2025年2月15日常任幹事会において、「日本学術会議の解体・廃止に断固反対する決議」を採択しました

カテゴリ:憲法・平和,決議

PDFはこちら


 

日本学術会議の解体・廃止に断固反対する決議

 

1 はじめに
 政府は、現在の日本学術会議の機能を強化するためとし、特殊法人たる新たな組織を設立する内容の「日本学術会議法案(仮称)」(以下「本法案」という。)を今通常国会に提出しようとしている。
 しかし、本法案は、科学者の代表機関として政府から独立して活動してきた日本学術会議を解体・廃止し、これに代わって、政府による権力的介入・統制が可能となる新たな「科学者の代表機関」を作ろうとするものであって、断じて容認できない。

2 本法案の内容と問題点
 公表された本法案の概要(以下「本法案概要」という。)によれば、本法案は特殊法人たる新たな組織を新法により設立するとする。つまり現行日本学術会議法は廃止され、同法に基づいて存在する現日本学術会議は消滅することが予定されている。 
 本法案概要によれば、新たな組織発足時の会員選定は、「多様な関係者から推薦を求め、よりオープンで慎重かつ幅広い方法により行う」とされており、現学術会議の会員は、新たな組織の会員に必ずしも選定されない。加えて現在の会員選考方法である「会員が会員を選ぶ」コ・オプテーション方式も採用されないため、現学術会議の会員の系譜を新たな組織に承継することはできない。つまり、本法案は現日本学術会議を事実上解体するものである。
 そして新たな組織の会員の選定は、外部委員による会員「選定助言委員会」が設けられ、同委員会関与のもとでの会員「選定方針」の策定を通じてなされる。つまり、新たな組織の会員の候補者の選定は同委員会による統制を受けることとなるのであって、組織の独立性の根幹となる、会員人事の自律性が剥奪されている。
 また新たな組織は、「6年分の活動計画」の作成が義務づけられる上、毎事業年度ごとに業務実績等の点検・評価が求められ、更にこれらは内閣府に設置される「日本学術会議評価委員会」による批評を受けることとなる。このほかにも内閣総理大臣任命の「監事」が新たに設けられる。これにより新たな組織は、その活動内容について政府による介入・統制を受けることとなる。
 さらに新たな組織の財政基盤も、活動の内容によっては国費の支援を得られず、外部からの資金調達を迫られることとなる。これにより新たな組織は、財政面で政府と産業界に従属させられる危険性が高い。

3 政府から独立した公的機関たる日本学術会議の存在意義
 日本学術会議は、戦前の日本では学術研究が国家権力に従属させられていたために軍国主義や戦争を止められなかったという深い反省に立ち、科学者の総意に基づいて設立された「国の機関」として、政府から「独立して」、科学的・客観的見地から、政府からの諮問への答申、政府への勧告、提言等を行うとともに、対外的にも日本を代表するアカデミーとして活動してきた。これにより日本学術会議は、日本の学術の健全な発展に寄与するとともに、平和で民主的な国づくりを科学の立場から支えてきたといえる。

4 現日本学術会議を廃止して新たに法人を設立すべき立法事実は存在しない
 日本では、第二次安倍政権以降、恒久平和主義を掲げる日本国憲法の下にあるにもかかわらず、政府による戦争ができる国づくりの策動が続けられている。科学技術の分野においても「安全保障技術研究推進制度」の創設をはじめ、大学や研究機関との連携充実により防衛技術にも応用可能な民生技術の研究開発が奨励・推進されるようになった。このような状況下で2017年、日本学術会議は「軍事的安全保障研究に関する声明」等を発表し、学術会議として軍事目的のための科学研究を行わない立場を表明した。これに対して自民党政権は、日本学術会議が新会員として推薦した候補者6名の任命を菅内閣総理大臣(当時)が拒否するなど、人事を通じた日本学術会議に対する介入を目論んできたのは公知の事実である。
 かかる経過からすれば、今般の日本学術会議の組織改変が、政府による現学術会議に対する介入の帰結であり、本法案の狙いが、政府の意に沿わない、科学者の代表機関における「物言う学者」の系譜を断つ点にあることは明らかである。「世界最高のアカデミー」を目指してその機能を強化するために現学術会議を法人化するとの政府の説明はまやかしであり、本法案の立法事実はない。

5 日本学術会議を廃止することによって生じる深刻な悪影響 
 前記のような理念と役割を担って75年間にわたり存在してきたナショナル・アカデミーたる日本学術会議が消滅することが日本社会に与える悪影響は計り知れない。
 軍事化の防波堤の役割を担っていた現日本学術会議の廃止によって、これまで「軍事目的のための科学研究は行わない」との意志のもと、積極的には行われなかった大学や研究機関における軍事研究が進み、軍事化の動きは官・民・学一体となって加速し、日本の平和主義を決定的に破壊することになりかねない。
 また政府に対する勧告、提言等を通じて、政策の歪みによって生じる諸課題に対して科学の立場から警鐘を鳴らす機能を果たしてきた公的機関が消滅することにより、時の政権の政策判断の誤りから国民が受ける不利益が公的に認知されずに軽視される傾向が強まることも懸念される。
 さらに、戦後の日本社会において学問の自由(憲法23条)を守るための制度的裏づけとして重要な役割を果たしてきたのは、大学の自治と並んで現日本学術会議の存在である。政府と産業界に従属的な科学者集団が出現し、日本の科学者の代表機関としての地位を与えられたならば、大学における教育・研究のあり方にも深刻な影響を与え、学問の自由を脅かすだけなく、日本における学術・科学の劣化を引き起こすことになろう。

6 日本学術会議の解体・廃止に断固反対する
自由法曹団は、政府が本法案を今国会に提出することに断固反対し、日本学術会議を解体・廃止しようとする政府の目論見を阻止するためのたたかいに尽力するものである。

2025年2月15日
自由法曹団常任幹事会

TOP