2021年6月1日付、「土地利用規制法案の衆議院での採決に抗議し、廃案を求める声明」を発表しました

カテゴリ:声明,憲法・平和,米軍・自衛隊

土地利用規制法案の衆議院での採決に抗議し、廃案を求める声明

2021年6月1日

自  由  法  曹  団

団長 吉  田  健  一

1.本日、衆議院本会議において、土地利用規制法案が採決され、賛成多数で可決された。同法案は、日本国憲法の平和主義に反して軍事的安全保障に寄与することを目的に広範な市民の私権を制限するものであり、同法案の廃案を求めてきた自由法曹団は、衆議院本会議での採決に強く抗議する。

2.同法案は、本年5月11日に衆議院において審議入りしてから、内閣委員会での審議は、同月19日に担当大臣の趣旨説明があったほか、同月21日と同月26日に各5時間、同月28日に2時間30分の質疑があっただけであり、委員会質疑はわずかに12時間30分であった。同法案をめぐっては、立法事実や区域指定された土地等の所有者などに対する調査内容、機能を阻害する行為の内容など多くの点について、各方面から懸念が示されていたところであるが、12時間30分の質疑時間は、こうした懸念は払しょくされておらず、審議が尽くされていないまま本会議で採決に及ぶという政府・与党の国会軽視の姿勢は厳しく非難されなければならない。

3.同法案をめぐる懸念は、衆議院での審議を通じて払拭されるどころか、ますます深刻化している。
 まず、政府は、本法案の必要性として、北海道千歳市や長崎県対馬市において外国資本が自衛隊施設の周辺土地を購入した事例を挙げ、安全保障上のリスクになる、地元からも不安や懸念の声があると説明してきた。しかしながら、審議を通じて、北海道千歳市の事例は同法案が予定する施設周辺おおむね1キロの範囲内には含まれていないほか、地元である千歳市や対馬市の市議会からも安全保障上のリスクであるといった趣旨の意見書は採択されていないことが判明した。さらに、担当大臣は、「安全保障上のリスクになるのか」との質問に、「それをしっかりと調査するということです」と答弁し、安全保障上のリスクなるものの実態はなく、立法事実が存在していないことを認めるに至っている。
 次に、生活関連施設として想定される対象施設について、当初、原発と軍民共用空港が挙げられていたが、審議では、「現時点では、鉄道施設でございますとかあるいは放送局などのインフラ施設につきましては生活関連施設として政令で定めることは想定してございません。ただし、どのような施設を生活関連施設として本案の対象とするかにつきましては、この先の国際情勢の変化あるいは技術の進歩等に応じ、柔軟かつ迅速に検討を続けていく必要があるものと考えてございます。その結果として、将来的にそれらの施設を生活関連施設として政令で定めることはあり得る」とされており、将来的に拡大させる可能性が明らかにされている。すなわち、政令次第で、日本全土どこでもが調査対象とされ得ることが明らかになった。
 さらに、調査内容について、審議では、「不動産登記簿等の公簿の収集による氏名、住所、国籍など、土地等の利用者等の把握だけでなく、現地・現況調査や報告徴収を通じた土地等の利用実態の把握、特別注視区域における事前届出制度を通じた土地等の買手の利用目的の把握などを行う」ことに加えて、「重要施設を所管又は運営する関係省庁、事業者や地域住民の方々から機能阻害行為に関する情報を提供いただく仕組みも今後検討する」とした。政府は、これを「土地利用状況調査の一環」とするが、第6条の範囲を超えるものと言わざるを得ない。また、調査内容について、「内閣総理大臣は、目的を達成するために必要があると判断させていただきました場合には、本法案に基づき収集した土地等の利用者等に関する情報について、関係行政機関等の協力を得つつ、所要の分析を行うこともあり得る」としており、個人情報が内閣府以外の行政機関との間で共有される可能性があることも明らかになった。
 また、機能を阻害する行為の特定についても、「機能阻害行為については、安全保障をめぐる内外情勢や施設の特性等に応じて様々な対応が想定されることから、どのような行為が機能阻害行為に当たるかを一概に申し上げることは困難でございます」としたうえで、「予見可能性の確保をするという観点から、想定される機能阻害行為につきましては、閣議決定させていただきます基本方針において可能な限り具体的に例示する」との答弁に終始し、何が機能を阻害する行為なのか明らかにすることを拒否し続けた。基地建設反対や基地監視活動など憲法上保障された活動にも適用されるのではないかとの質問に対しても、態度を明確にしない姿勢を貫いた。
 このように、自由法曹団は、本年4月20日付で、同法案に反対し、廃案を求める声明を出したが、衆議院での審議を通じて、声明で指摘した問題点は何一つ払拭されていない。

4.同法案が成立すれば、自衛隊や米軍、海上保安庁の施設、原発などの周辺に居住し、事業などを営む広範な市民が影響を受け、私権を制限されることになる。
 自由法曹団は、衆議院での採決に強く抗議するとともに、同法案の問題点を広く世論に訴え、多くの市民と連携し、同法案を参議院において廃案に追い込むべく全力を尽くす決意である。

以 上

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