2022年4月11日、「経済安保法案の衆議院可決に抗議し参議院での廃案を求める声明」を発表しました
経済安保法案の衆議院可決に抗議し参議院での廃案を求める声明
1 本年4月7日、衆議院は、経済安保法案(「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案」)を採択し可決した。
衆院本会議で採択されたのは、衆院内閣委員会で法案審議が3月23日に開始されてから、わずか2週間であり、「論戦低調」(毎日新聞)、「消化不良」(朝日新聞)とマスコミから批判されるほどである。
去る3月22日、自由法曹団が「平和と人権を危うくする経済安保法制に反対し廃案を求める意見」で指摘したように、同法案には、軍事力強化と一体の施策を内容とするものであって、自由な経済活動に介入してこれを規制し、学問・研究の自由を侵害する一方、秘密保護法制の拡大、国民監視の強化など、平和と人権を危うくする重大な問題がある。しかし、法案についての検討は全く不十分のままで、むしろ法案の問題点が明らかとなり、指摘している危惧がいっそう強まっているにもかかわらず、衆議院が採決し法案を可決したのである。
2 衆議院の審議においても、経済安全保障の施策の名のもとに、軍事力強化を進める法案であることがいっそう明確となっている。
とりわけ、法案においては、先端技術の開発について、官民参加の「協議会」が設置され、政府が資金面で支援することとなっているが、この協議会には防衛省も参加することが予定されており、研究成果が軍事技術として活用されうることになる。法案審議の過程でも、参考人(井原聡東北大名誉教授)から「軍事研究推進になりかねない」との指摘がされたという。現に、経済安保法案の有識者メンバーからは、「最先端の技術は軍事も民生もない」として、官民一体での防衛技術研究が強調されている(兼原信克元内閣官房副長官/4月6日付朝日新聞)。このことは、軍事研究に一貫して否定的な立場をとってきた学術会議の活動に干渉し、研究活動の自由を損うことにもつながる。
また、特許の非公開制度に関しては、日米の防衛特許協定により米国で秘密とされている発明がすでに日本では秘密特許として扱われ、自衛隊の装備品や武器生産の技術援助をうけているもとで、法案により日本で非公開とされる特許が外国への出願も禁止されることとされ、日米で「双務的になる」(小林担当相)として、日米同盟が強化されることが明らかにされている。
3 法案は、様々な立場から民間企業の自由な経済活動が著しく制約されるおそれが指摘されている。
とりわけ、安定供給の計画提出がもとめられる特定重要物資、事前届け出が義務づけられ審査の対象となる基幹インフラの指定など、重要事項が138カ所も政省令に委ねられていることが法案審議で明らかにされ、政府の一存で決まる白紙委任であるとの批判も強い。実際、具体的な運用について法案の不明確性を追及された政府側は、「国際情勢の変化に伴う安全保障のリスクは絶えず変化し、予測しがたい」などとして明確な説明を回避し、ひたすら政府の裁量を維持することに努めており、経済活動の自由を過度に制限するとの懸念は払拭されないままである。
4 さらに問題なのは、機微な技術の公開や情報流出を防止する特許の非公開性に関しての秘密保護制度をはじめとして、法案では処罰規定を伴う秘密保持義務を様々に設けていることである。
この点に関しては、特定秘密保護法による権利規制をいっそう拡大するものであり、経済活動はもとより、国民の知る権利、学問研究の自由や表現の自由が制限される重大な問題がある。とりわけ、法案が国民の重大な生活にかかわる経済の安全保障をはかることをも目的とする以上、国民にとって重要な情報が秘匿され、これを知ろうとする権利が制限される恐れは強い。ましてや、知る権利を行使するために情報を取得しようとする行為が処罰の対象とされ、市民の活動が弾圧される危険を軽視することは許されない。
にもかかわらず、国会での審議はきわめて不十分である。具体的な問題点を検討する議論自体がほとんどなされていないといわざるを得ない。
5 以上のように、自由法曹団は、憲法の平和主義と基本的人権の保障の原理に反する経済安保法案について、衆議院の採決可決に強く抗議し、参議院の審議で問題点をいっそう明確にして廃案にすることを求めるものである。
2022年4月11日
自由法曹団 団長 吉田健一