2021年1月20日付、「住居確保給付金の支給期間延長に伴う求職要件及び資産要件の設定に抗議し、同要件の廃止を求める」声明を発表しました
住居確保給付金の支給期間延長に伴う求職要件及び資産要件の設定に抗議し、同要件の廃止を求める
2021年1月20日
自 由 法 曹 団
団長 吉 田 健 一
1 昨今の新型コロナウィルス感染症の蔓延により、国内でも2020年4月7日に緊急事態宣言が発令された以降、一時的には感染者数が減少したものの、近時再度感染者数が増加しており、その感染者数は緊急事態宣言発令当初のそれをはるかにしのぐ勢いで上昇し、2021年1月7日には再度緊急事態宣言が発令されるに至っている。このような状況により、人々の経済活動はさらに抑制されており、今後さらなる経済の冷え込みが予測される。このような状況下において、政府は、最長9か月(3か月ごとに更新)とされていた住居確保給付金の支給期間を2021年1月1日以降、3回目の延長(合計最大12か月)が可能となるよう住宅困窮者自立支援法施行規則を改正した。かかる改正はコロナ禍における生活困窮者への支援として評価できるが、住居確保給付金の期間延長に際し、以下の通り支給要件が追加されており、同措置は容認することができない。
2 住居確保給付金は、生活困窮者自立支援法に基づき、解職・廃業等によって収入が減少した者に対し、その住居を失うことを防ぐために、一定期間、生活保護制度の住宅扶助額相当額を支給する制度である。
政府は、2020年4月、住居確保給付金の支給対象者について、従前は離職・廃業から2年以内の者のみとしていたが、休業等により収入が減少し離職等と同程度の状況にある者を加え、求職要件についても緩和し、ハローワークにおける求職活動については仮登録を行って求職準備を行うことで足りるとし、ハローワークへの来所等も求めない措置がとられてきた。しかし、3回目の延長の際には、求職要件としてハローワークへ求職の申し込みをし、誠実かつ熱心に求職活動を行うこと、及び資産要件として世帯の預貯金合計額が基準額の3月分(最大50万円。)を超えないこと(1、2回目の延長時は基準額の6か月分で、最大100万円である。)、という要件を付加するものとしている。
3 このような要件の付加は、新型コロナウィルス感染症がさらなる拡大を見せ、一層経済状況が悪化することが見込まれる現在の状況に逆行するものと言わざるを得ない。求職要件は、経済活動が自粛する中で積極的な求職活動を行うこと自体が困難である上、営業の自粛等を余儀なくされている自営業者等にとってみれば、住居を確保するために自らの生業を放棄することを強いられるに等しいものであり、職業選択の自由(憲法22条)を侵害しうるものである。資産要件における世帯の貯蓄額についても、複数人の世帯において、上限が50万円というのはあまりにも厳しいものと言わざるを得ない。
4 住居は、人々が憲法25条で保障される健康で文化的な最低限度の生活を送る上で不可欠のものである。そもそも、我が国においては、従前から公営住宅をはじめとする公的賃貸住宅政策や住宅セーフティネット法による住宅確保要配慮者に対する支援の不足が指摘されており、昨今の新型コロナウィルス感染症の蔓延によって住宅支援不足が顕在化したのである。住居確保給付金は、数少ない支援策であり、2020年4月から9月末までの半年間で給付決定が10万4000件にも上るなど、現状において多数の人々の生活を支える重要なライフラインとなっている。新型コロナウィルス感染症の蔓延が収束し、経済活動が復活すれば、従前どおり住居確保給付金に頼らずとも自立することが可能である労働者、自営業者は多数存在するものと思わるが、上記各要件の付加は、そのような自立の道を閉ざす可能性があり、当該支援を求める人々にとっても、社会にとっても不利益である。
5 以上から、自由法曹団としては、住居確保給付金の3回目の延長に際し、求職要件及び資産要件を付加することに反対し、同要件を撤廃することを求める。
以 上