新型コロナウイルス禍の収束が見通せない中、大阪市民に十分な情報提供をしないまま、大阪市廃止・分割案にかかる住民投票を強行することに厳重に抗議し、大阪市廃止を阻止するための運動を全力で強める決議
新型コロナウイルス禍の収束が見通せない中,
大阪市民に十分な情報提供をしないまま,
大阪市廃止・分割案にかかる住民投票を強行することに厳重に抗議し,
大阪市廃止を阻止するための運動を全力で強める決議
1 大阪市が2020年5月末まで実施した「特別区制度(案)に対する市民意見募集」では,「都構想ではなくコロナ対策に全力を尽くすべき」という意見が大阪市民から多数寄せられた。新型コロナウイルスの感染拡大の収束が見通せず,多くの大阪市民が,自らの健康やくらし,営業に大きな不安を抱えているにもかかわらず,同年7月31日に法定協議会が「特別区設置協定書」を正式決定し,同年8月28日に大阪府議会が,同年9月3日には大阪市議会が「特別区設置協定書」の承認を議決し,大阪市廃止・特別区設置にかかる住民投票が,同年11月1日に実施されることとなった。
新型コロナウイルス禍における多くの大阪市民が挙げた不安の声を軽視し,松井一郎大阪市長や吉村洋文大阪府知事が,大阪府議会や大阪市議会と一体となって,住民投票を強行しようとすることに厳重に抗議する。
2 そもそも,大都市地域における特別区の設置に関する法律(以下「大都市地域特別区設置法」という。)が住民投票を要求した趣旨は,「関係市町村が廃止されて特別区を設置されることにより,関係市町村の住民には住民サービスの提供のあり方に大きな影響をうけ,とりわけ大阪市のような政令指定都市が廃止になる場合には,権限や税財源の面でいわば格下げとも言える事態が生じ,通常の市町村合併以上に住民の生活等に大きな影響があると考えられ,本当に政令指定都市を廃止して特別区という形にしていいのかということについて,住民の意思を尊重することが大切である」というところにある。(2012年8月7日衆議院総務委員会 佐藤茂樹委員の答弁)
すなわち,不利益を被る可能性のある大阪市民に対し,本当に政令指定都市である大阪市を廃止して特別区という形にしてよいのかということの賛否を問うのが,この住民投票である。大阪市民の意思を尊重するためには,大阪市民が慎重に意思決定できるように,大阪市を廃止して特別区を設置するメリットやデメリットとはどのようなものか,それらの具体的な根拠は何かなど,十分な判断材料を裏付けとなる客観的で正確な資料とともに大阪市民にわかりやすく提供することが不可欠であり,この情報提供は,大阪市長の当然の責務である。
法律も,「関係市町村の長は,選挙人の理解を促進するように特別区設置協定書の内容について分かりやすい説明をしなければならない」と,この当然のことを規定するものといえる(大都市地域特別区設置法7条2項)。
3 しかしながら,前回2015年の住民投票では,大阪市は住民説明会を39回行ったのに対し,今回は,9月26日から10月4日までに8回,オンラインでの説明会が3回の実施したに過ぎない。9月4日から6日にかけて行われた毎日新聞や共同通信などによる世論調査においても,都構想について大阪府・大阪市の説明が「十分ではない」とする回答が71.8%と「十分だ」とする24.5%を大きく上回っており,十分かつ正確な情報が提供されている状況ではない。このような状況下で,住民投票を実施したとしても,上記法律の趣旨に悖ることは明白である。
4 また,開催された大阪市主催の住民説明会での説明においても,大阪市長や大阪府知事は,「大阪都」構想が,大阪の将来の成長に必要な制度だ,二重行政がなくなれば経済が成長し,市民に還元できるなど,具体的な根拠を欠いた抽象的なイメージばかりを振りまくものであった。参加者からは「いいことしか言わない。まるでマルチ商法の説明会だ。」との意見も聞かれたように,前回の住民投票時と異なり,反対派の意見の資料は配布されないなど,一方的に賛成派の偏頗な説明に終始するものであった。
5 さらに,大阪市が作成し配布した「説明パンフレット」は,前回の住民投票と違い,反対会派の意見を反映せず,「大阪都」構想の文言も賛成会派の主張ばかり盛り込まれるものであった。これは,行政の公平性や中立性を蔑ろにするもので,大阪市民が公正に判断できるものとはなっていない。
それにもかかわらず,松井大阪市長は,大阪府議会と大阪市議会で承認された協定書の中身を説明しているから反対意見が入っていないという指摘はおかしい[q1] と開き直り,また,大阪市の副首都推進局の幹部は「都構想は市長の重点公約」として自らの行為を正当化するなど,「すべて公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではない」とする憲法第15条2項に反する疑いさえ生じている[q2] 。
6 これに加えて,今般,大阪市の選挙管理委員会が,住民投票の投票用紙に「大阪市を廃止し」という法律の規定どおりの正しい文言を入れることを決定したことに関し,松井一郎大阪市長は,大阪市を廃止ではなく「大阪市役所の廃止」とするべきだと強弁した。この発言は,大阪市民に対し,十分な説明どころか,虚偽の説明をするものに等しく,もはや住民自治を軽視するどころか,敵視する姿勢の現れと言わざるを得ず,断じて許されない。
7 具体的な根拠に基づく説明や情報提供を十分にしないまま住民投票を強行することは,大阪市民の意思を軽視していることの現れであり,住民投票という民主的な手続きを利用して,民主主義,地方自治を破壊するものとの批判を免れない。
自由法曹団は,大阪市民に十分な情報提供をしないままに,大阪市廃止・分割案にかかる住民投票を強行することに厳重に抗議し,大阪市廃止を阻止するための運動を全力で強めることを決議する。
2020年10月18日
自由法曹団兵庫・神戸総会