2023年4月18日、『国民のプライバシー権を軽視するマイナンバー(個人番号)利用促進の法改正に反対する声明』を発表しました

カテゴリ:声明,市民・消費者

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国民のプライバシー権を軽視するマイナンバー(個人番号)利用促進の法改正に反対する声明

 

2023年4月18日
 自 由 法 曹 団 団長 岩田研二郎

1 2023年3月7日、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律案」が国会に提出された。同法案は、社会における抜本的なデジタル化の必要性とマイナンバー及びマイナンバーカードについての国民の利便性の向上を掲げ、①個人番号法(マイナンバー法)が当初予定していた「税・社会保障・災害対策」の3分野以外の行政事務についてもマイナンバーの利用推進を図ること、②従前はマイナンバーの利用及び情報連携に法改正が必要であった事務に関し法改正なくマイナンバーの利用及び情報連携を可能とすること、③マイナンバーカードと健康保険証の一体化、などが規定されることとなっている。

2 マイナンバー制度に関して日本各地で違憲訴訟が提起されており、当該訴訟は、番号法に基づいて特定個人情報(個人番号を内容に含む個人情報)の収集、保管、利用または提供行為を行うことが、憲法13条で保障されているプライバシー権を侵害しているとして、個人番号の利用、提供等の差止めと削除を求めるとともに、国家賠償を求めたものである。
 当該訴訟について、2023年3月9日、最高裁第一小法廷は、マイナンバー違憲訴訟(福岡訴訟、名古屋訴訟、仙台訴訟)について、上告を棄却し、上告人(原告)らを敗訴させる判決を言い渡した。同判決では、2008年の住基ネット最高裁判決を引用し、「憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される」とプライバシー権について15年前の判断を踏襲したうえで、マイナンバー制度に関し「特定個人情報の利用、提供等に関して法制度上、システム技術上の不備があり、そのために特定個人情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない」と認定判断して、上告人らの請求を排斥した。当該最高裁判決は、現代の日本社会で進むデジタル化やスマートフォンの普及により大きく変容したプライバシーの取り扱いや国際社会の潮流から大きく立ち遅れるもので、重大な問題を有する。
 一方で、最高裁は、個人番号法によるマイナンバー制度それ自体の合憲性を安易に認めたものではあるが、個人番号の利用範囲が社会保障,税及び災害対策等の3分野に係る事務に限定されていること、特定個人情報について目的外利用が許容される例外事由が一般法よりも厳格に規定されていること、という限定をもって合憲と判断した。これは、住基ネットと異なり個人番号が当然にデータマッチングを予定していることからその危険性を考慮し、歯止めとなる理由付けをしたものといえる。
 加えて、マイナンバー制度の無限定な拡大の原因となる,個人番号法第19条による政令等への委任の問題について,政令や個人情報保護委員会規則に委任することができる場合は具体的な場合に準ずる相当限られた場合に限定されている、と指摘しており,この点も,制度の無限定な拡大に一定の歯止めをかけたものである。

3 今国会に提出された改正法案は、15年前と同じという現代社会から大きく立ち遅れたプライバシー概念を前提に判断をしている最高裁ですら、マイナンバー制度を合憲とするために重視せざるをえなかった「限定された3分野に係る事務」から利用範囲を拡大させ、かつ政令や規則に委任する場合をより緩やかに認めさせる内容となっており、新たな違憲性をはらむものと言わざるを得ない。
 また、政府は2022年度末までにほぼすべての国民がマイナンバーカードを取得するようにすると掲げ、マイナンバーカードの保険証化と従来の保険証の廃止の方針とマイナポイントの付与などの大規模なキャンペーンを行った。それによりマイナンバーカードの申請者は人口比の76.4%を超えるに至ったが、莫大な税金を投入したにも関わらず総人口の4分の1がマイナンバーカードの申請を行っておらず、政府の目論見は挫折したと言わざるを得ない。この結果は、横浜市での証明書の誤交付のみならず数多くの流出事例・事故事例が生じているなか、国民の多くがマイナンバーによる個人情報の連携やマイナンバー制度それ自体に不安を持っていること、国民の不信感が払しょくされていないことが明らかとなった。
 今国会で進められようとするマイナンバーを用いた情報連携の拡大は個人情報の流出に加え、本人の意図しない形でのプロファイリングやビッグデータの商用利用など、既にある危険性をさらに重大なものへと変容させることに他ならない。さらには、保険証利用のためのオンライン資格確認システム導入が義務づけられ相当量の事務負担・費用負担を課されることになる医療従事者、別途届け出をしなければマイナンバーカードの取得・利用により加害者に居所を知られてしまうDV・虐待被害者など、マイナンバーに関連する個々の国民の不利益は甚大なものとなっている。マイナンバーの利用拡大は、利便性の向上(コンビニで住民票を取得できる等)を優に超えた国民の不利益のうえに行われようとしているのである。
 加えて、政府は従前の説明を180度転換させ、マイナンバーカードの所持の安全性を強調するが、本年4月、大阪市の窃盗事件の被疑者が盗難されたマイナンバーカードを所持していたことから人定を誤り、被疑者とは別人の名前の人物として逮捕・起訴されていたことも報道されているとおり、紛失・盗難されたカードによるなりすましを回避できないことは明らかとなっている。
 本改正案は、国家による国民の様々な情報の一元的な管理に繋がるものであるが、国民は自らの権利としてそのような管理から離脱する自由が認められるべきであり、それこそが憲法13条の規定する幸福追求権、そして自己情報コントロール権が保障するところのものである。

4 プライバシー権や自己情報コントロール権の検討・精査を行う前に、「利活用」を前提に無限定に利用範囲が拡大することは許されない。ベネッセの業務委託先が個人情報を流出させた事件の差戻審判決(大阪高裁令和元年11月20日判決(判時2448号28頁))は、「具体的に名簿利用による勧誘や電話により日常生活に支障を及ぼすなどの損害が発生したときには、それが本件漏えいと相当因果関係のある損害であることを立証して損害賠償請求できることはもちろん、それに至らない場合であっても、本件個人情報を利用する他人の範囲を控訴人が自らコントロールできない事態が生じていること自体が具体的な損害であり、控訴人において予め本件個人情報が名簿業者に転々流通することを許容もしていないのであるから、上記のような現状にあること自体をもって損害と認められるべきである」、とした。この判断が、自己の個人情報をコントロールすることを法的保護に値する利益として評価していることは明らかで、その根底には自己情報コントロール権の存在がある。当該判決の認める自己情報コントロール権を前提にすれば、情報の主体である個人本人の同意なく無限定に利用範囲を拡大しうる改正法案は明らかに憲法13条に違反するものである。
 自由法曹団は、個人情報の無限定な利用拡大を伴うマイナンバー法等の一部改正法案に断固として反対し、プライバシー権、そして自己情報コントロール権の確立・保障のため、今後も取り組みを続けていく。

以上

 

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