第1824号 10/1

カテゴリ:団通信

【今号の内容】

~大阪支部特集③~
■住民投票パンフ住民訴訟の大阪高裁での闘いのご報告  冨田 真平

■東大阪医療センター仮処分事件~就労請求権が認められた仮処分決定のご報告~  佐久間 ひろみ

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~学習会報告~
●生活保護学習会感想  広谷 渉

●構造改革PT「静岡市・城北公園Park-PFIとのたたかい」学習会をしました♪  中川 勝之

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●バービーランドで開催された女性部総会に参加しました  小笠原 里夏

●与那国・石垣・宮古の自衛隊基地視察報告③  赤嶺 朝子

●24年度防衛予算概算要求分析メモ
―南西諸島で戦える自衛隊へ急速に変貌、米軍と輸血用血液を「相互運用」  井上 正信

●東北の山―花トレッキングに憧れた秋田駒ヶ岳(後編)  中野 直樹


 

秋の団総会開催地~大阪支部特集 ③~

 

住民投票パンフ住民訴訟の大阪高裁での闘いのご報告

大阪支部  冨 田 真 平

 大阪市廃止・特別区設置のいわゆる「大阪都構想」の住民投票に先立って、大阪市が作成し全住民に配布したパンフレット(都構想パンフ)への公金支出が違法であるとして、松井市長及び副首都推進局長に対し、同費用の賠償を求めるよう大阪市に求める住民訴訟の大阪高裁での闘いについて報告する。
1 大都市地域における特別区の設置に関する法律(以下「大都市法」という。)7条2項では、住民投票に際し「選挙人の理解を促進するよう、特別区設置協定書の内容について分かりやすい説明をしなければならない」と定められており、この分かりやすい説明の一環として、2020年11月の住民投票の際に全住民に上記都構想パンフが公費で配布された。しかし、上記都構想パンフの内容は、大阪市民を住民投票の賛成に誘導し又は大阪市民に誤解を与えるものであった。
 そこで、原告らは、上記都構想パンフの内容に重大な違法性があるとし、大阪市民の原告らが大阪市に対し、当時の副首都推進局長と大阪市長に損害賠償請求するよう求めていた。
2 大阪地裁第2民事部(森鍵一裁判長、日比野幹裁判官、立仙早矢裁判官)は、2022年8月1日に住民側敗訴の不当判決を出した。地裁判決は、構想パンフの記載内容が客観的かつ中立的な説明ではないと認定しながら、上記大都市法7条2項の「分かりやすい説明」について、市長が大都市法上、特別区設置を推進する立場にあることが想定されていることや国民投票法の14条2項のような「客観的かつ中立に行う」旨の規定がないことなどを理由に、市長が客観的かつ 中立的な立場ではなく特別区の設置を推進する立場から説明をすることを禁止するものではないとして、都構想パンフの作成・配布に重大な違法性はなかったとした。同判決は、住民による意思決定を不当に軽視し、政治による行政の私物化を追認するものと言わざるを得ない(事案の詳細や判決内容の詳細については一昨年・昨年の団支部総会議案書を参照されたい)
3 大阪地裁の不当判決に対して、同年8月10日に控訴し、闘いの舞台は大阪高裁に移った。高裁では、改めて、問題となっている「分かりやすい説明」が住民自らが決定するという直接民主制の現れであり法的拘束力が伴う住民投票に当たって行政が行う情報提供の措置である以上、中立的な立場で行うことが求められることを主張している。その論拠として、行政法学者との意見交換も踏まえた主張や住民投票や国民投票の経験例の多いヨーロッパでの議論やガイドラインなどに基づく主張も追加で行っている。また、改めて住民パンフが特別区廃止による住民に対する不利益という重大な情報を隠匿していることも指摘している。
4 本訴訟は、都構想パンフに対する違法な公金支出の責任を問うとともに住民投票における大阪市の偏った広報姿勢、さらに平気でデマを流す維新の会の宣伝の姿勢をも問う訴訟である。団員の皆様に引き続き支援をお願いする次第である。
(弁護団のうち、支部団員は岩佐賢次弁護士と冨田)

 

東大阪医療センター仮処分事件
~就労請求権が認められた仮処分決定のご報告~

大阪支部  佐久間 ひろみ

1 仮処分決定で就労請求権が認められました
 2022年11月10日、配転無効・元職場への復帰を求めた仮処分事件で、債権者であるXが、市立東大阪医療センター(配転先)で就労する労働契約上の義務がないことを仮に定める、中河内救命救急センター(元職場)に立ち入り外傷・救急外科医として就労するのを妨げてはならない、との決定を勝ち取りました(大阪地裁第5民事部植村一仁裁判官(2023年3月末で移動))。参考になる珍しい決定だと思いますので、ご報告させていただきます(なお、本事件は様々な媒体で報告しているため内容が重複していることをお詫びします)。
2 事案の概要-前触れのない突然の配転命令
 Xの元の職場は、東大阪医療センターが大阪府から指定管理を受けて運営している三次救急(重篤患者が対象)を担当する中河内救命救急センターでした。Xは以前中河内救命救急センターでしばらく勤務した後、別の病院で勤務していたのですが、同病院は、Xの救命外科医としてのキャリアに着目し、Xを「割愛採用」(特に優遇して採用)しました。
 Xは、再び中河内救命救急センターにおいて困難な手術を多くこなし、経験の少ない後輩たちの指導にあたり、その中心的な存在となっていきました。
 他方で中河内救命救急センターの内実は、以前Xが勤務していたときは様変わりしており、新院長・新事務長の下、現場を無視してコロナ対策方針や医療機器を変更するなどの独断が横行していました。このような動きに対し、Xは職場の有志と一緒に、院長らの不正について内部告発するなどしていたところ、2022年3月、突然東大阪医療センター救急科への配転を命じられたのです。
 東大阪医療センターは、二次救急病院であり、中河内救命救急センターで行うような一刻を争う緊急手術を行うところではなく、しかも、元々人員が不足していたわけではなかったので、Xは何もすることがなくなってしまいました。
 そこで本件は、東大阪医療センターへの配転が無効であることの確認と、元の職場(中河内救命救急センター)で働かせること(就労請求)を求めました。
3 就労請求権について
 就労請求権が認められるためには、労働者に「労務の提供について特別の合理的な利益」がなくてはなりません。この点については、まず東大阪医療センターの勤務では、Xのキャリアの重要な要素である専門医資格を更新するための要件を満たすだけの手術件数を確保することが困難であると主張しました。
 これ加え、東大阪医療センターでは重篤な救急患者を扱わないので、Xの技能が低下することは明かであり、外傷救急外科医としては致命的な損失であるとして保全の必要性に据えました。
 さらに、一般に就労請求権が認められない理由のひとつに、具体的な就労は使用者の業務命令を待たなくてはならず、それを特定することが困難であるという指摘があります。この点について、Xの業務は、Y法人からの個別の業務命令など必要がないこと等から義務の特定は充分としました。
4 報復配転であること
 配転無効については、配転命令の実質的な理由は報復人事であり合理的な理由もなく権利の濫用であると主張したところ、Y法人は、Xのキャリアを生かして東大阪医療センターの医療水準を向上させ、後進の指導にあたって欲しいと反論してきました。
 しかし、実際に東大阪医療センターで指示されたXの業務は、問い合わせのあった患者を東大阪医療センターのどの科(あるいは他医院)に回せばいいのかを判断することぐらいであり、かつ指導すべき後進医もいない、専門医資格を保持するための手術もない、これまで培った救急救命外科医としての技量を保持するための手術もない状況でした。
 するとY法人は事件終結間際になって突如として、実はXの配転は、Xのパワハラで職場秩序が混乱したことが原因であると主張しはじめましたが、中河内救命救急センターの現役医師や看護師などが、Xのために何通もの反論の陳述書を出してくれました。
5 変化していった裁判官と決定内容
 当初、担当裁判官は、Xの置かれた現状に同情を示しつつも、就労請求権については明らかに消極的でしたが、東大阪医療センターのいい加減な反論をふまえ、徐々にその態度も変わってきました。
 今回の決定は、配転命令について、①限定合意があるから無効、それを置いても②業務上の必要性がないから無効、さらにそれを置いても③債権者の不利益が大きすぎるから無効であると丁寧に認定しました。
 そのうえで、Xの医師としての技能・技術を維持・向上させ適切な医療行為を行うためには、看護師らの関係職種との連携が不可欠であるため、就労先を明確にしておく必要があることから、Xが中河内救命救急センターで就労することを妨害することを禁じて、就労先が中河内救命救急センターであることを明確にして就労の機会を確保することがぜひとも必要であるので、保全の必要がある等と判断しました。
 当初は弁護団も就労請求権が認められる可能性は高くないと考えていましたが、粘り強く闘えば応えくれる裁判官もいるのだということが今回のことでわかりました。Y法人は、命令が出てから3カ月後に保全異議を申し立てており、現在もXの職場復帰を認めていません。Xは、仮処分決定を根拠として、中河内救命救急センターに毎日通勤して就労を求めていますが、東大阪医療センター側の妨害にあっています。
 今後も弁護団は、Xを復帰させるために運動も続けていく所存です(弁護団は小林徹也、杉島幸生、佐久間)。

 

学習会報告

 

生活保護学習会感想

神奈川支部  広 谷  渉

 横浜法律事務所の広谷 渉(75期)です。9月15日に開催された「生活保護の基礎知識」学習会に参加しましたので、簡単にその報告・感想を書きたいと思います。
 以前、私は刑事事件の担当被告人の生活保護申請に同行しました。申請同行をしたのは今のところその一度きりです。はじめての申請同行ということもあり、準備をしてから臨んだのですが、気を抜くと行政の職員のペースに飲まれそうになり、かなり苦労をしました。今回、生活保護をテーマにした学習会が開かれると聞いて、そのことを思い出して参加をすることにしました。
 学習会の中で印象に残ったのは生活保護法24条2項についての話です。同項本文は「前項の申請書には、要保護者の保護の要否、種類、程度及び方法を決定するために必要な書類として厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない。」と規定されています。行政はこの条項を引いて、「必要な書類」を欠いているという理由で生活保護の申請を取り合わないことがあるそうです。たしかに、この条項の書き振りからすれば行政の言い分に説得力があるようにも見えてしまいます。しかし、実際にはそうではありません。この条項に対応する厚生労働省令の定めは存在しません。つまり、「必要な書類として厚生労働省令で定める書類」はそもそもないのです。このあたりは知らなければ弁護士でも騙されてしまいそうです。一般の方なら尚更でしょう。
 学習会全体を通して、生活保護法という法律の保護対象の狭さ・保護水準の低さを感じました。しかし、法や通達の定める水準より、実際の行政の運用の水準はさらに低いのです。申請の同行にあたる弁護士としては、必要な知識をインストールして行政と渡り合っていく必要があると思います。 
私は小田原市の出身です。小田原市で生活保護と言えば、いわゆる「小田原ジャンパー事件」という象徴的な出来事を憶えておいでの方もいらっしゃるかもしれません。これは市の職員が生活保護利用者に対する差別煽動を行ったという事件です。私は学生時代にこの事件の報道に触れ、自分の生まれ育った町で、困っている人たちに対してこのような毒々しい悪意が向けられたということにたいへん痛ましい思いがいたしました。
 今回の学習会でもこの事件が取り上げられていたのですが、小田原市行政のその後についても講師の方から補足情報がありました。小田原市ではこの事件を受けて、生活保護の運用が大幅に改善されたそうです。小田原市がこのように変わることができたきっかけの一つになったのが神奈川県弁護士会の協力を得て行われたコンプライアンス研修だったと言います。研修を通して職員の意識改革が進んだ結果、職員たちも「この人は何か不正をしているのではないか?」ではなく「この人にどうすればもう少し楽に生活してもらえるだろうか?」という観点で生活保護の申請者・利用者を見るようになったそうです。これは職員の労働環境の改善でもあります。小田原市のケースは行政が本来あるべき姿を取り戻した稀有な事例として、日本全国で知られるべき話だと言えるかと思います。

 

「静岡市・城北公園Park-PFIとのたたかい」学習会をしました♪

東京支部  中 川 勝 之

 吉本晴樹団員(京都支部)による学習会報告(団通信1821号)にあるとおり、7月25日、構造改革PTの「水道民営化」問題学習会を行い、私から付け焼刃でPark-PFI(2023年5月集会特別報告集参照)の説明をしました。
 すると、参加していた小笠原里夏団員(静岡県支部)から、「城北公園Park-PFIの(実施協定締結の差止めを求める)住民訴訟なら団員が担当している!」と聞き、であれば、早速お話しを聞いてみようということで、阿部浩基団員と杉山雄峰団員に8月24日のPTの会議の冒頭に参加していただき、お話しを聞くことができました。
 小笠原里夏団員も含めて3人の参加増加でPTの会議は1.75倍の参加者となり、熱気にあふれました(笑)。
 以下、学習会の概要です。
1 城北公園とは県民、市民にとってどんな公園?
 静岡駅近くだと駿府城公園が有名だが、城北公園は静岡大学跡地の昔からある公園。噴水、図書館があり、周辺には山もあって、近所から遊びに来るという市民に身近な公園。
2 Park-PFIに基づく計画の問題点は?
 スターバックスを作り、駐車場も73台増設するという計画が市民の声を聞かないでなされた。駐車場なら周辺にもあり過大で、新たな駐車場は高齢者等の利用者にとって危険なもの。
3 報道されている「条例」に違反の「条例」とは?
 「静岡市市民参画の推進に関する条例」があり、市民の市政に参画する権利を保障するもの。例えば、大規模な公の施設の設置に係る基本的な計画の策定又は変更を行うときには、市民参画手続による市民意見の聴取により行わなければならないと規定されているが、市民参画手続が事業計画立案の段階において一切行われていない等と主張。
総事業費は条例の解説書の基準を超えるのに、市の負担額の上限額が3000万円の事業と市は主張し、監査委員も認めてしまった。条例違反は市議会議員が運動し始めた時から注目し、主張していた。
4 今後の展望と課題
 住民訴訟を提訴する段階ではスターバックスは撤退を表明していた。市側から運動団体を分断する動きもあったが、跳ねのけた。基本協定後の実施協定締結の差止めを求める訴訟係属のため、事業の進行が止まっている。
 静岡市長が変わり、運動団体が要請に行ったが、対応は従前のまま。
5 全国の団員へのメッセージ
 同じような問題は全国にあると思うので関心持って欲しい。
6 尾林PT座長からの激励
 全国あちこちで起きている問題についての先駆的なたたかい。2021年の会計検査院による報告書にもあるように無茶苦茶なPFIが多い中、条例違反を問うという大衆的裁判闘争として是非頑張って欲しい。
 公園の樹木切って建物建てるが、それが全国チェーンの喫茶店?金儲けの場なら公園じゃない!
偽りの「賑わい」は要らない!そんな思いを強くした学習会でした♪

 

バービーランドで開催された女性部総会に参加しました

静岡県支部  小 笠 原 里 夏

1 熱海での開催
 9月2日(土)、3日(日)に熱海で開催された女性部の総会に初めて参加しました。きっかけは、千葉恵子団員から静岡県支部事務局長を務める私のところに「今年の総会を熱海で開催することになったので、開催地支部から挨拶をもらえないか?」との打診のお電話をいただいたことでした。
 早速、塩沢忠和支部長と相談をし、塩沢支部長が支部代表として挨拶されることとなりました。
 さて折角熱海で開催されるというのですから、私はどうしようかと思いました。女性部の総会には参加したことがなくやや心細く思い、同じ事務所の栗田芙友香団員に声を掛けたところ、「私も初めてです。でも行きましょう!」と言ってくれたことから参加を決めました。
2 熱海ニューフジヤホテルと言えば
 開催日当日、会場となった熱海ニューフジヤホテルには、オンラインでの参加も含め約20名の団員が集まりました。
 湯山薫部長のご挨拶のあと、塩沢支部長は歓迎の挨拶の中で、「熱海ニューフジヤホテル」は、日本で初めて裁判所がセクシャル・ハラスメントを認定した訴訟(静岡地方裁判所沼津支部平成2年12月20日判決)の現場となった場所であり、この勝訴を勝ち取った原告代理人が当時静岡県弁護士会の所属であった角田由紀子弁護士であることを紹介されました。
 この意義の高い判決文を読んでみると、「被告(被害者の上司の立場にある男性職員)の一連の行動(身体をさわる、キスをする等)は、女性を単なる快楽、遊びの対象としか考えず、人格を持った人間としてみていないことのあらわれ」との的を射た指摘が明記されており、慰謝料100万円(請求金額500万円)が認定されています。
問題はこの裁判から30年以上も経った今、慰謝料の水準が上がっていないことで、ハラスメント事件における慰謝料の水準の低さとこれへの打開策については、本総会におけるハラスメント事件交流会でも大いに話題となりました。
3 印象深かったハラスメント事件交流会と各人報告
 1日目に行われたハラスメント事件交流会では、各団員が取り組んでいるハラスメント事件について、実に多彩な報告と意見交換がなされました。
ハラスメント事件交流会では、悲惨なセクハラ事件における「強姦神話」や被害者の「心理的拘禁状態」に対する無理解との闘い方や、慰謝料金額の増額のためのアプローチ、客観的証拠を欠き一見して立証困難な事案における諦めない勝ち方、安全配慮義務や被侵害利益を裁判官に認めさせるための論理構成の工夫などが報告されました。目から鱗が落ちるような観点を知ったり、勝訴を得るための強いマインドにふれたりすることができ、大変勉強になりました。
2日目の各人報告では、ジェンダー平等の観点からの取り組みや問題点の提起が多くなされました。進まない男女共同参画、根深い「家制度」の呪縛、身近にあるハラスメント。これらの視点は2日間の総会を通じて、あらゆる議論において常に回帰すべき核のような位置付けになっていました。真正面からこれらの問題に取り組む女性部の存在はとても大きいと感じました。
4 バービーランドで開催とは。
 ところで会場の部屋は、落ち着いたオレンジ色の壁だったのですが、ZOOMの画面に映し出される部屋の壁はなぜかピンク色・・・。リアル参加した団員はピンクの世界に包まれ、妙な雰囲気が漂いかねなかったのですが、滋賀の小川恭子団員は入室されてスクリーン上のZOOM画面を見るなり、「あら、バービーの世界ね。映画Barbie、なかなか良かったわよ」。この小川団員の一言で、会場のピンク色の空間は、一気に「バービーランド」(細部までピンク色)となってジェンダー問題を考える場となったのでした。 
 映画Barbieといえば、ビリー・アイリッシュ、デュア・リパ、リッゾなど蒼々たる歌姫たちが曲を提供し、全米大ヒット作となっている話題の映画ですが、日本では、原爆とバービーとの合成画像の問題で、配給会社が原爆被害に対する無理解をさらけ出す対応をとったことから大変な問題になり、映画館に足が向かない原因となりました。
もっとも映画の内容は、女性のエンパワーメントやジェンダー問題をメインテーマとしているようで、実は、男女問わず自分の軸をもって生きることの意義を訴えかけるものとなっており、アメリカでヒット作となるのも頷ける作品だと思います。
 ちなみにこの小川団員のバービー発言をきっかけに、「映画Barbieからジェンダーを考えよう」という女性部の企画(9月29日16時開催)は生まれました。ちょっとしたアイディアから新たな企画が生まれる軽やかさや柔軟性も、女性部の魅力の一つだと感じました。
 夜は、青龍美和子団員の実況・解説で、日本男子チームが五輪出場を決めたバスケットボールの試合をみんなでテレビ観戦して盛り上がるなど、女性部総会、楽しかったです。

 

与那国・石垣・宮古の自衛隊基地視察報告③

沖縄支部  赤 嶺 朝 子

宮古島
 午後は宮古島へ。市議の上里樹さんの案内で、宮古駐屯地と保良訓練場を視察した。宮古島駐屯地は警備部隊、ミサイル部隊第7高射射科、地対艦ミサイル中隊などが配備され、保良訓練場は弾薬庫群と射撃訓練場を有している。誘致当時、防衛省は「弾薬は置かない。ヘリは飛ばさない」と約束していたが、2019年3月の宮古島駐屯地の開設式で秘密裏に弾薬庫が建設され弾薬が搬入されたことが判明した。防衛大臣は謝罪したが、撤回はなく約束が守られていないままである。宮古島駐屯地は、島の中央部の千代田カントリークラブゴルフ場の跡地に建設されているが、当時の市長とゴルフ場社長が贈収賄で起訴され有罪判決を受けている(但し未確定)。宮古島駐屯地のすぐ近くには住宅があり、住民が居住している。
 保良訓練場は宮古島の南に位置し、宮古島駐屯地から訓練場に移動するには住民の生活道を通り、学校に面する道路を軍用車両が通過するとのことである。
 保良訓練場は、自衛隊協力本部宮古島関係者の身内が経営する廃坑直前の保良鉱山跡地である。保良訓練場の周辺はゲートに囲われ、ゲートの中に、訓練場が設置され、3個の弾薬庫建設予定の内、2個が完成していた。残り1個の弾薬庫は更地の状態であった。
 鉱山一帯の土地は、個人(地元の方)名義、鉱山業者の名義、鉱山業者の親族の名義の登記が入り混ざっている。鉱山業者は、保良訓練場建設にあたり、国に売却するために、個人名義のままになっている土地について、2018年ころ、その相続人を相手に時効取得に基づく所有権移転登記手続請求訴訟を提起した。同訴訟の多くは欠席判決により鉱山業者が勝訴した。しかし、先祖が残した土地を戦争に使用されたくないという思いを持った方が、ミサイル・弾薬庫配備反対住民の会と連帯し、応訴した。喜多自然団員と私が被告訴訟代理人を務め、問題となった3筆の内、1筆の相続人3名について、他主占有(鉱山の資料で、所有者が個人名義になっており、「契約」と記載されていた)の抗弁が認められ、被告勝訴となった。被告が勝訴した土地は、訓練場の端に位置していたことから、訓練場は、その土地を避ける形でゲートを設置されていることが確認できた。
 残り1個の弾薬庫建設予定地の一部に、個人名義のままの土地があり、同土地について、今年、鉱山業者が個人名義の相続人200名余りに対し、取得時効に基づく所有権移転登記手続請求訴訟を提起した。相続人の一人が先祖が残した土地を戦争に使用して欲しくないと立ち上がり、住民の会と連携し、再び、喜多団員と私が被告訴訟代理人を務めることとなった。9月に初回口頭弁論が予定され、相続人の一人は、他の相続人にも応訴を呼びかけている。
 他人名義の土地があり、それを知りながら、自衛隊は同土地を含めて周辺をゲートで囲み、同土地の所有者が同土地に容易に立ち入りできない状況にしている。民間同士ではあり得ない行動を国自ら行い、工事を強行しているのである。
 自衛隊と米軍は一体となって、離島奪還訓練を実施している。その中の一場面と思われる写真が、数年前に米軍のフェイスブックに掲載されているのを宮古島の住民から見せてもらったことがある。宮古島の巨大な地図を広げ、その両側に軍人が座り、軍靴のまま島の上に軍人が立ち、棒で伊良部島を指している写真である。この写真が現実化するのではないか、と恐怖を感じた。
 短期間で3つの島の自衛隊基地を巡り、島々が軍事化され、それらが連携している様子を体感した。今後も軍事施設が建設され、更に軍事機能が強化されていく予定である。いずれも住民が生活している島で、かつ、観光地。休日を満喫する観光客の笑顔と対極な視察であった。
 ブックレット「『島々を再び戦場にさせない!』-南西諸島からの報告-」(同編集委員会発行、仲山団員責任者、2023年5月発行)は与那国から奄美大島までの配備状況がコンパクトにまとめられており、視察の際非常に参考になった。

(おわり)

 

24年度防衛予算概算要求分析メモ
―南西諸島で戦える自衛隊へ急速に変貌、米軍と輸血用血液を「相互運用」

広島支部  井 上 正 信

第1 防衛力抜本的強化5年計画の第2年度である24年度防衛費
 防衛省内に「防衛力抜本的強化実現推進本部」を2023年4月に設置。本部長防衛大臣、事務総局長防衛事務次官と、防衛省を挙げた組織体制。
 推進本部の下部組織の中に、防衛力抜本強化7分野に対応する作業チームが組織されている。
 第1回推進本部会議開催 2023.4.5
 第2回推進本部会議開催      6.15
 第3回推進本部会議開催      8.22
 24年度防衛予算概算要求は推進本部で作られたと思われる。
 23年度当初防衛予算6兆8200億を9185億上回る7兆7385億
 SACO関係経費、米軍再編関係を除くと1兆1384億円(17.25%増)
 *24年度概算要求ではSACO関係経費、米軍再編関係は事項要求とされているので、23年度防衛予算と比較するには、23年度防衛予算の内SACO関係費と米軍再編関係を除いた数字で比較することが正確である。新聞では昨年度を9185億円上回るとの報道がされるが、これは不正確である。
第2 防衛力抜本強化7分野ごとの予算要求内容
1 スタンド・オフ防衛能力分野 
 7551億円(他分野のダブり除くと7339億円)
 国産のスタンド・オフミサイル(12式ミサイル能力向上型、島嶼部防衛高速滑空弾とその能力向上型、極超音速滑空ミサイル、新地対艦・地対地精密誘導ミサイル)の開発、製造・配備を急いでいるが、その繋ぎとして、海洋発射型トマホーク巡航ミサイル(米製)、JASSM-ER(米製、F15へ搭載対地ミサイル、射程約1000キロ)JSM(ノルウェー製空対艦ミサイル、F35Aへ搭載、射程約350キロ)の取得を始める。すでに米政府はJASSM-ER50発の日本輸出を承認(最大で約152億円)。イージス護衛艦のVLS(垂直発射装置)へトマホーク発射機能付与のための改造費2億円
 12式ミサイル能力向上型(地発型)の地上装置取得費144億円、地発型・空発型・艦発型の開発、製造で648億円、12式ミサイル能力向上型取得費951億円
 島しょ部防衛用高速滑空弾能力向上型開発で836億円
 極超音速滑空ミサイル開発で718億円、その製造体制の拡充等(量産費)で85億円
 スタンド・オフミサイル運用の一元的な指揮のための統合指揮ソフトウェア整備費215億円
 新地対艦・地対地精密誘導弾開発320億円
 昨年度にはなかった新しいタイプのスタンド・オフミサイルの開発で、相手艦船のどこへ当てるかまで精密誘導可能(防衛省関係者談)。地対艦と地対地ミサイルの弾頭では異なった機能が必要。地対地の場合標的が堅固であり、地対艦よりもより高い貫通力が求められる。
 12式ミサイル連隊を大分県湯布院駐屯地へ新編する。大分はおそらく第6ミサイル連隊となるはず。
 23年度中に沖縄本島勝連分屯地へ12式ミサイル連隊と司令部が設置される(第7ミサイル連隊)。12式ミサイル能力向上型の配備が検討されている。
 *陸自ミサイル連隊は現在全国に5か所ある。そのうち第1連隊ないし第4連隊の4か所(北部方面隊と東北方面隊)へ配備されている地対艦ミサイルは旧式の88SSM だ。12式が配備されている連隊は熊本健軍駐屯地の第5ミサイル連隊だけ。勝連分屯地と湯布院分屯地へ配備されるのは12式ミサイルだ。宮古島駐屯地と石垣島駐屯地の対艦ミサイル中隊は勝連分屯地の第7ミサイル連隊に編成され、奄美駐屯地の対艦ミサイル中隊は第8師団の第5ミサイル連隊に編成される。健軍の第5ミサイル連隊を含めていずれも南西諸島有事対処である。防衛力整備計画ではミサイル連隊を7個編成するとしており、23年度中に勝連分屯地、24年度中に湯布院駐屯地へのミサイル連隊新設により、早くも7個連隊体制が出来上がる。
 湯布院駐屯地へのミサイル連隊編成は、大分屯地へ設置される大型弾薬庫とセットであり、12式ミサイル能力向上型が配備される可能性がある(2026年度から地発型が配備される予定)。
2 統合防空ミサイル防衛(IAMD)
 1兆2713億円(他分野のダブりを除くと1兆2420億円)
 イージスシステム搭載艦2隻3797億円 
 2023年度防衛予算に計上された建造費2028億円を合わせると6005億円で、22年末の想定4000億の1.5倍に膨らむ。2隻分の建造費の合計は7900億円。史上最も高価なイージス護衛艦まや型の建造費1680億円の2.35倍、30年間の維持管理費を含むライフサイクルコストは1兆円を超えることは確実。
 2027年度1隻目、2028年度2隻目就役、2024年度建造開始
 滑空段階迎撃ミサイル(GPI)日米共同開発750億円
 8月の日米韓首脳会談の際の日米首脳会談で合意された極超音速滑空ミサイル迎撃ミサイルの日米共同開発費。30年代に開発完了予定
 SM3‐ブロックⅡA、SM6、短距離地対空ミサイル、03式中距離地対空ミサイル等の取得費1986億円
03式中距離地対空ミサイル(改)能力向上型開発136億円
 極超音速滑空ミサイル対処能力やターミナル段階での弾道ミサイル迎撃能力を持たせる。
 センサー・ネットワーク等の強化
 JADGEシステムの能力向上等警戒監視能力の強化414億円
 南西諸島での常続的な警戒監視を強化するための移動式警戒監視レーダー取得費72億円
 スタンド・オフ防衛能力と統合防空ミサイル防衛はセットもの。合計で1兆9759億円、23年度の合計が約2兆4000億円、2年間で注ぎ込む防衛予算額は4兆3700億円となる。
3 無人アセット防衛能力
 1184億円(他分野とのダブりを除くと1161億円)
 革新的ゲームチェンジャーと位置付ける。陸上、海上、海中、航空の領域での無人偵察・ 警戒監視、攻撃能力を持たせる。有人装備と共同運用を想定。例えば次期主力戦闘機(FX)は、無人機との共同作戦を可能となり、無人機が敵領域内の防空施設(防空ミサイル、防空レーダー)を攻撃し、FXが敵領域を空爆する、敵戦闘機に対する防空戦闘で、無人機が先に迎撃行動をとりながら有人機がそれに続く防空作戦を行う構想。 
 新たな開発項目に、戦闘支援型多目的USV(無人水上艦艇USV)開発費245億円を計上。警戒監視と共に敵艦船をミサイル攻撃する。
4 領域横断作戦能力
 合計額1兆7117億円
(1) 宇宙領域における能力強化 1654億円
 民間衛星の自衛隊の活用を進める
 民間通信衛星に自衛隊の各種センサーを相乗りさせる(ホステッド・ペイロード)、民間通信衛星を利活用してデータ伝送、Xバンド防衛通信衛星(きらめき)と商用通信衛星等をシームレスに活用(宇宙利用の抗たん性強化)、民間光学衛星や小型衛星コンステレーションを含む各種民間衛星等の画像を取得
 宇宙領域把握(SDA)衛星の整備(米宇宙コマンドと情報共有する、空自二差が派遣されている)、宇宙作戦指揮統制サービス等の整備(宇宙作戦の運用基
盤の整備)
(2) サイバー領域における能力強化 2303億円
 サイバー専門部隊の整備
 サイバー専門部隊(コア要員)を2027年度末までに4000名に増員、各自衛隊のサイバー関連要員を含め、2027年度末までに2万人
 民間企業でもこれだけのサイバー要員はいないはずで、民間産業のサイバー体制に支障が出る可能性がある。
(3) 電磁波領域における能力強化
 相手の通信機器やレーダーの機能を阻害し、敵の電子戦攻撃から防護する電子戦は、極めて重要な位置づけで、最前線で敵と戦う部隊と共に配備される。車載移動式ネットワーク電子戦システム(NEWS)の取得。24年度防衛予算で陸自宮古駐屯地へ新設される(陸自相浦駐屯地と健軍駐屯地から部隊派遣)。宮古島市には8月25日に突然通知された。与那国島には今年度末までに新設される。
 電子防護能力強化
 敵の電子戦に対する我が方の通信機器やレーダーの防護能力を強化。電子戦防護能力に優れたF35A/Bの取得とF15の近代化改修。
 電子作戦機の開発
 米軍が使用する電子戦機はグラウラーと称される機体で、敵領土内の防空施設を攻撃する任務。日本国内で低空飛行訓練を行っている。現在はFA18スーパーホーネットを改造したEA18‐Gだが、自衛隊はC2輸送機をベースに開発(スタンド・オフ電子戦機)している。
 高出力レーザー、高出力マイクロ波など指向性エネルギー兵器開発
 小型無人機のスオーム攻撃への対処のため
5 指揮統制・情報関連機能 6862億円
 中央指揮システム機能強化、情報収集・分析等機能強化
 認知領域を含む情報戦対処
 AIを活用した公開情報、SNS情報の自動収集・分析
 機能強化
 情報戦の主要な分野である認知戦では、市民監視になりうる。また市民の認知領域への働きかけなど、ステルス・マーケッティングの手法が利用される。古い用語で「流言飛語」(現代はSNS)への対処により、国民の戦意を向上させるためだ。
6 機動展開能力・国民保護 5951億円
 23年度防衛予算概算要求段階では「機動展開能力」だけであったが、安保関連三文書において、これに国民保護が付け加えられた。
 自衛隊にとって南西諸島有事での対処で最大の問題は「距離」である(ティラニー・オブ・ディスタンスとも称される)。南西諸島有事対処ではこれの克服が重要課題だ。
 三自衛隊共同部隊として「自衛隊海上輸送群」を設置し、司令部を呉に置く(100名)。
 二隻の機動舟艇を取得し呉へ配備(現在建造中)
 24年度に機動舟艇3隻173億、23年度予算で小型級船舶2隻を購入  
 計5隻の配備先は未定。
 輸送ヘリ取得 3766億円
 CH-47JAは航続距離約1000キロ、12機取得。CH‐47J5機、UH-2多用途ヘリ16機取得
 現有2隻のPFI(はくおうとなっちゃんワールド)に新たに2隻を確保325億  
7 持続性・強靭性 3兆1152億円
 7分野の内持続性・強靭性分野予算が最大の伸びで、全体予算の40.26%を占める。「たまに撃つ弾がないのが玉に瑕」と言われたくらい自衛隊の一番の弱点だ。
自衛隊基地強靭化8043億 この内長射程ミサイル保管の弾薬庫整備221億を計上。
 この額にはスタンド・オフミサイル取得費は含まれていない。スタンド・オフ防衛能力予算を合わせると3兆8491億円で、全体予算のおよそ半分を占めており、防衛省自衛隊がいかにこの能力強化に力を入れているかが分かる内容。長期間南西諸島で中国軍と戦争をする態勢を整備するもの。
 弾薬取得費9303億円(スタンド・オフミサイルを除く、銃弾、榴弾砲弾、各種短・中距離距離ミサイル、中距離多目的誘導弾(島嶼部防衛で普通科部隊が上陸を試みる敵部隊を攻撃する)。
 装備品の維持整備費 1兆9041億円
 現有装備の稼働率を向上させて、自衛隊の戦力の底上げを図る。2022年度予算の倍額。
 施設の強靭化 8043億円
 今後5年間で約4兆円を投入する。
 主要司令部等の地下化、火薬庫の整備、部隊新設に伴う施設整備など。
 施設強靭化には抗CBRNe(化学・生物・核・爆発物兵器への防護性能を高める)、抗EMP(抗電磁パルス攻撃)が含まれる。
 強靭化施設の対象は283地区、23000棟が対象。今後10年間に全国へ大型弾薬庫130棟を建設する。24年度予算では、陸自大分分屯地、海自大湊地方総監部へ新設、その他海自呉地方総監部、陸自祝薗駐屯地へ設置のための調査費計上。
 陸自佐賀駐屯地を佐賀空港へ新設し陸自輸送部隊の南西諸島方面への輸送拠点にする。671億円を計上。木更津のオスプレイ17機を移駐させ、陸自西部方面隊の補給拠点である目達原駐屯地から、50機のヘリ部隊が移駐する。佐賀地裁へ建設工事続行禁止仮処分申請中。
8 陸海空における能力 1兆3787億円
 領域横断作戦の項目に含めているが、あまり関連はないように思える。7分野に入れれば、予算化しやすいのであろうか。
24年度概算要求の概要では、
 16式装輪機動戦闘車(陸自機動連隊に配備、南西諸島へ空輸可能)とこれのファミリー化(車体の共通化)である歩兵戦闘車、機動迫撃砲(併せて共通戦術装輪車と呼称)の取得。16式機動戦闘車とセットで運用する。米陸軍のストライカー歩兵戦闘車と同種の戦闘車両であろう。南西諸島有事の際に事前配備し、陸上戦闘能力を高める。熊本第8師団は陸自では真っ先に16式装輪機動戦闘車の配備で機動連隊を編成した。南西諸島有事での事前配備部隊になる。
水陸障害処理装置取得
 島しょ部奪還のための上陸作戦で、波打ち際や浅海底に設置された障害物除去装置
 空自では、F35A/Bの取得と宮崎新田原基地への「臨時F35B飛行隊」を編成(南西諸島有事体制だ)。
 F15の電子戦機能の強化とスタンド・オフミサイル搭載のための改修、F2の対艦攻撃能力強化(12式ミサイル能力向上型の空発型を搭載する予定)、ネットワーク機能の強化のための改修。
 戦域での各種センサー(衛星、無人・有人偵察機、早期警戒機、F35,地上レーダー、水上艦艇等)が捉えた標的情報を中継する高性能のネットワークシステム
は、統合防空ミサイル防衛の中枢神経だ。
 F15近代化改修では、電子戦能力の強化とスタンド・オフミサイルJASSM-ERを搭載する予定。
 海自では、護衛艦が海上での作戦任務継続のために洋上兵站支援能力を強化した新型補給艦(基準排水量14500トン)を建造する。南西諸島有事での海上作戦継続のためであろう。海自最大の補給艦ましゅう型よりも大型艦となる。
9 常設統合司令部の創設
 統合司令官(各自衛隊幕僚長と同格)、副司令官、幕僚長(以上制服)、司令官補佐官(文官)、240名からスタートし、司令部を市谷(防衛省本省)へ置く。三自衛隊の統合運用と米インド太平洋軍との共同作戦のため。
10 その他
 戦傷医療の強化策として、輸血用血液製剤の確保・備蓄(0.4億円)、自衛隊福岡病院と横須賀病院建替工事費計上、自衛隊那覇病院の立替えのための調査設計費の計上は、南西諸島有事での戦傷医療の充実を図るもの。
 戦場での死亡原因の一番は失血死であるため、輸血用血液製剤の確保が重要であることは防衛力整備計画が述べているとおり。
さらに自衛隊は米軍との輸血用血液の相互利用を検討している。米軍は全血輸血を行っており、そのために輸血反応リスクが低いO型血液による「低力価O型全血(LTOWB)」を備蓄している。自衛隊中央病院はLTOWBを念頭に自衛隊と米軍との相互運用性を高めるための研究をしている(琉球新報2023.7.31)。武器弾薬だけではなく、血液まで「相互運用性」を高めて、戦場で共に戦うというのであろう。
 戦場から後方の野戦病院へ輸送する途中でも治療を施すための航空搬送用医療器材等の取得費(4億円)、野外手術システムの整備費(3億円)を計上。
 24年度沖縄振興予算の中に、南西諸島防衛態勢のための空港・港湾等の公共インフラ整備のための予算として事項要求が計上されている。沖縄振興予算の中へ防衛費が潜り込まされる。
 次期中距離空対空ミサイル開発184億 共同開発のFXへ搭載予定

 

東北の山―花トレッキングに憧れた秋田駒ヶ岳(後編)

神奈川支部  中 野 直 樹

花咲く尾根道
 登山口から1時間ほどで横長道出合(1175m)につき右側に進んだ。岩手県と秋田県の境となっている中央分水嶺である。霧が立ち込める中を緩やかに上る道の右左の灌木の根元にひっそりとスミレが花をつけ、目立ちたがり屋の紅紫色鮮やかなハクサンチドリがカメラ撮りを意識しているかのように咲いている。秋には真っ赤な紅葉が鮮やかなナナカマドの花は、白いブーケのような花をつけている。すっと伸びた赤色の茎に梅のつぼみのよう濃桃色の花を付けたベニバナイチヤクソウ。
 灌木が途切れ、展望地となっているところに差しかかると霧の風が襲ってきた。上下のレインウエアを着こんだ。先行していたハイカーが戻ってくる。ムーミン谷に向かったが強風で危ないと考え、撤退してきたとのこと。
どうした私たち
 私たちは、佐渡・金北山のときと同じ状況に陥りつつあった。防風となっていた灌木がなくなり、ガスで何も見えない展望地を過ぎて、火山性砂礫の道となったときには、左手からの突き上げるような風圧に逆らいながらの歩行となった。11時20分、横岳と小岳の分岐に着いた。ムーミン谷へは左手の砂礫の斜面の道だ。いよいよ風が勢いを増してきた。引き返すかどうかの判断の分岐点ではあったが、私たちはそのことは口に出さず、ムーミン谷から引力されたかのように斜面を横切る道に突入した。
 左の斜面下方から右の斜面上方に向けて霧が猛烈なスピードで飛ばされていく。道の周囲の砂礫に、コマクサが花をつけているが、写真を撮るゆとりはない。コマクサの方は強風に慣れた様子で、ゆらゆらしてやりすごしている。
ムーミン谷は
 15分ほどでトラバース道を抜けると湿原の木道になった。湿原ということは平らだということだ。チングルマが登場した。いよいよ核心部だ。太古の火山爆発でできたすり鉢状底の残雪が融けたところから順次チングルマの群落が点在していた。
 さすがにこの底は風とは無縁でほっとした気分となったが、霧に包まれ、ムーミン谷の全景が見えない。駒池にさしかかった。木道は池の中を横切っている。手前から2番目の木道の板が水に浮いた状態であった。この板の上に乗ったときに池の中に沈み靴が浸水する危険があった。この木道渡りには、左右のバランス感覚と木板においた片足が沈む前にもう1つの足にバトンタッチするステップを踏む迅速さが求められそうだ。
 私は挑戦することにした。まず陸地から一枚目の木道板に慎重に足をのせて立った。件の2枚目は最初から傾いて手前が沈下し、先が空中に浮いている。1回のジャンプで飛び越すことはできない長さがある。まずは、どこに足をおいて、次のステップの足をどのあたりに着地させ、さらに3枚目の板のどこに落下するか、のイメージづくり。3枚目の板が同じく浮いていた場合には、この動作を連続する必要がある。逡巡しない、思い切りが肝要だ。
 さて実行。トレッキングポールでバランスをとりながら、左足をそっと沈下した部分に載せその瞬間にジャンプし、右足を空中に浮いた場所に着板させてその部分がシーソーのように沈下しようとするその瞬前、さらにジャンプして3枚目の板に左足で着板した。幸い3枚の板は少し沈んだが、浮力は十分だった。無事突破出来て、後続の3人に私をお手本にしておいで、と振り返った。
 ところが後ろには3人の姿がなかった。3人は他のグループと連なって池の端の道なき笹やぶをかき分けて迂回をしていた。後で聞くと浅野さんは私の挑戦を動画撮影していたそうだ。その動機は、私が失速、あるいはバランスを崩して、池ぽちゃとなる瞬間を記録しておく、というところにあったらしい。
チングルマの花園
 難所を超えると道はゆるゆると回りながら上っていった。この道の両側は一面チングルマの花で埋められていた。私たちはこれが見たくて、風にもめげずここまで来たのだった。残念ながら青空を背景とした緑とチングルマの白花の写真は撮れなかったが、この地のチングルマの大群落のすばらしさには感嘆した。7月にはこの斜面はニッコウキスゲに黄色く染まるようだ。
 岩場の急斜面のジグザグの道を上り、左手の男岳はあきらめて、右手の阿弥陀池の木道を選んだ。木道脇は、霧の中にミヤマダイコンソウの黄色い花の絨毯のなかにハクサンチドリの紅紫が印象深く存在をアピールしている。
再び どうした
 阿弥陀池の端で木道が終わり、左手にいくと男女岳山頂、右手にいくと阿弥陀池小屋の分岐となった。男女岳山頂まで標高差100m、15分程度の距離だが、何も見えず、強風が待ち構えている。ここでは明示で意見交換し、まだ踏み跡を残していない私が山頂に向かい、浅野さんも随行し、村松・花岡さんは小屋で待つということとなった。
 石畳の山頂への道を向かい風に抗しながら私が先頭で歩みだした。直線的な道から階段上の道に変わろうとするあたりで、後ろの浅野さんが「あっ」と声をあげた。なんだ、と振り向くと、浅野さんは右側の道脇のハイマツに向かっている。なんと、風に眼鏡を飛ばされた、というのだ。それは一大事だ。
 私もかけよりハイマツ帯に目を凝らす。隙間があり、そこに落ち込むと探し出すことは容易ではない。浅野さんは一瞬のことだが眼鏡が飛んでいく方向を目にしており、そのイメージをもとに集中していたが、しばらくしてわが眼鏡を救出できた。なんと幸運なことか。それを喜び合いながらなお山頂に迎い、標柱の文字も読めないような霧の中で写真を撮った。
この道を下るしかない
 小屋で合流して携帯食を食べた後、横岳に上って大焼砂とよばれる火山性礫砂の下り尾根に入ると、強烈な右横からの風が吹きつけた。私と浅野さんは、飛ばされないように、登山道の右端にコマクサ保護のための柵に張ってあるロープをしっかりつかんで足を進めた。村松さんと花岡さんは、なぜか、風下の左側の柵のロープをつかんでいる。ちょうどボクサーが打ち込まれてよれよれとロープに寄りかかっているようだ。時間の感覚も失った約30分の苦闘の末、灌木の安全地帯に到達し、無事であったことを喜び合った。

(おわり)

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