2024年6月20日、「国の指示権を拡大する改正地方自治法の成立に抗議する声明」を発表しました
国の指示権を拡大する改正地方自治法の成立に抗議する声明
本年6月19日、参議院は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態等に国が地方自治体に対して必要な指示ができる仕組みを盛り込んだ地方自治法の一部を改正する法律案を本会議で可決し、同法案を成立させた。
自由法曹団は、本改正案は地方自治の本旨に反するものであること、国の自治体に対する統制が強まるおそれがあること、緊急事態条項創設の憲法改正の先取りとなること等を理由に、本改正案に反対する意見を表明してきたが、これらの重大な問題点を置き去りにしたまま、国会が本改正案を成立させたことに対して、強い抗議の意を表明する。
本改正案が規定する国の指示権は、国の地方に対する強力な関与を認め、自治体の自主性・自立性を害し、地方自治法が定める基本原則に相反する措置となる。それにもかかわらず政府は、本改正案の立法事実について、「今後想定ができない事態が生じうるものであり、そうした事態にそなえるもの」、あるいは「国の責任を明確にする」趣旨といった抽象論を繰り返すのみであり、なんら具体的説明ができなかった。
さらに本改正案は、同指示権の行使が許される局面や要件に関する規定があまりに漠然として限定がなく、全国知事会をはじめとする各方面の自治体関係者からも、同指示権の濫用的行使の懸念が重ねて表明されてきたところである。しかし、国会審議においてはかかる重大な懸念もなおざりにされ、解消されることはなかった。
本改正案が以上のような重大な問題を孕んでいるにもかかわらず、抜本的に同改正案を見直す観点からの審議が発展しなかったことは極めて深刻な事態である。とりわけ与党及び日本維新の会所属の議員が、その問題を解消する観点からの質疑を放棄したことは、指示権行使の運用を政府に丸投げしたに等しい。立法府たる国会においてその役割を放棄するかのごとき国会議員の姿勢に対しては、厳しい非難が加えられるべきである。
一方、本審議を通じて、地方政治における地方公共団体の自主性・自立性が確保されるべきこと、国の関与に当たってはその度合いは目的達成のために必要最小限度であるべきこととする地方自治法の基本原則は本改正によっても変更されないことが確認され、その趣旨が衆参両院の附帯決議の内容となっている。そうであるならば、地方公共団体の自主性・自立性を損なうことが明らかな本法案は、その成立を認めてはならないものである。
また、平和主義の観点から重大な懸念事項となった、武力攻撃事態、重要影響事態、存立危機事態等における本指示権行使の可能性について、同事態の対応については、いわゆる事態対処法等の規定に従って自治体への働きかけがなされるのであって、本法案による指示権の行使がなされることがない旨が木原稔防衛大臣の答弁によって確認された。そうであれば、その旨を法案に明記すべきところ、これをしていないばかりか、指示権に関連する93に及ぶ個別法の指示権の運用等について何ら検討しないまま法案提出を行っており、本法案は極めて重大な欠陥を有したまま成立させられたことになる。
本改正案は、政府による指示権の濫用的・恣意的行使を防ぐことができず、地方自治制度を破壊し、法律による行政、ひいては法治主義にも反する内容となっている。
自由法曹団は、引き続き、本改正案に基づく指示権行使の仕組みの廃止を求めるとともに、地方公共団体の自主性・自立性が今まで以上に発揮される地方政治の実現にむけて、市民らとともにたたかう決意を表明する。
2024年6月20日
自 由 法 曹 団
団長 岩 田 研 二 郎