2022年7月27日、死刑執行に対し強く抗議し、改めて死刑制度の廃止を求める声明
死刑執行に対し強く抗議し、改めて死刑制度の廃止を求める声明
2022年7月27日
自由法曹団団長 吉田健一
1 2022年7月26日、加藤智大死刑囚に対する死刑が執行された。岸田政権においては、昨年12月に3名に対して執行されて以来2度目の執行である。
加藤智大死刑囚は、2008年6月に東京秋葉原において7名を殺害し、10人を負傷させたという殺傷事件で死刑が確定していたが、公判段階では、弁護人側は精神疾患による心神耗弱ないし喪失の疑いがあるとして死刑適用の回避を求めていた。
いうまでもなく、かかる重大な被害を発生させたことが社会的に許容されるものではない。しかしながら、死刑を執行することは、この世に生きる価値のない生命があるということを国家が正面から宣言することにほかならない。私たちが目指すべきは、罪を犯した人の更生の道を完全に閉ざすことなく、すべての人が尊厳を持って共生できる社会である。死刑がかけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であること、罪を犯した人の更生と社会復帰の可能性を完全に奪うこと、裁判は常に誤判・えん罪の危険性を孕んでおり、無実の者が生命を奪われる危険性があることなど、死刑に制度的な問題があることを踏まえ、私たちは死刑制度のない社会が実現されるべきと考える。
2 そもそも死刑とは、国家が刑罰(公権力の発現)として、人の生命を奪うものであり、人の尊厳の否定そのものである。人は人として生まれながらにして尊重されるべきであり、対国家との関係において、人の生命は、最大限保障されるべきある。死刑制度自体が、個人の尊厳を基本原理とする日本国憲法とは相いれるものではない。
また、国際社会は、死刑制度が生命に対する固有の権利の侵害であり、人道主義に反する等の理由から、死刑廃止への具体的方策を進めている。国際連合は、死刑廃止条約を総会で採択し、国連人権理事会における普遍的定期的審査(UPR)においても日本は死刑廃止に向けた行動をとるべきであるとの勧告を受けた。2021年3月に京都において開催された国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)において、EU代表部等からも、死刑廃止に向けて積極的な行動をとるよう呼びかけが行われている。
さらに、えん罪・誤判に対する死刑執行の問題も無視できるものではない。えん罪・誤判に対する死刑執行の危険性は、死刑再審無罪確定事件(免田事件・財田川事件・松山事件・島田事件)においても示されている。一度奪われた生命は二度と取り戻すことができず、誤判・えん罪被害者に対して取り返しのつかない結果をもたらしかねない。
以上の通り、死刑は、その制度自体に根本的な問題をはらんでおり、個別事件の内容にかかわらず、制度として否定されなければならない。
3 自由法曹団は、2021年10月23日に開催された創立100周年東京総会において、こういった死刑制度が有する種々の問題点から、死刑制度の廃止を求める決議を採択しているところであり、今回の死刑執行に対しても強く抗議する。
そして、改めて死刑制度のない社会を実現するために、国会において速やかに死刑廃止に向けた立法措置を講じ、死刑制度が廃止されるまでの間、死刑の執行を停止するよう求める。