100周年・東京総会『福島第一原発事故被害の全面救済及び原発ゼロ社会の早期の実現を求める決議』
福島第一原発事故被害の全面救済及び原発ゼロ社会の早期の実現を求める決議
1 2011年3月11日に起きた福島第一原発事故から既に10年7ヵ月が経過した。
依然として放射能で汚染された地下水が海へ流入し続け、原子炉建屋においてあらたな高濃度の放射能汚染箇所が発見されるなど、事故の収束はその道筋すら立っていない。
いまだ38、000人(2021年9月29日復興庁調べ)を超える人々が福島県内外への避難を余儀なくされており、被災地の被った甚大な被害の原状回復と被害者に対する完全賠償も実現されていない。これらの事実は、ひとたび原発に重大な事故が起きれば、人々の平穏な暮らしが奪われ、それを取り巻く自然環境が破壊され、長期間にわたり深刻かつ甚大な被害をもたらすことを如実に物語っている。
2 全国各地に避難した住民らが、全国各地30を超える裁判所で、国や東電に対する損害賠償請求訴訟がたたかってきた。
2020年3月12日、仙台高等裁判所において「いわき避難者第1陣訴訟」において、高裁段階で初めて原告らの故郷剥奪損害を認め、東電に中間指針を超える損害賠償を命じる判決が、2020年9月30日、仙台高等裁判所において「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟において、高裁段階で国の責任を認める判決が言い渡され、これまでに3つの高裁判決において国の責任が認められており、これらの訴訟は、現在、最高裁判所に係属している。
国及び東電は、こうした司法判断を真摯に受け止め、福島第一原発事故に関する自らの過ちを認め、被災地及び被害者が置かれた実態に向き合って、これらに対する完全な救済を行う方向へ直ちに舵を切るべきである。
とりわけ、国は、従前の原発推進政策の主体としての加害責任を負うと判断されているのであり、単に被害者に対する損害賠償の負担に応じれば足りるものではなく、被害回復のため立法措置をも含めた総合的な政策を積極的に立案し、これが実行されなければならない。
3 一方で、カーボン・ニュートラル宣言を打ち出した菅政権、それを継承する岸田政権は、原発推進の姿勢を改めず、原子力規制委員会の適合性審査を経れば、随時再稼働していく方針を示し、現在検討が進められている第6次エネルギー基本計画案においても、原子力を引き続き重要なベースロード電源と位置づけ、2030年度の電源構成について、原子力を約20~22%とし、脱炭素化を理由とした原発再稼働を進めようとしている。
また、経団連も、原子力は技術的に確立した脱炭素電源であると位置づけ、温暖化対策目標実現のため、既存プラントの運転期間の延長、規制の合理化・審査の迅速化等に積極的に取り組む姿勢を明示すべきだとするほか、小型原子炉の開発や既存炉のリプレースを進めるよう求めるなど、核エネルギー利用を辞める姿勢は見せていない。
さらに、各地の電力事業者は、川内原発、伊方原発、高浜原発、玄海原発等、新規制基準に適合していると判断された原発を再稼働させることを求め続けている。
このような姿勢は、ひとたび原発事故が起こると、取り返しがつかない深刻かつ甚大な被害が生じることに目を背けるものであって、福島第一原発事故の教訓から何も学ぶことなく、国民の生命、身体、生活の安全を脅かすものであって許されるものではない。
4 現在も世論調査などで多くの国民は脱原発を求めており、原発再稼働を許さず、一日も早く日本の原発ゼロ社会を実現することが急務である。
2018年3月、基本理念として、①すべての原発を速やかに停止・廃止すること、②施行後5年以内にすべての原発の廃炉を決定すること、③再生可能エネルギーの割合を2030年までに40%以上とすること、④廃炉作業を行う電力会社や立地地域の雇用・経済対策について、国が必要な支援を行うことなどを盛り込んだ「原発ゼロ基本法案」が立憲民主党・日本共産党・自由党・社会民主党の野党4党によって、国会に提出されていたが、2021年10月14日、衆議院の解散に伴い、一度も審議されることなく廃案となった。
しかしながら、市民連合が、2021年9月8日、立憲民主党、日本共産党、社会民主党、れいわ新選組との間でとりまとめた「衆議院総選挙における野党共通政策の提言」では、主要政策のひとつに「地球環境を守るエネルギー転換と地域分散型経済システムの移行」が掲げられ、「再生可能エネルギーの拡充により、石炭火力から脱却し、原発のない脱炭素社会を実現する」ことが政策に挙げられており、4党の共通政策として、今後、あらたな「原発ゼロ」社会の実現に向けた法案が共同提出され、その成立を目指すことこそが、日本の原発ゼロ社会の実現を求める多くの市民の声に応えることになる。
5 自由法曹団は、今後も、「原発と人権」ネットワークや原発をなくす全国連絡会などの関連諸団体と連携を図り、福島第一原発事故により今もなお甚大な被害に苦しむ多くの人々の全面救済と原発推進政策の転換による早期の原発ゼロ社会の実現に向けて、全力挙げて取り組むことを決意するものである。
2021年10月23日
自由法曹団創立100周年・東京総会