2022年5月23日、コロナ禍の影響を乗り越えて、労働者が安心して働き続けることができる政策の速やかな実現を求める決議

カテゴリ:労働,決議

コロナ禍の影響を乗り越えて、

労働者が安心して働き続けることができる政策の速やかな実現を求める決議

 

1 2020年に発生した新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、既に2年経過した今も収束を見通せない状況にある。コロナ禍では、非正規雇用労働者らの解雇・雇止めが急増するとともに、配送、ウェブページ制作、プラットフォーム就労等を中心として、労働法の適用を受けない又はそのような扱いをされるフリーランスの失職やそれに対するセーフティネットの欠落により、その生存の危機が顕在化した。他方で、労働法の適用は受けるものの実際には失業類似の状態に置かれる、いわゆる「シフト制労働」の不安定さも明らかとなった。また、こうしたコロナ禍による経済不況や雇用減少の影響は、男性より女性に集中していることが明確になっている。
 これらの実態から、この2年間、私たちは、働く者の健康で文化的な生活(憲法25条)の実現のためには、就労形態、職種・業種、性別等を問わず、雇用の安定が極めて重要であることを再認識した。コロナ禍の経験から学び、政府は、抜け穴だらけのセーフティネットを抜本的に見直し、安定した労働を実現するための立法措置や政策(雇用保険や社会保険の対象拡大、各種助成金や給付金の拡充、解雇・雇止め規制、非正規の正規化、労働法規制の対象拡大、ジェンダー平等の推進等)を直ちにとるべきである。

 

2 一方で、政府は、現在、いわゆる解雇の金銭解決制度の創設を進め、本年4月12日には、厚労省「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」が報告書をとりまとめた。しかし、解雇の金銭解決制度には強い反対があるにもかかわらず、前記報告書は、同制度を創設しなければならない必要性には全く触れず、創設ありきの法的論点の整理に終始している。現在、議論されている金銭解決制度は、労働者側からの申立てに限定するものとされているが、それ自体、解雇規制を緩和するものであるばかりか、ひとたび導入を許せば、財界の悲願である使用者側の申立てによる解雇の金銭解決制度つまり「金で首切り自由」の制度導入に道を開くことになり、解雇の金銭解決制度の導入は絶対に許してはならない。
 また、本年3月30日には、厚労省「多様化する労働契約のルールに関する検討会」が報告書をとりまとめ、無期転換ルール(労働契約法18条)や「多様な正社員」の労働契約関係の明確化について言及している。しかし、この報告書では、有期雇用契約の入口規制、無期転換前の雇止め等、これまで労働者側が現場での実態を踏まえてその必要性を述べてきた法改正には全く触れられていない。他方で、「多様な正社員」については、勤務地や職務の限定にかこつけて、「通常の正社員」との間に不合理な待遇格差が設けられたり、通常の正社員と比べて事業場や事業の廃止等を理由として安易に解雇されたりすることが懸念され、拙速な導入・普及は認められない。
 上記の政府での議論状況をみても、解雇を促進する悪法の制定が進められる一方で、労働者の雇用安定のための真の政策がとられているとは全く評価できない。

 

3 自由法曹団は、改めて解雇の金銭解決制度の創設に反対するとともに、政府に対し、コロナ禍の影響を乗り越えて、労働者が安心して働き続けることができる政策の速やかな実現を求める。

以上

2022年5月23日

自  由  法  曹  団

2022年5月研究討論集会

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