2022年5月23日、民事訴訟法改正案の拙速な成立に抗議し、国民の裁判を受ける権利を尊重した民事裁判手続を求める決議
民事訴訟法改正案の拙速な成立に抗議し、国民の裁判を受ける権利を尊重した民事裁判手続を求める決議
1 民事訴訟法等の一部を「改正」する法律
2022年5月18日、民事訴訟法等の一部を改正する法律案が参議院本会議で可決・成立した。同法は、民事裁判のIT化を標榜しながら、IT化とは全く関係のない、審理期間を指定した期日から6ヶ月以内に限定するという法定審理期間訴訟手続を導入するものであるとともに、IT化に関しても、当事者の意思に反してウェブ会議等による口頭弁論期日の開催を認める点、インターネットを用いる申立を訴訟代理人等に義務づける点から、憲法32条が保障する国民の裁判を受ける権利を後退させ、国民の裁判への信頼を失わせる内容となっている。
2 国会審議において明らかになった問題点の手当はなされなかった
同法の審議過程では、衆議院及び参議院法務委員会において数多くの問題点が指摘された。衆議院法務委員会においては、法定審理期間訴訟手続に関し拙速で不十分な審理となるおそれ、訴訟代理人等がいない本人訴訟においても適用されることの危険性、裁判官が当事者に利用を促すことが禁止されていないことの危険性、利用の可否についての裁判官の判断基準の曖昧さ、簡略化される判決の問題性、そして国内のテスト導入事例の検証や海外の事例調査すら行っていない実情などが指摘された。
参議院法務委員会においても、対象となる事件類型の平均審理期間の調査すらなされておらず立法事実そのものを欠くこと、争点が明確となって以降でなければ同手続の利用の可否が判断できないがその時点から手続を利用したとして迅速化の目的は達し得ないこと、利用に適さない類型の存在を政府として認識していながらそれを除外していないことなどが指摘された。
また、ウェブ会議での口頭弁論が直接主義、口頭主義、公開主義という訴訟原則に違反すること、インターネットを用いた申立の義務化についても、世論調査において反対が多数であることなども指摘されており、同法については、より慎重な審議と内容の精査が必要不可欠であったことは明らかである。
かような問題点が審議の中で明らかになったにも関わらず、それらについて手当されることないまま衆参両院法務委員会でそれぞれ4回の審議のみで拙速に同法が成立されるにいたったことは、国民の裁判を受ける権利の保障の観点から極めて問題であり、自由法曹団は強く抗議する。
3 自由法曹団に求められる役割
この民事訴訟法の一部を「改正」する法律案は、2020年6月以降開催されてきた法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会で議論が重ねられてきたが、自由法曹団は法的な問題点の指摘を続け、その結果「和解に代わる決定制度の創設」及び「ハイブリッド方式による証拠調べ」が見送りとなったほか、「オンライン申立ての義務化」についても訴訟代理人等が就任したものに対象を限定させてきた。国民の裁判を受ける権利の後退につながる懸念のある制度・システムであると指摘してきた結果として、これらを法制化させなかった意義は大きい。
上述のとおり多くの問題点が残されたまま同法が成立することとなったが、これからも法的な問題点の指摘を続けて見直しを求めるとともに、裁判官の恣意的な運用がなされることのないよう声を挙げ、国民の裁判を受ける権利を守るための監視を続けることが不可欠である。とりわけ、ウェブ会議での口頭弁論等の実施にあたっては、当事者の意思に反して裁判所が強行することのないよう強く求める。
4 まとめ
期間を優先するあまり、主張立証を制限する民事裁判手続を採用した同法は、司法としての役割を損ない、裁判手続に対する国民の信頼を損なうものと言わざるを得ない。自由法曹団は、国民の裁判を受ける権利を後退させかねない同法の成立に抗議するとともに、同法の運用において国民の裁判を受ける権利の侵害とならないことを強く求め、そのために闘い続ける決意である。
以上
2022年5月23日
自 由 法 曹 団
2022年5月研究討論集会