2023年2月16日、『政府による入管法改定案再提出に反対する声明』を発表しました
政府による入管法改定案再提出に反対する声明
2023年2月16日
自 由 法 曹 団
団長 岩 田 研二郎
このほど、政府が出入国管理及び難民認定法等を改正する法律案(以下「本法案」という。)を、今通常国会に提出する方針であることが報道されている。
しかしながら本法案は、自由法曹団が2021年4月1日付団長声明で問題点を指摘し、2年前の通常国会で厳しい批判を浴びた後に廃案になった旧法案の基本的枠組みを維持したものとなる見込みである。
第1に、本法案は、難民認定手続中は一律に送還が停止される規定(送還停止効)に例外を設け、同手続中であっても、一定の場合には送還を可能とする措置等を講ずるとしている。これは、送還停止となる難民申請を、相当の理由なき限り原則2回までに制限する旨の旧法案の内容を維持するものとみられる。
しかしながら、本国からの迫害を受けること等を理由として難民認定申請をしている者に対して、強制的に迫害のおそれのある本国に帰国させる対応は、難民を「その生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない。」と定める難民条約33条⑴等に表れた国際慣習法「ノン・ルフールマン原則」に違反するものである。同時に、上記規定の創設は、ノン・ルフールマン原則の例外規定である難民条約33条⑵の趣旨を超えて送還可能範囲を国内法で一方的に拡大する点で同条約にも違反するし、「いずれの者をも、その者に対する拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠がある他の国へ追放し、送還し又は引き渡してはならない。」と定める拷問禁止条約3条1項にも違反する。そもそも日本政府が回数を重ねて形ばかりの不認定処分を行ったからといって、迫害国での危険が無くなるわけではないのである。
第2に、本法案は、一定の事由により退去強制を受ける者を送還先に送還することが困難である場合に、その者に対し、本邦からの退去を義務付ける命令制度を創設し、命令に違反した場合の罰則(報道によると懲役1年以下)を整備するとしている。
これも旧法案の内容を維持したものであり、送還停止効が認められない難民申請者、家族を有する者、日本で誕生した子どもなど、様々な事情から退去ができない者を「犯罪者」と扱う点で極めて問題がある。またそもそもそのような境遇にある者は、罰則があるからといって退去が可能となるものでもなく、罰則創設は立法目的との関連性に欠ける措置である。さらに同罰則の創設は、支援者や法律家も共犯として処罰される危険を生じさせ、支援の萎縮を招き、もって外国人の人権保障を大きく後退させるものでもある。
第3に、本法案は、退去強制令書により収容されている外国人等について、逃亡のおそれの程度等を考慮して放免し、監理人による監理に付す措置等を講ずるとする(「監理措置制度」)。この制度は一見、収容を減らすもののようにも見えるが、司法審査を経ることなく出入国在留管理局(入管)が収容の必要性を判断するという根本的な問題を抱える点で現行制度の枠組みを維持したままである。
また報道によれば、本法案は、収容と判断された場合でも3か月ごとに管理措置への移行を検討する内容となるものとされているが、結局入管自身が移行の当否を判断するものであって根本的な問題は何ら変わっておらず、収容期間の上限を設定しないことに対する批判をかわすための形式的修正に過ぎない。
司法審査の導入や収容期間の上限設定は、旧法案に対する批判や2022年11月3日の国連自由権規約委員会による勧告に含まれていたが、本法案はこれらに一切応えていない。
政府は、本法案により紛争から逃れた人らを難民に準じて保護する「補完的保護対象者制度」を整備することを前面に押し出して、「ロシアによるウクライナ侵略の発生を受け、紛争避難民など、人道上保護すべき者を適切に保護するための法整備もまた、喫緊の課題となっている」などと、本法案の必要性・緊急性を強調する。
しかし、本法案は旧法案の問題点を何ら解消していないし、難民認定申請のうちほぼ100%が不認定とされている現実の運用実態に照らせば、新制度を創設したところで、適切な認定が行われる制度的保障はなく、結局は当局の恣意によって認定・不認定が左右されるおそれが高い。
ウクライナから逃れてきた人たちの保護は、難民認定制度によって対応することが可能であり、そうするべきである(ウクライナ難民以外の難民について差別的取り扱いがなされてはならないことは当然である)。
長期収容を含む入管における外国人に対する人権侵害は直ちに解決されなければならない。しかしながら、本法案は、旧法案の問題点を何ら解消することのないまま、ウクライナ避難民保護という名目を隠れ蓑に再提出されようとしている。
自由法曹団は、かかる本法案の再提出に断固反対するとともに、誰もが国籍の違いによらず人間としてふさわしい取扱いを受けることのできる世界の実現に向けて日本が先頭に立てるよう、国際的な人権水準に沿った抜本的な難民・入管制度の見直しと必要な立法措置をとることを、改めて強く求めるものである。
以 上