100周年・東京総会『出入国管理制度の抜本的改善を求める決議』
出入国管理制度の抜本的改善を求める決議
1 日本の出入国管理制度においては、入管によるその広範な裁量の極めて恣意的な運用により、著しく低い難民認定率、裁判を受ける権利を侵害する強制送還、無期限収容、劣悪な処遇、数々の死亡事件等の問題が起きている。
2010年以降だけでも10名以上の被収容者(いずれも20代~50代)の死亡事件が発生しており、2019年6月には大村入国管理センターでナイジェリア国籍者が餓死をする事件まで起きた。2020年8月28日には、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会が、東日本入国管理センターで長期収容されていた難民申請者2名の収容が恣意的拘禁に該当し自由権規約9条等に違反するという意見も採択している。本年(2021年)では、3月6日に、名古屋出入国在留管理局収容場で収容されていたスリランカ国籍者(当時33歳)が適切な医療を受けられず死亡するという痛ましい事件が起きた。さらに8月には、東日本入国管理センターで警備員が被収容者の首を絞めて全治2週間の怪我を負わせる事件も起きている。
2 上記の現行・出入国管理制度における難民等(非正規滞在者)への人権侵害が既に明らかとなっていた2月19日に自公政権が提出した「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(以下、「入管法改悪法案」という。)は、難民認定申請中の者の送還を可能とする送還停止効の例外、退去を拒否する者に対する刑事罰、支援者や弁護士等を監視・密告役に仕立てる監理措置制度の創設等を内容とするものであり、同法案の「目的」とされる入管での長期収容問題が解消される法的な保証が全くないばかりか、現行の出入国管理制度において入管が広範な裁量を極めて恣意的に運用してきた問題を無視して、外国籍者の権利保障に資する改正は全く盛り込まない一方で刑事罰を背景とした強権的な管理と非人道的な排除を強め、その支援も妨げて、さらに犯罪者扱いをより強めて偏見・差別の助長をするものであった。そのため、3月には、国連人権理事会の3特別報告者及び恣意的拘禁作業部会の4機関から、その共同書簡により、監理措置制度、司法審査の欠如、収容期間の上限の欠如、送還停止効の例外、子どもの権利保護に係る規定の欠如等に関する懸念が表されて改善・見直しが促され、さらに4月9日には国連難民高等弁務官事務所からも「非常に重大な懸念」が表明されるという、国連による異例の指摘があった。
この入管法改悪法案には広範な世論の反対が巻き起こり、自公政権は、 5月18日、同法案を2021年国会で成立させることを断念した。しかし自公政権は今後の国会での入管法改悪を諦めていない。
3 難民等への人権侵害を解決するには、自公政権が企てている入管法改悪法案は何の役にもたたず、むしろ害悪にしかならない。この問題の真の解決に必要なことは、収容の要件厳格化、期間上限の創設や、第三者による視察委員会制度の強化、司法審査等を導入し、また在留特別許可制度における考慮要素において子どもの最善の利益を明示する等の、入管の裁量・権限を適切に抑制・監督し人権を保障する体制を構築することや、被仮放免者を含め難民等が収容施設内外で適切な医療が受けられるようにする等の、出入国管理制度の運用見直しと立法措置が必要である。
自由法曹団は、入管法の改悪を今後も許さず、国籍の違いによらず尊厳ある個人としての取扱いが実現される出入国管理制度の運用見直しと必要な立法措置を強く求めて、闘い続ける。
2021年10月23日
自由法曹団創立100周年・東京総会