菅政権による学術会議会員の任命拒否に抗議し、自由と人権の侵害、民主主義破壊の政治を許さず、日本国憲法に基づく新たな政治の実現を求める決議

カテゴリ:憲法・平和,決議

菅政権による学術会議会員の任命拒否に抗議し,
自由と人権の侵害,民主主義破壊の政治を許さず,
日本国憲法に基づく新たな政治の実現を求める決議

 

1 本年9月16日,安倍政権を「継承する」と称して発足した菅義偉首相率いる政権は,発足早々,日本学術会議が推薦した会員105名のうち6名の任命を拒否するという暴挙に出た。日本学術会議は,わが国の科学者の内外に対する代表機関であり(日本学術会議法第2条),内閣総理大臣の「所轄」とされているものの,扱う内容が極めて高度の専門性を有することから,職務の独立性が特に保障されている(同法3条)。それゆえ,会員の選任方式が選挙制から推薦制になった際(1983年)の国会質問において,政府は「総理大臣の任命は形式的なものである」旨を繰り返し答弁し,実際にも日本学術会議の推薦名簿から任命を拒否された者はこれまで皆無であった。

2 菅政権は,これまでの政府答弁さえ覆し,6名の任命拒否に至った具体的理由について,一切明らかにしていない。日本学術会議は,6名の任命を求めるとともに,任命拒否の理由を明らかにするよう求めたが,菅政権はいずれも拒否する態度を取り続けている。野党の追及に対しても,ただ「総合的,俯瞰的に判断した」と繰り返すのみである。このような菅政権の態度に対しては,全国各地で非難の声が湧き起り,多くの学者,大学,研究機関からも批判の声明が出されている。
 このような情勢を受けて菅首相は,国民的批判の高まりを意識し,自分のところに推薦名簿が来た時はすでに6名の名はなかったなどと,責任回避ともとれる発言をし出している。しかし,仮にそのとおりなら,今回の任命は,首相が学術会議の推薦にもとづき任命したとはいえないこととなり,その意味でも明確な法律違反を重ねることとなる。

3 今回任命拒否された6名の学者は,菅首相の官房長官時代,すなわち菅首相が「継承する」という安倍政権時代,安保関連法(戦争法)や共謀罪などの悪法に対して批判的見解をとっていた。菅政権による今回の任命拒否は,政権に対して批判的見解を表明していた学者を狙い撃ちにし,いわば異論を封殺するものである。
 しかも,今回の菅政権による6名の任命拒否は,日本学術会議の人事に介入するものであって,学術会議の議論や意見表明を抑制することになりかねないものであり,学術会議の独立性を根底から覆す違法なものである。そのこと自身が学問の自由(憲法23条)を侵害するのみならず,学術研究者の表現の自由(憲法21条)をも侵害する行為である。このような政権のやり方は,戦前,軍部の独走を許すきっかけともなった天皇機関説事件や滝川事件を彷彿とさせる独裁政権の手法であり,自由と民主主義を基調とする日本国憲法下において,到底容認できないものである。

4 菅首相は,安倍政権が秘密保護法や戦争法,共謀罪など,数々の悪法を成立させたとき,反民主主義的手法によって強行採決を続けてきた政権の中心にいた。さらに,森友問題,加計学園問題,「桜を見る会」問題,次長検事の定年延長問題など,安倍政権による国政私物化の様々な問題が顕在化した際,これらの問題に対する説明を回避あるいは拒否し,ごまかし続けて,国民や野党の批判を封じたのみならず,疑惑の裏付けとなる数々の証拠を隠蔽してきた中心人物でもある。
 その菅首相が,就任後初の記者会見で述べたのが,内閣主催の「桜を見る会」を来年から中止するとしたうえで,真相究明はこれ以上行わない,ということであった。結局,菅首相のいう「安倍政権の継承」とは,安倍政権下で行われた数々の国政私物化に対する真相究明を行わず,疑惑を隠蔽し続けることにほかならない。そのことは,日本学術会議会員の任命拒否問題において,異論を排除し批判勢力を抑圧する暴挙を押し通したうえ,任命過程や任命拒否の具体的理由を一切明らかにせず,真実を隠蔽し続けようとする姿勢にも明確に示されている。

5 今回の日本学術会議会会員6名の任命拒否は断じて許すことはできないものであり,自由法曹団は,この任命拒否に断固抗議するとともに,6名の任命を強く求めるものである。
 自由法曹団は,安倍政権下における数々の悪法や改憲阻止の策動と対峙し,さまざまな分野で国民とともに連帯したたかってきた。菅首相が安倍政権の悪政をそのまま「継承」し,さらに日本学術会議会員の任命拒否問題にみられるような違法,違憲な政権運営を続けて国民の自由と人権を侵害し,民主主義を破壊する以上,自由法曹団は,多くの市民や立憲野党と連帯し,さらなる政権批判と運動を強め,日本国憲法にもとづいた自由と人権を尊重し,民主主義を強める新たな政治を求めて,全力を尽くしていく所存である。

 

2020年10月18日

自由法曹団兵庫・神戸総会

 


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