2022年10月24日、差別のない社会を目指し、速やかなヘイトクライム根絶のための 速やかな対策を求める決議

カテゴリ:市民・消費者,決議

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差別のない社会を目指し、速やかなヘイトクライム根絶のための
速やかな対策を求める決議

 

1 2021年8月30日、京都府宇治市のウトロ地区において7棟を全焼させた放火事件があった。ウトロは戦時中の徴用により在日コリアンが集住する地域であり、長年にわたり差別に晒され続けてきた。そのような地域で起こされた放火に関し、被告人は公判において反省や謝罪を述べることなく「私のような彼ら(在日コリアン)への差別偏見、ヘイトクライムに関する感情を抱いている人は国内のみならずいたるところにいる」「今後、同様の事件、さらに凶悪な事件さえも起こることは容易に想像できる」「今回の放火、単なる個人的な感情に基づくものではない」と発言し、在日コリアンへの差別意識を明言するとともに、さらなるヘイトクライムが起こりうることを述べた。2022年8月30日、京都地方裁判所は、検察官の求刑どおり懲役4年の実刑判決を言い渡し、既に確定している。

2 当該事件は、現実に住宅など計8棟の全半焼という放火事件に至っており、死者やけが人が出る可能性も十分にあった極めて悪質かつ危険なものである。
 判決理由においては「在日韓国・朝鮮人という特定の出自を持つ人々に対する偏見や嫌悪感等に基づく、誠に独善的かつ身勝手なものであって、およそ酌むべき点はない。」と指摘し、差別との明言は避けたが在日コリアンに対する「偏見」の存在を公にしたものといえる。
 在日コリアンに対する差別意識を原因とする犯罪に関しては、神奈川県川崎市の多文化交流施設「川崎市ふれあい館」への在日コリアン抹殺を煽動する内容の年賀状の送付や、同ふれあい館への爆破予告のほか、2021年7月29日には奈良県大和高田市韓国民団県北葛支部で着火剤を用いた不審火事件、同年12月19日には大阪府東大阪市の韓国民団枚岡支部の室内にハンマーが投げ込まれ窓ガラスが破損する事件が生じるなど、在日コリアン関連施設への類似の事件は依然として繰り返されており、差別的な感情に基づくヘイトクライムの連鎖は続いているものと言わざるを得ない。

3 ヘイトクライムは、生命・身体への危機に直結するのみならず、社会の分断を招き、自由で平等であるべき民主主義社会を根底から破壊するものであり、その原因となる差別的言動は、これを放置することによって、憎悪を増幅させ、暴力行為やひいてはジェノサイドや戦争へと発展していく危険性があることはつとに指摘されているところである。対象とされる属性を持つ人々への深刻な被害は言うまでもないが、社会にも憎悪と分断とをもたらすのであり決して看過できないものである。
 この犯罪の連鎖を止めるためにも、在日コリアンに対する差別に限らず、外国人、LGBTQなど多くのマイノリティへの差別が存在する社会から脱し、全ての人を包摂する社会づくりをすることが急務である。

4 日本政府は、人種差別撤廃条約の批准国として、人種差別を根絶する義務を負っているところ、ヘイトクライムの件数やその後の捜査及び有罪判決の統計などもとっていない。
 団は、政府に対し、直ちにヘイトクライムの実態の正確な把握とこれを防止するための適切な取り組みを行うこと、及びヘイトクライムの原因となるヘイトスピーチを社会から根絶する決意を直ちに表明することを求める。
 ウトロに対する放火事件は99年前の関東大震災の際に流布されたデマに基づき大勢の朝鮮人が虐殺された事件と同じ構造をも持つものである。布施辰治をはじめとして朝鮮人差別問題並びに人権擁護活動に取組み続けてきた歴史を有する自由法曹団として、民族差別等を助長するヘイトスピーチ、ヘイトクライムを許さず、多文化共生社会の形成のため多くの人びととともに尽力していく決意である。

 

2022年10月24日

自由法曹団2022年京都総会

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