2024年10月25日、「福井女子中学生殺人事件の名古屋高裁金沢支部における再審開始決定に対する異議申立の断念とえん罪からの救済を求める声明」を発表しました

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福井女子中学生殺人事件の名古屋高裁金沢支部における再審開始決定に対する異議申立の断念とえん罪からの救済を求める声明

 2024年10月23日、名古屋高等裁判所金沢支部第2部(山田耕司裁判長)は、再審請求人である前川彰司さんが犯人とされた「福井女子中学生殺人事件」について、再審開始の決定を行った。本決定は、第一審・福井地方裁判所の無罪判決、そして第1次再審請求での名古屋高裁金沢支部の再審開始決定に続き、前川さんをえん罪から救済しようとする3度目の司法判断である。
 自由法曹団は、名古屋高裁金沢支部の決定を高く評価するとともに、殺人犯の汚名を着せられながら、約38年間もの長きにわたり真実の声をあげ続けてきた前川さんとそのご家族、支援者の方々、弁護団の奮闘に心より敬意を表する。
 本件は、1986年3月、福井市内で女子中学生が殺害された事件である。前川さんは事件発生日の約1年後に逮捕されたが、その犯人性を基礎付ける客観的な証拠はなく、逮捕以来一貫して無罪を主張してきた。
 第一審の福井地方裁判所は、前川さんと犯行を結びつける物証がないこと、検察が有罪の証拠とした関係者供述は重要な部分で変遷し、供述を始めたのは事件発生から7か月後で客観的裏付けがないこと、供述した関係者は捜査機関に対し弱みがあって誘導に乗りやすかったことを理由として、前川さんの犯人性を根拠づける関係者供述の信用性を否定し無罪判決を言い渡した。
 しかし、控訴審の名古屋高等裁判所金沢支部は、関係者3名を再度証人尋問した上で、関係者供述が「大筋で一致している」として逆転有罪判決(懲役7年)を言い渡し、最高裁判所の上告棄却により有罪判決が確定した。前川さんは出所後、2004年7月に第1次再審請求を申し立て、2011年11月に再審請求審(名古屋高裁金沢支部)が再審開始決定を出したが、検察の異議申立てにより異議審(名古屋高裁本庁)は再審開始決定を取り消し、特別抗告審もその判断を維持し、再審への道はいったん閉ざされた。
 しかし、前川さんは、諦めることなく、2022年10月に第2次再審請求を申し立てた。今回の再審請求審において、弁護団は、検察官に証拠開示を求め、裁判所の訴訟指揮もあり、警察保管の捜査報告メモを含む計287点の証拠が新たに開示された。そして、確定審の第一審と控訴審とで証言を変遷させた関係者1名の証人尋問が実施された。
 今回の再審開始決定では、主要関係者の一人が、自らの刑事事件について有利な量刑を得るなどの自己の不当な利益を図るために、前川さんが犯人であるとのうその供述を行い、捜査に行き詰まった捜査機関において、他の主要関係者に対し、その供述に基づく誘導等の不当な働きかけを行い、他の主要関係者も迎合した結果、最初のうその供述に沿う主要関係者供述が形成された疑いが払拭できず、これらの供述は信用できないとした。この結果、確定判決が主要関係者供述に基づき認定していた、前川さんが犯行推定時刻頃に犯行現場付近にいたこと、前川さんの衣服に血痕が付着していたこと、前川さんの「犯行告白」といった有罪認定の根拠となるべき主要な事実はいずれも認定することができず、前川さんが犯人であることについては合理的な疑いを超える程度の立証がされているとは認められないと判断した。
 また、再審請求審では、関係者の供述の信用性を支えるエピソードとしていたテレビ放映場面について、その放送日が誤っていることを裏付ける捜査報告書が開示された。本決定は、上記捜査報告書の内容を踏まえ、確定審の担当検察官が放送日の誤りを認識していながら、その誤りの事実を確定審で明らかにしないまま、誤った放送日を自らの主張の前提とし、審理においても動かし難い客観的事実として扱い続けたこと、そして、請求人から正しい事実関係を前提とした主張・立証の機会を奪い、控訴審裁判所にも、動かし難い事実について真実とは異なる心証を抱かせたまま、有罪判決をさせ、これを確定させたことを指摘し、「公益を代表する検察官としてあるまじき、不誠実で罪深い不正の所為」であり、「適正手続確保の観点からして、到底容認することはできない」として非難している。
 本件は、警察による不当な利益誘導による虚偽の供述のねつ造、及び、検察官による証拠隠しによってつくられたえん罪である。
 自由法曹団は、かかる捜査機関の不正を厳しく糾弾するとともに、検察に対し、真相究明から目をそらし、えん罪被害者の救済を妨げてきたことへの真摯な反省を求め、異議申立をすることなく再審開始決定を受け入れ、速やかな再審公判開始に協力するよう強く要望する。
 本件は、本年9月26日に無罪判決が言い渡された袴田再審事件とあわせて、再審請求審における証拠開示規定の創設や再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止といった再審法の抜本的な改正の必要性を改めて示すものであった。
 自由法曹団は、再審法の抜本的な改正を求めるとともに、本件においては改正を待たずに速やかに再審が開始され、無罪確定によって前川さんが無辜の罪から救済されることを切に求めるものである。

 2024年10月25日  

自 由 法 曹 団
団長 岩田 研二郎

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