2023年5月22日、【よみがえれ!有明訴訟】福岡高裁不当判決を追認した最高裁決定に断固抗議し、国に対し直ちに真の解決に向けた協議の場を設けることを求める決議
【よみがえれ!有明訴訟】福岡高裁不当判決を追認した最高裁決定に断固抗議し、国に対し直ちに真の解決に向けた協議の場を設けることを求める決議
1 1997年4月、「ギロチン」と呼ばれる諫早湾干拓事業潮受堤防の締切り工事が強行されて以来、有明海は漁場環境悪化による深刻な漁業被害に見舞われ、水産業を基盤とする地域の暮らしと経済は大きな打撃を受けた。
2002年11月、干拓工事の差止めを求めて漁業者らが提訴した訴訟は、工事終了後には請求の趣旨を開門に変更し、法廷内外での粘り強い闘いの末、一審の佐賀地裁に続き、2010年12月の福岡高裁控訴審判決でも開門を勝ち取り、世論の圧倒的支持の中で国は上告を断念し、判決は確定した。
2 ところが、国は、開門確定判決を敵視し、干拓地営農者や背後地住民の不安を煽って反対運動に駆り立てた上で、地元の反対を口実に開門をサボタージュし、開門の履行を求めるために漁業者らが申立てた間接強制に対し、2014年1月、請求異議訴訟を提起して抵抗した。
国の請求を当然に斥けた一審佐賀地裁判決を受けて、福岡高裁における控訴審で、国は、漁業権は10年で消滅し新旧漁業権に同一性はないなどとするおよそ採り得ない主張を追加したが、驚くべきことに福岡高裁はこれを採用し、2018年7月30日、国の異議を認容する不当判決を言い渡した。もっとも、2019年9月13日、最高裁第2小法廷は、開門確定判決は更新後の漁業権をも当然の前提としているとして、不当判決を取り消し、審理を再び福岡高裁に差戻した。
差戻審である福岡高裁は、2010年12月の開門確定判決の基準時から事情が変動し、漁獲量も増加傾向にあり、開門請求を認めるにたりる程度の違法性を認めることはできず、強制執行は権利濫用又は信義則違反になり許されないとして国の請求異議を認容する不当判決を再び言い渡した。
3 2023年3月1日、最高裁は、国の請求異議を認めた福岡高裁不当判決に対する上告及び上告受理申立事件について、上告棄却及び不受理の決定をした。
確定判決に基づく強制執行が軽々に権利濫用と判断されれば民事訴訟制度の根幹が揺らぐため、最高裁は昭和62年判例において「著しく信義誠実の原則に反し、正当な権利行使の名に値しないほど不当なものと認められる場合であることを要する」との極めて厳格な判断基準を示していたが、本件最高裁決定は、不当性の明白な福岡高裁の判断について、判例変更も行わないまま追認したのである。
思えば、2017年4月、国は「開門しないとの方針を明確にして臨む」という農水大臣談話を発表し、確定判決を履行する意思がないことを公言するという暴挙に出た。本件で確定判決が履行されないまま期間が徒過した原因は、まさにこのような司法を蔑ろにして憚らない行政の不遜な態度にある。
さらに、本件最高裁決定は、憲政史上初めて確定判決に従わないという国の暴挙を追認することによって、行政に対するチェック機能という司法本来の役割を放棄したものと言わざるをえず、断固抗議する。
4 2023年3月28日、諫早湾内漁業者らが即時開門を求めた訴訟の福岡高裁控訴審判決では、公共性の観点から開門こそ認めなかったものの、諫早湾干拓事業によって漁場環境が悪化し、タイラギ漁業・漁船漁業などにつき漁業行使権が侵害されていることを認めて、それが将来にわたり継続することが予想されると判断された。
すなわち、行政が司法を蔑ろにし、それを最高裁が追認したとしても、現に諫早湾干拓事業による漁業者への権利侵害が続いている厳然たる事実を消し去ることはできない。
5 本件最高裁決定は、開門確定判決の強制執行を許さないとしたものにすぎず、有明海の再生と被害救済に向けた運動になんら制約をもたらすものではなく、付言が述べるように、国には、今後も引き続き、本件の「全体的・統一的解決のための尽力」を果たすべき義務がある。
紛争が深刻化、長期化、複雑化した現在、我々は、福岡高裁(請求異議訴訟差戻審)が「和解協議に関する考え方」で述べた、「国民的資産である有明海の周辺に居住し、あるいは同地域と関連を有する全ての人々のために、地域の対立や分断を解消して将来にわたるより良き方向性を得る」という歴史的意義を踏まえた、広範な関係者の話し合いによる協議が唯一の解決方法であると確信する。
あらためて、国に対し、本件紛争の真の解決に向け、すみやかに当事者および関係者を交えた協議の場を設け、解決に向けた主導的役割を果たすことを求めるものである。
2023年5月22日
自 由 法 曹 団
2023年5月福岡研究討論集会