「敵基地攻撃能力」保有の議論を直ちに中止し、改憲の策動を許さない決議
「敵基地攻撃能力」保有の議論を直ちに中止し,改憲の策動を許さない決議
1 本年8月4日,自民党は,安倍首相(当時)に対し,「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」の検討を求める提言(国民を守るための抑止力向上に関する提言)を提出し,安倍首相(当時)は,9月11日,「ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針」について「与党ともしっかり協議させていただきながら,今年末までに,あるべき方策を示」すという談話を発表した。そして,9月16日に安倍内閣を引き継いだ菅内閣が,本年末までに新たな方策を示し,その実行に移そうとしている。
上記提言や談話は「敵基地攻撃」という表現を避けて「憲法の範囲内」としているが,その狙いは憲法が禁ずる「敵基地攻撃能力」の保有にある。集団的自衛権行使の容認により自衛隊と米軍の一体化が加速する中,従来,日本政府ですら米軍の役割と言っていた打撃力を日本も保有することで,一体化の流れをさらに押し進め,アメリカの先制攻撃戦略の一翼を担う体制づくりを目指すものである。
現在,昨年8月の中距離核戦力(INF)全廃条約失効に伴い,アメリカ,中国,ロシアを中心としたミサイルの開発・配備競争が激化している中,日本が,アメリカの意向に応じて,「敵基地攻撃能力」の保有に踏み切れば,さらなる軍拡競争を招き,アジア太平洋地域の軍事的緊張をより強めることにしかならない。
この間,安倍政権のもとで,護衛艦「いずも」の空母化や1機100億円以上もするF35ステルス戦闘機の大量配備など攻撃的・侵略的な自衛隊への変質が進められているが,「敵基地攻撃能力」を保有することは,加えて監視衛星,電子攻撃機,長射程ミサイルなどをも装備することとなる。それらにより自衛隊が先制攻撃に及ぶ危険を指摘せざるを得ないのみならず,装備のためには莫大な費用を要することになる。すでに防衛省は,コロナ危機にもかかわらず,2021年度予算の概算要求で,射程の長いミサイルを搭載できるようF15戦闘機を改修する費用として213億円,遠方から敵のレーダーを無力化できる電子戦機を開発するための費用として153億円など,「敵基地攻撃能力」の保有に関連する多額の予算を要求している。
このように「敵基地攻撃能力」の保有は,憲法をないがしろにして戦争する体制を強化し,アジア太平洋地域の軍事的緊張を高め,また,コロナ禍での大軍拡に途を開くものであり,到底容認することはできない。
2 菅内閣は,「敵基地攻撃能力」の保有に向けた検討を進めるとともに,辺野古での米軍新基地建設についても「進めていく」と強硬姿勢を改めようとしていない。また,菅首相は,自民党総裁選の公約に,「憲法改正にも取り組みます」と明記し,総裁就任後の人事で,自民党改憲推進本部長に衛藤征士郎・元衆院副議長,衆院憲法審査会長に細田博之・元幹事長,党役員に下村博文政調会長,佐藤勉総務会長など,改憲に熱心な議員を要職に充て,民意に逆らい破綻した「安倍9条改憲」に全く反省せず,改憲策動を加速しようとしている。
しかし,今,国民が求めているのは,「戦争する国」づくりでもなく,そのための9条改憲論議でもない。国民が求めているのは,個人の尊重(憲法13条),生存権の保障(憲法25条)をはじめとした憲法が生きる社会であり,それを実現させる政治である。世論調査でも,菅政権に期待する政策は「新型コロナへの対応」や「経済対策」が上位であり,安倍首相の改憲姿勢を「引き継ぐ必要はない」が57.9%を占めている(共同通信)。
自由法曹団は,市民,労働組合,立憲野党との共同を広げ,「敵基地攻撃能力」保有の議論を直ちに中止させるとともに,9条改憲を許さず,憲法が生きる政治・社会の実現のために全力で取り組むことをここに決議する。
2020年10月18日
自由法曹団兵庫・神戸総会