第1808号 4/21

カテゴリ:団通信

【今号の内容】

●兵庫優生保護法被害国賠訴訟大阪高裁で逆転勝訴!  相原 健吾

 コロナ禍に負けない!貧困と社会保障問題に取り組みたたかう団員シリーズ㉔
●生活保護基準引下げ違憲訴訟の和歌山地裁判決の報告  芝野 友樹

●種子法廃止違憲確認訴訟の判決について  田井 勝

 ●「格安賃料でのIR用地・借地権設定契約の差止住民訴訟を提訴」  西川 翔大

●4月4日 入管法改定に反対する国会議員要請の感想  井上 洋子

●入管法改定案の廃案を求め、国会議員に要請  金子 美晴

●【和訳初公開】ロシア人徴兵拒否者の刑事法廷証言  加部 歩人

●大軍拡、大増税に反対する請願署名の取り組みについて  佐藤 芽

~追悼~
●橋本紀徳さんを見送る  荒井 新二

●事務局次長就任のあいさつ(その1)  鈴木 雅貴

【福岡支部特集】
◆改憲阻止に向けたとりくみ  井下 顕


 

兵庫優生保護法被害国賠訴訟大阪高裁で逆転勝訴!

兵庫県支部  相 原 健 吾

1 逆転勝訴!
 2023年3月23日、大阪高等裁判所第10民事部(中垣内健治裁判長)は、国に対して、優生保護法による被害者である控訴人ら5名全員に総額4950万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。
2 事案の概要
 兵庫訴訟の原告は、ろう者のご夫婦2組と脳性麻痺の方の計5名です。
 優生保護法に基づく優生手術を受けさせられた控訴人(一審原告)らは、優生保護法は違憲無効であり、国会議員の立法行為は違法であるなどと主張をし、被控訴人国に対し、国家賠償法1条1項に基づき、1人当たり慰謝料3000万円、弁護士費用300万円、計3300万円の損害賠償を求めていました。
 原審の神戸地方裁判所第2民事部(小池明善裁判長)は、2021年8月3日、20年の除斥期間の経過を理由に、原告らの損害賠償請求権は消滅したとして原告らの請求を棄却する判決を下していました。
3 本判決の概要
 本判決は、まず、優生保護法の優生条項は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止することを目的として優生手術を行うことを定めるものであり、これは子どもを産み育てるか否かの意思決定の機会を奪うものであり、このような優生保護法の立法目的が極めて非人道的であって、個人の尊重を基本原理とする日本国憲法の理念に反することは明らかであるから、優生保護法は、個人の尊厳を著しく侵害するものであり、憲法13条、14条1項に明らかに違反するものであるとしました。
 次に、国会議員による優生条項に係る立法行為は、当該立法の内容が国民の憲法上の権利等を違法に侵害するものであることが明白であるにもかかわらずこれを行ったものとして、国賠法1条1項の規定の適用上違法の評価を受け、その立法を行った国会議員には少なくとも過失があるとしました。
 控訴人らの損害については、優生手術を受けさせられた控訴人3名のうち、当時成年であった控訴人2名の慰謝料額はそれぞれ1300万円と弁護士費用130万円、当時未成年であった控訴人の慰謝料額は1500万円と弁護士費用150万円と認めました。また、上記2名の配偶者の慰謝料額はそれぞれ200万円と弁護士費用20万円と認めました。
4 除斥期間の経過による効果を制限
 そして、最大の争点であった除斥期間の適用については、神戸地裁判決を変更し、本件においては正義・公平の理念に著しく反する特段の事情があるものとして、例外的に除斥期間の経過による効果を制限すると判断しました。
 まず、本判決は、優生保護法が憲法に明らかに違反し、対象者の憲法上の権利等を違法に侵害するものであり、立法を行った被控訴人が、私人間を規律する民法の除斥期間の適用により賠償(補償)責任を免れることは、そもそも私法法規(正義・公平の理念)を支配する個人の尊厳を基本原理とする日本国憲法が容認していないことは明らかであるとしました。
 また、被控訴人は、対象者の憲法上の権利等を明らかに違法に侵害する優生保護法を制定した以上、その時から同法を改廃するとともに、優生手術を受けた者に対する補償措置を講ずる責任を負っていたにもかかわらず、それを怠り、同法を合憲の法律として存続させたのみならず、優生保護法に基づく優生施策を積極的に推進することによって、その結果、優生手術の対象者の障害や疾病に対する社会的な差別・偏見を助長し、対象者において、同法が対象者の憲法上の権利等を違法に侵害するものであることが明白であると認識することを積極的に妨げてきたと判断しました。
 さらに、本判決は、被控訴人が一貫して優生保護法が対象者の憲法上の権利等を違法に侵害するものであったことを認めず、その立法行為の違法性を争い、除斥期間の適用を主張するなどして、その責任を否定してきたことも指摘しました。
 そして、被控訴人は、控訴人らの受けた手術が優生保護法に基づくものであることを認識するのが著しく困難な状況を殊更に作出したと評価できる上、本件訴訟において、優生保護法の立法目的を支える立法事実の存在や立法目的の合理性を主張立証しないにもかかわらず、優生条項が控訴人らの憲法上の権利等を違法に侵害するものであることを認めず、それまでに殊更に作出したと評価できるところ、その明白性を控訴人らが認識するのを妨げられている状況を持続させていると評価せざるを得ないこと等の事情を考慮すると、「被控訴人が優生条項を憲法の規定に違反していると認めた時、又は優生条項が憲法の規定に違反していることを最高裁判所の判決により確定した時のいずれか早い時期から6か月を経過するまでの間は、除斥期間の経過による効果が発生しない」と判断しました。
5 最後に
 誠に遺憾ながら、2023年4月5日、国は、上告受理申立てをしました。
 優生保護法被害国賠訴訟については、本判決が全国で7件目の勝訴です。本判決は、これまでの勝訴判決の内容よりもさらに踏み込んで、除斥期間の経過による効果を制限し、提訴をしていない人も含めた被害者の救済範囲を広げ、国がいまだに責任を認めようとしない姿勢を糾弾しました。すでに勝訴判決の流れは確定しており、司法の判断も固まっています。
 国は、1996年に優生条項を削除したものの、その後も今に至るまで、責任を認めて被害者に謝罪することはなく、優生思想を除去するための取り組みも怠り続けてきました。その結果、社会には今もなお優生思想及び障害者に対する偏見差別が根深く残っているのが現実です。
 兵庫訴訟の原告5人中2人が、今回の勝訴判決を聞かずに他界しています。高齢の被害者らに残された時間はありません。
 国は、各地の訴訟に係るすべての上告と控訴を直ちに取り下げ、司法解決を図るとともに、優生保護法問題の全面解決を行うべきです。

 

コロナ禍に負けない!貧困と社会保障問題に取り組みたたかう団員シリーズ ㉔(継続連載企画)

 

生活保護基準引下げ違憲訴訟の和歌山地裁判決の報告

和歌山支部  芝 野 友 樹

 和歌山地方裁判所は、3月24日、2013年からの厚生労働大臣による生活保護基準の改定を理由とする変更(減額)処分を取り消す原告勝訴の判決を言い渡しました。同じ日に原告勝訴の判決があった青森地裁に続き、全国7例目の原告勝訴判決です。この裁判で、国は、本件基準の改定を「ゆがみ調整」と「デフレ調整」のためと主張していましたが、「ゆがみ調整」も「デフレ調整」も、その内容としても、その手続きとしても、厚生労働大臣の裁量権を逸脱濫用したもので、生活保護法3条、8条2項に反し違法であり、そのような改定に基づく処分は取り消されるべきであるとしました。「ゆがみ調整」を違法としたのは、熊本地裁に続き2例目です。
 2015年2月13日に第一陣を提訴し、2022年11月11日、第36回期日で結審しました。原告らは第52準備書面、被告らは第33準備書面まで提出しました。被告は、判決直前に「上申書」と題する他地裁の判決を批判する書面を提出するほどでした。全国的な成果をふまえ様々な主張立証を行いましたが、判決書は58頁、非常に端的に国の基準改定の違法性を認めました。
 「ゆがみ調整」は、生活保護基準部会による検証結果に基づくものですが、実際には、その検証結果の数値を「一律」「2分の1」として処理されました。判決は、このことにつき、統計等の客観的な数値等との合理的関連性も専門的知見との整合性を欠くものとしました。
 被告の激変緩和措置との主張については、当時に国が作成していた書面には、そのような記述はないとして、一蹴しました。2分の1が、基準部会に諮られていないことを手続的に違法としました。
 「デフレ調整」についても、その調整に用いられた厚生労働省の考案した生活扶助相当CPIの考案過程や、指数比較の起点を平成20年としたことの検討過程が明らかにされていないことや、指数の接続をしていないことが、統計等の客観的な数値等との合理的関連性を欠くものとされました。また、昭和58年以降、参考にとどめるべきものとされた物価変動を考慮したことが統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠くものとされました。また、被告の主張については、当時の説明資料からは、そのようにいえないとしました。手続的にも、物価考慮につき複数の異論がでていることを基準部会にも諮問することなく行ったことを違法としました。
 要するに、今回の基準改定がこれまでとは異質なものであるにもかかわらず、被告が裁判で主張するようなことは、当時の国の説明資料と整合しないし、専門家委員会(基準部会)の意見を聞くことなく行ったことについて、厚生労働大臣の裁量権の逸脱濫用したのです。
 原告は、政権与党の公約としての財政削減のための引き下げであると主張してきました。このことについて正面から認めた判決ではありませんが、「生活扶助基準の見直しを急いだのは、…平成25年度の財政効果の減縮を懸念したことがうかがわれる」との判示もあり、「削減ありき」の基準改定であったことを認めたといえます。
 厚生労働大臣の裁量権行使について、その際の資料が明確に示されるべきです。しかも、生活保護基準は、憲法25条の生存権を具体化するものですから、なお一層、その裁量権行使は慎重になされるべきものです。しかし、今回の基準改定は、これまでとは異質のものであるにもかかわらず、基準部会はおろか、専門家の意見も聞くことなく行われたものでした。今回のような基準引き下げが「裁量」の名のもとに許されることがあっては、厚生労働大臣は何をやってもいいということになりかねません。和歌山地裁判決は、このことを重要な問題と捉え、きわめて簡潔に裁量権の逸脱濫用を認めたといえ、この点は評価したいと思います。
 他方で、生活保護は世帯単位の原則がとられており、世帯単位で生活保護受給しています。それにもかからず、原告であった世帯主が死亡し、世帯員であっ た新世帯主への承継を求めたにもかかわらず、生活保護の受給権は一身専属的であるとして、死亡による終了したとして、承継を認めなかったことは、看過できません。世帯の収入の問題であるにもかかわらず、世帯主が死亡して、世帯員が生活保護に関する不服申立てが一切できないとすると、世帯員の不利益は是正される余地がなくなることとなり、生存権や裁判を受ける権利の侵害にほかなりません。
 また、国家賠償請求は、本件変更処分により被る損害は、処分の取消しにより回復される性質のもので、回復できない精神的苦痛を被っているとはいえないとして、棄却されました。違法解雇の際の慰謝料請求で、従業員の地位が回復された際にも使われる表現で、予想された言い回しではありました、そうだとしても、先の死亡原告は、回復できないことになりますので、判決に矛盾に感じざるを得ません。
 2022年5月の熊本地裁の判決以降、処分取消し認容判決が相次いでいます。本件基準改定の違法性は明らかです。他方で、本件基準改定からもうすぐ10年となります。残念ながら、和歌山市が控訴したため、原告側も控訴し、控訴審の審理となりますが、国に対しては、基準改定の違法性を認め、すみやかに是正することを求めていきたいと思います。

 

種子法廃止違憲確認訴訟の判決について

神奈川支部  田 井  勝

1 種子法廃止違憲確認等訴訟について報告します。
 本年3月24日、東京地方裁判所民事第2部は、原告らの訴えを退ける不当判決を下しました。もっとも、判決では原告の訴えについての確認の利益を認めたり、あるいは種子法廃止による被害・不利益について一部言及もありました。
2 本裁判は2019年5月に提訴しました。原告らは、国会で制定された主要農作物種子法(種子法)廃止法によって種子法が廃止されたことが、原告らの「食料への権利」を侵害するので、憲法違反であり無効である、と訴えてきました。
 「食料への権利」は、誰でも、いつでもどこでも、良質で十分な量の安全な食料を得る権利です。この権利は、世界人権宣言25条及び社会権規約11条1項に包摂されている人権であって、国際人権法上確立している重要な権利であり、ゆえに、わが国の憲法上の権利として保障されるべきです。原告らは、この権利が憲法25条等で保障されると訴えました。
 また、食料の根本である種の生産体制や安定供給を保証する種子法は、この「食料への権利」に根拠を置く法律です。そこで原告らは、この種子法を廃止することはこの「食料への権利」を侵害することにほかならず、同廃止法は憲法違反であって無効、と主張しました。
 この裁判では、全国の農家(一般農家・採種農家)、消費者が原告となり、合計1489名の原告が、被告国を相手に裁判をたたかってきました。
3 判決は、採種農家である原告について、種子法廃止法の施行以降、種子法に基づく公法上の地位(=種子法に基づき自らの土地がほ場指定される地位)を喪失しているから、現実かつ具体的な危険または不安が認められるというべきとし、その地位の「確認の利益を認めました(判決28頁)。
 また、タネ農家の土地の「ほ場指定」について、仮に種子法廃止後に県の種子条例で規定されたとしても、法律が廃止された以上、法廃止前と同程度の財政基盤が保証されておらず、ゆえに、同原告に確認の利益があることは変わりないとしました(判決29頁)。
 その他、原告の訴える「食料への権利」について、憲法25条で保障される余地がある、ともしました(判決40頁)。
 また、判決では、種子法廃止法案の審議時間がわずか約10時間であること、議員の質問に対する返答・資料提出がない中で法案が採決された点も指摘されています(判決38頁)。
 しかし、判決は、種子法によって、「食料への権利」が具体化されているとは言えない以上、原告の主張する権利が憲法上の権利ではない(判決42~45頁)、ゆえに、種子法が廃止されたとしても権利侵害は存しない、として、結局、原告の主張を退けるに至りました。
4 以上のとおり、判決は原告らの主張を退けている以上、不当判決と言わざるを得ません。
 しかしながら、先ほど述べた通り、採種農家の原告について「確認の利益」を認め、そして、「食料への権利」が憲法上の権利として認められる余地を認めています。原告らの訴えた内容についての憲法判断の可能性を否定していません。
 この判決の判断内容は、原告らが控訴審でたたかえる可能性を広げているといえます。
5 控訴審では、種子法に基づいて私たちの権利が具体化されていることを、さらに主張する予定です。
 判決は、種子法は「食料増産」という政策的な目的で制定されたものであって、国民の権利を具体化したとは言えないと認定しました(判決41頁)。しかしながら、戦後、この種子法に基づき、都道府県で主要農作物の種生産が続いてきたこと、私たち国民に良好で安全な農作物が提供され続けてきたことは明らかです。これこそ、国民の食料への権利そのものと言えます。
6 昨年10月の結審後、判決までの間にインターネットなどを通じ、本裁判の公正判決を求める署名を集めました。その数は5万3724筆となりました。また、署名の賛同者からはネット上で、「すべての人が安心してご飯を食べられる社会のため種子法を守ろう」「タネを守りましょう。外資系ではなく国産で種を繰り返し使えるもので」「子供たちの為にも守らなければなりません」「食料は国を支える最も重要なものです」など、多くの切実なコメントが寄せられました。
 原告・弁護団は、司法の役割を放棄した不当判決に断固抗議するとともに、控訴審において、食料への権利が憲法上の権利であること、種子法がこの権利を具体化することを再度詳細に述べ、たたかっていこうと決意しました。
 同時に、種子法の復活を求め、裁判外でも奮闘していきたいと思います。

 

「格安賃料でのIR用地・借地権設定契約の差止住民訴訟を提訴」

大阪支部  西 川 翔 大

第1 はじめに
 2023年4月3日、大阪府市が進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致をめぐり、大阪市が所有する大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)地区の一部をIR事業用地として、賃料を1㎡あたり月額428円で賃貸借契約(借地権設定契約)を締結することが著しく廉価であり、「適正な価格」による賃貸を求める地方自治法237条2項に違反するものとして、大阪市及び大阪港湾局を被告として、借地権設定契約の締結の差止を求める住民訴訟を提訴しました(同年1月16日に住民監査請求、同年3月15日に合議不調との監査結果を受領)。
第2 違法な賃料価格設定の実態
 訴状では、大阪市の依頼した不動産鑑定結果が不当であり、大阪市の設定した賃料価格が「適正な価格」ではないことを詳細に述べました。以下では、その要点を報告します。
1 複数の鑑定業者の鑑定結果が大阪市の定めた参考価格と一致していること
 まず大阪市が依頼した不動産鑑定業者4社のうち3社の1㎡あたりの土地価格、期待利回り、月額賃料の鑑定結果が一致しました。不動産鑑定において評価手法・評価方針の策定、最有効使用の判定や標準的使用など多岐にわたる観点から鑑定が行われることから、3社の鑑定結果が一致することは業界の常識からしてもあり得ません。しかも、鑑定以前の最初の段階で大阪市が調査の依頼をかけた鑑定業者の調査結果を受けて大阪市が参考価格として設定した価格で一致していました。2023年3月15日付の監査結果通知書から、鑑定業者に対する調査において、他の鑑定業者がどこかは大阪市職員から聞いて知ったと回答する業者も存在することが判明し、監査委員からも「不自然な印象を受ける」との意見が出されました。
 さらに、IR推進局は最初に参考価格を提示した頃から「今の価格を大幅に変えることはない」旨を発言しており、令和3年3月に再鑑定を行いましたが、新駅の設置やコロナ禍といった社会情勢の変化があるにもかかわらず、IR推進局の意向どおり最初の参考価格が維持されました。これらのことから鑑定結果を大阪市が指示した可能性は極めて高いと言えます。
2 IR用地でありながら「IR事業を考慮外」としていること
 本件土地はIR事業用地として利用することが予定されているにもかかわらず、全ての鑑定業者は「IR事業を考慮外」とする鑑定を行っています。大阪市の説明によると、鑑定業者1社から打診を受けて鑑定業者4社と「IR事業を考慮外」とすることを確認したと述べていますが、むしろそれ以前に大阪市側が付加条件に「IRを考慮外」とすることを指示していたことが資料には明記されており、大阪市の説明が誤っていたことが判明しました。
 また、当初から高級ホテルの建設を予定しており、液状化対策等の土地改良費のために約790億円を支出することになっているにもかかわらず、評価条件としては1~2階建て「ショッピングセンター」を前提とした鑑定結果になっており、その不当性は明らかといえます。
3 鑑定手法や取引事例の選択に不合理な点があること
 さらに、土地改良費に790億円を拠出することを考慮する原価法を採用しなかった点や比較した取引事例が不適切であることなど鑑定評価の判断過程に不合理な点が多く、国交省の定める不動産鑑定評価基準から見ても不適切な点を多々指摘しています。
4 大阪市独自に「適正な価格」を設定する法的責任に反していること
 以上の点から鑑定業者により行われた不動産鑑定結果が不当であることは明らかですが、大阪市はそれのみに依拠せず、最終的に独自に適正な賃料価格を設定する責任があります。しかるに、新駅の開発などが全く考慮されず、今後35年もの長期にわたって廉価な賃料で貸し続けることが予定されており、到底「適正な価格」とは言えません。
第3 まとめ
 本件借地権設定契約は、国の認可が下りればまもなく、長期にわたって廉価な賃料価格で締結されることが予定されています。結論ありきで強引にIR事業を推し進めようとする大阪市の姿勢は決して許してはなりません。今後、大阪市の答弁などから明らかとなる点も多々あると思いますので、今後の裁判の動向にご注目とご支援をいただければと思います。

 

4月4日 入管法改定に反対する国会議員要請の感想

大阪支部  井 上 洋 子

 国際問題委員会は3月の委員会で4月4日の国会議員要請を決定したものの、委員会で参加確認ができていたのは5名で(加部歩人、安原邦博、岸朋弘、河西拓哉、井上洋子)、うち経験者3名という心もとなさでした。せっかくの国会議員要請ですので若手団員の体験機会として気軽に参加してくださいとの宣伝もしましたが、いったいどれだけ集まるのやらという不安な状況でした。専従事務の薄井さんも議員要請の事前準備を万端整えながらも赤旗への取材要請をしたものかどうかと悩まれていたようでした。
 ところが開けてみれば、当初予定メンバー以外に5人の団員(松本亜土、金子美晴、金思明、中川勝之、永田亮)が集まってくださり、赤旗記者+専従事務で12名という立派なメンバーとなりました。
 そして、本村伸子衆議院議員の秘書さんに情勢を教えていただいたり、仁比聡平参議院議員と直接面談ができてしまったり、赤旗にもしっかり報道してもらったり、と良いことづくめでした。私は仁比議員と国会議員会館で再び会えるようになったことがとても嬉しかったです。また、仁比議員は、自由法曹団の若返りに感心しておられ、私の功績ではないとはいえ、ちょっと誇らしかったです。
 また、後日、立憲民主党の鎌田さゆり議員が衆議院の法務委員会の理事会でいろいろ頑張って下さったとの情報を得ましたが、議員要請の際に、松本団員とともに秘書に対して立憲民主党さん反対を頑張って下さい、と応援したのが少しでも影響していたなら嬉しいです。
 人と人が会って話すことで、書面だけでは得られない反響がいろいろと起こるので、議員要請は面白いです。参加してくださった皆さん、応対して下さった方々、本当にありがとうございました。

 

入管法改定案の廃案を求め、国会議員に要請

東京支部  金 子 美 晴

 2023年4月4日、団の国際問題委員会主催で入管法改正案を成立させないよう求めるべく、衆参各法務委員会に所属する国会議員に対し要請を行いました。井上洋子国際問題委員会委員長を筆頭に、大阪、東京、神奈川等全国の弁護士10人が参加しました。衆議院法務委員会は34名、参議院法務委員会は21名だったので、団員が2人ずつのチームに分かれ、議員10名ずつを周った後、参議院法務委員会の仁比聡平議員と懇談しました。
 入管法改正案は、2021年度の通常国会で提出されそうになりましたが、一度は廃案になりました。そのとき問題となったのは、送還停止効の制限、監理措置制度の創設、仮放免逃走罪や退去命令違反罪など罰則の創設といったものでしたが、今回の改正案も、実質的には変化のない内容となっています。3月7日に閣議決定されてしまいましたが、成立すれば、これまでにも増して、在留資格のない人の人権を侵害することになりかねません。例えば、難民申請中の送還禁止は難民条約に根ざす原則で、日本は2004年の法改正で導入したはずでした。しかし今回の法案では、難民申請が3回目以降の者は、送還禁止効の例外としています。
 仁比議員との懇談の際、金子からは、東日本出入国管理センター(茨城県牛久市)(以下「牛久入管」と言います。)収容者の代理人活動の例を紹介しましたが、ここでも若干ご紹介します。イランでは現在、ヒジャブ着用を拒否する女性やそのデモに参加した人が死刑になる例が後を絶ちません。現在牛久入管に収容されているAさんは、デモの最中、警察の車の中に連れこまれそうになった女性を目撃し、一緒にいた友人や、周囲の町の人と一緒に、彼女を引っ張って助けました。そのときはそのまま帰ったのですが、翌日の夜中の3時に、友人の家に警察が押し入り、友人は逮捕されました。友人は今も収容されたままであり、死刑の可能性があります。Aさんは、住民票をたまたま実家に置いていたため、実家に警察が来たことを家族が教えてくれ、その間に逃げ延び、本当にたまたま、兄が航空券を取ってくれた日本に逃げてきました。しかし、成田で難民申請をしましたがあっという間に不認定となりました。現在審査請求中ですが、はじめにこれほど早く不認定が出たものを、審査請求や2度目、3度目の申請で覆すことは非常に難しい現状があります。
 Aさんは、このままでは送還禁止効の例外として「送還忌避者」扱いとなり、送還や罰則の対象となりかねません。国際的趨勢に逆行している法案を廃案にすべく、これからも東京支部でも声明などを打ち出していきます。

ひど過ぎる!まるで『送還忌避者は犯罪者キャンペーン』法務省作成資料は、以下からご参照下さい。
https://www.moj.go.jp/isa/content/001391853.pdf

 

【和訳初公開】ロシア人徴兵拒否者の刑事法廷証言

東京支部  加 部 歩 人

 先日、ロシアのNPO「市民と軍隊」のアルセーニー・レヴィンソン弁護士とオンラインで話をする機会があった(無論、通訳を通して)。
 「市民と軍隊」は、ロシアで良心的徴兵拒否者の支援等を行っている。同団体の創設者であるセルゲイ・クリベンコ氏は、昨年ノーベル平和賞を受賞したロシアの人権団体「メモリアル」の理事でもある人権活動家である。レヴィンソン弁護士も「メモリアル」の支部の理事を務めている。
 レヴィンソン弁護士は現在、ドミトリー・ヴァシレツ上級中尉(以下「ドミトリーさん」)の刑事弁護を担当している。
 ドミトリーさんは、ムールマンスク州ペチェンガ町出身で、ウクライナの前線で5か月間を過ごし、休暇を取得した後、軍務に戻らなかった。そのため、「軍事または戦闘行為への参加を拒否した」かどで刑事告訴され、4月7日に第一審で2年5か月の実刑判決を受けた。
 レヴィンソン弁護士から、ドミトリーさんの4月5日の刑事法廷での証言を、是非日本でも広めて欲しいと依頼を受けたので、ここにイラスト付きの訳文を掲載する。同証言では、ドミトリーさんの戦場での体験と心理、及び休暇中に仏教哲学に出会い軍務に復帰しない決意をした経過が語られている。
 なお翻訳は、通訳・翻訳者の神谷友佳子氏に依頼し、翻訳料は団憲法動画コンテストの賞金から支出した。
※全文の転載大歓迎です。転載元の明示と、できれば当職までご一報いただけますと幸いです(レヴィンソン弁護士に日本の複数箇所に掲載されたことを知らせたい為)。

-以下紹介文を含めロシア語原典からの訳文-
証言
-心への訴え-
 ロシア・ムールマンスク州ペチェンガ町出身のドミトリー・ヴァシレッツ(Dmitry Vasilets)上級中尉は、戦地で5か月間を過ごし、休暇を取得後、軍に戻りませんでした。そのため、動員令の発令と刑法改正後に「軍事または戦闘行為への参加を拒否した」という理由で、刑事告訴されました。
 彼は、軍へ戻らなかった理由を公然と、そして一貫してこう述べています。彼が戦争で見て、感じて、理解したことにより、ものの見方が変わったのだと。そして、彼には人の命を奪う権利はないのだ、と。
 ロシア連邦国憲法は、個人の信念や宗教に基づき、戦わないことを選択する権利をすべての国民に保証しています。しかし、現在ドミトリーは容疑者となり、取調べが行われている状況です。彼の弁護側は、刑事訴追を阻止すべく闘っています。
 ここに、ドミトリーの証言を、可能な限り校正を入れず、本人の了承を得て公開します。弁護士、ジャーナリスト、捜査官も目を通したものであり、この記述は本年特筆すべきものになると思いますので、ぜひご一読下さい。
 「私は2022年8月9日の特殊軍事作戦への参加命令を拒否した理由を、ここに述べたいと思います。私は、2022年2月から7月までの約5か月間、ウクライナ領土内の戦闘地帯にいました。戦地では、精神的に様々な影響を受けました。最初の3か月間、私は部下のことや目の前で起こっていることについて常に憂慮しており、そのことが肉体的・精神的に作用して、戦闘活動や決断力、自信と集中力を維持できていたと思います。我々には休む時間が殆どありませんでした。非常に困難な状況で、砲撃が度々ある恐怖の中、寝るときは服の上に防弾チョッキを着て、ヘルメットを被ったままということが、よくありました。
 我々には、通信が不安定になったり、部隊間の連携がとれなかったりするといった問題がありました。また、味方の中に負傷者や戦死者を出していたので、自分としては最大限の努力をしながら仲間にでるだけ寄り添い、私自身の行動により多くのことが左右されるのを強く意識していました。
 2022年5月、私はとても親しい友人達の死を知りました。彼らの死と、亡くなった時の状況を知り、私は非常に激しい衝撃を受け、打ちのめされました。本当に信じられず、弱さを見せないように、涙を隠して泣きました。そして、胸が詰まっている中、必ず彼らの親族に会い、哀悼の意と支援の申し出を伝えようと、自身に誓いました。その頃、亡くなった友人の1人と結婚を予定していたダリマという女性に、葬儀費用を送ることができました。私にとって、これは非常に大切なことでした。
 敵の砲撃下で常に緊張状態にあり、戦闘状況とその結果に関する情報が次々に入ってくる中、自身の中で現状を冷静に消化することができなくなりました。そして、私の中の何かがそれに反応して、戦闘活動に混乱をきたし、余力を使えなくなったような気がしました。結果的に様々な精神的な要素が徐々に大きくなっていきました。それは、緊張、疲労、決断力の低下、疑惑、放心状態、喪失感、恐怖、戦慄、悲観、絶望といったようなものでした。何度も敵の砲撃を受けていると、何時でも砲弾がシェルターに飛んでくる可能性があるのだということに気づいたし、砲火にさらされたレンガ造りの建物内にいたときには、152mmの砲弾から我が身を守ってくれるものは何もないと悟りました。家から30m先に着弾したとき、私は奇跡的に助かりましたが、これは人生に対する父の教えを守り、周囲の人々を助ける努力をしていたために、宇宙の力が命を救ってくれたのだと思っています。
 我々は、バレル砲、ロケット砲、クラスター爆弾および発射位置が隠されている戦車によって砲撃されたため、度々死の恐怖にさらされました。もっとも恐ろしいのは多連装ロケット砲グラートで、このような砲弾が着弾すると、足元から地面が無くなったような感覚になり、倒れこんでしまい、自分の命はここまでだ、無力なのだと実感します。
 砲撃の最中に、心の中で人生に別れを告げたことがよくありました。その一方で、残りの力を振り絞り、周囲の人々をできる限り励まし、任務を遂行すべく努力していました。無論のこと、私は皆と同じように、戦場から離れて少し休息を取りたかったのですが、代わりの士官がいないと言われ、「まだ頑張れる?」と聞かれました。状況の深刻さを理解していたので、断ることができず、「はい」と答え、毎日の職務遂行を続けました。
 戦地に赴いて4カ月後、私は既に砲撃や戦況に慣れ、自分の命の心配をしなくなり、命を尊ぶことをしなくなり、ひどい無気力状態になりました。正直なところ、5か月経った頃には、早く砲弾が落ちればいいのにと思うようになりました。そうなれば、負傷者か死体になって、ウクライナ領を去ることができるからです。私は精神的に燃え尽きており、祖国に戻って親族に会えるとは全く思っていませんでしたし、私が固執し心配していたのは、同志や仲間達の運命のことだけでした。
 道を移動していた時のことです、地元の高齢の女性が家から出てきて、砲撃が終わった後に号泣し、大声でこう叫んだのです。「こんなこと、一体いつ終わるの!」と。地元の人々は明らかに我々を嫌っており、このことは内なる感情に影響して、私は戦意を喪失していました。
 上司から高く評価されていたので、7月に軍本部において、特殊軍事作戦遂行地帯からの出発に関する上申書に署名がされ、15日間の休暇を取得しウクライナを離れる機会を与えられました。このようなことは、長いこと夢にも思っていませんでした。休暇に入る当日に、スボロフ・メダル国家賞(訳者注:スボロフ- ロシアの司令官、1730年-1800年。祖国防衛・戦闘の貢献者に与えられるメダル)の授与が決定されたことを知り、まもなく授与されるはずでした。この時は、人の命ほど価値のあるものはないと理解はしていましたが、私の努力が評価されたと少し嬉しく思いました。
 家に帰ると、銃弾が飛び交う森の中を走り回っている夢や、敵の砲撃対象の建物の中にいるような悪夢にうなされるようになりました。姪の娘が、私と一緒にいると大声で泣くこともよくあり、特殊軍事作戦に参加後、大きな音に対して苛立ちを感じて、心が休まることがありませんでした。
 家にいてはいけない、誰にも害を与えてはいけないと思い、また亡くなった同志達の親族を訪ねるという誓いを思い出し、私はウランウデとチタ(訳者注:ウランウデはロシア連邦内のブリヤート共和国の首都。チベット仏教が残っている。チタはザバイカリエ地方の首府。)へ向かいました。そこでは、亡くなった友人のガールフレンドだったダリマと、別の友人の妻だったクシューシャが、仏教の数珠をくれました。私はそれまで、仏教に密かに興味を寄せ、本を読んだことがあり、因果の法則については知っていました。特殊軍事作戦への参加を経て、撒いた種は自分で刈らねばならない、ということに気づきました。ウランウデで、仏教哲学を受け入れたのです。
 今、この世界で起こっていることを見るのは、私にとっては非常につらいことです。率直に言いますと、ウクライナで一定期間を過ごして言えることですが、このようなひどい苦しみや体験は、1度も経験したことがありませんでした。今はこのようなつらい経験を語っていますが、以前はとても快適な場所で生活して、ウクライナで直面したような問題は一切ありませんでした。ウクライナにいたとき、酷い状況の中で友人達を失い、私は大きな怒りを覚えて心中穏やかではありませんでした。仏教では瞑想し、心を落ち着けて、人はお互いに憎み合ってはいけないと説いています。戦争が始まる前、安全な場所にいた時には簡単なことのように思っていましたが、実際に戦争で友人達を失い、家族を失うと、非常に強い怒りの感情が沸き起こります。またとても強く動揺し、他の人のせいにして人に傷を負わせたいという願望が出てきます。
 私は、どのようなことが起こっていようとも、心に愛を抱き、他の人への思いやりを持ち続ける方法について、話し合わなければならないと思っています。これは本当に難しいことで、人によっては、このようなことが起こった、あるいは今現在起こっている最中では不可能に思えるかも知れません。しかし、心を満たしている怒り、憎しみ、無知と闘わなければなりません。敵は武器を持っている人間ではなく、本当の敵は、人をコントロールしている怒りの感情です。ですから、心の中の怒りと闘わなければならないのです。私は、ウクライナ側でも一般市民、高齢者と子供、父親、兄弟姉妹が犠牲になり、我々と同じような人々が家を失い、家族を失っているという事実も知っています。
 これは世界中の悲しみで、決して忘れてはなりません。我々は地球上にいる者として、全員がこの世界の一部であるということを、覚えておかなくてはなりません。また、我々は相互に依存しており、困難な時代にも助け合い、お互いを大切にしなければなりません。一人一人の中に命の灯があり、他の人の命を奪うことを、私は自分に課すことはできません。これは、私が今超えることはできない、レッドラインなのです。」

 

大軍拡、大増税に反対する請願署名の取り組みについて

東京法律事務所 事務局  佐 藤  芽

 大軍拡・大増税反対の請願署名が続々と集まってきております。
 東京法律事務所では、署名用紙を各相談室に設置しているほか、事務所から送付しているダイレクトメール「たより」にも同封し、毎日たくさんのご返送をいただいております。
 東京法律事務所「たより」は、年に数回発行していますが、今回は号外として3月に臨時発行しました。国が今何を考え、私たちは何をするべきなのか。着々と進められる戦争の準備をただ傍観しているだけではいけない!一人でも多くの方々にこの現実を知ってほしい!と考え、臨時発行に踏み切りました。
 たよりに同封した署名は、4月18日現在1956筆集まっております。集計を始めて20日ほどですが、すでに1900筆を超えているという結果はとてもいい兆候で、所員一同とても嬉しく感じていますし、発信することの大切さを改めて実感している毎日です。
 また、署名とともにお手紙を同封してくださる方も多くいらっしゃり、今回はその中の一部をご紹介します。

【 ○○です。
 期日前投票で○○○○さんに投票して参りました。
 また、軍拡増税反対の署名もそちらへ発送しました。
 パートナーに事務所から頂いた軍拡増税反対のチラシを見せたところ、普段は少し右寄りな彼もチラシをしっかり読んで納得して署名してくれました。
 とても嬉しかったです。
 チラシの特に、増税しなかったらその代わりにどのような政策が可能なのか、という欄が非常に興味深かったそうです。
 また、日本が増税して軍事費が3位になったとしても1位と2位が圧倒的であるのがグラフから読み取れたので、増税をやる必要を強く感じなかったそうです。
 とても読みやすくて、知りたい情報がもれなく書いてあったのでとても良かったです。作成した方へお伝えください。ありがとうございます。
 外苑の再開発反対についても、周りに署名をお願いしてみんな応じてくれています。
 私も少しずつ頑張ります! 】
 当事務所では、このように依頼者の方々からいただいたお声や署名の集計結果を随時所員にメールで流すことで、見える化を意識し、気を高め合いながら取り組んでおります。
 私たちの平和、いのち、くらしを守るため、引き続き署名活動に力を入れて参ります。

 

橋本紀徳団員~追悼~
橋本紀徳さんを見送る

東京支部  荒 井 新 二

1 古希団員時での紹介
 3月17日橋本紀徳さんが、千葉県習志野市の施設で亡くなられた。
 訃報を受け橋本さんがどこか、明るい叢林の奥深くに分け入って消え去る後姿を想った。奥様もご一緒の登山で、しばしば先頭を歩く橋本さんの痩身を追いかけた記憶がそうさせたのだろうか。それに東京合同法律事務所を退所した後どうするの、と聞かれると必ず、「仙人になる」と答えておられた。
 1934年生の享年88歳。15期修習後に入所。2012年末に退所する迄、ずーっと尊敬する先輩のおひとりであった。その経歴・業績については、橋本さんの弁護修習指導教官の修習生で後に事務所同人となった桜木和代団員による2004年古希表彰の紹介文がある(団報174号)。
 中大夜間部を2年間の療養をはさんで卒業したこと、肺半分の病弱で他の就職はかなわず弁護士になったこと、入所早々「狭山事件」に入れられたこと、全商業労働事件やベトナムバッジ権の労働事件、牟礼再審など沢山の事件をやったこと、高齢でもで事件数は事務所でトップクラスであったこと等が桜木紹介文で存分に語られている。私が付け加えられるのは、僅かなことだけである。
 退所直前に東京合同への感謝として所員全員を馴染みの、銀座に近いレストランに招待し食事をご馳走してくれたこと、それに事務所創立50年史「世紀を超えて」中の60年代を執筆し、「狭山事件」と「奥田さんアイデアル(解雇)事件」に特に筆をさいたこと、のふたつである。
2 エコな橋本さん
 銀座近くの食事会には病身の奥さんもご同席された。奥さんは、かってディズニーランド事務所旅行の宴席で夫を評して「葉っぱばかり食べてカマキリと生活しているよう」と言って皆を笑わせた。無類の野菜好きで甲殻類を食さない橋本さんの隣の席は、後輩にとって特等席であった。食は細かったが、山行での健脚ぶりは驚くほどで、食べ方等に及んで植物の名を教えてくれる知識はすこぶる豊富だった。終始穏やかで微笑を絶やさず、ことに奥さんとのやり取りは身近に居て、さながら夫婦漫才を観るようであった。
 裁判の上でもビラの裏や反故紙に鉛筆で大きな字を書いた原稿を事務局に廻した。先の食事会も、-今にして想うのだが、お別れ会、ある意味の「生前葬」であった。酒に酔うと、若山牧水「白鳥は/悲しからずや/空の青/海の青にも/染まず漂う」を愛唱した。一言一言を惜しむように大気に載せていく如き歌声であった。たくまずしてエコの先達であったのか、と私は現在に至って思うのである。
3 裁判と研鑽
 「狭山事件」では支援団体が進めた誤った「大衆的裁判」に悩み怒り闘い最後に辞任したが、被告Ⅰ氏の無罪をかわらず確信していた。決裂した形のⅠ氏が、その後弁護団長格であった亡植木敬夫弁護士の追悼会に参加してくれたことをことのほか嬉しがった。全商業の、17歳で立ち上がった奥田喜一君の解雇事件では、彼の短いが波瀾の生涯に徹底的につき添った。橋本さんの社会的な弱者への優しさは、他の追随を許さないところがあった。
 桜木紹介文にある高村光太郎の「道程」のことは、86年の団夏季合宿のときのことだ。私も本部事務局長として事前準備、司会、団報(127号)の報告に携わっていたので記憶に鮮明である。50名程の団員が箱根で白熱した討論を2日間繰り広げた末のまとめの発言、参加者は難しい議論をどう締めるのか固唾を飲んで待っていた、と思う。橋本さんは「僕の前に道はない…」の一節を紹介して絞め括った。 一瞬、皆が煙にまかれたという印象があった。勝利への大道はない、ならば各人が新しい道を作っていこうではないか、大衆的裁判闘争の新たな構築・展開の道をと訴えた。橋本さんの思想の核には、人々と社会の歴史的な進歩に対する信念が固くあった。それが自らの高みを求め続ける要因ではなかったか、と思う。
 橋本さんは、時に諧謔を交えながらも、もの事と人物のさまざまな正邪に大変厳しかった。社会科学の古典はもとより、新しい知見についても研鑽を怠ることなく、安達十郎・福島等さんら先輩が主宰したヘーゲル研究会あるいは事務所内の「天下国家を論ずる研究会」(通称・天国研究会)などの勉強会にも出て大いに論じ、さかんに社会進歩を探った。未来を語るべき今日、橋本さんの話を永久に聞けなくなったことはとても悲しい。
4 仙人になってほしかった
 橋本さんはよく、自分のやった事件は敗訴ばかり、先輩諸氏の赫々たる成果に乏しいとも言ったが、そのようなことは全くない。多くの勝訴事件があったが、自己を語ること能う限り少なかっただけだ。求められれば、他が敬して遠ざける役職にも就いた。団司法問題委員長、団東京支部2代目幹事長、日弁連女性の権利委員会副委員長、それに東京合同事務所内学習委員長など。事務所に飛び込んでくる、あれこれの事件でもそうであった。橋本さんは倦まず、弛まず、そして騒がず、献身的に数知れぬ多くの事件や運動に取組んだ。弁護士になりはじめから事件のナンバリングを記録袋に記して最後まで続けた。残念にも、最後の数字は聞けなかったが、相当な数にのぼったことは間違いない。
 橋本さんは、高齢での介護等の思わざる事態の出来で、仙人になり損なったのではないか、と思う。だが今や橋本さんは自由の身となり、どこか遠い山野をひとり、さすらっているだろう。心ゆくまで自然と戯れ、慈しみ、楽しんでほしいと願わずにおられない。
 合掌。(2023年4月4日記)

 

事務局次長就任のあいさつ(その1)

福島支部  鈴 木 雅 貴

1 就任の経緯
 このたび、23年4月より事務局次長に就任しました。
 新65期です。どうぞよろしくお願いします。
 23年1月、東北ブロック総会が福島市飯坂温泉で開催されました。
 団本部からは、岩田団長にご出席いただきました。
 総会は無事に終了し、団長、福島支部の団員に加え、宮城の小野寺先生、野呂先生、阿部先生と、懇親会の席にて楽しく懇談していたところ、団長から次長にならないかと誘われました。
 団の活動に魅力を感じており、団本部にも貢献したいとは考えていました。
 しかし、何をするのか、地方にいて団本部の活動が務まるのか分からなかったのですが、団長から今はオンラインでだいたいの活動ができ、常幹も東京に行かずに大阪から出席しているという話を聞き、団長もオンラインで務まるなら、次長も同様だろうと思いました。
 また、団本部の役員の成り手が不足しているという話も聞いておりましたので、地方団員でも次長が務まるかチャレンジしてみようと考え、引き受けることとしました。
 ただ、時期は、仕事の整理をする必要があったので4月からとしてもらいました。
2 実は個人的に大変な時期を迎えていた
 2回試験合格後の挨拶にて、民事部の部長が、「10年歯を食いしばって頑張れ。10年経つと仕事が楽しくなる。」と言っていました。そういうものかと思い、仕事をこなしてきましたが、この1月は10年が経過し、「楽しくなる」時期を迎えたはずだったのですが、実は過去最大に辛い日々を迎えることになりました。
 通常業務、弁護士会の活動に加え、約3000名の賠償金送金業務の軸になり、2月からは1日当たりに40~50件の電話問い合わせをすべて受けていました。
 挙句の果てに風邪を引いてしまい、2週間ほど咳が止まらなくなりました。
 4月からは、次長が始まるし、同時期から弁護士会の支部執行部に加えられて、プレッシャーのかかる時期でもありました。
 このままではマズい、メンタル疾患になってしまうと困りました。ただ、自分の中で変化が生まれた時期でもありました。
 まず、禁煙ができました。咳が止まらなかったので、とても喫煙できる状態でもなく、咳が止まった後も、もうこりごりだと思って、禁煙に成功し、体調も良くなりました。
 また、朝散歩が日課になりました。3月中旬から、毎朝、起床後1時間以内の朝散歩をするようになりました。これは、YouTubeにて「精神科医・樺沢紫苑の樺チャンネル」で朝散歩がメンタル疾患予防にとても良いということを知ったことがきっかけです。
 朝散歩は、日光を浴びることで体内時計がリセットされ、約15時間後に眠くなり、睡眠にも効果がある。そして、日光浴とリズム運動により、セロトニンが出て、気分がスッキリするという効果があります。
 試しに、川沿いで朝散歩をしてみたところ、効果絶大でした。体調は整い、脳はスッキリとし、仕事の意欲も向上しました。パフォーマンスが最も高い時間帯は午前中に変化し、集中力を要する起案を午前中からできるようになりました。
 辛く厳しい時期でしたが、多くの気づきと変化もありました。
 今では、樺沢紫苑の大ファンとなり、体調を整えることで、気分の安定を図り、人との交流も楽しめるようになりました。
 さて、生業訴訟での取り組みも、事務局次長になる理由であったのですが、そのことは次回投稿します。

 

*福岡支部特集*
改憲阻止に向けたとりくみ

福岡支部 幹事長  井 下  顕

 福岡支部は、現在、団員約140名、月1回の幹事会、年4回の例会、年1回の支部総会がルーティーンな活動であるが、昨年、敵基地攻撃論がかまびすしくなって以降、支部内での学習会講師養成に向け、年4回のうち、6月(ウクライナ侵略問題・九州大学出水薫教授)、9月(憲法学習会講師養成講座・青龍美和子団員)の各例会を持った。支部として、街頭宣伝を位置付けて行ってはいないが、私自身は地域の9条の会や地域の市民連合の街宣等で、月1~2回の街頭宣伝活動に参加している。講師活動については、今年に入って以降、ほぼ毎週土日のどちらか1日は憲法学習会で講師を務めている。
 私自身が講師活動を行う中で意識していることは、①参加者・運動体を励ます、②参加者に確信をもってもらう、③できるだけ自分の言葉で語る、④運動の中で困っていることや質問に実践的に答える、などである。①参加者・運動体を励ます上で最も重要なことは、②参加者に確信をもってもらうことであると思うが、そのためには、今回の敵基地(敵国、敵地域)攻撃論との関係では、ロシアのウクライナ侵略問題が契機・口実になっているため、この問題から何を教訓として導き出すべきかが重要である。情勢は常にそうであるが、事(大災害や戦争等)が起こった時に、そこから何を教訓として汲み出すのか、それは支配層と被支配層では全く異なるということである。今回のロシアのウクライナ侵略問題でみれば「だからこそ自国の防衛力を強化しなければならない」と国民を欺き扇動し、敵基地攻撃論など憲法違反のロジックを強行するのか、それとも「軍事同盟は破棄しなければならない」とか「戦争で平和はつくれない」とみるのかなどである。
 今回のウクライナ侵略問題から導き出すべき教訓は、①軍事同盟は破棄されなければならない、②大国主義・覇権主義、植民地主義は清算されなければならない、③核兵器は廃絶しなければならない、という3つの教訓を汲み出すべきだと考え、学習会の場でも話している。すなわち、ロシアのプーチンが侵略を正当化するための理由とする、ウクライナ東部のルガンスク「人民共和国」やドネツク「人民共和国」の要請で、軍事同盟(=集団的自衛権)に基づく特別軍事作戦を実行したものであるという理屈、さらにその遠因としての侵略を正当化する理由としているNATOの東方拡大との関係でも、結局、他国に脅威を与え、排他的な軍事同盟は有害無益である。第一次世界大戦も第二次世界大戦も軍事ブロック(=軍事同盟=集団的自衛権)が存在したがゆえに世界戦争に発展した。だからこそ、国連は集団安全保障体制を確立して軍事ブロックを無くそうと努力したのである(国連憲章第51条に集団的自衛権が固有の権利として盛り込まれたのは、国連憲章最大の致命的欠陥であるが、これは冷戦時代の政治産物であって、本来国連憲章の精神とは全く相容れないことに注意を要する。)。すなわち、集団安全保障体制と集団的自衛権(=軍事ブロック、軍事同盟)は180度違うのである。この①軍事同盟は破棄されなければならないという命題は、我が国との関係でいえば、まさに日米安保条約破棄という問題に直結する。さらに②大国主義・覇権主義、植民主義の清算という教訓についていえば、プーチンが侵略前夜の国民向け演説で語ったレーニンの否定は、まさにスターリンの再来であり、大ロシア主義、すなわち、大国主義・覇権主義の露骨な表れである。この大国主義・覇権主義は植民地主義と表裏一体であり、ロシアが他国の領土を我が物として蹂躙する姿勢は、ウクライナをロシアの植民地とみていたからにほかならない。この大国主義・覇権主義、植民地主義の清算は、まさに「国連憲章を守れ」という精神と同じであり、我が国との関係で言えば、戦争責任をしっかり清算させ、様々な戦後補償を行っていく問題に直結する。そして③核兵器は廃絶しなけれならないという教訓は、ロシアのウクライナ侵略が明らかにした核抑止力論が神話にすぎないこと、核兵器の存在はむしろ戦争をもたらすという現実解である。それは我が国との関係で言えば、アメリカの核の傘を否定し、核兵器禁止条約に日本は批准すべきという結論に結び付く。このように、ウクライナ侵略問題から汲み出すべき3つの教訓は、自由法曹団の団員の多くがかねてから主張していたことに直結するものであって、今回のウクライナ侵略戦争の教訓は、我々の従来からの主張を大きく根拠づけるものというべきなのである。

 

第3回台湾問題学習会のお知らせ

団・改憲阻止対策本部

日時:4月28日(金)17時~19時
講師:許仁碩(シュ・ジェンシュオ)先生
【北海道大学メディア・コミュニケーション研究院助教授・台湾出身、博士(法学) 2020年に北海道大学法学研究科博士後期課程修了、同研究科助教を経て、2022年より現職。先住民権運動も含め、東アジアの市民社会と人権運動を研究】
 第3回目となる今回の学習会では、台湾出身で「戒厳令からひまわりへ:台湾の学生運動の変遷」などの論文も書かれている北海道大学メディア・コミュニケーション研究院助教の許仁碩先生を講師にお招きして開催します。(オンラインでの講演となります。))
 許仁碩先生には「権威主義体制の下でどのように民主化を進めていったのか」「現在の民主化した台湾と、一党支配の中国との政治体制や社会体制はどのくらい異なるのか」「香港の現状やウクライナの状況をどうみているのか」などの問題意識からお話頂く予定です。米中対立・台湾有事など、世界の平和や改憲阻止の問題を考えるうえでも、台湾情勢をきちんと把握しておくことは重要です。
 5月集会の前に台湾の政治情勢等を知る絶好の機会ですので、多くの団員のみなさまのご参加をお願いします。

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