2023年5月22日、「大軍拡」を阻止し、憲法9条を守り活かすために全力を尽くす決議
「大軍拡」を阻止し、憲法9条を守り活かすために全力を尽くす決議
1 岸田政権は、2022年12月16日、「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」(以下「安保3文書」)を閣議決定し、政府自身が「憲法の趣旨とするところではない」として認めてこなかった敵基地攻撃能力の保有を打ち出した。これに基づき政府は、12式地対艦誘導弾能力向上型、極超音速滑空弾、極超音速誘導弾、巡航ミサイルトマホークなど射程1000ないし3000キロメートルに及ぶ攻撃兵器を自衛隊基地、護衛艦、戦闘機、潜水艦等に配備して他国の領域を攻撃できる態勢整備を急速に進めている。憲法9条が定める戦力不保持を無視ないし破壊し、政府自身が憲法に基づく戦後日本の防衛政策の根本姿勢としてきた専守防衛をも踏みにじる歴史的な暴挙である。
2 政府は、安保3文書で、中国、北朝鮮、ロシアを名指しして、我が国周辺における安全保障環境が悪化している旨を強調したうえで、今般の防衛力強化(大軍拡)が、他国による我が国への侵攻を抑止するためのものであるかのように喧伝している。
しかし、安保3文書自体が認めているとおり、この大軍拡は、同盟国との関係強化及び脅威対象としての中国への対応を明記した2022年10月のアメリカの国家防衛戦略(NDS)と擦り合わせたものである。2015年の安保法制(戦争法制)による集団的自衛権行使容認と相俟って、アメリカ軍と一体になっての現実の戦争に踏み込む構えを見せるものにほかならず、周辺国との緊張を高め、武力衝突のリスクを増大させる結果とならざるをえない。アメリカの対中国軍事戦略に沿う形で、地理的に中国・台湾に近い沖縄をはじめとする南西地域における軍備増強が押し進められているが、ひとたび長距離ミサイルが発射される事態となれば、相手国からの報復攻撃により南西地域ひいては日本全土が戦場となり焦土化する危険がある。
今必要なのは、軍事対軍事による戦争の準備ではなく、戦争放棄・戦力不保持・交戦権否認を定める憲法9条を正面に据えた外交・民間交流等による平和構築に向けた努力である。
3 政府は、今般の大軍拡のため、この5年間で防衛予算を2倍(GDP比2%)に増やし、5年間の所要経費として43兆円もの国費をこれにつぎ込もうとしている。本年3月28日に成立した2023年度予算(総額114兆円)だけを見ても、その財源の3割以上を国債新規発行(35兆円超)に頼る厳しい財政状況の中(23年度末の国債発行残高は1068兆円の見通し)、防衛費は対前年1.4兆円増の6.8兆円という突出した増額となっている。これに防衛力強化資金からの3.4兆円を加えると、防衛関係予算はすでに10兆円を超える規模となっている。
歳入が不足する中で、このように異常な軍事費支出を行うことは、福祉・医療・教育など国民生活のための予算が大幅に切り詰められることを意味しており、今後の5年間でさらに不足する財源は、所得税等の増税で賄うことが目論まれている。
少子高齢化が急速に進む日本において、現在及び将来の国民に重い負担を押し付けて、軍備最優先の道を行くことは、国を滅ぼす愚策である。
軍事費をGDP比2%とするための予算増は約5兆円であるが、これだけの予算があれば、公的保険医療の自己負担分をゼロにでき(約5.2兆円)、また、これを教育・子育て支援に充てるとすれば、大学の授業料無償化(約1.8兆円)、児童手当の高校までの延長及び所得制限撤廃(約1兆円)、小中学校の給食無償化(約4300億円)などが十分可能と試算されている。
国民に戦争の危険と重い負担を押し付ける大軍拡の道か、教育・子育て支援・社会保障が充実した平和の道か、私たちが進むべき道は後者であることが明らかである。
4 安保3文書は、軍備、財政、予算のみならず、経済、技術、研究、情報、インフラ整備を含めて全面的に軍事を最優先する戦争国家づくりを狙うものとなっている。
これに基づき、政府は、国内の軍需産業を強化するための財政支援措置を盛り込んだ軍需産業支援法、殺傷能力を有する武器輸出の解禁を含む防衛装備移転3原則の見直し、「同志国」軍支援のための政府安全保障能力強化支援(OSA)の創設、国立病院機構の積立金等を大軍拡の費用(防衛力強化資金)に繰り入れる軍拡財源確保法など大軍拡の具体化を強行しようとしている。さらに、岸田首相は、来年9月の党総裁任期までに、憲法9条への自衛隊明記を含む改憲を実現する意欲を示している。こうした動きは、日本を「あらたな戦前」にしかねないものであって、断じて許すことはできない。
私たちは、二度と戦争をしないと誓った戦後日本の原点である憲法9条の意義と価値を改めて確認し、これを守り活かして平和の道を進むこと、日本を戦争国家に作り変える大軍拡を阻止するために全力を尽くすことを本日ここに決議する。
2023年5月22日
自 由 法 曹 団
2023年5月福岡研究討論集会
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