2024年10月21日、「袴田事件再審無罪判決の確定を歓迎するとともに、 死刑制度の廃止と再審法の抜本的改正を早急に実現するために力を結集する決議」

カテゴリ:決議,治安警察

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袴田事件再審無罪判決の確定を歓迎するとともに、
死刑制度の廃止と再審法の抜本的改正を早急に実現するために力を結集する決議

 

1 2024年9月26日、袴田事件の再審公判において、ついに袴田巌さんの無罪を言い渡す判決が下された。
 念願の無罪判決は、世論によって歓迎されるとともに、全国すべての弁護士単位会においても、無罪判決を支持する声明等が発出された。団においても、同日、「袴田事件再審無罪判決を歓迎し、検察官が控訴をしないことを求める声明」を発出した。
 そして、圧倒的な民意を前にして、検察は、2024年10月9日、上訴権を放棄し、袴田巌さんの無罪判決がついに確定した。事件発生から58年もの月日を経て、袴田巌さん(事件当時30歳。現在88歳)の雪冤がついに果たされたのである。

2 袴田事件の無罪判決(静岡地裁)は、再審開始の根拠となった「5点の衣類」について捜査機関によるねつ造を認めたほか、袴田巌さんが「自白」したとする検察官調書についても、黙秘権を実質的に侵害し、供述を強制する非人道的な取調べによって獲得されたものであり、「実質的にねつ造されたもの」と断じた。本件冤罪の構造は権力犯罪ともいうべきものである。袴田巌さんは、捜査機関の証拠のねつ造によって、死刑執行の恐怖に晒され、人生の大半を奪われたのであり、その無念は筆舌に尽くし難い。
 他方で、上訴権放棄に際して出された談話において畝本直美検事総長は、「『5点の衣類』を捜査機関のねつ造と断じたことには強い不満」などとし、袴田巌さんが冤罪によって苦しめられたという事実を直視せず、捜査機関による証拠ねつ造という権力犯罪に対する何らの反省も示さないものであり、極めて不当である。

3 袴田事件は、あらためて死刑制度廃止と再審制度の抜本的改正の必要性を示すものとなった。無実であるにもかかわらず、いつ執行されるとも知れない死刑に日々苛まれ、精神を病んでしまった袴田巌さんの姿は、死刑という制度そのものの残酷さを世間に知らしめた。そして、誤判による死刑の具体的可能性が、再審無罪が認められただけでもすでに5例目となった現実そのものが、死刑制度の存立に対する大きな批判となってあらわれている。死刑執行は即時に停止し、制度そのものも速やかに廃止されるべきである。

4 さらに袴田事件の再審は、再審法の抜本的改正が必要であることを浮き彫りにしている。再審請求の過程で開示された「5点の衣類」の写真のネガフィルムや取調べ録音などは、捜査機関による証拠ねつ造や自白強要の可能性を強く示唆し、再審開始の重要な証拠となり、再審請求審における証拠開示規定の創設が強く求められる根拠となっている。また、2014年3月の静岡地裁における再審開始決定(村山決定)から今年3月の再審開始確定までさらに9年もの時間が経過したのは、ひとえに検察官による再審開始決定に対する異議申立てが認められているからであり、このことは、再審開始決定に対する検察官異議申立ての禁止を求める声を裏付けることになっている。袴田事件の再審であらわれたこれら現行再審法の欠陥は、他の誤判再審事件においても共通するものであり、早急かつ抜本的に改正されなければならない。
 そして袴田事件の再審が注目を浴びるとともに、再審法改正の運動もかつてなく盛り上がっている。この間、日本弁護士会連合は再審法改正実現本部を立ち上げて、全国キャラバンによる市民集会の開催や、国会議員、地方自治体首長への賛同要請などの運動を実施している。また、日本国民救援会をはじめとする市民団体は、全国の地方自治体の議会を対象に、再審法改正意見書の採択を求める運動を展開し、全国で270を超える地方自治体で意見書が採択されるに至っている。このような再審法改正を求める大きな国民世論に後押しされ、本年3月11日には国会内で、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が超党派で立ち上がった。同議連には、自民、公明の与党から、立民、維新、共産、国民、社民、れいわ、無所属の議員を含め、本年10月10日現在、330名を超える国会議員が参加している。本年9月19日には、日弁連の再審法改正を目指す集会が日比谷野外音楽堂で開かれ、2500人(主催者発表)が集まり、再審法の改正を声高に叫んだ。
 このように、再審法改正の大きな流れは、すでに押し止めることができないところまで来ているが、今後は法務・検察側の抵抗も当然予想される。政治的駆け引きによって、再審法改正の趣旨が骨抜きにされる可能性も払拭できない。再審法の改正を真に冤罪被害者の救済に資するものとするためには、引き続き国民的世論を盛り上げていくことが必要となっている。

5 自由法曹団は、検察官控訴が断念され、再審無罪判決が確定し、袴田巌さんの雪冤が完全に果たされたことを歓迎するとともに、あらためて死刑制度の速やかな廃止と、再審法の抜本的改正による冤罪被害者の早期の救済を目指す取り組みに、力を尽くすことをここに決議する。

 

2024年10月21日

 

自  由  法  曹  団
2024年岐阜・下呂温泉総会

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