2021年6月19日付、『「土地利用規制法」の採決強行に断固抗議し、同法の速やかな廃止を求める』(声明)を発出しました。
「土地利用規制法」の採決強行に断固抗議し、同法の速やかな廃止を求める
2021年6月19日
自 由 法 曹 団
団 長 吉 田 健 一
1 本年6月16日未明、参議院本会議において、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」(土地利用規制法案)が自民、公明、維新、国民の賛成多数で可決された。
同法案は「安全保障に寄与すること」を目的に広く市民を調査・監視の対象とするものであって、そのこと自体、「軍事」に「公共性」を認めず、軍事的目的による人権制限を排斥してきた日本国憲法に真っ向から反するものであり、同法案の廃案を求めてきた自由法曹団は、参議院本会議での採決の強行に強く抗議する。
2 政府は、同法の提案に際して、外国資本による防衛施設周辺の土地の購入が安全保障上のリスクであると説明してきたが、そもそも特定の国やその国民を潜在的脅威として安全保障上のリスクとなるという発想自体、国籍等の属性に限らず個人の尊厳を尊重する個人主義に立脚する日本国憲法と相容れるものではない。
また、国会における審議を通じて、政府がいう外国資本による土地等の取得が安全保障上のリスクとなっている実態が無いことが明らかとなっており、立法事実が不存在であることも明らかになっている。
それでも政府が、同法の成立を強行したのは、これまで安倍政権及び菅政権下で押し進められてきた「戦争ができる国づくり」の一環として、軍事的安全保障の観点から市民の基本的人権を制限することを通じて、日本国憲法の平和主義の内実を掘り崩し「平時」の「有事」化を押し進めるためであり、到底容認することはできない。
3 同法は、国会における質疑を通じて、市民の権利が制限され、市民生活に重大な影響が及ぶことになる懸念が払拭されることはなかった。むしろ、質疑を重ねれば重ねるだけ市民の権利に対する重大な問題が顕在化してきた。
例えば、米軍・自衛隊の基地や原発の他、「生活関連施設」も区域指定の対象とされているが、「生活関連施設」は「政令」で定めることとされ、国会の関与なく無限定に対象が拡大されるおそれがある。同じく対象とされている「国境離島等」には沖縄県の有人島全てが含まれており、基地が集中する沖縄県全域が「注視区域」に指定される可能性も残されたままである。
また、土地等の利用実態の調査についても、調査内容や調査対象者、調査期間、調査手法などが条文上は無限定となっており、内閣総理大臣に広範な権限が委ねられている。しかも、義務づけられる土地取引の届け出をしなかったり、調査に応じなければ、刑罰を科されることにもなる。
さらに、機能阻害行為については、土地利用の中止が命令されたり、刑罰が予定されているにもかかわらず、閣議決定で例示をするのみとされており、いかなる行為が処罰対象とされるかを法文から読み取ることはおよそできないものであり、刑事手続の大原則である罪刑法定主義に反している。
以上のとおり、同法には、基地周辺の住民にとどまらず、土地建物の利用者や関係者として、戦争に反対し基地撤去を求める活動はもとより、騒音被害や環境破壊に反対する活動なども調査・監視の対象とされ、様々な個人情報が収集される等、広く市民生活や社会活動が抑圧される危険が残されている。
4 同法において、内閣総理大臣は、地方公共団体などに土地等利用状況調査に関して情報の「提供を求めることができる」とされ、法律の目的を達成するために関係行政機関等に「協力を求めることができる」とされているが、その内容にも限定がなく、地方公共団体が内閣総理大臣の求めに応じて住民情報を提供することなども想定されるなど、地方公共団体の自治権を不当に制約するものにもなっている。
また、内閣総理大臣は、土地等の買取りを申し入れることができるとされており、土地収用法を潜脱する形で、軍事的安全保障目的による事実上の強制収用となる懸念も残されたままである。
5 自由法曹団は国会における審議を通じて、なお、これらの懸念が払拭されていないことを繰り返し指摘してきた。それにもかかわらず、こうした問題点が何ら解消されることなく、むしろ新たな問題が顕在化する中で採決を強行したことは断じて容認できない。
同法は、「安全保障」の下、住民を監視対象に置き、大幅な権利制限を行うことを可能とするとともに、地方公共団体を政府の軍事的安全保障政策実現のための下請け機関化するもので、平和主義はもちろん、基本的人権の保障にも地方自治の本旨にも反している。その本質は、戦争準備そのものであり、「平時」であっても「軍事」を優先させ基本的人権を制限することにあり、日本国憲法のもとで許されることのない違憲立法であり、廃止するしかない。
自由法曹団は、広範な市民と連携し、同法の施行を許さず、速やかな廃止を目指して、引き続き全力を尽くす決意である。
以 上