2019年9月5日付、「表現の自由に対する脅迫行為に抗議し、権力者の介入を許さない声明」を発表しました

カテゴリ:声明,憲法・平和

表現の自由に対する脅迫行為に抗議し、権力者の介入を許さない声明

 

1 本年8月1日に開幕した国内最大規模の国際芸術祭「あいちトリエンナー
レ」の企画展の一つである「表現の不自由展・その後」が、テロ予告や脅迫、
公権力の介入により、わずか3日で中止に追い込まれた。そして、中止から1
ヵ月が経過した現在も展示再開の目途は立っていない。
 「表現の不自由展・その後」は、「慰安婦」問題、天皇と戦争、植民地支配、
憲法9条、政権批判など、2015年の「表現の不自由展」で扱った作品の「そ
の後」に加え、同年以降、新たに公立美術館などで展示不許可になった作品を、
当時いかにして「排除」されたのか、実際に展示不許可になった理由とともに
展示する企画であり、愛知県美術館で本年10月14日まで開催される予定で
あった。
 ところが、日本軍「慰安婦」を題材にした少女像や昭和天皇の写真を使った
作品などの展示が公表されると、テロ予告や脅迫を含むファックスや電話が祭
典実行委員会や愛知県庁などに殺到したため、本年8月3日に企画を中止せざ
るをえなくなったのである。

2 多様な考えを持つ人々の存在を前提とする民主主義社会を維持・発展させ
るためには、各人が自由に自らの思想・意見を表明できることが必要であり、
憲法21条で保障された表現の自由は、その手段を保障するものとして不可欠
なものである。とりわけ政治的表現の自由を保障することは重要であり、どの
ような表現であっても、当該表現それ自体が犯罪となる場合等を除いて、原則
として保障されなければならず、表現に対する批判は言論・表現行為でなされ
るべきである。
 今回のようにテロ予告や脅迫という犯罪行為を用いて、表現の自由を脅かし
たことは許されないことである。

3 また、公権力を担うべき者が展示内容に介入する発言を行っていることも
看過することはできない。
 河村たかし名古屋市長は本年8月2日、展示を視察した後、少女像の展示に
ついて「日本国民の心をふみにじるもの」「税金を使った場で展示すべきでな
い。」などと述べ大村知事に即時中止を求める公文書を送付した。また、菅義
偉官房長官は同日の記者会見で、芸術祭が文化庁の助成事業となっていること
に言及し、「補助金交付の決定にあたっては、事実関係を確認、精査して、適
切に対応していきたい。」と発言した。その他にも「税金投入してやるべき展
示会ではなかった。表現の自由とはいえ、たんなる誹謗中傷的な作品展示はふ
さわしくない。慰安婦はデマ」(松井一郎大阪市長)、展示内容は「明らかに反
日プロパガンダ。」(吉村洋文大阪府知事)、「表現の自由から逸脱しており、

もし神奈川県で同じことがあったとしたら絶対に開催を認めない」(黒岩祐治神
奈川県知事)などと展示内容を批判する首長の発言が相次いでいる。
 前記のとおり、表現の自由は民主主義社会に不可欠なものとして、憲法21
条で保障されており、その裏返しとして、国や自治体は憲法上、表現の自由を
保障する責務を負っている。また、憲法21条2項は、戦前の日本で政府が芸
術・文化や学問・研究の内容を検閲し、多様な価値観を抑圧して民主主義を窒
息させ、国民を戦争に動員したことへの反省に立って、公権力による検閲を絶
対的に禁止している。河村市長らの上記発言は、表現の自由を保障する責務を
負うべき立場にある者が、表現内容に介入して、気にくわない表現は禁止、抑
制しようとするものであり、憲法尊重擁護義務(憲法99条)に反し、検閲を
彷彿させるものである。大村愛知県知事が,河村市長の上記発言を「検閲とと
られても仕方がない。憲法違反の疑いが濃厚だ」と批判したのも当然である。

4 自由法曹団は、表現の自由に対する脅迫行為に抗議するとともに、公権力
を担う者が表現内容に介入したことに抗議し、発言の撤回を求める。そして、
一日も早い展示の再開を望むものである。

2019年9月5日

自由法曹団
団長船尾徹

 

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