2020年5月16日、(常任幹事会アピール)新型コロナウィルスに人びとの命やくらしが脅かされることがないよう奮闘しよう
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自由法曹団5月常任幹事会に於いて、下記のアピールが承認されました。
新型コロナウイルス感染拡大の危機に際して
人びとの命や暮らしが脅かされることがないよう奮闘しよう
今,日本だけでなく世界各国に新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が拡大し,大きな危機に直面している。人のいのちを守るため各国の医療関係者が懸命の努力を続け, 感染拡大を抑制するため,各国の国民は他人に感染させないよう,また自らが感染しないよう日常の活動制限を余儀なくされている。
自由法曹団は,この危機を乗り越えようと努めるすべての人々に敬意を表し,政府に対して感染拡大防止のためにあらゆる施策の実施を求めるとともに,「人民の権利が侵害される場合には,その信条,政派の如何にかかわらず,広く人民と団結して権利擁護のためにたたかう」という団創立の精神に立ち,人びとの命や暮らしが脅かされ,不当に権利が侵害されることがないよう引き続き全力を挙げることを誓うものである。
1. 緊急事態宣言によってもたらされる損失に対する補償・救助は国の責務である
自由法曹団は,4 月 7 日に 7 都府県を対象地域として緊急事態宣言が発せられた際に「憲法を生かし,いのちとくらしを徹底して守る感染拡大防止策の確立を求める」声明を発表した。そして,幸福追求権(憲法 13 条),生存権(憲法 25 条)を保障している憲法を生かし,国民の健康と命,生活を守るために,「正当な補償」を掲げる憲法 29 条3 項の要請に基づき「自粛要請と一体として損失補償」が必要であることを訴えた。
その後,4 月 16 日には,緊急事態宣言の対象地域が全国 47 都道府県に拡大され,その期間も 5 月 31 日まで延長された。外出の自粛要請,施設の使用制限要請が全国に拡大され,その期間も長期化するなかで,国民生活や政治・経済はもとより,文化・教育など広範にわたって,深刻な影響が生じている。国民の自助努力任せでは回復しがたい打撃を回避することは到底できない。
政府は,個人の尊厳を国政の上で最大限尊重し(憲法 13 条),国民の生存権を十全に保障すべき(憲法 25 条 2 項)であり,感染拡大防止措置によって生じる影響に対して十分な補償を実施し,生活と生業を守る施策を講じることがいっそう求められている。
2.これまでの政府の対応は不十分であり,命と暮らしを守る十全な政策を求める
4 月 30 日には 2020 年度補正予算が成立し,一人一律 10 万円の「特別定額給付金」の支給が決まり,感染症拡大により影響を受けている事業者に対し,事業の継続を支えるための「持続化給付金」の支給手続きが始まっている。
これらの施策は,国民世論,野党各党の要求によって実現したものであるものの,外出自粛,営業自粛要請によって国民各界各層が受けている生活・産業基盤に対する影響を緩和し,生じた損失を補償するうえでは極めて不十分といわざるを得ない。
自治体によっては,休業要請に協力した事業者に対し「感染拡大防止協力金」を給付するところもあるが(東京都では,最大 50 万円の支給),自治体の財政状況によって支給が困難な地域もあり,支給される自治体においても支給額に格差が生じている。全国47 都道府県に緊急事態宣言を発し,その延長を決めたのは国であり,国の政策によって国民の権利の制限がされることになるのであるから,都道府県の財政力によって損失補償に格差が生じることは不合理な格差であるというべきであり,補償・助成措置を「都道府県任せ」にすることは許されず,各都道府県に対する国からの財政支出を通じて格差の解消を図ることが必要である。
緊急事態宣言は,5 月 31 日まで延長されたが,政府は,延長に伴って長期化する国民経済に生じる影響に対する手当について何ら言及することはなかった。
緊急事態宣言によって生じる国民生活や産業基盤への影響を緩和し,毀損され生じる損失の補償は,営業の自由(憲法 22 条)の保障,財産権の補償(憲法 29 条 3 項)だけでなく,幸福追求権(憲法 13 条),生存権(憲法 25 条)からも要請されるところである。政府には,あらためて「自粛要請と一体として損失補償を行う」ことを基本方針に据えた上で,特別定額給付金,持続化給付金の期間の延長,複数回の支給等,国民のいのちとくらしを守る十分な政策が可能となるよう第 2 次補正予算を早急に編成し,成立させることを求める。
3.検査の拡充と治療体制強化のための措置を求める
いま,医療・公衆衛生関係者は,ぎりぎりの条件の下で,新型コロナウイルスと最前線で対峙している。国が感染症拡大防止のために十分な財政措置をとるべきことは言うまでもない。しかるに,2020 年度当初予算においても補正予算においても,検査の拡充と医療体制の強化のための予算は微々たるものにとどまっている。
新型コロナウイルス感染拡大防止のために検査の抜本的拡充と病床・医療資源確保に取り組むことが必要であり,その実現のためには,国が十分な財政措置を講じることが不可欠であり,そのための第 2 次補正予算の編成,成立が必要である。
また,この間の新自由主義に基づく医療と公衆衛生の分野での「効率化」政策が推し進められた結果,感染症病床はこの 20 年間で半分近くに削減され,保健所も 1993 年の848 箇所から 576 箇所に減らされており,検査や治療を進める上で重大な障害ともなっている。新型コロナウイルスだけでなく新たな感染症の流行に伴って「医療崩壊」を招くことがないよう,これまでの医療費の削減や「効率」を最優先する医療・公衆衛生政策を見直し,憲法 25 条 2 項に基づき,国民の命と健康を最優先する政策に転換することを求める。
4.児童・生徒・学生の教育を受ける権利の保障を
全国の小・中学校,高等学校では,2 月 27 日に安倍首相が一斉休校を要請して以来, 休校が続き,大学も 4 月 7 日以降緊急事態宣言による施設利用制限の対象とされ,教育の場の閉鎖が続き,児童・生徒・学生の学習権を保障することが切実な課題となっている。国は,遠隔教育に必要な機器の援助をはじめ,児童・生徒の学習権を保障するために最大限の努力を行うべきである。
また,自粛要請による休業によって,学生のアルバイト収入が激減している。ただでさえ重い学費の負担もあいまって,多くの学生が学業を続けられるかどうかという深刻な事態に追い込まれている。大学によっては,すでにさまざまな支援措置が始まっているが,国として,学生の生活援助,学費の減免措置のための財政支援を行うべきである。
5.改憲論議に断固反対する
ドイツのメルケル首相は感染拡大防止のための国民の自由の制限を発表するテレビ演説において,権利の制限が,感染拡大を防止し命を救うために不可欠かつ一時的な措置であるとしたうえ,開かれた民主主義のもとでは,政治において下される決定の透明性を確保し,説明を尽くすことを明言した。このことは,同首相演説を引用するまでもなく,日本国憲法のもとで当然に政府に求められるものである。
しかるに,安倍首相は,4 月 7 日の緊急事態宣言を発した際にも,5 月 4 日のその延長を表明した記者会見においても,国民の権利を制限することが必要不可欠であること の説明もせず,政府決定の透明性を確保しようとする姿勢すら見られない。のみならず, 安倍首相は,5 月 3 日の改憲派集会におけるビデオメッセージで,緊急事態における国,国民の役割について「憲法にどのように位置付けるかについては,極めて重く,大切な課題である」と述べ,緊急事態宣言を発令した事態をひたすら改憲に結びつけようとしている。安倍首相は,感染症拡大の危機の中であっても個人の権利,自由をないがしろにしてはならないという人権保障の原理も,説明責任を果たすことが求められる民主主義の原則も,踏みにじるものであって,安倍改憲の危険性をいっそう浮き彫りにするものである。
いま,国会と政府がなすべきことは,感染拡大を防止し,国民の命と健康,生活を守るために全力をあげることであり,改憲を論じることではない。自由法曹団は,今回の緊急事態宣言に便乗した改憲論議には断固反対する。
6.私たちも人びとの命や暮らしが脅かされることがないよう奮闘しよう!
緊急事態宣言が出され,感染拡大防止のために外出自粛,休業等の要請に従っているなかでも,多くの人々が「明日からの暮らしはどうなるのか」,「事業の継続がかなうのか」精神的にも経済的にも不安な日々が続いている。
政府が,国民のいのちとくらしを守る十全な政策をとらない中で,今後,ますます, 生存の危機に脅かされる人が増大し,国民の間に格差と分断がもたらされることが懸念される。
また,新型コロナウイルスの猛威がいつまで続くのか出口が見えないなかで,県外ナンバーの車に非難を浴びせ,営業をつづける商店に対する嫌がらせ,医療従事者に対する差別など不寛容が広がっている。
自由法曹団は,政府に対して、コロナウイルス感染拡大を防止するための万全の措置を求めるとともに、国民各界各層に生じているさまざまな影響及び被害実態をふまえ, 幸福追求権(憲法 13 条),営業の自由,居住移転の自由(憲法 22 条),生存権(憲法 25条),財産権(憲法 29 条),学習権(憲法 27 条)を保障している憲法を生かし,国民の健康と命,そして生活を守るために,いっそう奮闘することを宣言する。
2020年5月16日
自由法曹団2020年5月常任幹事会
●新型コロナウイルス感染拡大の危機に際して人びとの命や暮らしが脅かされることがないよう奮闘しよう
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2020.5.16 コロナ常幹決議.docx