2021年2月8日付、「東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の即時辞任及び同組織委員会理事の4割以上を女性にすることを求める」声明を発表しました
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の即時辞任及び同組織委員会理事の4割以上を女性にすることを求める
2021年2月8日
自 由 法 曹 団
団長 吉 田 健 一
1 森喜朗氏による発言
2021年2月3日、東京都内で開催された日本オリンピック委員会(JOC)評議員会において、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、「女性理事を4割というのは文科省がうるさくいうんですね。だけど女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります。これもうちの恥を言いますが、ラグビー協会は今までの倍時間がかる。女性がなんと10人くらいいるのか今、5人か、10人に見えた、5人います。」と発言し、さらに「女性を増やしていく場合は、発言の時間をある程度規制をしておかないとなかなか終わらないから困ると言っていて、誰が言ったかは言いませんけど、そんなこともあります。」とも発言した。
この発言は、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、AFP通信,ロイター通信などの海外メディアでも大きく取り上げられている。これらの配信記事の中では、世界経済フォーラム(WEF)の2020年男女平等指数で、日本が153か国中121位であることが紹介され、日本社会が男女共同参画社会にはほど遠い現状であることが報道されている。
2 「女性が多い会議は時間がかかる」という発言について
(1) そもそも「女性が多い会議は時間がかかる」という科学的根拠はない
森氏は、「女性っていうのは優れているところですが競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発言されるんです」と語っており、「女性だから」必要がないのに発言する、「女性だから」発言の時間が長いというものであり、「女性だから」とひとくくりにする科学的根拠のまったくない発言であるというほかない。
森氏は、自身が「会議が長いこと」を消極的に評価し、その責任を「女性」に根拠なく転嫁する発言であり、女性一般の立場をおとしめる、女性蔑視の発言であって、許されるものではない。
(2) 共同参画は、男性社会に女性が従う形で組み入れられるものであってはらない
男女共同参画は、これまで男性のみで運営していた会議を含む社会のあらゆる場面に女性が参画することであるから、新たなメンバーとして女性が会議に参加することによって、男性のみで運営してきた従前のやり方が変わってくることが当然に予定されている。すなわち、共同参画社会の形成は、それまでの男性社会のやり方を変えていくということをもその内容としているのであって、従前の男性のみで運営してきた会議のやり方に女性が従う形で組み入れられるのものであってはならない。
JOCは、スポーツ庁による競技団体の運営指針「ガバナンスコード」に沿い、全理事のうち女性の割合を40%以上にすることを目標としているが、森氏は、「女性理事を選ぶというのは、日本は文科省がうるさくいうんですよね。」とも発言しているとおり、女性理事の参画に対する消極姿勢は明らかである。
このように男性社会のやり方を変える変容の事実を消極的に評価している森氏の発言は、男女共同参画に対する理解が欠如しているといわざるを得ない。
3 「女性の理事を増やす場合は、発言時間をある程度、規制すべきだ」という発言について
会議は、本来、議題に則して参加者の意見交換の上で結論を導く場であるから、様々な意見が交わされる結果、時間を要することもある。また、新メンバーが参加することによって、それまでになかった新たな視点や視角からの多様な意見が出され、会議の議論が豊かになり深まったりすることで合意形成がなされることもあるから、会議の時間の長いことを一律に否定的にとらえるべきではない。
したがって、森氏のように会議の時間が長いことに消極的な評価を加えること自体、会議の実質的な役割である多様な意見の交換を通じた合意の形成を否定することでもあり、民主主義の否定にもつながるものである。
また、森喜朗氏は「私どもの組織委員会に女性は7人くらいか。7人くらいおりますが、みなさん、わきまえておられて」とも発言しているが、東京オリ・パラ組織委員会の女性理事は「わきまえて」いるから発言時間が短いという趣旨であり、「わきまえない」女性の発言時間を規制すべきという意見を公言したものである。このような「わきまえない」女性の議論を制限することは民主的合意形成に反するものであって、到底容認することはできない。
4 森喜朗氏は東京オリ・パラ組織委員会会長に不適格であり即時辞任を求める
以上のとおり、森氏による今回の発言から、森氏は、女性に対する差別・偏見を有する人物であって、男女共同参画の本来の意義を理解しておらず、意見交換を通じた合意の形成にその意義をもつ民主主義のあり方の理解にも欠ける人物であることが如実に示されている。
オリンピック憲章「オリンピズム根本原則」第6項には、「オリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会的な出身、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない。」と定められている。
森氏の発言は、このオリンピック憲章に明らかに反しており、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長として不適格であることも明らかになっている。
なお、森氏の今回の発言を制止すべき立場のJOCの評議員会のメンバーからは、逆に笑い声もあがったとされており、JOC全体の見識も問われている。
自由法曹団は、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長に不適格である森氏に対し、即時辞任を求めるとともに、早急にJOCに対してスポーツ庁に「ガバナンスコード」に則して、全理事のうち女性の割合を40%以上とすることを求める。
以 上