2022年5月23日、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻に強く抗議し、直ちに停戦を求めるとともに、これに乗じた改憲及び軍拡の動きに断固抗議する決議

カテゴリ:国際平和,憲法・平和,決議

ロシアのウクライナに対する軍事侵攻に強く抗議し、直ちに停戦を求めるとともに、
これに乗じた改憲及び軍拡の動きに断固抗議する決議

 

1 本年2月24日にロシアがウクライナへの侵攻を開始してから3か月が経過しようとしている。戦火は拡大し、数多くの無辜の犠牲者が後を絶たず、未だに停戦の見通しもたっていない。ロシアによる核兵器の使用も示唆されている。ロシアは、ウクライナ国内で独立を宣言した「ドネツク人民共和国」と「ルハンスク人民共和国」を防衛するための集団的自衛権の行使であると主張しているが、このようなロシアの蛮行は、国際法の武力不行使原則を踏みにじり、武力により戦後国際平和秩序を変更するものであって、正当化の余地はなく、断じて許されるものではない。
 ロシアは直ちに軍事侵攻を停止し、ウクライナから即時撤退すべきである。

 

2 ロシアによるウクライナ侵攻は、日本国民の安全保障に対する価値観にも影響を与えているところ、これに乗じて、日本国内では、アメリカの対中戦略の下で進められてきた日米の軍事一体化をいっそう深化、拡大し、憲法9条を破壊しようとする動きが強まっている。
 本年1月7日の日米安全保障協議会(いわゆる「2プラス2」)で、日本政府はアメリカに「戦略見直しのプロセスを通じて、ミサイルの脅威に対抗するための能力を含め、国家の防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する」ことや、「同盟の役割・任務・能力の進化及び緊急事態に関する共同計画作業についての確固とした進展」などを確認、公約した。そして、本年4月26日、自民党は、ロシアによるウクライナ侵攻のような「力による一方的な現状変更、そして、それを試みる明白な意図の顕在化という厳しい安全保障環境はインド太平洋地域、とりわけ東アジアにおいても例外ではない」とし、国家安全保障戦略等の改定に向けて、相手国の指揮統制機能等も対象とした敵基地攻撃能力の保有や、対GDP比2%を念頭にした軍事費(防衛費)の大幅増といった大軍拡を提言している。
 今通常国会では、自民党、公明党、維新の会などが、新年度予算案の審議中の段階から、憲法審査会の開催を強行し、衆院憲法審査会では、改憲原案作成に向けた「前例」作りともいえる、多数決によるオンライン審議に関する「とりまとめ」が強行された。緊急事態条項や安全保障を理由にした改憲議論も強引に進められている。
 さらに、改憲派からは「憲法9条では国を守れない」、「国連は無力」、「核共有を進めるべき」との発言もなされている。

 

3 しかし、自国の「安全保障」を理由に軍事力を拡大することは、武力侵攻を防止するどころかそれを助長ないし誘発することになりかねない。ロシアによるウクライナ侵攻の背景には北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大があるとの指摘もある。軍事同盟を強化し、軍事力を拡大することは、いわゆる安全保障のジレンマに陥り、かえって軍拡競争を激化させ、平和や安全を損なう。
 しかも、いま進められている日米の軍事一体化や改憲策動の狙いは、日米間の従来の役割分担をも根本的に転換して、集団的自衛権行使や敵基地攻撃など、自衛隊が米軍とともに海外における戦争や武力行使に介入しようとする点にある。これは、日本による他国への侵略や先制攻撃につながるおそれ、それに対する反撃を呼び込むおそれがあり、いっそう危険である。こうした危険性、攻撃性を国民に覆い隠すため、自民党は、敵基地攻撃能力を「反撃能力」と呼称することを提言しているが、まったくの欺瞞といわざるをえない。

 

4 ロシアによるウクライナ侵攻に乗じて、軍事力を拡大し、憲法9条を破壊しようする日本国内の動きは、周辺国との軍事的緊張を高め、かえってわが国で暮らす人々のいのちや暮らしを危険にさらすものである。相互不信や軍拡競争による負の連鎖から抜け出し、平和と安全を実現するためには、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」日本国憲法に基づいて、軍事によらない方法で平和秩序を実現することこそが求められている。そのために、私たちは、軍事によらない安全保障をこれまで以上に追究し、現実的な対抗策を提示しながら、ウクライナ危機に乗じた改憲派の動きに対抗しなければならない。
 自由法曹団は、改めてロシアによるウクライナに対する軍事侵攻に強く抗議し、ロシアに対して即時・完全・無条件の撤退を求めるとともに、ウクライナ危機に乗じた改憲及び軍拡の動きに断固として抗議し、軍拡によらない平和秩序を実現・維持する決意を表明するものである。

以上

2022年5月23日

 

自  由  法  曹  団

2022年5月研究討論集会

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