2022年7月8日、『神道政治連盟国会議員懇談会による「冊子」の配布に抗議し、差別のない社会を目指す声明』を発表しました
神道政治連盟国会議員懇談会による「冊子」の配布に抗議し、
差別のない社会を目指す声明
2022年7月8日
自由法曹団団長 吉田健一
1 ウェブニュース及び新聞報道によれば、本年6月13日、262名の衆参国会議員が参加する神道政治連盟国会議員懇談会において、性的指向や性自認(性同一性)につき、「同性愛は心の中の問題であり、先天的なものではなく後天的な精神の障害、または依存症」や「回復治療の効果が期待できる」、などと述べ、LGBTから抜け出すことなどを論じた論考を冊子として配布し(以下、配布された冊子を「本件冊子」という)、司会の議員から「読んで欲しい」と呼びかけたとされている。
2 性的指向や性自認(性同一性)が、あたかも自分の自由意思で選択・変更できるかのような言説や、医学的に「治療」が可能であるかのような主張及び性的指向や性自認を「治療」しようとする実践(「転向療法」)は、長きにわたって世界の当事者コミュニティを苦しめ、当事者の尊厳を傷つけてきたが、近年ようやく、カナダやフランスなど一部の国では法律によって禁止されるようになっている。
「転向療法」に医学的効果は無く、却ってかかる「治療」を受けた者の心と身体を害し、自傷や鬱症状を増加させるおそれもある有害無益なものであるとの知見が既に確立している。そのような科学的知見を無視し、人権蹂躙的な「治療」を肯定的に論ずることは、この国に生きる全ての性的少数者の尊厳に現実的な危険を及ぼすものであり、到底看過できない。
また、本件冊子のなかには、「LGBTの自殺率が高いのは、社会の差別が原因ではなく、LGBTの人自身の悩みが自殺につながる」と述べる箇所もある。
しかし、「LGBTの人自身の悩み」のなかには、社会において自らの性的指向や性自認(性同一性)が「治療するべきもの」、「その状態であることが望ましくないもの」として取り扱われること、すなわち社会から差別されることによる苦悩・苦痛が当然に含まれるのであり、当事者の葛藤や精神的苦痛の根拠を社会ではなく個人の問題に矮小化させようとする本件冊子の内容は論理的にも誤っている。
更に、本件冊子は「性的少数者のライフスタイルが正当化されるべきでないのは、家庭と社会を崩壊させる社会問題だから」等という言葉で性的少数者を社会への脅威として扱っており、性的少数者への憎悪や差別を扇動するものである。
また、精神疾患や依存症であると決めつけた性的少数者のライフスタイルを「家庭や社会を崩壊させる」脅威だと喧伝する本件冊子の内容は、精神疾患や依存症に苦しむ人々の尊厳をも毀損するものとなっていることも看過できない。
本件冊子の内容は、憲法の保障する人格権及び平等原則に著しく反するものと言わざるをない。
3 我々は、性的少数者の人権を著しく毀損した本件冊子の多数の国会議員への 配布に強く抗議するとともに、差別のない個人の人格を尊重した社会の実現のため、今後とも取り組んでいくことを決意するものである。
以上