阪神・淡路大震災の借上復興住宅に居住する入居者の居住の権利を守り、神戸市の不当な追出しの中止を求める決議
阪神・淡路大震災の借上復興住宅に居住する入居者の居住の権利を守り,
神戸市の不当な追出しの中止を求める決議
1 阪神・淡路大震災の残された災害復興
1995年1月に発生した阪神・淡路大震災では,多くの住宅が壊滅状態となり,多くの住宅確保困難者が発生した。避難所や仮設住宅で生活する被災した住宅確保困難者に対し,被災自治体である神戸市,兵庫県,西宮市,尼崎市,宝塚市,伊丹市は,復興住宅を提供することとなったが,被災自治体が所有する公営住宅では,必要な戸数を準備できなかった。そこで,未曾有の災害であった阪神・淡路大震災に対し,急きょ,避難所・仮設住宅から「恒久住宅」への転居という目的を達成するため,それまでわが国に存在しなかった借上げ復興住宅制度が構築された。これを受け,神戸市などの自治体は,我が国で初めて,URや民間企業または個人から,建物の全部または一部を借り上げた住戸を公営住宅として有償で提供した。この「サブリース」型の復興住宅が,借上げ復興住宅である。
しかし,被災自治体の1つである神戸市は,被災者らに提供した「借上復興住宅」から,神戸市が借り上げた期間が満了したという理由で,85歳未満の入居者ら(要介護3以上,重度障がい者を除く)を提訴し,復興住宅を「終の棲家」と信じていた高齢者や障がいを抱える者らを追い出そうとしており,阪神・淡路大震災から25年が経過した今も,災害復興の残された課題が存在している。
2 当時の建設省の制度欠陥と神戸市の入居手続懈怠
借上公営住宅制度は,1996(平成8)年5月に改正された公営住宅法(施行は1998(平成8)年8月)により導入されたが,当時の建設省は,公営住宅法改正前の1995(平成7)年4月に「要綱」を整備し,法改正よりも「前倒し」で,借上げ公営住宅と同様の「特定目的賃貸住宅」を導入した。その「要綱」には,後に施行される1996(平成8)年改正公営住宅法で新設された「借上期間満了時に転居すべき旨の入居決定時通知制度」(1996(平成8)年改正公営住宅法25条2項。以下,「事前通知制度」という。)や借上期間満了時に提供された借上復興住宅を明け渡さなければならない旨の規定(同法32条1項6号。以下,「期間満了時の明渡規定」という。)は明記しなかった。
このため,「要綱」によって入居する神戸市の入居者(以下,「施行前入居者」という。)は,借上期間満了時の転居義務の説明を受けないまま,入居することとなった。それにもかかわらず,平成8年改正公営住宅法により,事前通知制度(25条2項)と期間満了時の明渡義務規定(32条1項6号)が明記されたが,建設省の「要綱」に基づき入居した施行前入居者らには,同法附則5項により,平成8年改正公営住宅法施行後に入居した被災者(以下,「施行後入居者」という。)と等しく扱うかのような規定が設けられた。
さらに,神戸市は,1996(平成8)年改正公営住宅法が施行された後も2005(平成17)年ころまで,一部の入居者に対し,事前通知制度の通知を行わず,事前通知制度の履践を懈怠し続けた。
3 被災入居者の居住選択の権利が侵害されたこと
そもそも,1996(平成8)年改正公営住宅法により設けられた借上げ公営住宅制度は,入居者が,「借上期間満了時の明渡義務」を承知した上で,借上期間満了時に転居する住宅を「選択」して入居するように設計されていた。
しかし,大規模災害に対応する国の復興住宅制度の構築が事前に準備されていなかったことから,1996(平成8)年改正公営住宅法に先立ち,建設省の要綱による制度を拙速に導入したため,被災自治体は,制度が異なる借上げ復興住宅の運用を行うこととなった。また,神戸市では,「事前通知制度」が長年にわたり徹底して行われなかったため,終身,継続入居できる復興住宅であると信じて「借上期間満了時の明渡義務」を知らないまま,「借上げ復興住宅」に入居する被災者を多数発生させることとなった。神戸市から,入居の際に,何も聞かされていなかった高齢となった被災入居者が,20年後に復興住宅からの退去を迫られるという前代未聞の事態を招くこととなった。
4 意に反する転居を迫られ,高齢の入居者の在宅生活が脅かされていること
神戸市が借上げ復興住宅からの追い出しを求めて訴訟を提起した後に,裁判中に逝去された入居者や,体調を崩してやむなく転居した入居者も出てきている。「終の棲家」と信じて入居し,60歳代から90歳代となった借上げ復興住宅の入居者らは,入居時と異なり,難病の治療,歩行障がい,精神疾患などの疾病や障がいを抱えながら,懸命に,信頼できるかかりつけ医を確保し,居室内の家具の配置なども工夫して,居室内での転倒を極力避けながら,高齢でも生活しやすい居住空間を形成しているが,「意に反する転居」により,生活環境の変更を迫られ,今の在宅生活を脅かされ続けている。
5 被災自治体間の居住支援の格差が被災者の人権を侵害し続けていること
神戸市は,入居者の生活状況を確認することもなく,訴訟を提起し,追い出しを続けているが,神戸市と異なり,宝塚市・伊丹市は,すでに借上げ復興住宅の入居者に対する継続入居を保障している。兵庫県なども,入居者の生活状況を職員が実際に確認し,復興住宅の継続入居を決定するなどの対応を行っている。
これは我が国で,被災者の居住支援について,国が一次的に責任を負わず,被災者が居住していた自治体の裁量に委ねられるためである。これでは,たまたま,被災を受けた時点で居住していた場所や,被災自治体の知事・市長の判断によって,被災者の居住支援内容が大きく異なってしまうことになる。
その後,みなし仮設住宅制度においても,被災自治体の判断が異なり,同じような被災自治体の格差が生じている。
我が国が災害大国であることからしても,国が被災者に一律に保障する居住支援策を立法やガイドラインなどで明らかにすることは急務である。
6 借上げ復興住宅からの追い出しは速やかに中止されなければならない
国が拙速に設計した復興住宅制度の混乱や神戸市が制度を誠実に運用しなかったことがあった以上,何ら落ち度のない借上げ復興住宅の高齢の入居者に追い出しを強要し,慣れ親しんだ場所からの生活を奪い,健康を悪化させるような暴挙は許されない。
阪神・淡路大震災から四半世紀が経った今,誰もが被災者となりうる災害大国の自治体が,個々の入居者の事情を顧みることもなく,自治体の都合のみで,被災した高齢の入居者らを追い出す人権侵害は速やかに中止されるべきである。
よって,自由法曹団は,上記各項で表明した事項に加え,被災者の借り上げ復興住宅における居住の権利を擁護し,神戸市に対し,入居者に対する追い出し行為を中止することを求める。
2020年10月18日
自由法曹団兵庫・神戸総会