2024年5月27日、育成就労法案及び入管法改定案に強く反対する決議

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育成就労法案及び入管法改定案に強く反対する決議

 

1.政府は、2024315日、「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」案(以下「育成就労法案」という。)、及び、出入国管理及び難民認定法の改定法案(以下「入管法改定案」という。)を閣議決定して国会に提出した。
 これらの法案により、政府は、技能実習制度を「実態に即して発展的に解消」し、同制度の代替として新たに「人材確保及び人材育成を目的とした育成就労制度を創設する」とともに、入管法上の義務を遵守しない場合や、故意に公租公課の支払いをしない場合、一定の犯罪によって拘禁刑に処せられた場合に、「永住者」の在留資格を取り消すことができる旨を新たに定めようとしている。
 しかし、育成就労法案は、結局、技能実習制度において指摘されてきた問題点を何ら解消するものではなく、同制度の名称だけをすげ替えて実質的に存続させるものである。また、入管法改定案も、日本で現に居住している約90万人の「永住者」をはじめ、極めて多数の外国籍住民の地位を著しく不安定にするものである。

 2.技能実習制度は、開発途上地域等へ日本の技術等を移転することにより国際貢献を果たすという制度趣旨とは異なり、現実には日本の労働者不足を補うための低廉な労働力供給制度として長年利用されてきた。この制度趣旨と現実との乖離故、実習生の多くが違法・不当な搾取を受け、最低賃金違反、賃金未払いやハラスメント、強制帰国など、最低限の人権すら保障されない状況に置かれ続けている。実習生は、悪質な実習実施者の元を離れようとしても転籍(転職)の自由が剥奪されているため容易に抜け出せず、また来日のため借金をして高額な手数料を支払っていることが通常であることから母国に帰ることもできない。
 しかし育成就労法案は、就労先等による搾取など人権侵害を実効的に防止する手段を何ら講じていないばかりか、結局転籍についても、一定の期間経過や、入国時ないし入国後一定期間に身に付けるべき日本語能力よりもさらに高い日本語能力を要件とするなど、不合理に厳しい要件を課している。また、監理支援機関が中心となって転籍支援を行う点で、転籍支援の体制整備も極めて不十分である。さらに同法案は、技能実習制度と同様に家族帯同を認めず、家族と共に暮らすという基本的人権を甚だしく軽んじるものである。
 このように育成就労法案は、結局、技能実習制度において指摘されてきた問題点を何ら解消するものではなく、同制度の名称だけをすげ替えて実質的に存続させるものである。政府は、このような名ばかりの制度変更ではなく、労働者を受け入れる制度であることを明確にし、労働者としての権利の保障、日本語学習の支援や相談体制の構築等といった、外国籍労働者の保護の充実とともに、他の就労系在留資格と同様に家族帯同を認める等した上で、安定的な在留資格の取得につながるようにして、人間らしく安心のもと日本で働くことができるような制度設計を行うべきである。

 3.「永住者」は、在留期限や就労制限等がなく、外国籍住民が日本で安定的に生活することを可能にする数少ない在留資格であるところ、もともと日本は、永住許可を、原則として引き続き10年以上在留している者にのみ、「素行が善良であること」、「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」及び「その者の永住が日本国の利益に合すると認められる」ときに限りおこなうという、諸外国と比較して厳しい要件を課している。すなわち在留資格「永住者」は、日本で長年居住してその生活基盤を日本で築き上げた外国籍住民がようやく得られる法的地位である。
 にもかかわらず政府は、「永住許可制度の適正化」などとして、入管法改定案により、前記のとおり「永住者」の在留資格の取消事由を拡大しようとしている。
 しかし、入管法上に規定する義務を遵守しない場合を取消事由とすることは、法文上、在留カードの常時携帯義務違反などの軽微な違反であっても「永住者」の在留資格を取り消し得ることを意味する。また失業、病気、高齢化等による収入の減少等で税金や社会保険料を滞納することは何人にも起こり得ることであるが、それでも「故意に公租公課の支払いをしない」場合に当たり「永住者」の在留資格を取り消し得ることになる。また、入管法改定案は、一定の犯罪を犯した永住者について、執行猶予付きであっても拘禁刑の判決が確定すれば在留資格の取消しを可能とするものであり、日本で安定した生活をするための在留資格であるはずの「永住者」の地位を著しく不安定にするものである。そもそも外国籍住民についても、日本国籍者に対する措置と平等に、法令に基づく、督促、差押、行政罰や刑罰といった制裁を適切に課せば足りるのであるから、外国籍住民に対してのみ、日本での安定的な生活基盤を根底から覆す永住許可の取消という極めて重い制裁を加重する合理的理由などない。
 本入管法改定案は、日本で生活基盤を築き今後も永く日本で生きようとしている「永住者」や今後永住許可を受けようとする全ての外国籍住民の生活を一顧だにせず、生涯にわたり監視をしてその法的地位を著しく不安定にする方針を打ち出したものであり、断じて許されない。

 4.外国籍の者に対し、構造的な搾取など人権侵害がおこなわれたり、永らく居住する場所からいつ何時放逐されかねないという不安感を植え付けたりする社会は、「安全・安心に暮らせる共生社会」とはほど遠いものである。政府は、この社会に生きる一人ひとりの個人が真に安全・安心に暮らすことのできる共生社会を実現しなければならない。
 自由法曹団は、育成就労法案及び入管法改定案に強く反対し、政府に対して、実質を伴った技能実習制度の速やかな廃止、及び、外国籍労働者の使い捨てを決して許さず、誰もが国籍の違いによらず日本で安心のもと生活ができる共生社会を実現するため真に必要な立法措置を行うよう求める。

 

2024年5月27日

自 由 法 曹 団
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