2021年6月25日付、「夫婦同氏強制を合憲とした最高裁決定に抗議し、早期に選択的夫婦別氏制度の導入を求める【声明】」を発表しました

カテゴリ:司法,声明,憲法・平和

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夫婦同氏強制を合憲とした最高裁決定に抗議し、早期に選択的夫婦別氏制度の導入を求める【声明】

 2021年6月25日

自  由  法  曹  団
団長 吉  田  健  一

 

1 2021年6月23日、最高裁大法廷は、夫婦同氏を強制する民法750条の規定及び夫婦が称する氏を婚姻届出の必要的記載事項とする戸籍法74条1号の規定について、「民法750条の規定が憲法24条に違反するものでないことは、当裁判所の判例とするところであり、……戸籍法74条1号の規定もまた憲法24条に違反するものではないことは、平成27年大法廷判決に徴して明らかである」とし、夫婦同氏の強制が合憲との判断を示した。かかる判断は、結婚によって、96%を超える夫婦が夫の氏を称しており、多くの女性が改氏を余儀なくされ、氏名による個人識別機能に対する支障や自己喪失感などの不利益をほぼ女性が引き受けることで維持されている夫婦同氏制の実態を見誤った、個人の尊厳と両性の本質的平等を定める憲法24条に違反する不当な決定というほかなく、自由法曹団は、強くこれに抗議する。

2 自由法曹団は、2015年12日21日、今回の最高裁決定が引用する2015年12月16日最高裁大法廷判決について、夫婦同氏の強制は、憲法13条及び同24条2項が保障する個人の尊厳、同24条1項及び同13条が保障する婚姻の自由、同14条1項及び同24条2項が保障する平等権並びに女性差別撤廃条約16条1項(b)の規定が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)の規定が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」を侵害するものであることを指摘し、2015年最高裁判決が、個人の尊厳と両性の本質的平等を見誤った不当判決であることを指摘した。そうであるにもかかわらず、今回の最高裁決定が「2015年大法廷判決の判断を変更すべきものとは認められない」とし、再び合憲判断を繰り返したことに失望と憤りを禁じ得ない。

3 日本政府は、2003年7月以降、国連の女性差別撤廃委員会から、夫婦同氏を定める民法の諸規定の是正の要請を受け、法改正を行う方針であると説明しながら、法改正を怠ったまま長期間放置してきた。2015年最高裁判決後の2016年には、同委員会から、夫婦同氏の強制を是正するよう3度目の勧告を受けていながら、何らの措置を講じることなく夫婦同氏の強制をいまだに続けている。これは、憲法13条及び24条違反を重ねているとともに、条約の誠実遵守義務(憲法98条)にも明確に反するものである。そうであるにもかかわらず、2015年判決の判断の変更の必要がないとした今回の最高裁決定は、思考停止に陥り、従前の最高裁判決に漫然と従って本決定に至ったものというほかない。とりわけ、今回の決定が2015年判決に引き続き、夫婦同氏の強制の解消を国会の立法政策の問題に矮小化していることは到底看過できない。夫婦同氏の強制は、それを望まない者の婚姻についての意思決定を抑圧し、自由かつ平等な意思決定を妨げるもので、それらの者に人格的利益の喪失を受け入れる意思決定を強要するものにほかならない。すなわち、個人の尊厳の基盤をなす人格権の侵害そのものであり、憲法の保障する基本的人権を直接侵害するものである。そうであるにもかかわらず、本件を国会の立法裁量の問題に矮小化することは、最高裁自ら司法の役割を投げ捨てるもので、憲法の番人たる責務を放棄したとの批判を免れることはできない。

4 本決定では、1名の意見、3名の反対意見において、民法750条は憲法24条に違反すると判断された。そのうち草野耕一裁判官は、「選択的夫婦別氏制を導入することによって向上する国民の福利は、同制度を導入することによって減少する国民の福利よりもはるかに大きいことが明白であり、かつ、減少するいかなる福利も人権またはこれに準ずる利益とはいえない。それにもかかわらず、同制度を導入しないことは、あまりにも個人の尊厳をないがしろにする所為であり、もはや国会の立法裁量の範囲を超えるほどに合理性を欠くから、本件各規定は憲法24条に違反する。」としており、きわめて明快であり説得的である。

5 すでに女性差別撤廃条約の批准から36年、選択的夫婦別氏の導入を求めた法制審議会の答申からも25年が経過し、さらに前記国連女性差別撤廃委員会2003年勧告から18年、2016年勧告からも5年が経過したにもかかわらず、かかる規定を放置してきた国会の責任も重大である。もはや、女性差別撤廃条約に加盟する国で、夫婦同氏の強制を続けている国は、日本以外にはない。
 自由法曹団は、今回の最高裁決定について厳しく抗議すると共に、国会及び政府に対し、選択的夫婦別氏制度を速やかに導入することを強く求めるものである。

以 上

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