2023年3月18日付、「教員の長時間勤務を解消し、子どもの学習権を確保するために、教員の抜本的増員と、給特法の改正を求める決議」を採択しました
PDFはこちら
教員の長時間勤務を解消し、子どもの学習権を確保するために、
教員の抜本的増員と、給特法の改正を求める決議
1 給特法見直し検討の開始
永岡文部科学大臣は、3月7日、参議院文教科学委員会での所信表明で、教員の働き方改革に関連し、「給特法等の法制的な枠組みを含めた教員の処遇等あり方を検討する」とし、義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下「給特法」という)の見直しに取り組む方針を表明した。現在、文部科学省には給特法の在り方などを検討する有識者会議が設置され、自民党にも特命委員会が立ち上げられ検討が行われている。
報道によると、後述する教職調整額4%の増額などの案が検討されているとのことであるが、それでは教員の長時間勤務解消には極めて不十分である。
2 給特法の具体的内容
給特法は、1971年に制定され、その具体内容は以下のとおりである。
① 日々変化する子どもに向き合うという教育の専門性からくる自主性や創造性を確保するため、管理職の指揮命令権を制限し、時間外勤務をさせることのできる場合を、生徒の実習、学校行事、職員会議、非常災害等やむを得ない場合(いわゆる限定4項目)であって、「臨時又は緊急のやむを得ない必要がある時に限る」とし、この場合以外時間外勤務を命じない。
② 基本給の4%を「教職調整額」として支給する。
③ 時間外勤務手当及び休日勤務手当(以下「時間外勤務手当等」という)を支給しない。
制定から50年以上が経過し、教員の業務は多忙化し、時間外勤務手当等を支給しないとする給特法は現状と整合しなくなっている。
3 深刻な教員の時間外勤務の実態と問題性
現在、教員の長時間勤務の深刻な実態が問題となっている。
2016年の文科省の調査では、教員の時間外勤務の平均は小学校で月約59時間、中学校で月約81時間にのぼる。実に中学校教員の約6割が、健康障害の恐れのあるいわゆる過労死ラインを超える勤務をしているとの実態が明らかとなった。精神疾患によって休職せざるを得ない教員も、この10年、毎年5000名程度出ている。
2019年に文科省は勤務時間外の在校時間を月45時間以内とするガイドラインを定めたが、2022年に行われた全日本教職員組合の「教職員勤務実態調査」によると、約6割の学校現場で月45時間を超える時間外勤務がなされている。同調査では、校内の時間外勤務と持ち帰り業務の時間を合わせた時間外勤務の平均は4週間で86時間24分であり、依然として過酷な勤務実態にある。
かかる過酷な勤務は、何よりもまず教員が人間らしく働くことを妨げ、その健康を害する恐れがあるものとして教員に対する人権侵害である。
さらに、教員の疲弊は子どもの学習権の保障を脅かしている。
教育の本質は、教員と子どもとの間の「直接の人格的接触を通じ、その個性に応じて行わなければならない」という点にある(1976年旭川学力テスト最高裁判決参照)。子どもの成長発達要求に応えるべき現場の教員が、日々の業務で心身をすり減らせば、子どもの学習権を保障することができなくなる恐れがある。実際、各種の調査や報道において、現場の教員から、多忙化により授業の準備や教材研究の時間が不足している、子どもの個性や日々の状態に向き合って指導を行う余裕がない、自主的な研修や研鑽の時間とれない等の声が挙げられている。教員の勤務実態が広く認識されるにつれ、教員採用試験の受験者数も減少している。2013年と比較して、昨年は小学校、中学校ともに約7割まで受験者数が落ち込んでしまった。
このまま教員の長時間勤務を放置すれば、これまで日本の人権保障、民主主義や社会の基盤となってきた学校教育制度が破綻しかねない。教員の長時間勤務の解消を最重要課題と認識し取り組む必要がある。
4 長時間勤務の解消には教員の増員が不可欠
この間の政府主導の「教育改革」が、学校現場に様々な業務が押し付けたことが教員の多忙化の一因となっている。これを見直すことは必要であるが、他方で、不登校やいじめ問題、貧困問題など、子どもの抱える問題は複雑化しており、業務縮減による勤務時間短縮には限界もある。
これまで、文科省は「教員の働き方改革」と称して、在校等時間の上限ガイドラインの策定や、教員の業務の見直しなどを行ってきたが、前述のとおり、依然として教員の長時間勤務の実態は改善していない。
長時間勤務の解消のためには、教員の増員を避けて通ることはできない。
政府は、財政が厳しいことを口実に教員定数の抜本的増員には消極的であった。しかし、日本は、GDPに占める教育への公的支出はOECD加盟国中最低水準にある。教育に対して支出している税金は、国際水準からすればむしろ少ないというべきである。岸田政権は、多額の軍事費の増額を表明しているが、予算を投じれば確実に将来の日本の社会の基盤となる教育にこそ、税金を支出すべきである。
過労死レベルの勤務が蔓延している学校現場の実態からみても、もはや財政的理由は言い訳にならない。教員定数の抜本的な増員が不可欠である。
5 時間外勤務手当等は支給されなければならない
所定労働時間外の労働について時間外手当を支出することは民間企業では当然のことである。
ところが、公立学校では、給特法が時間外勤務手当等を支給しないと定めたことから、教員の時間外勤務は「自主的・自発的」な勤務であり、時間外勤務ではないとされてきた。そのため、教員は何時間働こうとも時間外手当等が発生せず、いわゆる「定額働かせ放題」の状態となり、長時間勤務が蔓延する原因となってきた。もはや、現状で時間外勤務手当等を支給しない扱いは著しく不合理であると言わざるを得ない。埼玉県の公立小学校教員が県を相手に提起した国賠請求等訴訟(埼玉超勤訴訟)の判決において、「教育現場の実情としては、多くの教育職員が、学校長の職務命令などから一定の時間外勤務に従事せざるを得ない状況にあり、給料月額4%の割合による教職調整額の支給を定めた給特法は、もはや教育現場の実情に適合していないのではないか」と裁判所が指摘したとおりである(さいたま地裁令和3年5月21日判決。控訴審判決も同旨)。
教員の長時間勤務の改善のためには、少なくとも教員の実際の勤務時間に応じた時間外勤務手当が支給されるよう、給特法の改正がなされなければならない。
6 まとめ
以上、自由法曹団は、教員の長時間勤務を解消し、子どもの学習権の保障を確保するために、第一に、教員定数の抜本的増員を早急に実現するための財政その他の措置を講じることを求め、同時に「定額働かせ放題」の不当な状況に置かれている教員に対し、実際の勤務時間に応じた給与が支払われるように給特法を改正することを求める。
2023年3月18日
自 由 法 曹 団
常 任 幹 事 会