2024年5月27日、多様な性のあり方を尊重する司法判断を踏まえ、最高裁の判断を待たずに 早急に同性婚実現に向けての法整備を求める決議

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多様な性のあり方を尊重する司法判断を踏まえ、最高裁の判断を待たずに
早急に同性婚実現に向けての法整備を求める決議

 

1.人の性のあり方は極めて多様であり、様々な性のあり方はありのまま尊重されなければならない。性のあり方によって個々人が差別されることなく、安心して生活できることは憲法13条及び14条、前文が保障する基本的人権である。しかし、性的マイノリティの少なくない人々は、社会制度の枠組みから排除され、適切な権利保障が受けられていない現状があり、2023年に成立した「性的指向およびジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」でも確認されているとおり、性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別のない社会の実現は喫緊の課題となっている。

2.近時、性的マイノリティに対する不平等の是正について司法による画期的判断が相次いでおり、特に同性カップルの権利保障に関してはその傾向がめざましい。2014年12月に名古屋市で起きた殺人事件の被害者と20年以上同居生活をしていた同性パートナーが事実婚の配偶者として犯罪被害者給付金の申請を行ったところ不支給裁定を受けた件について、最高裁は2024年3月26日に、遺族給付金の支給対象となる「配偶者」に含まれる事実婚について同性パートナーも含まれ得るとして、不支給を認めた名古屋高裁判決を破棄し審理を差し戻した。判示では事例判断である旨指摘されているが、「配偶者」を要件とするその他の給付制度等について同様の判断の見直しが行われることが予想される。
 また、同性間の婚姻が認められないことの違憲性を問うた「結婚の自由をすべての人に」訴訟(けじすべ訴訟)に関し、2024年3月14日に札幌高裁は、性的指向及び同性間の婚姻の自由は憲法上の権利として保障される人格権の一内容を構成し得る重要な法的利益と認めたうえで、憲法24条1項の定める「両性の合意」の解釈について、「その文言のみに捉われる理由はなく、個人の尊重がより明確に認識されるようになったとの背景のもとで解釈することが相当」とし、「人と人との間の自由な結びつきとしての婚姻をも定める趣旨を含み、両性つまり異性間の婚姻のみならず、同性間の婚姻についても、異性間の場合と同じ程度に保証していると考えることが相当である」と判示し、異性婚のみを定めた法制度が憲法24条に違反し、かつ異性カップルと同性カップルとの区別について合理的な理由を欠く差別的取扱いにあたり憲法14条1項に違反する、との違憲判決を行った。
 けじすべ訴訟では各地裁において違憲状態とする判断が相次いでおり、同性カップルの法的保護を積極的に進めるべきことについて司法が明確にその立場を明らかにしており、遅々として議論すら進まない立法・行政に対する警鐘を鳴らすものとして高く評価すべきである。同性婚が法制化されれば、望まない事実婚状態を余儀なくされていた多くの同性カップルの婚姻が可能となり、これまで排除されていた社会保障給付や犯罪被害者給付金制度を含む様々な制度の保障を受けられることとなるのであって、同性婚に関する法整備は急務である。
 また、社会には既に同性カップルのもとで養育されている子らもいるところ、同性カップルに養育される子らは、同性カップルの関係が婚姻として法的に承認されないことによる不安定さの中で、様々な制約や不利益を受けている。
 各地裁判決のなかでも東京一次訴訟地裁判決が指摘するように、同性婚にかかる法整備は、同性カップルに養育される子も含めた共同生活の安定に資するものであり、既にこの国で生活をし、成長している同性カップルのもとで養育される子の福祉の観点からも、同性婚に関する法整備は強く求められる。

3.既に野党各党から同性間の婚姻を法制化する法律案が国会に複数回提出されており、速やかな法制化は可能な状況にある。にも関わらず、岸田文雄首相は、上記判決を受けてもなお、同性婚を認めることは「憲法上、想定されていない」などと従来の政府見解を繰り返し「少なくとも同性婚に関する規定を設けないことが、憲法に違反するものではない」という答弁に終始しており、国会において法制化に向けた真摯な議論が進む兆しはみられない。
 法的保護のない状況にあることを余儀なくされている同性カップルにおいて、異性カップルと同様の法的保護が受けられないことは明らかな人権侵害である。また同性カップルを婚姻にかかる法制度が適切に包摂していないことが、同性カップルと異性カップルとは異質な存在であるとして不当に差別をする一部の人々の姿勢を正当化する側面を有することにもなる点に鑑みれば、速やかに当該侵害状況は解消されなければならない。
 上記札幌高裁判決は、その付言において国会に対し「国会や司法手続を含めて様々な場面で議論が続けられ、違憲性を指摘する意見があり、国民の多くも同性婚を容認しているところであり、このような社会の変化を受け止めることもまた重要である。何より、同性間の婚姻を定めることは、国民に意見や評価の統一を求めることを意味しない。根源的には個人の尊厳にかかわる事柄であり、個人を尊重するということであって、同性愛者は、日々の社会生活において不利益を受け、自身の存在の喪失感に直面しているのだから、その対策を急いで講じる必要がある。」と触れ、早急な対応を求めているとおり、速やかな法整備は行政・国会の責務である。
 自由法曹団は、2022年京都総会において「多様な性のあり方の尊重を求め、全ての人が平和に安心して生活できる社会の実現を求める決議」を、2023年6月常任幹事会にて「性的少数者に対する差別をなくし個人の尊厳と人権が守られる法整備を求める決議」を採択すし、性的マイノリティの権利擁護のための取り組みを続けている。上記の司法の判断を踏まえ、同性婚の実現に向けた速やかな法整備の実現と、個々人が差別されることなく、安心して生活できる社会の実現を強く求めるものである。

 

2024年5月27日

自 由 法 曹 団
2024年福島・岳温泉
5月研究討論集会

 

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