2023年12月13日、生存権裁判名古屋高裁判決に対する声明

カテゴリ:声明,貧困・社会保障

生活保護基準引き下げ違憲訴訟の名古屋高等裁判所判決を歓迎するとともに政府に対し
上告及び上告受理申立の断念と速やかな生活保護基準の見直しを求める声明

 

 1 2013年から2015年にかけて段階的になされた生活保護基準の減額改定(以下「本件改定」という。)を理由としてなされた生活保護利用者に対する保護変更決定処分(以下「本件処分」という。)に対し、その取消し等を求めて全国で提訴した生活保護基準引下げ違憲訴訟において、20231130日、名古屋高等裁判所民事第2部(長谷川恭弘裁判長)は、原告らの請求を棄却していた名古屋地方裁判所の判決を取り消し、本件処分を違法であるとして取り消すとともに、原告らの慰謝料請求も認容する判決を言い渡した(以下「本判決」という。)。
本判決に先立ち、2023414日、大阪高等裁判所が原告らの請求を認めた大阪地方裁判所判決を取り消し、原告らの請求を棄却する不当判決を言い渡しており、本判決の帰趨が注目されていた。
本判決は、全国の生活保護基準引下げ違憲訴訟において、初めて高等裁判所において本件処分の違法性が認められた判決であるとともに、国の重過失を認定したうえで原告らによる国家賠償(慰謝料)請求をも認容したという点で画期的な判決と言える。

 2 本判決は、厚生労働大臣による生活扶助基準の引下げを内容とする改定について、「その性質上、これによって最低限度の生活を営むことさえ困難にする可能性があると考えられるから、極めて慎重に行われるべきものである」としたうえで、本件改定の根拠となった「ゆがみ調整」と「デフレ調整」について、いずれも統計等の客観的な数値等との合理的関連性及び専門的知見との整合性を欠き、違法であると判断した。
本判決は、まず、「ゆがみ調整」について、本来生活扶助基準が引き上げられるべき世帯をも含めて調整幅を2分の1としたこと(以下「2分の1処理」という。)に関し、2分の1処理が一般国民はおろか生活保護基準部会の委員らに対してさえ知らされていなかったこと、北海道新聞の報道によって初めて明らかになったこと、同紙の報道から2年後に初めて国が訴訟上で2分の1処理の存在を認めたこと等に触れ、「訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)に反する」「国民に対する関係においても、極めて不誠実なものといえる」と厳しく指摘し、「ゆがみ調整」が違法であるとした。
また、「デフレ調整」についても、「ゆがみ調整」を行ったうえでさらに「デフレ調整」を一律に行ったこと、専門家による否定的な見解に反して物価変動を指標としたこと、デフレ調整の始期を特異な物価高騰があった平成20年としたこと、生活扶助相当CPIなる独自かつ不合理な指数を用いたこと等について、統計等の客観的な数値等との合理的関連性及び専門的知見との整合性を欠いているとし、「デフレ調整」も違法であるとした。
さらに、「ゆがみ調整」と「デフレ調整」を合わせて行ったことについても、統計等の客観的な数値等との合理的関連性及び専門的知見との整合性を欠いているとした。
本判決は、デフレ調整の違法性判断に当たり、「ブラックボックスにしておいて、専門技術的知見があるから検討の結果等を信用するよう主張することは許されない」、「行政機関に専門技術的知見があったとしても、判断の基礎となる事実の取捨選択を誤る可能性はあるし、結果的に専門技術的知見に反する判断を行ってしまったり、これを濫用的に用いたりすることは十分にあり得るのであって、行政機関に専門技術的知見があるか否かということと、実際に行われた判断が専門技術的知見と整合しているか否かということとは、まったく別の事柄である」と述べており、真に正鵠を射ている。
本判決は、以上のような本件処分の違法性を踏まえたうえで、厚生労働大臣には少なくとも重大な過失があるとし、原告らが、もともと余裕のある生活ではなかったところを、生活扶助費の減額分だけ更に余裕のない生活を少なくとも9年以上という長期にわたり強いられてきたとして国家賠償法に基づく損害賠償(慰謝料)請求をも認容した。
本判決は、上記大阪高等裁判所での不当判決があった中で、正しく本件処分の違法性を断罪し、司法の職責を果たした重要な判決であり、自由法曹団は、本判決を歓迎する。

 3 生活保護基準引下げ違憲訴訟については、これまでのところ、24件の判決が言い渡された中、13件の勝訴判決が言い渡されており、2022624日の東京地方裁判所における原告勝訴判決以降の地方裁判所判決についてみると、現時点で12件中10件が原告側勝訴となっており、原告側勝訴判決の流れが大きくなっている。このような流れの中で、高裁段階の本判決が本件処分の違法性を断罪するとともに国家賠償責任をも認めたことは、本件処分の違法性が明らかであることを決定づけるものといえる。
本件処分については、最高裁判所による判決を待つことなく、政府自身の判断により、直ちに是正されなければならない。 

4 自由法曹団は、名古屋高等裁判所による本判決を歓迎するとともに、政府に対し、上告及び上告受理申立を速やかに断念し、本判決を受け入れ、直ちに本件処分前の生活保護基準に戻すことを求める。あわせて、すべての国民の健康で文化的な生活を保障する観点から、生活保護基準の合理的な決定方法への見直しを含め、市民の立場にたった生活保護行政の見直しを進めるよう求める。

  2023年12月13日

自 由 法 曹 団
団長 岩田 研二郎

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