2024年5月27日、福島原発事故被害者に対する「二重の加害」を防ぐため、政府と東京電力による ALPS処理汚染水の海洋投棄に反対し、海洋投棄の即時停止を求める決議
福島原発事故被害者に対する「二重の加害」を防ぐため、政府と東京電力による
ALPS処理汚染水の海洋投棄に反対し、海洋投棄の即時停止を求める決議
1、政府は、23年8月22日、東京電力HD株式会社(以下「東京電力」)福島第一原発の敷地内に保管されているALPS処理汚染水の海洋投棄開始を決定した。東京電力は、上記決定に基づき、同月24日、海洋投棄を強行した。海洋投棄には、国境を越えて太平洋島しょ国、韓国、中国等からも抗議の声が出されている。全世界の海はつながっており、世界の人間、生物の共通の生存のよりどころである。このように公共のものである海に放射性物質を投棄し、環境汚染することなど許されるべきではない。
自由法曹団は、同月23日、海洋投棄に反対する団長声明を出し、政府と東京電力の対応を厳しく批判した。
同年9月に漁業関係者を含む住民ら151人、同年11月に212人が、国と東京電力に対し、海洋投棄の差し止めを求め、福島地方裁判所に提訴した。
2、11年3月11日に発生した福島原発事故により、広範囲にわたって高濃度放射性物質が拡散し、住民らは、突如として放射線被ばくを避けるために、ある者は行くあてのない避難を強いられ、ある者は屋内退避を余儀なくされ、また、ある者は生業を奪われ、人間が人間らしく幸福に暮らすための諸要素をはく奪されるという被害を受けた。
福島原発事故が発生してから13年余の歳月が経過したが、そうした被害の痕跡は、避難指示の有無を問わず各地に色濃く残っている。
例えば、福島県沖で漁業を行う新地町在住の漁師は、福島原発事故発生後、長期間にわたって漁ができなかった。差し止め訴訟の原告になった漁師は、「原発事故前は一週間で6日間は自由に漁ができましたが、今でも月10日程度の日数に制限されています。自由に漁ができないことは、仕事をしたいのに仕事場が奪われていることを意味し、苦痛で仕方ありません。」と述べている。福島原発事故の被害は、いまだに継続しており、苦しみ続けている住民らがいることを決して忘れてはならない。
3、24年4月15日現在、東京電力は、営業損害を受けた事業者に対し、約70億円の賠償金を支払い、被害拡大の終わりが見えないと報じられている。
海洋投棄は、福島原発事故の被害者に対して、故意に「二重の加害」を加えるものであり、決して許されるものではない。
福島原発事故を原因とする集団賠償事件の全てにおいて、東京電力は敗訴した。そのうち福島地裁いわき支部を第1審とする4件について、東京電力は判決確定後、原告住民らに対して、直接、謝罪をした。
東京電力による謝罪の最大のポイントは「同様な被害を発生させる様な事は、再び繰り返さない事を真摯に約束する」という点にある。
海洋投棄は、前記謝罪の約束を反故にするもので、そこには福島第一原発事故に対する真摯な反省はどこにない。
23年3月10日のいわき市民訴訟の仙台高裁判決においても、東京電力の過失責任について、「平成14年7月の長期評価の公表後、これに基づく津波の試算を速やかに行っていない上、5年以上経過した平成20年4月に東京電力設計から長期評価により想定される津波の試算を受け、敷地の高さを越える津波が福島第一原発を襲う危険性を具体的に認識し、想定される津波による施設の浸水を防ぐ対策を検討したにもかかわらず、平成20年7月には対策を先送りすることを決定し、何ら対策を講ずることなく、保安院にも想定される津波の試算を報告することもせず、福島第一原発の稼働を続け、対策を講じていれば相当程度高い可能性をもって防ぐことができたはずの本件事故を発生させたのである。本件事故の際と同程度の津波が到来し、浸水により電源設備が機能を喪失して重大な原発事故が発生することを具体的危険として認識しながら、経営上の判断を優先させ、原発事故を未然に防止すべき原子力発電事業者の責務を自覚せず、周辺住民の生命身体の安全や環境をないがしろにしてきたというほかはないことは、原告らの精神的苦痛の評価にあたって考慮するのが相当である。」と判断し、明確に東電の重大な過失責任を認めている(同判決30頁)。
海洋投棄による環境汚染は、その重大な過失によって放射能汚染公害をもたらした加害者が、被害者に対して故意に行う新たな加害行為であり、被害者と政府・東京電力の間には、二重の加害と被害の関係がある。
ALPS処理汚染水差止訴訟は、「二重の被害」=「二重の権利侵害」を受けた原告の住民らが、「二重の加害」による権利侵害を絶対に容認できないとの怒りをもって提訴したものである。
4、15年8月、政府、東京電力は、福島県漁連に対して、ALPS処理汚染水について「関係者の理解なしにいかなる処分もしない」と文書で約束した。
そして、このことは23年8月24日の海洋投棄の強行まで8年間にわたり頻繁にテレビ・新聞で報道されてきた。
すなわち、政府、東京電力は、国民に対して、「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」旨の約束が存在することを表明し続けてきたのである。
しかし、海洋投棄は、「関係者の理解なしに」強行されたものであり、政府、東京電力が国民に平気で嘘をつくということを明らかにしている。
5、以上より、自由法曹団は、政府と東京電力に対し、福島原発事故被害者に対する「二重の加害」を防ぐためにも、あらためて海洋投棄に反対し、即時停止を求める。
2024年5月27日
自 由 法 曹 団
2024年福島・岳温泉
5月研究討論集会