2023年6月17日、「医療現場の崩壊と弱者切り捨てを招く健康保険証廃止に抗議し、マイナ保険証の見直しを求める声明」を発表しました
医療現場の崩壊と弱者切り捨てを招く健康保険証廃止に抗議し、マイナ保険証の見直しを求める声明
1 2023年6月2日、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律案」、いわゆるマイナンバー法等の一部改正法案が参議院本会議で可決され、同法が成立することになった。同法は、マイナンバーカードについての国民の利便性の向上を掲げ、マイナンバーの利用範囲の拡大等を定めたほか、従来型の健康保険証を2024年秋までに廃止し、マイナンバーカードと健康保険証を一体化(以下、「マイナ保険証」という。)することを定めたものとなっている。
マイナンバーやマイナンバーカードについては、コンビニでの証明書交付サービスにおける他人の住民票の誤発行や印鑑登録証明書での古い証明書の誤交付、公金受取口座の誤登録に加え、他人の医療情報や年金情報の閲覧が可能になるなどシステムの根幹に関わる深刻な事態が繰り返し生じているうえ、その不具合の対応にデジタル庁の職員が過重労働を強いられているという、「国民の利便性の向上」と「行政の効率化」という当初の目的からかけ離れた状況となっており、国民の不安が払しょくされないまま改正法の成立が強行されたこととなる。
2 同法に関して、特に医療現場に与える影響、及び高齢者・障がい者の医療へのアクセスに与える影響は極めて大きい。
同法の審議過程における参考人質疑では、マイナ保険証カードリーダー機器設置の義務付けに伴って課される負担により小規模医療機関が廃業を決断せざるを得なくなったことで、地域の医療の担い手であった医療機関の減少により地域医療に甚大な影響が生じている状況にあることが指摘された。また、従来型の健康保険証の廃止への反対が多数であること、健康保険証の廃止に伴い創設される資格確認証は自ら申請しなければならないことから多数の無保険者を生みかねず国民皆保険制度に反すること、各種手続への障がい者のアクセスが保障されておらず医療から取りこぼされること、マイナンバーカードとの一体化により高齢者施設・障がい者施設等で保険証を預かることができなくなることなど、多数の弊害が報告されている。
全国保険医団体連合会が会員医療機関に行った調査では、約6割がオンライン資格確認で「トラブルがあった」と回答し、「他人の情報に紐づけられていた」ケース、トラブルで資格確認できず窓口で10割の負担を患者に請求したケースも多数回答された。
医療現場、そして医療を受ける患者の声を配慮することのない、マイナ保険証、そして従来の健康保険証の廃止は、地域医療に重大な弊害をもたらすものであり、国民の医療を受ける権利すら損なうものであることは明らかである。
3 マイナンバーカードの取得はあくまで任意で行われるべきものであり、国民の義務ではない。しかし、当該改正法では、マイナンバーカードを所持しないことで、医療機関の受診等における著しい不利益が押し付けられることにより、マイナンバーカードの取得を事実上義務付けるものとなっている。かつ、保険加入の資格確認書についても、個々の事情で申請が行えない人にとっては無保険の状態を生むことにならざるを得ず、国民皆保険制度に反する結果となるものである。
改正法成立後の報道でも、マイナンバーやマイナンバーカードの運用に関して、第三者の年金記録の閲覧がなされたこと、第三者の口座を公金受取口座として登録されていたことが13万件にも及び、当該事実をデジタル庁が認識しながら公にしていなかったことなど、数多くの問題が指摘され、神奈川県平塚市は市民の不安感に配慮しマイナンバー公金受取口座の利用を停止するに至っている。
そのような状況にあるにも関わらず、政府はデジタル施策に関する「重点計画」を閣議決定し、母子健康手帳とマイナンバーカードの一体化なども打ち出すなど、利用範囲の拡大に努めるとしている。ANNの世論調査により、マイナンバーの利用拡大に7割以上が不安を感じ、マイナ保険証への反対が過半数に至っており、国民の声を聴かないまま進められることは、民主主義国家としてあるまじき暴挙というほかない。
4 マイナ保険証と従来の健康保険証の廃止は、マイナ保険証への別人の医療情報の紐づけや地域医療への悪影響などの重大な問題が次々と生じている一方で、トラブルが続出し、なおかつ、その全容が未解明という状態となっている。このような状況に鑑みれば、現時点で必要なのは、改正法によるさらなるマイナンバーの拡大ではなく、健康保険証の廃止を直ちに撤回し、様々な問題の解消こそを最優先で行うべきである。そして、マイナ保険証による多くのトラブルや負の影響を踏まえれば、当該改正法は速やかに廃止されるべきである。
「利活用」を優先させる一方で、利活用に係る基本的な安全性すら確保されておらず、また、国民の不信感・不利益、医療を受ける権利への悪影響が払拭されていない改正法の成立に自由法曹団は強く抗議し、マイナ保険証への一本化・健康保険証の廃止は直ちにこれを撤回するよう求める。
以上
2023年6月17日
自 由 法 曹 団
団長 岩 田 研 二 郎