にさいなまれていることを知ることができました。
事故から時間が経てば、社会的には風化してしまうかもしれませんが、福島原発事故の被害は、今も存在していますし、今後も無くならないと思います。きちんと被害を訴えて続けていくことが大事だと思いました。
さて、今回の追加提訴には214名が新たに加わり、第2陣訴訟の原告は1846名(提訴時)となりました。第1陣訴訟は3864名(提訴時)ですので、生業訴訟には合計5710名の原告の方が参加したことになります。
第2陣訴訟の追加提訴は今回で打ち切りとなり、今後、本人尋問や現地検証等の被害立証や福島第一原発の現地検証を求め、判決に向けて具体的に動き出していくことになります。
第1陣訴訟は、22年6月17日の最高裁判決で国の責任を認めないという不当判決を受けました。第1陣の原告も、あの屈辱的な最高裁判決(多数意見)を覆すため、引き続き原告団の主要メンバーとして活動を続けています。
生業訴訟での私の主要な任務には、福島現地ということもあり、原告募集の説明会の担当がありました。弁護士になってから、10年間、ずっと生業訴訟の説明会を担当してきたわけですが、追加提訴は、今回で打ち切りですので、個人的に大きな仕事が一つ終わりました。
初めて一人で担当した説明会で参加者全員が原告に参加してくれたことのうれしさや、被害救済もままならず訴訟に訴えざるを得ない状況は政策的に回避できなかったのかという疑問や、あるときは漁業者の方からメバルを大量にもらったこと等、様々経験できたことは良かったです。
生業訴訟は、必ず最高裁判決を覆すという強い決意のもと、全国各地の裁判と協働して戦っていきたいと考えています。
1月31日「敵基地攻撃能力保有の閣議決定に反対する市民集会」の報告
改憲阻止対策本部担当次長 久 保 木 太 一
0 はじめに
先月31日、衆議院第一議員会館において、改憲問題対策法律家6団体連絡会、9条改憲NO!全国市民アクション共催で、「敵基地攻撃能力保有の閣議決定に反対する市民集会」が開かれました(ZOOM併用)。
私が「向いていないから嫌だ」と無下に断った司会を、坪田次長が引き受けてくださったので、せめてもの償いとして、団通信の報告原稿を自ら引き受けました。
1 冒頭
6団体を代表して、岩田団長が挨拶をし、日本の安全保障政策の大転換を国会を通さずに閣議決定で行ったことを強く批判しました。
立憲民主党からは近藤昭一衆議院議員と杉尾秀哉参議院議員、日本共産党からは山添拓参議院議員、社民党からは福島みずほ参議院議員、沖縄の風からは伊波洋一参議院議員、れいわからは櫛渕万里衆議院議員より挨拶がありました。
(以下の文章は、私ではなく各報告者)
2 布施祐仁さん講演「誰のための敵基地攻撃能力? 軍事力と軍事同盟強化で日本を守れるのか」
今回の安保3文書は、政府がはじめて公然と「対米追随」を宣言したものである。
米国は、軍事的経済的に成長する中国を睨み、中距離ミサイル強化によって「優位性を奪還」することを狙っている。米国の想定は「台湾有事」であって、日本が直接攻撃を受ける「日本有事」ではない。
「敵基地攻撃能力」の強化は日米一体で行われている。本年1月の2+2では、これまでの「調整」から、指揮統制の統一へと進み、自衛隊が米軍の指揮統制の下、運用される。
松村五郎・元陸将は、朝日新聞デジタルにおいて、台湾有事において米国に日本が使われる可能性があると指摘し、「皆さんにはその覚悟がありますか」「私自身、腹が据わっていません」と述べている。
私は、米中ともに戦争は望んでいないものの、軍拡競争によって偶発的な衝突などによる戦争勃発の危険が増大することを危惧している。
日本は、米中の「覇権争い」には乗らず、緊張の緩和や仲介外交に乗り出すべきである。
3 永山茂樹教授講演「安保3文書改訂と憲法・私たちの生活はどう変わるのか」
安保3文書は大変危険であるが、なかなかその危険性を理解してもらえない。そこで、国民に伝えやすくする目的で、私たちの現実的な生活にどのような影響が出るのかということを今回は考えてみる。
第一に、経済面。
使途について、GDP比2%の合理的な根拠がない。合理性のない歳入・歳出は、政治共同体設立の目的に違反する。
財源について、国債発行を禁じる財政法4条は、平和主義を財政面から保障した「財政法の9条」であり、この趣旨に反してはならない。
第二に、自由や権利の制限。
安保3文書において、意外と見落とされているが、飛行場・港湾などの施設の軍事利用するための自治権制限が明記されている。民間企業の経済活動に対する国家介入(経済安保法)、軍事研究動員、「自衛隊、在日米軍等の活動の現状等への理解を広げる取組を強化する」とイデオロギー的動員も明記されている。
第三に、平和的生存権の否定。
国家安全保障戦略には、「憲法」の語は一度しか登場しない(「反撃能力は、憲法及び国際法の範囲内で、」)。
ミサイル基地は攻撃対象となり、周辺住民の平和的生存権が侵害されることは明らか。このことは長沼訴訟の一つの論点であり、地裁判決はその危険を認めていた。しかし、今回、その議論は完全に回避されてしまっている。
4 猿田佐世弁護士講演「戦争を回避せよ! 外交なくして平和なし」
先日の「朝生」で、私が言質をとったところによれば、今回の閣議決定の方針は、国会の承認(関連法案の通過)がなければ撤回されるようである。
私が代表を務めるND(新外交イニシアティブ)では、「戦争を回避せよ」というタイトルで政策提言をしている。「朝生」でも軍拡一辺倒であるが、軍拡では偶発的な戦争は防げず、相手の「戦争してでも守るべき利益」を脅かさない「安心供与」が必要。外交なき軍拡は「抑止力」にならない。
「台湾有事」に関しては、台湾に対しては民間レベルの交流を維持しつつ、中国には自制を求めるべきである。
CSIS報告書を敷衍すれば、「台湾有事」で日本が使えなければ、米国は戦えないことになるのではないか。米国に対しては直接襲撃が事前協議事項であることを梃子にして過度の対立をいさめる必要がある。今の日本政府はそんなことは言わないだろうが、世論がそう言わせなければならない。「許可」が必要、という世論も欲しい。
戦争になったときに敵基地攻撃能力は効果があると主張するのであれば、何人が助かり何人が犠牲になるのかをシミュレートして欲しい。戦争になれば「自助」と、国民保護関連の本は異口同音に書いてある。誰も守ってくれない。
ASEANについて、シンガポール、フィリピンは対米追従からの脱却を宣言している。97%の人が、アメリカもしくは中国のどちらかにはつかないとしている。
日本の現実も「don’t choose us」。韓国や東南アジア他と連携し、米中対立の緩和を呼びかけるべき。
5 最後に
3つの基調講演後、飯島茂明教授から、沖縄に関する特別報告があり、与那国島の様子を中心に、すでに軍事拠点化されていること、さらにそれが進行中であることについて豊富な写真とともに紹介されました。
最後に市民アクションの小森陽一運営委員から閉会の挨拶があり、今回の集会のアピール文も採択されました。
盛りだくさんの院内集会で、それぞれの報告が簡素になってしまい、申し訳なく思います。
YouTubeにてアーカイブがありますので、内容が気になる方は、是非そちらをご覧ください。(次頁参照)
教職員の残業代請求―さいたま地裁
令和3年10月1日判決を読んでの雑感
大分支部 楠 本 敏 行
かねてから、この判決は読んでみたいと思い、判決直後に団のメーリングリストで見かけてプリントしていたが、ようやく読んでみた。
判決の最大の問題点は、「教員の自律的判断による自主的、自発的な業務」と「上司の指揮命令に基づく業務を」を峻別しているところにある。たとえ職務の遂行にあたって、自主性・自発性が重要であるとしても、与えられた職務を遂行する時間(少なくとも最低限要する時間)は雇用主の指揮命令下にあると評価すべきである。本判決は、たとえば、朝自習の準備について「前日のうちに済ませておくことも可能であり、校長が当日の始業開始前にこれらの準備を具体的に指揮命令したことをうかがわせる事情」がないので、労働時間ではないとする。また、「昼休みの休憩時間には連絡帳やドリル、音読カードを確認するなどの業務に追われ、休憩をとることができなかった」との主張に対し、校長が「これらの作業を休憩時間中に実施するよう指示していたとは認められず」、「これらの作業を所定の勤務時間内に終わらせることができなかったと認めるに足りる証拠もない」ので、原告の自主的判断によるものであって、この時間を労働時間として認めることはできないとする。具体的な指揮命令と業務の遂行に要する総時間との関係をこのように形式的に判断したのでは、教職員の勤務実態に全くそぐわない。本判決自体、月額の4%の教職調整額の支給では不十分であるとする原告の主張について「現在における時間外勤務を行う教員の職務のすべてを正当に評価していないとする原告の問題点の指摘は、正鵠を射ている。」と認めている。
また、本判決は、実質的に校長の職務命令により業務を行った時間が、日常的に長時間にわたり、時間外勤務をしなければ事務処理ができない状況が常態化している場合に、(事案へのあてはめはともかく)労基法32条違反を理由とする国家賠償法1条1項による損害賠償請求権が発生することを認めている。
そして、本判決は、付言して「本件訴訟で顕れた原告の勤務実態のほか、証拠として提出された各種調査の結果や文献等を見ると、現在の我が国における教育現場の実情としては、多くの教職員が、学校長の職務命令などから一定の時間外勤務に従事せざるを得ない状況にあり、給与月額4%の割合による教職調整給の支給を定めた給特法は、もはや教育現場の実情に適合していないのではないかとの思いを抱かざるを得ず、原告が本件訴訟を通じて、この問題を社会に提起したことは意義あるものと考える。」と、述べる。
人権の侵害を政府に是正させるのは、何よりも当事者の声であり、それを支える国民の声である。給特法の是正が国会で審議されるとは聞いてはいるが、まだまだ当事者の怒りや抗議の声が、国民を巻き込んだ大きなものになっているとは思えないのは、私だけだろうか。
アメリカの台湾問題での軍事介入は明らかな国際法違反!
東京支部 笹 本 潤
台湾有事に絡んで2023年1月に米国のシンクタンクである国際戦略研究所(Center for Strategic & International Studies–CSIS)が、中国が台湾に軍事侵攻した場合、米国も台湾問題に軍事介入するとし、その軍事介入の詳細なシナリオが検討されている。何よりの問題は、米国が軍事介入することが当然視されていることである。しかし、米軍の軍事介入は明らかな国際法違反(国連憲章違反)である。
他国からの要請や協定により集団的自衛権が発動される時に国連憲章上の集団的自衛権(51条)が合法と言えるためには、その他国とは国際社会に承認された国でなければならない。ロシアがウクライナを侵攻した際に、ロシアはドネツク・ルガンスク共和国を独立・承認し両国からの集団的自衛の要請があったと説明した。しかし、それが国連憲章上違法なのは、2共和国とも国際的に承認された国家でなかったからである。これと同様に、台湾も国連加盟国ではなく、国際的にも独立国家として承認された国家でないため、台湾を防衛することは集団的自衛権では合法化できないのである。どちらのケースも、武力侵攻する側の解釈で国連憲章を無視しようとしている。中国の台湾への攻撃は米国への攻撃ではないから個別的自衛権の行使ももちろん成り立たない。米国の台湾問題への武力介入は、国際法上何ら根拠がないのである。
仮に米国の軍事介入が集団的自衛権として合法となるならば、侵略側は攻め入りたい国の中に味方の勢力を作り、それを利用して他国に攻め込むことが容易にできる。これでは戦争がなくならない世の中になってしまう。
2,そして米国は、同盟国日本との間でも武力行使に対するフリーハンドを得ようとし、日本の米軍基地を最大限に使うとしている。
安保条約6条では、米軍は日本防衛以外の戦闘行為にも在日米軍基地を使えるとされている。しかしその際には日米で事前協議をすることが新安保条約締結のときの交換公文(1960)で合意されている。しかし、事前協議については日米で一致した認識でないことが今回のCSIS報告書の内容で明らかになった。同報告書p117*によれば、米国は、日本防衛以外の戦闘行為を行う場合、日本にその意図を通知すればいいと解釈している。つまり日本の同意は不必要としており、これは米国の判断だけで、台湾への軍事介入ができることになる。しかも米国が、武力行使の場合の要件を厳格に守るとう保証はどこにもない。このことだけでも、米国の戦争に日本が自動的に巻き込まれる仕組みがあることがわかる。日本政府も、事前に日本政府の許可が必要だと国民には説明しているが、交換公文はそういう言葉になっていない。米日双方が自己の都合のよいように解釈できるように、交換公文の文言は米国の戦闘行為の際に「事前の協議の主題」にするとだけ書かれているのだ。
*CSIS報告書p117「日米の戦時の調整について調べていると、二国間条約の解釈に齟齬があるのではないかということがわかってきた。日米地位協定では、日米間の「協議」の必要性に言及している。しかし、地位協定も元の日米同盟もこれが何を要求しているかは漠然としている。多くの日本政府関係者は、日本の防衛以外の目的で米国が日本本土から戦闘飛行を行う場合、事前に許可を得ることを要求していると解釈している。しかし、米政府関係者は、「協議」を米国の意図を日本に通知することと見なす傾向があった。この断絶は、有事の際の戦争計画の遅延や混乱につながらないよう、直ちに改善されなければならない。」
CSIS: A Report of the CSIS International Security Program(p117)
“In researching U.S.-Japanese wartime coordination, it became apparent that there may be a disconnect in the interpretation of bilateral treaties. The Status of Forces Agreement between the United States and Japan refers to a requirement for “consultation” between Japan and the United States, but both it and the original defensive alliance are vague about what this requires. Many Japanese officials interpret this as requiring the United States to obtain permission before flying combat missions from Japanese soil for any purpose other than the defense of Japan. However, U.S. officials tended to view “consultation” as notifying Japan of U.S. intentions. This disconnect must be remedied immediately, lest it leads to delays or disruption of war plans during a crisis.”
Original: https://www.csis.org/analysis/first-battle-next-war-wargaming-chinese-invasion-taiwan
【ウクライナメモ 2】
ロシア覇権主義の歴史を読む―付:「ふたつの常任理事国」考
東京支部 藤 本 齊
昨年10月21日の自由法曹団通信第1791号に「議案書の情勢認識には賛成できない、私も」を書いた。それなりの反響もあったので、あれを【ウクライナメモ 1】とし、今号以降【同メモ ●】として若干の続きを書いてみます。
反響の中には「三つの覇権主義のうちのロシアのそれの歴史を知る上でこれはと思うのを教えろ。」というのもあったので、まずはこれへの返答を基にした若干の敷衍から。合わせて、「ロシアと国連及び国際社会」に「日本と国際連盟及び国際社会」を重ねて見てみます(いずれも「常任理事国」です!)。
確かに私は上記「メモ1」で、「同じく覇権主義と言っても、米・中・ロ、三つのそれぞれなりに様相の違いが大きくあり、今、重要なのは、よく知らなかったかもしれないロシア覇権主義の歴史、その独特の一貫性をよく見ること」という旨を書きました。また、「ロシアの思惑と西側の思惑の間にはいって自分の思惑を語るという語りが多いが、こういう事態というのは、結局、情報の的確さと十分性の保証が危ういもので、こうしたときこそ、歴史を見る視点が、尚一層必要なのです。」とも書きました。
本当に戦争状態というのは「情報の的確さと十分性の保証が危うい」ものです。だからこそ、同時代的な知見や情報も必要だとはいえ、それらをも、「歴史」によって試されくぐり抜けてきた「古典」的な『歴史』に照らしながら見直す姿勢が大事となります。でないと、現象の表面だけをグルグル回らされているだけの根無し草的認識に止まります。そこで、現在流布される色々(それらについては各自自己責任で…。)とは少々違った視点から、私が「これは」と思ってきたものを改めてご紹介することとします。
ロシア覇権主義とウクライナというテーマでの現代的古典といえば、何と言っても、中井和夫『ウクライナ・ナショナリズム』です。侵略開始直後には23万円という値が古書市場でついていたところ即座に東大出版会が緊急復刊を決定したという代物で、1998年出版!。既に90年代にして今を予見しているかの如き知見です。ロシアが、1993、4年頃を期して再転換して以降、ロマノフ時代・ソ連時代を直接継承するかの如く大ロシア覇権主義を一筋に体現していく危険性を、見事に予示しています。熟読三思すべき古典です。
次に、ロシア覇権主義・大ロシア主義の凄まじい性格を示すものとして、ロシア連邦国内でですが、チェチェン問題を見ておく必要があるでしょう。今やその地域の支配者はプーチンの最も忠実残虐な尖兵で、ある意味でロシア覇権主義の性格を屈折して体現したかの如きですが、実は、ロマノフ時代に遡らなくても、ソ連時代から既に複雑深刻な問題様相を呈していました。こう言う「情報もの」こそ吟味が大事なのですが、ソ連東欧ものについて私が信頼してきた何人かの内の一人である米原万里さんが、04年9月16日の週刊文春に「世界から忘れ去られたチェチェンという地獄」という文献紹介記事を載せていまして、3冊紹介しています。林克明・大富亮『チェチェンで何が起こっているのか』、ハッサン・バイエフ『誓い チェチェンの戦火を生きたひとりの医師の物語』、そして、暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤの『チェチェンやめられない戦争』。米原さんの文献紹介記事自体は文春文庫の『打ちのめされるようなすごい本』にも所収。5頁程度のこれだけでも一端が伝わる凄さの全貌は想像を絶します。
なお又、ロシア覇権主義を見るとき、忘れてはならないその複雑性への一要因としてユーラシア民族問題の重層性という問題があります。例えば、グルジア(ジョージア)について見るとき、ロシアの大ロシア覇権主義が確かに問題なのですが、実は、グルジアにもその周辺少数民族に対する大グルジア主義(中覇権主義?)とでもいうべき歴史的傾向も存在していまして、少数民族としてのアブハーズやオセット等の問題というのは、小が中(大グルジア主義)に対して対抗するに大の助けを得るべく大ロシアと結ぼうとするとか、逆に、中が小を制圧するために大と結ぼうとするとか、大は大でそういう関係を利用して時に小と結び、時に中と結ぶ等々の政策や策謀が入り乱れるので、注意が必要です。それらもあって実はグルジア問題等については未だ不分明感も残ります。
そうした要素も含め、さて、ソ連時代からの繋がりという問題です。先のチェチェンもの3冊にも若干は出てきますが、実は、ユーラシア大陸での民族問題とロシア覇権主義のソ連時代からの諸様相については、80年代90年代ころの雑誌『世界』に連載された藤村信さんの『パリ通信』が私には当時ほぼ唯一無二の重要な情報源でした。別格の感がありましたね。どれをとっても広く深い知見の東西新旧ヨーロッパものですが、時に登場する東欧ものも、その独特の潜入取材力と実に見事な語り口と文章力にも魅了されていました。これだけで当時の『世界』は月々に待ち遠しかったものです。中でも既に多少は知られていたポーランド等の東欧ものと違って、当時からロシア連邦内であったチェチェンはじめコーカサス山脈の北斜面、そして当時から諸国諸民族入り乱れていた山脈南側の全域、更にはクリミアから中央アジアと中東にかけての、当時余り知られていなかった地域の状況を彼ほど豊かに伝えてくれた人はいなかった。最近また見返したけど、全く古びていないし、却ってその後現代に至る状況との繋がりで分かり易くさえなってもいる。現在のロシア覇権主義問題に直接繋がる話としては、岩波のパリ通信シリーズの中の『赤い星 三日月 絹の道』(1978~84)、『ヨーロッパ右往左往―大乱前夜』(88・89)、『ユーラシア諸民族群島』(91・92、これが第11集にあたる)に所収。近所の公共図書館で所蔵状況を確かめたら職員の手で実に丁寧に修本されていた。
「メモ1」の最後の欄外の註に私は、「満州国建国」から北支分離工作の時期を経て日中戦争・アジア太平洋戦争へと至る時期とのアナロジーを書きましたが、1991年当時の小ロシア主義への萌芽を切り捨ててロマノフ王朝以来の大ロシア主義に再転した以降の一連の各地での紛争を経たうえでの今回のウクライナ侵略というロシア覇権主義の道は、改めて、国際立憲主義への道に対する戦前日本の挑戦の道を想起させます。あれは国際連盟の常任理事国日本による、不戦条約と、武力による国境不変更の原則に対する、破壊と挑戦の道だったのです。日本は、パリ不戦条約の成立に向けては、五大国のひとつ、国際連盟常任理事国として国際的な根回しの努力を行い、当時存在した国家のほぼ全部の参加を得るという外交上の成果を諸国と協力してあげたのでした(岩波現代文庫・小森陽一解説付き『井上ひさしの憲法指南』は、これはポツダム宣言のいう「復活強化さるべき民主主義的傾向」の例なのだと言っていて、ちょっと興味深い。)けれども、何とその常任理事国日本が、手のひらを返して「満州事変」に突入・拡大し、自らの打ち立てた原則を自ら破壊し、国際連盟を脱退し、ドイツの脱退とイタリアの脱退の先陣をきる役割をも果たして全世界を二分させ、大戦への引き金を引いたわけでした。その経験を持っている我々は、国連常任理事国ロシアが、今かつての連盟常任理事国日本とそっくり同じように国際立憲主義への道の破壊者となり挑戦をしかけているのをどう見るのかが突きつけられている問題なのです。ここでは、ロシアにも一理ありなんて言ってる場合でないだけではなくて、逆に、軽はずみに「ロシアを国連から除名しろ」なんて言ってる場合でもないのだという教訓を歴史から汲みとるべきでしょう。世界を二分させるのではなく、包摂したままに国際秩序の中に据え直すということが求められているのです。元来、集団安全保障という現代的発想は、政治的にも、また上記のような歴史的教訓からしても、そして国際法的にも、この発想(「包摂したままに」)を基本とし、コアとしたものだったはずなのです(国連ののみならずASEAN等の地域的実践も含め)。集団安全保障の思想の構えが、集団的自衛権や(軍事)同盟政策の思想と、根本的本質的に異質で全く異なるものであるのは、正にこの点(「初めから敵を想定したりしないで全員を包摂したままに」)においてなのです。
ウクライナ侵略に対しては、私たちは、その歴史の中からも、語るべき実に多くを持っているのです。
罅(ひび)入りてやがて粉々に砕けたる
あれは地球であったか知れず
埼玉支部 大 久 保 賢 一
この短歌は、柳重雄団員の歌集『空白地帯』に収められている一首である。私は、核兵器国が核戦争をしてしまい、地球が終わってしまった光景を想像してのものだと受け止めている。地球は終わってしまうのだろうか。
プーチンとバイデンと岸田
プーチンは核兵器使用を何度も言い立てている。このことについて、直近の日米共同声明は「ロシアによるウクライナでのいかなる核兵器の使用も、人類に対する敵対行為であり、決して正当化され得ない」としている。私もその部分についての異論はない。他方、日米安全保障委員会 (2+2)は「米国は、核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた、日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメント」を再表明し、「米国の拡大抑止が信頼でき、強靱なものであり続けることの決定的な重要性」を再確認している。要するに、日米両国は、核兵器に依存し続けているのである。
バイデンと岸田は、プーチンの核兵器使用は「人類に対する敵対行為」としておきながら、核核兵器に依存するという態度なのである。彼らは、プーチンを非難しているけれど、核兵器をなくそうとはしていないどころか、その利活用を前提としているのである。悪いのはプーチンで、核兵器ではないという論理である。これでは、核兵器はなくならないし、私たちは、いつ、その核兵器によって望まない終末を迎えることになるのか不明なままの人生を送ることになる。プーチン、バイデン、岸田は核兵器に依存しているということでは「同じ穴の狢(むじな)」である。
核戦争が全人類に惨害をもたらすことは、核不拡散条約(NPT)が確認している国際法上の公理である。惨害を罅と置き換えてみると、この歌がよく理解できる。柳さんは、核を持って絶滅危惧種となった人類が、本当に絶滅するという想像を三十一文字に収めているのである。そこで、「どうする私たち」である。グテーレス国連事務総長の昨年8月のNPT再検討会議でのスピーチを思い出してみよう。
グテーレス事務総長のスピーチ
人類は、広島と長崎の惨禍によって刻み込まれた教訓を忘れ去る危機に瀕しています。
地政学的緊張が、新たな段階に達しつつあります。競争が協力と協調に勝りつつあります。
不信が対話に、分裂が軍備縮小に取って代わっています。
冷戦終結後に霧散した暗雲が再び立ちこめています。私たちは、これまで限りなく運が良かったのです。しかし、運は戦略ではありません。また、核紛争に発展する地政学的緊張を防ぐ盾にもなりません。今日、人類は、1つの誤解、1つの判断ミスで核により壊滅する瀬戸際に立っています。
私は、行動すべき5つの提案をします。
1つ目に、77年間ずっと続いてきた核兵器使用を許してはならないという規範を、緊急に強化し、再確認する必要があります。核戦争のリスクを軽減し、私たちを軍縮への道に戻す実用的な措置を見つけるのです。
2つ目に、戦争のリスクを減らすだけでは不十分です。核兵器の廃絶が唯一、二度と使用されないことの保証となるのです。
3つ目に、私たちは中東とアジアにおける一触即発の緊張状態に対処する必要があります。
長引く紛争に核兵器の脅威が加わることで、これらの地域は破滅に向かって進んでいます。
4つ目に、私たちは医療やその他の用途を含む、持続可能な開発目標(SDGs)を進展させる核技術の平和利用を推進する必要があります。
5つ目に、私たちは条約の全てを実行し、この試練の時代にこの条約が目的に沿うよう維持する必要があります。
未来の世代は、奈落の淵から一歩退くことへの皆様のコミットメントに期待しています。
私たちは、世界を、私たちが出会ったものよりも、より良い、より安全な場所として残す義務を共有しています。
グテーレス演説と日米共同声明の違い
グテーレス演説の特徴は、核兵器廃絶の必要性を説くことと、競争が協力と協調に勝りつつあることや不信が対話に分裂が軍備縮小に取って代わっていることに対する危機感である。バイデンと岸田が核兵器に依存し続けていることは前に述べたとおりである。世界の分断や不信の拡大についてはどうであろうか。
共同声明は次のように言っている。
今日の我々の協力は、自由で開かれたインド太平洋と平和で繁栄した世界という共通のビジョンに根ざしたものである。インド太平洋は、中国によるルールに基づく国際秩序と整合しない行動から北朝鮮による挑発行為に至るまで、増大する挑戦に直面している。欧州では、ロシアがウクライナに対して侵略戦争を継続している。我々は、力による一方的な現状変更の試みに強く反対する。米国及び日本には、単独及び共同での能力を強化する。
要するに、中国、北朝鮮、ロシアとの対立を強調し、単独及び共同での(軍事)能力の強化を誓い合っているのである。ここには、協調とか協力という姿勢は全くない。
そして、2+2では「あらゆる事態に適時かつ統合された形で対処するため、同盟調整メカニズムを通じた二国間調整」の更なる強化や「陸、海、空、宇宙、サイバー、電磁波領域及びその他の領域を統合した領域横断的な能力」の強化が強調されている。要するに、あらゆる分野における軍事力による対決が選択されているのである。そこに、軍備縮小という発想はない。
地球に罅を入れさせないために
自由で開かれたインド太平洋と平和で安定した世界のために、果てしなき軍拡競争が展開されようとしているのである。このような日米同盟強化路線は私たちをどこに導くのであろうか。この路線では、世界は分断と不信と戦争による破滅が不可避になってしまう。中国、北朝鮮、ロシアの行動に問題があることはそのとおりである。けれども、私たちは、彼らの問題行動の背景や武力衝突がもたらす結末の悲惨さについての想像力も働かせなければならない。そもそも、対立や紛争は一方当事者にだけ原因があるわけではなく相関関係である。その対立の正体を冷静に見抜かなければならない。例えば、北朝鮮の核やミサイルは、朝鮮戦争が終結していないからである。その終結を言わないままに、北朝鮮の軍拡を非難するだけでは、何の問題解決にもならないであろう。
また、対立や紛争を戦争で解決するというのは余りにも野蛮である。無人島の取り合いを殺し合いで決着をつけることなどありえない選択である。台湾の独立をめぐって自衛隊が戦わなければならない理由はない。そもそも、台湾問題は中国の国内対立の延長戦である。「台湾有事は日本有事」というのは途方もないフェイクである。
ヒトは、言語を持ち合わせているし、法規範や裁判制度も工夫してきた。国家間の紛争解決についても、紆余曲折はあるけれど、戦争を違法化するところまでは来ている。「核の時代」における武力による紛争解決は「文明を滅ぼす」ことも自覚されている。いかなる核兵器の使用も「壊滅的な人道上の結末」をもたらすので、核兵器を禁止し、それを廃絶しようとする国際法規範も発効している。法は万能ではないが無力でもない。
人類は、殺し合いもしてきたけれど、そうではない文明も作り上げてきている。政府が、「先軍思想」にとり憑かれ「国家総動員体制」をとろうとしている時、私たちは、最悪の事態と望ましい事態とを想像し、最悪を避け最善を求めなければならない。
地球に罅を入れるようなことは絶対に避けなければならない。日米両国が自国の都合と思惑に合致する「国際秩序」の維持のために核兵器を含む「防衛力」という軍事力に依拠し続けるとき、地球という私たちの星に罅が入ることになるであろう。日本国憲法は「平和を愛する諸国民の公正と信義」を信頼している。それこそが人類社会の持続可能な道であろう。
グテーレス演説流に言えば、「奈落の底」へ落ちることを避け、地球を、今よりも、少しでもより良い、より安全な場所にすることが求められている。それが未来社会への私たちの責務である。
(2023年1月15日記。文中一部敬称略)
新人学習会&歓迎会のお知らせ
女性部部長 湯 山 薫
団女性部では、入団3年目までの方を対象に、新人学習会&歓迎会を開催することになりました。
例年、1年目の新人の方を対象に行っていましたが、コロナ禍で中々開催が出来ませんでしたので、3年目の方々までお誘いをさせていただくことに致しました。
学習会では、先輩弁護士が家事事件の経験をざっくばらんにお話する家事事件交流会を予定しています。家事事件、特に離婚に関する事件では、離婚に付随した様々な問題が発生します。子の引渡と執行、面会交流、保護命令、養育費・婚姻費用、DVなど問題は多岐にわたります。
また、離婚に関する相談では、受任前の相談段階で気を付けなければならないことも多々あります。
自信を持って離婚事件に取り組めるように、先輩弁護士の経験談を聞いてみませんか。研修会などでは聞けないような裏話も聞くことができるかもしれません。今、ご自身が抱えている事件に関する相談もお受けします。
学習会は、5月9日午後3時から午後5時。団本部とZoomのハイブリッドで行います。
その後、団本部近辺にて歓迎会を行います。
入団3年目までの方はご招待いたします(参加費は無料です)。女性部員だけでなく、入団3年目までの男性団員も参加可能です。
ぜひ、ふるってご参加ください。
国による自主申告運動への介入を許さない
~「税務相談停止命令制度」創設反対運動へのご協力のお願い~
市民問題委員会担当次長 永 田 亮
1 団は、2023年1月27日付で「国による自主申告運動への介入と結社の自由への侵害を招く『税務相談停止命令制度』の創設に断固反対する声明を発出しました。
創設されようとしている当該制度は、その詳細は声明に譲らせていただきますが、有償・無償を問わず反復継続して税務相談を行っている「税理士等でない者」について、税務相談の停止、顧客名簿の破棄、営業広告の停止等が想定され、かつ、命令を発出したことをインターネット上及び官報で公開することができる(命令に違反すれば1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)とするものです。
日本国憲法のもと国民の主権者としての関与を保障するものとした申告納税制度が存在するにもかかわらず、当該制度は、自主的な税務申告をとおして税務の仕組みを理解し、国民主権の担い手としての自覚を促すべく中小零細事業者の税務相談(自主申告運動)を担ってきた民主商工会等の結社の自由を脅かすものであり、また、刑罰の前提となる「命令」発出の要件も不明確かつ過度に広範なもので憲法31条(法定手続の保障)に違反する可能性が高く、法律家として到底許容し得ないものです。
2 この制度創設に反対するため、2023年1月26日には全商連などが中心となって「自主申告運動の擁護・発展をめざす緊急集会」がオンライン中心に開催されました。
通常国会における税制改正は、例年3月頃には国会で成立し、4月頃には施行されることとなっています。当該制度創設にかかる法改正は重大な権利侵害を伴うものでありかつ刑罰法規の要件としても多大な問題をはらんでいるにもかかわらず、本年2月~3月には山場を迎えるという状況にあり、急ぎ反対運動を盛り上げ、慎重な国会審議を求める運動を強めていく必要があります。
3 各地の団員の先生方は、地域での取組み尽力されており、多くの先生方が民商や農民連、土建組合、年金者組合などの自主申告運動を担う団体の顧問などをされていると思います。
ぜひ、当該制度の問題点を共有いただき、地域の団体とともに反対運動にご協力いただければと思います。
当面の行動としましては、
①衆議院議員要請
2月22日(水)13:30~@衆議院第2議員会館
②参議院議員要請
3月17日(金)13:30~@参議院議員会館
が予定されております。ぜひ、反対運動を強めるためにも、議員要請にご参加をお願いいたします。
4 また、当該制度創設の問題点、課題についてしっかりと理解をするため、緊急の団内学習会を企画いたしました。数々の弾圧事件に取り組まれてきました鶴見祐策団員を講師にお招きして、当該制度の憲法上の問題点についてご解説いただきます。また、佐藤誠一団員より民商事務員の税務相談行為が刑事訴追された倉敷民商弾圧事件についてご報告いただきます。さらなる弾圧を阻止すべく、ぜひ一緒に声をあげましょう。
★「税務相談停止命令制度」緊急学習会
・日時 2023年2月15日(水)午後6時~
・会場 団本部+Zoom
・講師 鶴見祐策団員(東京支部)、佐藤誠一団員(東京支部)
団長日記(1)
岩 田 研二郎
オンライン会議の活用と地方からの事務局次長
●オンラインで活動中です
団長に就任して3ヶ月。オンライン会議の普及の恩恵で、団関係会議のリアル出席は新旧執行部会議(11月4日)、東北ブロック総会(1月7日、福島)、1月常幹(21日)のみです。月2回の執行部会議、常任幹事会、組織財務委員会、改憲阻止対策本部などの各種委員会すべてオンライン(月10回程度)。議員会館で開かれた法律家6団体主催の市民集会(1月31日)の主催者あいさつ、技能実習生シンポの主催者あいさつ(2月4日)も、自宅からオンラインでさせていただきました。地理的な距離は活動に全く支障がない時代に変わりました。
●常任幹事会を参加型にー分散会(ブレイクアウトルーム)試行
月1回の常任幹事会はいつも議題が盛りだくさん。リアル参加者は10数名、オンライン参加者が50名くらいですが、弁護士業界のオンライン会議の通例どおりビデオオフがほとんどの真っ黒画面。こうなるとリアル会議と比べて参加者の顔が見えません。司会と報告者中心の「聞くだけの会議」になりがちなので、私が他で経験したことのあるオンライン分散会(ブレイクアウトルーム)の試行を提案し、1月の常幹で初めて試行。参加者60名の会議でしたが、「これから分散会です」との合図で、パソコンの画面が、自分が分けられた10名程度のチームだけにホストが切り替えてくれます。「みなさん こんにちは」とみんなビデオオンで顔を見せて一人ずつ自己紹介。よく知っている顔もありますが、「はじめまして」の人も。自分が取り組んでいる事件のこと、支部の活動のこと、それぞれに数分ずつ発言。全員発言は新鮮でした。各地の様子もよくわかりました。アッという間に50分が終了し、全体会議への切り替えも自動的に。ビデオオンのまま全体会議に切り替わったので、それまでのビデオオフの真っ黒画面と異なり、たくさんの顔が画面に並び画面は大にぎわい。顔の見えるリアル会議の雰囲気が戻り、初の試みは好評でした。
味をしめて1月28日の憲法討論集会(80名参加)でも実施。自己紹介のほか、安保三文書や敵基地攻撃能力などの問題を、支部や事務所で市民にどのように働きかけるかを交流。顔が見えると、できていないことも含めて自分の支部の実情なども率直に話しやすく、ここでも全員発言(50分)。リアル会場では、こんな分散会は物理的に困難ですが、オンラインならではの参加型の交流方法ですので、みなさんもご活用を。
●福島支部から事務局次長が
私の就任のあいさつで「オンライン時代到来で、地方からの事務局次長を」とお願いしましたが、1月7日に東北ブロック総会で福島を訪問して改めてお願いした結果、総会準備にあたっていただいた福島支部事務局長の鈴木雅貴団員(65期、あぶくま法律事務所)から「事務局次長に出てもよい」とうれしい申し出。事務所の同期からは「鈴木さんは向いていると思う」と推薦の弁で即決。生業訴訟などで原告の方々に10年間寄り添ってきたので、空席の原発問題委員会担当に。さっそく4月から執行部に合流していただくことになりました。首都圏の事務局次長と複数担当して補いあうことで不安をなくし、全国のブロックから意欲ある事務局次長が今後も誕生するきっかけとなっていただきたいと思います。
●早起きで、筆まめの幹事長と団長
オンラインで上京の時間や労力は少ないですが、執行部の中のメールの数は3ケ月で1100通(週あたり100通)超え。早起きと筆まめが共通する今村幹事長と私は朝6時台からの投稿。若手の事務局次長の皆さんの斬新な問題意識やITスキルに刺激を受けています。
団通信の紙面も、最新の事件活動を収録するためのアンテナを高く、各地の通信員も委嘱していきます。掲載する写真の投稿も募集中です。私の素人写真のネタも尽きてきましたので、よろしくお願いします。