2024年10月21日、「埼玉県川口市・蕨市のクルド人に対するヘイトスピーチに断固抗議し、 あらゆる差別のない共生社会を目指す決議」

カテゴリ:市民・消費者,決議

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埼玉県川口市・蕨市のクルド人に対するヘイトスピーチに断固抗議し、
あらゆる差別のない共生社会を目指す決議

 

1.昨年来、埼玉県川口市・蕨市に居住するクルド人に対し、インターネットを中心として様々なデマ・ヘイト投稿が横行し、それにとどまらず、クルド人排斥を標榜したデモの実施が繰り返されるなど、当該地域に在住するクルド人に対する差別的・排外的言動は日々エスカレートする状況にある。当該地域のクルド人が非正規滞在で不法就労をしているとの偏見が流布されているが、当該地域のクルド人の多くは適法な在留資格を有しており事実に反するうえ、特定の民族に対するかかる差別的・排外的言動はヘイトスピーチであって、いかなる理由があったとしても決して許されるものではない。

2.クルド人は、トルコ、イラク、イラン、シリア、アルメニアといった国々にまたがるクルディスタンと呼ばれる山岳地帯に居住し、クルド語を母語とする民族である。国家を持たない世界最大の民族とされ、人口は3000万人程度とされている。日本では、埼玉県の川口市や蕨市にクルド人の集住地域があり、報道によればそこにおよそ2000人のクルド人が居住している(同地域に居住する外国人のうち4%程度といわれる)。
 2023年通常国会において、難民認定手続き中の難民認定申請者に対して認められている送還停止効を、原則として3回目以降の難民認定申請者には認めない入管法改悪案の審議が行われた。そもそも、1500万人のクルド人が居住するトルコでは、テロ対策名目でクルド人の弾圧が行われていることから、欧米諸国ではこれまでに5万人のクルド人が難民認定されている一方で、日本で確認されている難民認定数は1人に限られている。このような背景から、同年5月25日、クルド人の青年が、入管法改悪反対の立場から参議院の法務委員会に参考人として意見陳述したところ、それ以降メディア等で一部のクルド人が起こした犯罪・迷惑行為等をクローズアップして、川口市や蕨市在住のクルド人への偏見や差別を煽る記事が散見されるようになった。
 さらに、同年6月29日には、川口市議会において、「一部外国人による犯罪の取り締まり強化を求める意見書」なるものが採択され、その内容はクルド人とは明言しないものの、これまでにメディア等で当該地域のクルド人の問題行動として取り上げられた「一部の外国人は生活圏内である資材置場周辺や住宅密集地域などで暴走行為、煽り運転を繰り返し」という点を殊更に指摘しており、明らかにクルド人を対象とし、川口市民を代表する機関である市議会が、当該地域のクルド人を排斥するヘイトスピーチを煽る結果となっている。

3.犯罪・迷惑行為が許されないことは言うまでもないが、各メディア等が報道するものはあくまで一部のクルド人の犯罪・迷惑行為に過ぎず、当該地域に居住するクルド人全体の問題とみなしてこれを排斥することは人種差別に他ならない。
 また、ヘイトスピーチは、それ自体が被差別者の尊厳を踏み躙るものであることはもちろん、ヘイトスピーチの流布は、現実にマイノリティの身体生命に危害を加えるヘイトクライムの契機ともなりうるものであり、それは、関東大震災における流言の流布に伴う朝鮮人虐殺という歴史からも明らかである。
 日本は国際人権(自由権)規約及び人種差別撤廃条約を批准していることから、国や地方自治体において、差別禁止法の制定等、人種差別を抑止するための積極的な措置を行う義務を負っている。しかし、現状においては、ヘイトスピーチ解消法が制定され、「差別されない権利」が民事裁判で認められるなどの進展はみられるものの、ヘイトスピーチを禁止する法律は未だに制定されておらず、差別をなくすための取組みは未だ不十分である。そしてこのことは、川口市や蕨市のクルド人住民に対するヘイトスピーチが頻発する事態を助長していると言わざるを得ない。

4.団は、2023年8月31日、「日本政府に対して関東大震災時の朝鮮人虐殺の真相究明を求めるとともに、歴史の修正を許さず、ヘイトスピーチ・ヘイトクライムの根絶に向けて取り組むことを決意する声明」を発出し、在日外国人に対する差別をなくすための取組みを行うことを宣言している。
 布施辰治をはじめとして差別問題並びに人権擁護活動に取り組み続けてきた歴史を有する自由法曹団として、民族差別等を助長するヘイトスピーチを許さず、多文化共生社会の形成のため多くの人びととともに尽力していく必要がある。
 当該地域のクルド人を排斥の対象とした川口市議会の「一部外国人による犯罪の取り締まり強化を求める意見書」に厳重に抗議するとともに、既に関東の団員を中心に川口市・蕨市の現地を訪問し当事者との交流を行っているが、今後も団として、あらゆる差別のない地域共生社会の実現のためにも、当該地域のクルド人差別解消の取組みを進めることを決意する。

以上

 

2024年10月21日

自  由  法  曹  団
2024年岐阜・下呂温泉総会

 

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