5月27日付、「少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げることに反対する決議」を採択しました。

カテゴリ:子ども・教育,決議,治安警察

少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げることに反対する決議

 

1 現在、法務省法制審議会「少年法・刑事法(少年年齢・犯罪処遇関係)」部会(以下「法制審部会」)において、少年法の適用年齢を18歳未満へ引き下げることの是非及び仮に適用年齢を引き下げた場合に生じる問題に対応するための刑事政策的制度・施策についての議論がされている。

2 しかし、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げることは、18歳、19歳の者の成長発達権の保障の観点や犯罪防止の観点から問題が大きい。

 少年法は全件送致主義のもと、成人では不起訴処分となる事件でも全て家庭裁判所に送致され、家庭裁判所調査官が少年の資質だけでなく、少年犯罪の背景にある家庭環境や学習環境等をきめ細かく調査する。そして、その調査をふまえて家庭裁判所が教育的な観点から処遇を決定する。このように少年の事情に即して手続や処遇が行われるのは、少年の成長発達権を保障し、立ち直りや「育ち直り」を図るためである。とりわけ、18歳、19歳の者は進学や就職等、それまでの生活環境が大きく変化する時期であり、挫折や新たな人間関係に伴うトラブル等にも直面しやすい時期である。かかる時期にこそ、少年法による教育的な関与が必要とされるが、適用年齢が引き下げられると、18歳、19歳の者には少年法の手続に従った環境調整や教育的処遇が図られず、成長発達権を保障しえない。

 また、非行行為を行った少年のうち、18歳、19歳の者が半数を占めているが、仮に少年法の適用年齢が引き下げられ、これらの者が成人と同様の刑事手続に移行した場合、軽微な犯罪については、資質上の課題や環境上の問題が見落とされたまま、不起訴処分や罰金刑で終了し、犯罪防止には逆効果となるおそれが強い。

3 これに対し、少年法の適用年齢を引き下げるべきとする見解は、一般的な法律において、「大人」と扱われるべき年齢は一致する方が国民にとってわかりやすいということを根拠する(「国法上の統一性」)。

 しかし、法律の適用対象年齢は、立法趣旨や目的に照らして法律ごとに個別具体的に検討されるべきであり、「国法上の統一性」は根拠とはなりえない。

 法制審部会の議論でも、現行少年法に基づく運用は、「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件についての特別の措置を講ずることを目的とする。」という法の趣旨に応えるものになっているという評価はほぼ一致している。あえて少年法の適用年齢を引き下げる立法事実は存在しないのである。

4 法制審部会では、仮に適用年齢を18歳未満に引き下げた場合に18歳・19歳の者に何ら教育的な働きかけがなされないのは問題であるとして、検察官が起訴猶予処分とした18歳・19歳の者を家庭裁判所に送致し、改善更生に必要な処遇や働きかけをおこなうことを可能とする制度(「若年者に対する新たな処分」)が検討されている。同制度では、鑑別のための少年鑑別所収容や、罪証隠滅・逃亡防止目的を理由とした矯正施設への収容も検討されている。

 しかし、同制度の対象者は検察官が起訴猶予処分とした者のみであり、起訴された者については、成人と同様の刑事手続にしたがって刑事処分がなされるのであるから、これらの者の成長発達権が保障されないことに何ら変わりはない。

 また、検察官が軽微な犯罪であるとして、いったん起訴猶予とした者の身体を拘束することは、事件の重大性に応じて身体拘束が許されるべきという比例原則に反する。また、起訴猶予とされた者のうち、18歳・19歳の者だけが、他の成人と異なり、自由を拘束される不利益処分・負担を課され得るというのは、憲法上の平等原則や適正手続保障にも反する。

 さらに、検察官が起訴猶予処分とするまでは「行為責任主義」で判断される一方、起訴猶予処分となり、家庭裁判所が関与するようになったとたん、「要保護性」を基準とする(保護主義)のは原理的に矛盾している。このような矛盾が生じるのは、そもそも、必要のない適用年齢引き下げを前提としているからである。このような制度を導入しても、少年法の適用年齢の引き下げに伴う問題点は解消されない。

5 以上述べたとおり、少年法の適用年齢を引き下げることは問題点が多く、現在法制審部会で審議されている代替制度も、この問題を解決するものとは到底言えない。

 自由法曹団は、18歳・19歳の者の成長発達権を保障するために、少年法の適用年齢の引き下げに反対し、ここに決議する。

 

2019年5月27日

自由法曹団

2019年石川県・能登5月研究討論集会

 

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