2021年5月17日付、「デジタル改革関連法(デジタル監視法)可決成立に対し抗議する」声明を発表しました
デジタル改革関連法(デジタル監視法)可決成立に対し抗議する
2021年5月17日
自 由 法 曹 団
団長 吉 田 健 一
1 デジタル監視法の可決成立に強く抗議する
2021年5月12日、参議院本会議において、デジタル改革関連法(デジタル社会形成基本法、デジタル庁設置法、デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律、公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律、預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律、地方公共団体情報システムの標準化に関する法律。以下、「デジタル監視法」という。)が自民党、公明党、維新の会、国民民主党の賛成により可決・成立した。
しかし、デジタル監視法自体には重大な問題があり、かつ、その審議の在り方も極めて問題であることから、自由法曹団はデジタル監視法案の可決成立に対して強く抗議する。
2 デジタル独裁と官民癒着の恐れ
デジタル監視法によって内閣に創設されるデジタル庁は、内閣総理大臣をトップとし、デジタル化に関するあらゆる事項を統括し、他の省庁への勧告権(勧告を受けた省庁は尊重する義務を負う)を有するなど、強大な権限を有する。かような強大な権限を有するデジタル庁が、行政のデジタル化の名のもとに、情報の集約を行ったり、他の行政機関に対して不当な権限行使を行う危険性は排除できない。
また、デジタル庁には、多数の民間企業からの登用が予定されている。デジタル庁はアジャイル型の組織として組織内に局や課が設置されず、個々の職員が組織の要職と直接つながり得ることが予定されている。このような組織にあっては、特命などによって業務が遂行される可能性が高く、組織内の活動が不透明となりやすい。多数の民間企業からの出向者が関与しうる以上、企業の利益を求める立場に立ち、さらにはデジタル庁の要職者が特定の企業と癒着するなど、国民の利益と相反する組織運営がなされかねないのであり、大きな問題である。
3 個人情報保護の後退
デジタル監視法案は、個人情報保護法を一本化する内容を含む。EU一般データ保護規則(GDPR)や諸外国の法整備で定められるデータ主体である国民の権利保障は、わが国では極めて不十分であるが、デジタル監視法は個人情報の利活用の側面を強調するのみで、データ主体の自己情報コントロール権の保障は何ら強化されていない。デジタル化によって国民の情報がデータ化され、行政及び企業間で個人情報をやり取りすることが容易となることが想定される中、自己情報コントロール権が明確かつ具体的に保障されていないことは極めて大きな問題である。
政府は、国会答弁において、繰り返し情報の集約は行わないことを答弁しているが、デジタル化が進めば、現実的に個人情報を一元的に集約することは容易であるし、改正個人情報保護法においても、法令に基づく場合(刑訴法197条2項に基づく捜査照会も含む)や、行政機関が所掌事務の遂行に必要であり、かつ相当の理由があるときには、目的外の個人情報の利用及び第三者提供が可能とされるなど、極めて広範に個人情報が流通するおそれがある。
また、匿名加工等による個人情報の利用推進によっても個人のプライバシー侵害が生じるおそれもある。これまでも、防衛省が横田基地訴訟等で扱われた原告全員の個人情報を匿名加工情報として提供可能な状態としていたことが判明している。匿名化はなされているものの、提供の対象となっている個人情報は極めて詳細に及び、他の情報と組み合わせれば個人を特定することができる可能性は排除できないし、AIによるプロファイリングが進展した昨今では、容易に個人を特定することが可能であり,匿名加工情報であっても個人のプライバシー侵害が生じるおそれは排除されていない。
さらに、これまでも警察は捜査関係事項照会として,国民の情報を大量に収集しているが、警察による情報収集に対する適切な規制は何ら設けられていない。
加えて,監視機関である個人情報保護委員会による監督権限も極めて不十分なままである。
個人情報を把握されることは、個人の言論や活動の萎縮に容易につながり得る。そのような危険性を排除する仕組みやデータ主体としての自己情報コントロール権を明確かつ具体的に保障することなく、個人情報の利用を推し進めることは断じて許されない。
4 地方自治体の努力と歴史を無碍にするものである
日本における個人情報保護制度は、地方自治体における先進的な取り組みから構築されてきた。しかし、デジタル監視法は個人情報保護のルールを統一化することを内容としており、これまで自治体が住民との合意に基づき調査研究を重ねて、地域の特性を考慮しながら個人情報保護条例を構築してきた歴史を全く無碍にするものである。
また、自治体の情報管理システムも標準化されることとなり、原則として同システムのカスタマイズは禁止される。そのため、自治体における独自の取組みの実施が困難になる恐れがあるが、デジタル化を理由に、自治体が取り組むべき政策が実施できないことなどあってはならない。
そもそも、自治体が保有する住民の個人情報をいかに保護するかは、自治事務であり、地方自治の本旨に基づき、地方自治体が定めるべき事項である。それを法律によって一本化し、ルールを強制することは、地方自治の本旨に反するものである。
5 不十分な国会審議
デジタル監視法案は、本年2月9日に国会提出されるまでその詳細は明かされず、国会での審議も衆参合わせて50時間余りと、その内容の重大性に比してあまりにもその審議が不十分である。上記の通り、大きな権限を有するデジタル庁を創設するうえ、個人情報保護を大きく後退させ、国民に対する監視強化を進め、基本的人権を危うくする重大な問題のある法律であることから、少なくとも国民においても十分にその内容、危険性を理解するために必要な程度の時間をかけ、法案の問題点を徹底的に国会で審議すべきであった。このような十分な審議が確保されない状態で成立させたことは、極めて問題である。
6 欠陥法の廃止あるいは抜本的見直しを求める
以上の通り、デジタル監視法は極めて重大な欠陥を内包している上、国民的な議論はおろか、国会における審議もなされていない。かかる法律を許容することは、我々の個人情報を危険にさらし、監視社会をより強化するものといえ、断じて許されない。
自由法曹団は、かかる重大な欠陥のあるデジタル監視法は、直ちに廃止又は抜本的に改正するとともに、改めてデジタル化社会における個人情報保護の在り方を真摯に議論し、国民の個人情報が不正に取得、利用されることのない仕組みづくりを行うことが必要であると考える。
したがって、自由法曹団は、デジタル監視法の可決成立に強く抗議するとともに、同法の廃止又は抜本的な改正を求めるものである。
以上