2022年5月19日、「経済安保法案の成立に抗議する声明」を発表しました

カテゴリ:声明,憲法・平和,治安警察

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経済安保法案の成立に抗議する声明

 

1 本年5月11日、参議院は、経済安保法案(「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案」)を本会議で採択して可決し同法案を成立させた。
 法案は、安全保障の確保に関する経済施策として、①特定重要物資の安定的な供給の確保(サプライチェーンの強化)、②特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する制度(サイバー攻撃等から防御する基幹インフラ整備)、③特定重要技術の開発支援、④特許出願の非公開に関する制度を創設することを内容としている。
 このように法案は、企業の経済活動はもとより、軍事技術を含む研究開発や特許、さらには学問研究の自由にも大きな影響を及ぼす重要法案であるが、中国の経済力、軍事力を脅威とする米国の安全保障戦略と軌を一にしたものであり、後述するとおり国会審議においても、自由と人権、日本の平和を危うくする重大な問題点が明らかにされている。にもかかわらず、これらの問題点の検討をなおざりにし、衆参各院でそれぞれ実質3週間程度という拙速な審議により、国会が法案を成立させたことに対して、自由法曹団は強く抗議するものである。

2 法案の重大な問題点は、まず特定重要技術の研究開発に対して、資金支援のもとに官民協力して最先端技術を軍事活用しようとする点である。協議会に参加した研究開発者等には刑罰付きで秘密保護義務が課される。研究開発が国の一元的管理・統制のもとにおかれ、学術研究の自由が抑圧されることになる。
 法案審議の過程でも、防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」の問題点を指摘した日本学術会議の声明に対して、与党議員からの批判が繰り返されている。また、衆参両院の付帯決議では、秘密保護に関して、「情報を取り扱う者の適性について、民間人も含め認証を行う制度」づくりが提起されており、適性評価のためにプライバシーをも調査しうるとした特定秘密保護法の「適性評価制度」が導入されようとしている。

3 法案で導入される特許の非公開制度は、本来研究開発の成果を公開して産業に生かし、さらなる技術進歩のために活用する特許制度の例外を認めるものである。法案は、研究開発の成果を非公開として、その活用を刑罰を持って制限・禁止するものであって、経済活動や研究活動の自由、産業の発展を阻害することになる。学界などでの意見交換まで処罰の対象とされるなど研究活動の自由が抑圧されるおそれがある。
 しかも、この非公開制度は、法案の国会の審議を通じて、核兵器や先進武器技術に通ずる発明を念頭に置いた制度で、軍事的な要素が強いことが明らかにされている。実際、特許の非公開により、日米の防衛特許協定のもとで研究成果の軍事的利用が促進されることになる。

4  法案は、民間業者に対して特定重要物資の供給確保計画を提出させて認定したり、重要設備の導入・維持管理などについても計画書の提出を求めて事前審査したり、これらに関連して政府に調査権限を付与したり、違反に対する刑罰規定を設けている。
 法案によって実施される施策を通じて、多額の財政援助を行う一方で、企業活動に介入し、民間に対する監視が強化され、経済活動の自由、知る権利や表現の自由が抑圧される危険が大である。
 そもそも、法案は、経済的安全保障という定義すら明記しておらず、国会の審議でも、経済安全保障の全体像が見えないとか、具体的なイメージができないとの指摘がされた。重要事項など138カ所も政省令に委ねられており政府の一存で決まる白紙委任との批判も相次いだ。しかし、政権による法案の運用により、人権が制限され、自由が抑圧される危険は何ら解消されていない。

5 以上のように、経済安保法案は、憲法の平和主義と基本的人権の保障の原理に明確に反するものであり、自由法曹団は、法案の成立に強く抗議する。

 

2022年5月19日

                         自由法曹団 団長 吉田健一

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