2022年3月7日、改善基準告示における、インターバル規制にかかる声明を発表しました

カテゴリ:労働,声明

PDFはこちら 


改善基準告示における休息期間(勤務間インターバル)を11時間以上とすることを求める声明

1 バス・タクシー・トラック運転者の労働時間規制に関し、現在、厚労省労働政策審議会(労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会)において「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(1989年労働省告示第7号。以下「改善基準告示」)の改正議論が進められている。

 現行の改善基準告示では、勤務終了から次の勤務開始までの「休息期間」(勤務間インターバル)が原則8時間とされているが、この休息期間を何時間に見直すかが論点となっている。厚生労働省は、当初、バス、タクシー(日勤)について休息期間を原則11時間とする案を示していた。しかし、経営者側の反対を受けて、原則を9時間として11時間を努力義務とする追加案(以下「追加案」)を提示するに至っている。

 しかし、追加案は、自動車運転者の労災防止等の観点から断じて受け入れられるものではない。

 

2 まず、自動車運転者にとって休息期間は、睡眠だけでなく往復の通勤・食事・入浴などに費やされる時間であり、自動車運転者が睡眠のために費やすことができる時間は必然的に休息期間を大きく下回ることになる。休息期間が9時間となれば、例えば往復の通勤に2時間、食事と入浴に2時間かかると仮定すると、睡眠時間は5時間未満となる。このように休息期間が短くなれば、その分、自動車運転者が受ける身体的な負荷は大きくなる。

 自動車運転者が心身に大きな負荷を受けていることは労災補償状況からも裏付けられる。厚労省の2020年度「過労死等の労災補償状況」によれば、2020年度の脳・心臓疾患の労災認定件数で最も多いのが「道路貨物運送業」の55件であり、それに次ぐ「飲食料品小売業」の16件の3倍以上の件数にのぼっている。このことからも明らかなように、現行の改善基準告示のもとでも自動車運転者は長時間労働等によって心身への多大な負荷を受けており、その改善は喫緊の課題である。2021年9月14日改正の脳・心臓疾患の労災認定基準(令和3年基発0914第1号「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」)でも「長時間の過重業務の判断に当たっては、睡眠時間の確保の観点から、勤務間インターバルがおおむね11時間未満の勤務の有無、時間数、頻度、連続性等について」業務の過重性の要因として十分に「検討し、評価すること」とされている。このように、労災認定基準においても、休息期間11時間未満での勤務は、十分な睡眠時間を確保することができないため、身体に大きな負荷となることが認められている。

 したがって、追加案は、労災認定基準とも整合せず、自動車運転業務に従事する者の生命・健康を一顧だにしないものであって断じて容認できない。

 

3 また、バス・タクシー・トラック運転者が短い休息期間で就労することになれば、交通事故等の危険性も増大し、自動車運転業務に従事する者にとどまらず、バス等の利用者、それら自動車が通行する付近で生活する者らの生命・健康をも危険にさらすことになる。現に、運転手の長時間労働を背景とした夜行バスの交通事故等、悲惨な事態も発生している。自動車運転者の業務は、生命に対する危険を内在しているものであって、この点からも自動車運転者が十分な睡眠時間を確保して業務に従事できるようにすることは喫緊の課題である。

 自動車運転者が結成している労働組合である全国自動車交通労働組合総連合会(自交総連)が2019年にバス運転者及びハイヤー・タクシー運転者を対象に行ったアンケートによれば、休息期間が11時間未満の者がバスで43%、ハイヤー・タクシーで37%であり、運転業務中に「前日の疲れが取れない」ことが「よくある」者と「時々ある」者がバスで計60%、ハイヤー・タクシーで計74%にのぼり、「居眠り運転をしたことがある」ことが「よくある」者と「時々ある」者は、バスで計12%、ハイヤー・タクシーで計28%にのぼっている。すなわち、現行の改善基準告示においても、交通事故には至らないまでもその危険性が小さいとはいえない。

 このように、追加案は、自動車運転者のみならず、その利用者等の生命をも危険にさらすもので決して受け入れられない。

 

4 そもそも、今回の改善基準告示の改正議論は、2018年働き方改革関連法が成立した際の附帯決議に基づくものであるが、2018年労働基準法改正では、労働時間の上限規制が法定されるなど、労働者の長時間労働の抑制を図る規制が一部導入された。政府には、労働基準法その他の労働関連法令の趣旨を没却しない政策を実現する責務があるのであり、自動車運転業の経営上の都合等を優先させ、自動車運転者等の生命・健康を保護しないということがあってはならない。

 厚労省労働基準局勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会が2018年12月21日に公表した報告書には、EU指令ではEU加盟国のすべての労働者に対し24時間ごとに休息期間を最低11時間とするために必要な措置を設けることとされていること、ドイツ、フランス及びイギリスのインターバル時間数が11時間、ギリシャ及びスペインのインターバル時間数が12時間とされていることが紹介されている。すなわち、休息期間を11時間以上とすることは国際基準であり、厚労省自身もそれを十分に熟知しているのである。にもかかわらず、経営者側の都合によって、それを原則9時間に後退させることは何ら正当化できず、断じて容認できない。

 

5 自由法曹団は、自動車運転者をはじめとする市民の生命・健康を守るため、改善基準告示においてバス・タクシー・トラック運転者の休息期間を原則11時間とすることを求める。

                 

2022年37

                       自 由 法 曹 団

                       団長 吉田 健一

TOP